端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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第四話ー後編 大戦、開幕

 約束の一週間が経過し、インヴェルズとの決戦日となった。この一週間で各々部族は交流を深めたり、自身の戦闘技術に磨きをかけ、この日に備えていた。

 ユウキも例外ではなく、銀河眼(ギャラクシーアイズ)とある約束事をしている。

 今一度、四部族全員が一つの大広間に集められ、その大勢の前でオメガは宣言する。

 

「諸君。とうとうこの日を迎えた。インヴェルズを全滅させ、世界を救うこの日を。我々ヴァイロンも、奴らに裁きを下すことに全力を注ぐ。どうか、諸君も全力をもって戦ってほしい。健闘を祈る」

 

 オメガの宣言が終わると、各部隊に人員が分けられる。

 

 軍師であるムストやリチュアの軍師ヴァニティは後ろでのバックアップ係。

 

 契約獣がいるガスタや水中を自由に動けるリチュアは偵察係。

 

 本拠地を守る防衛部隊。これはジェムナイトやラヴァルが多い。

 

 そして、選ばれた四人と大天使たちと共に悪魔へ挑む戦闘係。

 当然のごとく、ユウキはここに配属された。大戦の戦場に出るため、普段の装いとは少し違う。ガスタからもらった衣装の上に白色の鎧に肘と膝にはプロテクターがつけられている。普段運動をしていないユウキでもしっかり動けるように軽いものだが、制作者はヴァイロンということで強度は折り紙付き。コートには魔術のコーティングかけられ、更に防御力は上がっている。

 ユウキが少し待っていると、彼と共に戦うメンバーも徐々に集結してくる。一人目を見て、ユウキは嬉しいような恥ずかしいような複雑な表情を浮かべた。

 

「ヴァイロン、これはわざと、じゃないよな・・・・・・?」

「知らないわよ。ったく……せいぜい死なないようにね」

 

 ユウキを守るメンバーは三人。そのうち一人はヴァイロンが狙ったのか、はたまた、たまたまなのかはわからないが、エリアルであった。彼女はしょうがない、という顔で死なないように警告する。

 そこに新たなメンバーが合流する。

 美しい青い体はまるで清流のようにきれいに輝いており、その体と同じように輝く巨大な盾を持っているジェムナイトだった

 

「君がユウキ君か。クリスタさんから話は聞いているよ。守ることに関してはクリスタさんにも負ける気はない。君を守らせてくれ」

「はい、よろしくお願いします。ジェムナイト・アクアマリナさん」

 

 ジェムナイト・アクアマリナ___ジェムナイトの中でも守備に特化した戦士。

 ユウキがいなければ、確実に防衛部隊に所属されていた実力者だ。

 アクアマリナはちらりとエリアルを見てから、ユウキに視線を戻して話を続ける。

 

「リチュア、か。僕は水の力を使うから相性はいいんだろうけど、それでも疑ってしまうのは修行不足かな……。こんなことは言いたくないが、寝首をかかれないように気を付けてくれ」

「その心配はないと思いますから、安心してください。あと、修行不足なんてありえませんよ」

「そっか。言ってもらえると嬉しいよ。あ、呼び方はアクアでいいよ?」

 

 気さくで優しい男性の声のアクアマリナことアクアは、戦前なのに緊張を見せない歴戦の戦士の風格をまとっている。ユウキにとって心強いことには間違いない。

 そしてもう一人。ユウキが気づかないうちに、彼の後ろに立っている少女がいた。

 

「……ん」

「うおぉ!?……ええっと、君……名前は?」

 

 今まで名乗られなくても名前を知っていたユウキが初めて名前を聞いた。その理由は簡単で、現実世界でのカード名に固有名詞がついていないからだ。

 カード名は『ラヴァル炎樹海の妖女』。ラヴァル三姉妹の末っ子だ。

 黒い肌と赤い髪。髪を隠すように黒い頭巾をかぶっている10代になったばかりのような容姿の女の子。彼女は無口な性格らしく、ぽつりと返事をした。

 

「……ファイ」

「ファイちゃんか。君が俺の護衛係?」

 

 ファイが、こくん、と頷く。どうやら彼女が最後のメンバーらしいのだが、ユウキには疑問が浮かぶ。

 ラヴァルの誰かだったのは予想できたが、このファイはどう見ても戦闘向けじゃない。どちらかというと、守られる側だとユウキは考えた。

 その疑問を見抜いたのか、ファイは自分の役割を説明する。

 

「私、溶岩の流れを読めるの……。だから、地面から悪魔の位置を特定できる……はず」

「探索係ってこと?」

「それだけではありませんわ。ユウキ様?」

 

 さらに一人の少女が現れる。髪は炎のように真っ赤に燃えあがっており情熱的な雰囲気を醸し出しながらも、美しさを兼ね備えた美少女だ。

 

「私、ラヴァル三姉妹の次女、レムと申します。妹を託すお方がどんな人か見に来ましたわ。どうぞ、お見知りおきを」

 

 まるでお手本かのような丁寧なお辞儀に、つられてユウキも頭を下げる。

 

「ファイは貴方様の守護役でもあります。ラヴァルで守護の炎術を使えるのは私たちくらいですし。あとは、守る者がいたほうが貴方様は強くなると、ヴァイロンが仰っていましたので」

「……プレッシャーかけるなぁ」

「大事な妹を託すのですよ? それくらいの覚悟を持っていただかないと」

 

 クスリと笑うレムだが、その目は笑っておらず、その言葉が本心から言っていることがユウキにも伝わった。

 

「では、ユウキ様。妹と一緒にまたお会いしましょう」

 

 そう言ってレムは人混みに消えていった。

 妹を託されてしまったユウキは、ファイの頭に優しく手を置く。突然のことにファイはビクッと体を小さく震わせた後、不思議そうにユウキの顔を見た。

 

「よろしくな、ファイちゃん」

「……うん」

 

 一応信頼は得たようで、小さな笑みをファイはユウキに見せる。

 その一連を見ていたエリアルにマリンが思わず声をかける。

 

「やきもちかい?」

「……殺すわよ」

「おおう、怖い怖い」

 

 自分の気づかないうちに不機嫌そうになっていたエリアルは、アクアにおちょくられてさらに不機嫌になる。一方、アクアは苦笑を漏らす。

 

 あっという間に時は過ぎて、決戦の時間となる。

 

 偵察部隊に続いて、ユウキ、エリアル、アクア、ファイも観測所から地上へと降り立った。

 地上は集められる一週間前と同じように、何も変わっていないように見えたが、エリアルとファイは既に異変に気が付いているようで、顔をゆがめる。

 

「大地が死んでる。魔力や生命力を感じなくなってる。インヴェルズの奴ら、本当に目の前のものを食い尽くしたのね」

「溶岩の鼓動が、大地の鼓動が弱くなってる……。ひどい……」

 

 大地から発生する生命力や魔力がほとんど食い尽くされているようで、エリアルとファイの言葉に銀河眼(ギャラクシーアイズ)も苦言を漏らす。

 

『そりゃまずいな。カードの再使用ができなくなっちまう。ま、とにかくインヴェルズとらやをぶっ倒しに行こうぜ、ユウキ』

「ああ。オメガ、ルートは出た?」

 

 ユウキは右耳につけた白い機械に触る。これはヴァイロン専用の通信機で、それぞれに与えられており、オメガやアルファたち大天使だけでなく、ヴァイロンと合体した者たちとも連絡が取りあえる優れ物だ。

 ユウキの呼びかけに、オメガが答える。

 

『そこから西へ迎え。空は飛ぶな。目立ってしまうからな』

 

 魔術でつくられた地図がエリアルの前に展開される。その地図からでも大量のインヴェルズがあちらこちらに存在していることが分かった。

 空を飛べないということは、銀河眼(ギャラクシーアイズ)は使えない。そもそも、目立つことができないので、常時光っているフォトンモンスターは不利になっている。

 

「とにかく、カード引いてみないと」

 

 五枚のカードを引くと、ユウキはふぅと安心のため息を漏らす。要は、手札事故は避けたということだ。

 ユウキの準備が整ったことを確かめ、四人は最後の打ち合わせを行う。

 

「僕たちの目的を確認しておこう。僕たちは、上級インヴェルズの一体。インヴェルズ・ギラファの討伐が目的だ。上級インヴェルズは一体しかおらず、すべて倒すことができれば下級は統一を失い、倒すのが簡単になる」

「でも、地上は下級インヴェルズがうじゃうじゃいる。できるだけ気づかれずに、騒ぎを立てずに討つことが私たちの役割でしょ? 騒ぎを起こすのは、ヴァイロンと合体した四人の役割なんだから」

「中央にいる最上級インヴェルズは、オメガ、アルファに任せる。東西南北にいる四体の上級インヴェルズを倒し、最後にオメガたちと合流……?」

「あってるよ、ファイちゃん。ええっと、アクアさんって移動手段あります?」

「大丈夫。鍛えているから走って追いつけるよ」

 

 目指す方向は西。ガスタの領域。

 目的地と目標は決まった。ユウキは勢いよくカードを切る。

 

「フォトン・スラッシャーを特殊召喚!さらに、リリースしてフォトン・レオをアドバンス召喚!」

 

 フォトン・スラッシャーが召喚されすぐさま光になると、その中から一体の獅子が現れる。

 フォトン・レオ___本来なら相手の手札を交換させる効果を持つが、今回は使用せず足として活躍してもらう。

 ファイ、エリアル、ユウキの順で前から乗り、アクアは自分の足でレオを追いかけるそうだ。

 

「じゃあ、行こうか。…おっと、カードを一枚伏せる。エリアル、ファイちゃん、しっかり捕まってて。レオ、お願い!」

「ガオォオオオ!!!」

 

フォトン・レオが雄叫びを上げて西へと駆けていくのだった。

 

 

 ミストバレー湿地帯を目の前にして、ユウキ達四人は止まらざるを得なかった。

 

「なんだ……これ」

 

 緑色のはずの湿地帯は、一面真黒な生物でおおわれており踏み込むことすら許されない。

 何千、何万という下級インヴェルズの大群の中央には三体の悪魔がいた。

 

「やっと来たか、異世界野郎。ガザスからお前のことを聞いて、食いに来てやったぜ? 感謝しな」

「おいおい、あいつを食うのは俺だ。ギラファ。ああ、早く食べたいな!!」

「早い者勝ちだってば、モース。そもそも、あいつを食ったやつを食えば一緒なんだけどな!!ケケケ!!」

 

「ギラファだけでなく、モースにマディスだと!?どうなっているんだ、ヴァイロン!」

 

 無数の下級インヴェルズに三体の上級インヴェルズ。一方こちらは四人だ。数も質もあちらが完全に上回っている。

 すぐさまアクアがヴァイロンに通信を行う。__が、帰ってきた返答はクリスタからのものだった。

 

『アクアか!完全に罠にはまった!!奴らはユウキ君を第一目標としている!ヴァイロンはこれを好機に最上級インヴェルズに攻撃を仕掛けているが……。ともかく、ユウキ君を守ってくれ!!』

「くっ……了解、しました!!」

 

 アクアが盾を構え、レオから降りたエリアルが杖をインヴェルズに向ける。ファイはユウキの後ろに隠れて、魔術の準備をしている。

 

「で、あんたどうするの?戻って態勢立て直す?」

「まさか。ここまで来たんだ。それに、銀河眼が戦えってうるさくて逃げれないし」

「そ。だったら、しょうがないけど本気でやらなきゃね。儀式、起動」

 

 その一節で、エリアルは儀式を正確に起動させ、姿をマインドオーガスへと変える。その姿を見たモースが笑いながら叫ぶ。

 

「あれ、俺達の力じゃん!いやぁ、復活したら自分たちの力も食えるとか、生きててよかったぁ!!」

「すぐ死ぬことになるわよ。下品な悪魔め」

「__はぁ?食われるのはお前たちだ。下級生物」

 

 モースの両腕から青白い熱線がマインドオーガスに向けて放たれる。

 ほぼノータイムで繰り出されたその必殺の一撃は、いくらマインドオーガスでもよけることは不可能だろう。

 

 

 

 

 そう、よけることは。

 

 

 

 

「トラップ、発動!聖なるバリア ミラー・フォース!!」

 

 ユウキが出発前に伏せていた罠カード。ミラー・フォースが発動され、白い円形のバリアが四人を包み込む。

 

「なに!?」

「挑発すれば、あんたたちは必ず乗ってくる。絶対捕食者としての誇りやらがあるから。でもね、そんなの私たちリチュアにわからないとでも思ったの?」

 

 エリアルは淡々と話す。その結果がすでに見えていたように。

 バリアは熱線とぶつかるも割れることなく、それどころかその熱線を下級インヴェルズの中央に跳ね返す。地面にあたった熱線はそのまま爆発を起こし、あれだけ無数にいた下級インヴェルズすべてを消し去ってしまった。

 爆風が収まると、マディスとギラファがモースをあざ笑い、モースは怒りで肩を震わせていた。当然、傷は負っていない。

 

「ミラフォは一応全体破壊なんだけどな。カード効果通りにはいかないか」

「ね、予想通りだったでしょ。あいつらどうせあんたを狙ってくる。ガザスがあんたに目をつけてたのは前の戦場で読めてたし、どうせ統制なんて取れてない。なら、珍しい食材に群がるのが虫ってもんでしょ」

「まさか、本当に当たるとは。流石リチュアと言うべきかな?」

「……すごいと思います」

 

 エリアルの考えを信じられなかったアクアは戦況が変わったことで落ち着きを取り戻し、ファイは素直に称賛の声を上げる。

 無論、ただで終わる絶対捕食者ではない。時間経過とともに、消滅したはずの下級インヴェルズたちが徐々に出現し始める。時間がたてば先ほどと同じ状況に戻ってしまうだろう。

 その前に、ユウキ達はインヴェルズたちとの交戦を開始する。

 

「インヴェルズ、お前たちを討伐する。一緒に戦ってくれ、アクアさん!ファイちゃん!エリアル!!」

「最初からそのつもりだ!我が名は、ジェムナイト・アクアマリナ!これより、君を守る盾となろう!!」

「頑張らせて、もらいます……!」

「さて、インヴェルズ。あんたたちの力、見せてもらおうかしら」

 

 敵は三体。数体の下級インヴェルズを合わせても勝機はある。だが、油断できる敵ではないことは事実。

 

「ケケケ!!!飯だ飯だ飯だぁあああ!!!」

 

 マディスが両手の鎌を引かせながら高速で接近する。ユウキ達にはすでに罠カードはなく、守りの手段はない。

 ___そんな状況だからこそ、青き守護者はユウキ達の前に立つ。マディスの命を刈り取る一撃はアクアの盾に防がれる。

 

「力任せの一撃など、僕には通用しないさ」

「そいつぁ、どうかな」

 

 マディスが、ケケケと不気味な声を上げて横に飛ぶ。その奥には、大砲と化した片腕にエネルギーをためているギラファがこちらを狙い打とうとしていた。

 

「吹き飛びなぁ!!!」

「溶岩よ、沸き上がれ!!」

 

 ギラファの腕から高密度のエネルギーが放たれようとした瞬間、ファイが両手で地面をたたく。すると、ファイの言葉通り、溶岩が急に吹き出してギラファを飲み込む。

 溶岩の中でギラファは舌打ちをして、その場を離れる。

 

「ダメージ……なし。ごめんなさい……」

「十分!ドロー!俺は__」

 

 ファイの稼いだ時間でユウキは新たなカードを切ろうとする。が、その一瞬のスキを悪魔は見逃さない。

 モースがすさまじい跳躍で、彼らの後ろに回り込んでいたのだ。アクアは先ほどからマディスの連撃を防ぐので精一杯だ。

 

「今度こそ、消えろ!」

 

 だが、ユウキに不安はない。彼女はこの程度のことは読み切っていると信じているからだ。

 

「だから、あんたの攻撃は読みやすすぎるっての。『呪砲(カノン)』」

 

 後ろからのマディスの熱線は、マインドオーガスの放った砲撃とぶつかり打ち消される。

 そんな頼もしい三人に守られながら、ユウキは準備を進める。

 

「俺はフォトン・パイレーツを召喚!」

 

 召喚された新たなフォトンモンスターはその名の通り、海賊のような姿をしている。パイレーツは持っている刀を天空へと掲げ、ユウキは効果の宣言を行う。

 

「フォトン・パイレーツの効果!墓地にあるフォトン・スラッシャーを除外し、攻撃力を1000アップ!これで、攻撃力2000以上のモンスターが二体!!俺は、フォトン・レオとフォトン・パイレーツの二体をリリース!!」

 

 二体のフォトンモンスターは光の粒子となり、赤い十字架を作り上げた。ユウキはそれを以前のように、天高く投げつける。

 

「闇に輝く銀河よ。希望の光となりて、我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!!現れよ、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!!!」

 

 眩き光が十字架へと集まり、今ここに光の竜は降臨する。

 

『よっしゃぁ!!暴れるぞ、ユウキ!!!』

 

 久々の戦闘に銀河眼(ギャラクシーアイズ)の闘志が高まると、それに共鳴するようにユウキにも闘志が沸き上がってくる。

 一方、連携攻撃を防がれたインヴェルズ三体はいったん後ろへ下がり、相談を始める。

 

「ケケケ!俺、自分の力を食ってみたい!!」

「じゃあ、俺は盾野郎だ。あの盾をぶち破る。んで、異世界野郎はお前にやるよ、モース」

「そりゃどうも。どんな味なんだろうなぁ……。楽しみになってきたァ!!」

 

 このままでは餌にたどり着けないと考えた三体は、まず復活した下級インヴェルズを喰らった。さぞ当たり前のように同族を喰らうその様子に、四人は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 

「おやつ補給完了!!食ってやるよ、リチュアぁぁあ!!!」

「ちっ……!あんた!死んだら生贄だから!!」

 

 先ほどよりも速度が上昇したマディスの突進により、マインドオーガスがユウキ達から離れてしまう。

 

「よそ見してる場合じゃねえぜ、宝石野郎!!」

「ぐっ!!」

 

 アクアがエリアルを守れなかった理由は、ギラファがマディスの突進と同時に砲撃を彼に向かって放っていたからだ。

 先ほどはびくともしなかったアクアの体が、防御の衝撃で無理やり後ろに下がらされる。

 二人の防御役を失ったことをチャンスに、モースがユウキに襲い掛かる。

 

「どんな味がするか、確かめてやるよぉ!!うひゃひゃひゃ!!!」

「こいつ、性格変わったのか?ファイちゃん、銀河眼(ギャラクシーアイズ)!行くよ!!」

『んなこと、言われなくたって暴れてやらぁ!!』

「できるだけ……サポートします!」

 

 

 

 

 

「いい加減に……離れなさいよ!!!」

 

 ユウキ達から離されたマインドオーガスは、下半身の触手を使って接近してくるマディスを貫こうとする。

 

「ケケケ!!酒のつまみにはいい感じだぁ!!」

 

 マディスはそれをわざと避けず、両手の窯で触手を細かく切り刻み、そしてひとつ残らず食っていく。その様を見てマインドオーガスはドン引きしながらも攻撃を続ける。

 

「『雷撃(ライトニングボルト)』!!!」

 

 マディスの上空に魔法陣を展開させ、そこから一発の雷撃を直撃させる。

 雷撃が落ちた周囲の草は一瞬で黒く焦げあがるが、マディス本人には全くダメージが入っていないようだ。ケケケ、という笑い声が絶えることはない。

 

「ムダムダムダ!お前の力は俺たちの力。効かない効かない~。ケケケ!!」

「ふん。言ってなさいよ!!『竜巻(ツイスター)』!」

 

 今度はマインドオーガスの前に魔法陣が二つ表れ、そこから小型だが強力な竜巻が発生し、マディスを飲み込むものの全く動じていない。

 

「効かない~、ぜ!!」

 

 マディスの鎌によって風は切り裂かれる。竜巻の魔術は消え失せ、ケケケと笑い声が再び聞こえ始める中でマインドオーガスは考える。

 

(おそらく、このまま魔術をぶつけても勝てない。確か、インヴェルズは邪念が原動力だって本に書いてあった。なら、それを消せる魔術なら……!)

「何を考えてるか知らないが、どうせムダなんだから!さっさと食われちゃいなよぉ!!」

「誰があんたみたいな下品な奴に!!」

 

 マディスは再び高速で移動を始める。だが、それは彼女に向かってではない。マインドオーガスの周りで円を描きながら移動し始める。

 マインドオーガスの機動力は高くない。ここから退くこともできず、魔術が強化されていても術者が大ダメージを受ければ解除されてしまう。

 マディスは確実に、ゆっくりとダメージを彼女に与えるための狩り方を開始した。

 高速で動くマディスは既に残像を作り出しており、そこから急に本体が円の中央にいるマインドオーガスに襲い掛かる。

 

「しゃあ!!」

「っ!?」

 

 気づけばマインドオーガスの頬に一筋の傷ができており、血がつぅーと頬を伝った。

 

「肉体も強化されてるかぁ……。でも、どれだけ生きていられるかなぁ!!?」

 

 勢いを増しながら繰り出される攻撃は、徐々に確実に威力と速度を上昇させていくのと比例するように、マインドオーガスに傷が増えていく。

 初めは切り傷程度。だが、徐々に肉がえぐれていき、どんどん深いところまで切り込まれる。

 

「ほらほらほらほらほらぁ!!!ミンチ肉になっちゃいなぁ!!」

「くうっ……!」

 

 儀式体の再生能力よりも速く、重く攻撃が入っていく。防御のための魔法壁を張ろうにも、どこから飛んでくるかわからない攻撃には無意味だった。

 肉体が切り刻まれる音が周囲に響き渡り、マインドオーガスの下は血で赤く染まっていた。

 

「これで、調理終了~!!!」

「……!」

 

 それは急に下された処刑宣言。

 

 これまでで一番の勢いをつけたマディスがマインドオーガスを襲う。

 マインドオーガスは目を見開いてその姿を目撃するが、よけることは叶わない。

 がしゅっ、という肉体が切断される音が鳴ったかと思えば___マインドオーガスの上半身と下半身が、血を吹き出しながら、二つに分かれた。

 重力に惹かれ、上半身が、エリアルが地面に落ちる。その目からは生命の光は消えていた。

 

「ケケケケケケ!!!!調理完了!!食べるぞ食べるぞ!俺たちってどんな味がすんだろうなぁ!!」

 

 マディスが動かなくなったマインドオーガスの上半身に近づき、大きく口を開く。

 

「いただき、ま~……あ?」

 

 

 

 

 

 

 ____マディスはようやく、自分の体が無数の触手に貫かれていることに気づく。

 

 

 そして、その触手は、死んだはずのマインドオーガスの下半身から放たれていた。

 

「『幻影(イリュージョン)』の魔術。ちゃんとくらってくれてありがとう。やっぱり頭は弱いのね。あんたら」

 

 その声はマディスの後ろ__死んでいるはずのマインドオーガスの上半身が発していた。

 

「な、な、な……?」

 

 マディスが何かを言おうとする前に、世界がゆがみ始める。

 歪みが元に戻ると、目の前にマインドオーガスの死体などなく、後ろから触手でマディスを貫いている、傷だらけだが致命傷はおっていないマインドオーガスの姿がマディスの目に映る。

 マディスに近づきながら、淡々とエリアルは説明する。

 

「あんたのとどめの一撃に合わせて、仕込んでおいた幻影を使った。言っとくけど、動けないからね。『呪毒(ポイズン)』をすでに仕込んである。麻痺特化の、ね」

 

 マディスが行動を起こそうとするが、全身が動かない。全ての運動機能が停止してしまったかのようで、いつもの笑い声をあげることすらできない。

 

「疑問には答えてあげる。『竜巻(ツイスター)』をあんたがご丁寧にくらってくれたときに仕込んだ。それだけ知れれば未練はないでしょ?」

 

 悪魔(マディス)を処刑する悪魔(マインドオーガス)が少しづつ近づくが、マディスに意思表示は許されない。

 

「この力じゃあんたたちには効かないって言ったわよね?そんな常識」

 

 マインドオーガスは悪魔へと杖を向けた。

 

「リチュアに通用すると思うな。『還送(ヴァニッシュ)』」

 

 その魔術は、対象を強制的に還すもの。本来なら、封印時に戻すだけだが今回はヴァイロンの加護により悪魔を滅ぼす魔術となった。

 

 ____すなわち、魂の完全消去。復活はおろか、転生すらもできない神の断罪。

 

 それを理解してしまった悪魔は、恐怖するような感情を浮かべたように見えたが、それは気のせいだろう。

 

 何故なら、マディスは最期まで動くことを許されなかったのだから。

 

 

 

 

 ジェムナイト・アクアマリナは悩んでいた。

 本来、彼は守備専門の戦士だ。それ故に攻撃には自信がない。

 が、目の前の悪魔、インヴェルズ・ギラファはそんなことお構いなしに攻撃を仕掛けてくる。奴を倒さない限り、本来の役目であるユウキを守護することはできない。

 ギラファはその腕の大砲による高威力の砲撃と、その巨体をつかった接近戦を得意とするパワーファイターだ。

 

「おらぁあ!!!」

「はあぁ!!」

 

当たれば体に風穴があくであろうギラファの拳を、アクアは腕の盾で防ぐ。すさまじい衝撃がアクアを襲うが、彼は全く動じず防御を行う。

 

(一撃の重さはラヴァル以上……。一瞬でも隙を見せたら押し負けてしまう。それほどの力を持っているのか、上級インヴェルズというやつは)

 

「宝石野郎!てめえのその自慢の盾、砕いて食ってやるよ!」

「それはできない!わが心を貫くことは不可能だ!!」

 

 後ろで戦っているユウキを守らなくてはいけない。

 その思いが、アクアの守護の力を引き出す。体と盾に埋め込まれた宝石が、その思いに連動して輝きを増していく。

 彼らジェムナイトの心は自身のポテンシャルと連動している。強き心があれば埋め込まれた宝石が輝き、さらなる力を引き出すことができる。

 アクアの場合は、誰かを守ろうとする心。

 その心を砕いた者は今までおらず、クリスタも彼の優しさと強さは認めているのだ。

 

「心なんぞ、食えねぇものには興味はねえよ!!砕け散りなぁ!!」

 

 ギラファの片腕ながらも、すさまじい速度の拳をよけることなく、自身の盾で防ぎきるアクア。

 アクアはその攻撃を見ながら過去を想う。

 かつての自分、ジェムナイト・サフィアであったのなら防げなかっただろうと。

 修行し、融合の力を身に着け、そして、自身に力を託してくれた友がいたからこそ、今、守れるものがあると。

 

 

 そして、その力は今も使うべきだと。

 

 

 どれだけ続いただろうか。疲労の色を見せたのは、ギラファだった。

 ほんの少しだが息が切れており、拳の威力もわずかに下がっていることにアクアは気づいていた。

 だがギラファは、戦いに高揚しているのか笑みを浮かべて再びアクアに襲い掛かる。再びギラファの攻撃と、それを防ぎきるアクアの図が出来上がるが、疲労の色を見せるギラファに先ほどと同じような攻撃___反撃ができないような攻撃はできなかった。

 

「そこだぁ!!」

「があぁ!!?」

 

 隙を見たアクアの盾での攻撃、シールドバッシュがギラファの体に直撃する。

 攻撃に自信はないアクアだが、決して敵を倒せない訳ではない。盾と自身の重さを乗せた打突は、ギラファの体に響き渡る。

 アクアの攻撃は続く。盾の下についている刃に全体重を乗せ、ギラファをたたき切る。その一撃はかなりの威力だったようで、ギラファが後ろにのけぞった。

 

「はああああ!!!!!!」

 

 それを見逃さず、アクアは刃をギラファへと突き刺す。悪魔へとどめを刺す必殺の一撃。

 ギラファはその一撃を見て___

 

 

 

 

 

 ____ニヤリと、悪魔の笑みを浮かべたのだ。

 

 

 

 

 

 戦いの場所を空へと移したユウキは、モースのテンションに驚いていた

 

「あああ!!!美しい美しい!!!なんて美しいんだ!それを食す……。なんて幸福なんだ、俺は!!」

「やっぱりキャラ変わってるな。モース」

 

 具体的には、そのキャラの変わりように驚いていた。

 背中に乗っている召喚者に銀河眼(ギャラクシーアイズ)はあきれるが、そんなことは関係ないと襲い掛かるモースと激突を繰り返していた。

 

『ぎゃはは!!いいねぇ!!これでこそ戦いってやつだ!』

 

 モースより銀河眼(ギャラクシーアイズ)のほうが大きいが、モースは何度も体当たりを繰り返す。

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)だけでなく、ユウキを直接叩こうとするが、それはユウキにくっついているファイが炎で防ぐ。

 

「遊んで……ないで!」

「ゴメン!ドロー!!……ふむ、このままでいいか」

 

 ユウキは引いたカードを見て少し考えるが、銀河眼に追撃指示を出す。

 

「行くぞ、銀河眼(ギャラクシーアイズ.)!!」

『言われなくてもやってやるよ!!』

「ギャオオオオ!!!!!!」

 

 戦える喜びに銀河眼は咆哮を上げる。それに促されるように、モースもテンションが上がったようで。

 

「食べる食べる食べるぅぅうううううう!!!!!」

「……ドン引き……」

 

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)とモースの空中戦が始まる。

 モースは体格差があるが、小回りを生かし銀河眼の周囲を飛び回る。

 そんな悪魔を、銀河眼(ギャラクシーアイズ)はあきれたように見る。視界から外すことなく、目視し続ける。

 

「シャアああぁっぁ!!!!」

『はぁ? もっとましな攻撃してこいや!!』

 

 モースの奇襲を、銀河眼(ギャラクシーアイズ)は虫を払うように、体を回転させ回避すると、反撃として尻尾をたたきつける。

 モースは難なく尻尾をかわすと、すぐさま両手から破壊光線を発射。今度は回避する隙を与えない反撃だ。

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)も負けじと口からエネルギーを発射。ためのないフォトンストリームだが威力は十分。空中で大きな爆発が起きる。

 爆煙を突き破り、モースが再び銀河眼(ギャラクシーアイズ)に仕掛ける。

 

『虫がぁ……。ふざけた攻撃してんじゃねえぞ!!』

 

 今度は銀河眼が自身の爪でモースを切り裂こうとするが、切り裂かれる直前にモースが攻撃の軌道を変える。

 

「異世界人食べるぅ!!!!!」

『行ったぞ、ユウキ!!』

「任せて……!炎よ、走れ!!」

 

 奇襲に備えていたファイが魔術を発動し、何発もの火球がモースに襲い掛かる。

 

「アハハハハ!!!!」

 

 直後の光景はファイの想像をはるかに超えるものだった。

 

 

 モースはその火球を__食べたのだ。

 

「食べ、た?」

「ファイ、危ない!!」

 

 火球を食べられたことにあっけを取られたファイ。戦場ではそれを『隙』と呼ぶ。すなわち、『死』への片道切符に成りかねないものだ。

 モースの攻撃の軌道はいつの間にか、ファイに向けられていた。

 とっさの判断だった。ファイをかばうために、ユウキは彼女に覆いかぶさる。

 

 

 ざくり、と嫌な音がした。

 

 

「があっ!」

「……え?」

『ユウキぃ!!気をしっかり持て!でねえと、俺様が実体化できずに落ちるぞ!!』

 

 当たり前の結果だった。モースの爪が、ユウキの背中をえぐっていた。

 致命傷とまではいかないが、ただの人間が負う傷としては重傷に入るだろう。背中から大量の血が流れる。

 ユウキを傷つけた事実に、モースは高揚し、血で染まったその腕を長い舌でなめ上げていた。

 

「おいしい美味しい!!!もっと、もっともっともっとぉ!!!」

 

 再びユウキに突撃してくるモースに、ユウキは震える手でカードを発動する。

 

「速攻……魔法、禁じられた聖槍……発動!!」

 

 カードから一本の槍が出現し、モースへと突き刺さる。槍はモースから力を奪い、さらに魔術の効果を受けなくしていた。

 だが、ユウキの狙いは力を奪うことでも、魔術を受けなくすることでもなく、一瞬ののけぞりをつくること。

 『隙』をつくりだし、悪魔を消し去ることこそが真の目的だった。

 

銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)……!インヴェルズ・モースを、攻撃!!!」

『虫悪魔!さっさと消えなぁ!』

「破滅の、フォトン……ストリーム……!!」

 

 彼の狙い通り、銀河眼(ギャラクシーアイズ)の口に集束した光がモースに向かって放たれ、悪魔の体を消し飛ばす。

 

「あは、アハハハハはハハハハハハ八ハハハハハは!!!!!!!!!!!」

 

 古の悪魔は光の竜に敗れ、銀河の光の中で消えていった。

 そのことを確認すると、安心したかのようにユウキは気を失ってしまう。

 

『おい!ユウ……』

 

 まったく同タイミングで銀河眼(ギャラクシーアイズ)の声も途切れてしまい、実態を保つことができなくなってしまう。

 当然、ユウキとファイに残された道は、地上への落下だけだった。

 

 

 

 

 インヴェルズ討伐まで、あと……?

 

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