端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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VSインヴェルズ 後編です


第五話ー前編 そして悪魔は笑う

 ユウキたちが上級インヴェルズと交戦する少し前、ヴァイロン・オメガが率いる連合軍は最上級インヴェルズの元へと向かっていた。

 オメガ、アルファが先頭に立ち、二大天使に続くのは、新たなる力を身にまとった四人。

 

 ラヴァル・キャノンがヴァイロン・ステラと共鳴(シンクロ)した『ラヴァル・ステライド』

 

 ジェムナイト・クリスタがヴァイロン・プリズムと融合した『ジェムナイト・プリズムオーラ』

 

 ガスタの疾風 リーズがヴァイロン・スフィアと共鳴(シンクロ)した『ダイガスタ・スフィアード』

 

 リチュア・ノエリアとヴァイロン・テトラが儀式により交わった『イビリチュア・テトラオーグル』

 

 その四人が引き連れるは選ばれた精鋭たち。その中にウィンダはいた。

 

「どうした、ウィンダ。そんな不安そうな顔をして」

 

 ガルドに乗っている彼女の横から、イグルに乗っている父であり族長であるウィンダールが声をかける。

 

「ええっと、ユウキが心配で……」

「上級インヴェルズにたった四人で討伐に行ったからな……。だが、彼を守る三人も侮れない実力者だ。リチュアからは、エリアルが行っている。そこまで不安に思うことはないと思うが」

「そうじゃなくってね。なんかこう、予想よりも大きな絶望がある予感がするというか……」

 

 ウィンダの天啓は、不穏な空気をすでに読み取っていた。その事実にウィンダールも不安を感じるが、顔には出さずウィンダを励ます。

 

「彼も無理やり自分の役目を了承したわけじゃない。それに、我々にも役割がある。ヴァイロン様と共に最上級インヴェルズを討伐し、この戦いを終わらせる役割が」

「……うん。わかってる」

 

 道中は恐ろしいほど静かで、周囲を探索している者たちは下級インヴェルズを発見できなかった。

 そして、その時は訪れる。

 インヴェルズの巣。悪魔の巣窟。絶望の源。

 それは、下級インヴェルズが集まった平野だった。地面はそれが本来の姿であったかのように、黒く染まっており中央には、地面を食べている巨大な悪魔が二体。

 

「あー?来たのか、クソ天使ども」

「ええ、来ましたよ。ほら、ご飯が大量ですよ」

 

 三本の角をはやす悪魔を、二本の長い触角をもつ悪魔があやし体を起こさせる。

 

「あれが……インヴェルズ・グレズとインヴェルズ・ホーン……!」

 

 三本角のほうがグレズ、触角をもつほうがホーン。

 寝転がりながら何かをむさぼる姿は、まるで年寄りのようで、ホーンはそれを介護する介護士のようだ。

 

「裁きの光」

 

 グレズが起き上がる前に、オメガが二体の悪魔に向けて裁きを下す。

 

「お前ら、さっさと壁になれや」

 

 グレズの一言で地面にいる無数の下級インヴェルズが、その裁きを代わりに受けて消滅する。一方、裁きを受ける本来の対象であるグレズは欠伸をしている。

 

「人が立ち上がるまで待てねぇのか、天使どもはよぉ? せっかちだねぇ」

「グレズ、あれは機械ですよ? 生きている者の言葉など通じませんよ」

「ガッハッハ!ホーン、てめぇ的を得てるじゃねぇか!確かにそうだ!生きている奴のことなんぞ、生きている奴にしか分かんねぇよなぁ!そりゃそうだ!!」

 

 豪快に笑い飛ばしながら、グレズは立ち上がる。かなり機嫌がいいようで笑いが止まることはない。

 一方のオメガは裁きを下せなかったことは想定の範囲内だったようで、次なる裁きを下そうとしていた。

 

「皆の者よ。あれが最上級インヴェルズの二体。奴らを滅ぼさない限り、我々の勝利はない。戦闘準備はできているな?」

「おうよ!さっさと戦いをおっぱじめようぜ!!」

「儀式の力、どこまでオリジナルの貴方たちに近づけたか、テストしなくてはね」

「早く終わらせよう。こんな戦いは」

「カームの分の悔しさも背負ってるんだから!絶対に負けない!!」

 

 オメガの号令に、四人の戦士が応じる。

 意を決して連合軍が突撃しようとする直前に、グレズが彼らを止めるしぐさをする。

 

「何のつもりだ、グレズよ」

「待てってことだよ。殺しあうにはまだはえーんだよ。一つ好奇心で聞くんだが、連合軍の奴らよぉ。なんでてめーらはヴァイロンについた?」

 

 生命を殺し、むさぼることしか考えないインヴェルズとしてはあまりにも理論的な質問に、連合がざわつく。

 

「そいつらは機械だ。生きてるわけじゃねー。そんな奴らに指揮をとられて、寂しくねえのかよ?」

「寂しい、ですって?」

「ええ、そうよ。そこの緑。自分の意思で決めなくて、どうするというの?」

 

 ホーンも襲い掛かることはなく、スフィアードの答えを待っている。

 そんな悪魔に臆することなく、スフィアードは答える。

 

「違うわよ、そこの悪魔たち。私たちは、生きるためにヴァイロン様についただけ。そして、あんたたちインヴェルズを全滅させて、死んでいった人たちの無念を晴らすため!」

「我々は生きるために戦うのだ。生きて、未来につなぐために!そのために、我が力を振るおう!覚悟はいいか、絶対捕食者!!」

 

 クリスタこと、プリズムオーラも剣を向けて宣言する。その回答に満足したようで、ホーンとグレズは笑みを浮かべた。

 

「それはよかった。まさか、復讐とか言ったら思いっきりバカにしてやったところでしたからね」

「俺たちは生物だ。どうであれな。なら、生きる理由なんぞ『生きたいから』でいいんだよ!!そのために、俺たちもお前たちも!食らうだけなんだよ!!」

 

 グレズとホーンは巨大な咆哮を上げる。

 それはすべての生命を怯えさせる、恐怖の具現化。

 連合軍も戦ってもいないのに、多くの者が足の震えが止まらなくなっていた。

 

「臆するな、皆の者よ。我々は奴らを全滅させる。その確率は、100%だ」

 

 機械であるがゆえに、その咆哮が聞かないアルファは連合を活気づけようとするが、それをあざ笑うかのように、新たな声が戦場に響き渡る。

 

「ハン!100%なんて、この世のどこを探したってありゃしねぇんだよ!クソ天使ども!!」

 

 大気を震わす声に続いて、大地を震わす足音が近づく。

 そしてそれは勢いよく平野から飛び出し、グレズとホーンの横に着地する。

 

「遅かったじゃねえか、ガザスよぉ」

「俺様に指図すんじゃねぇ。こいつら食ったら、次はてめぇらだ」

「相変わらずの減らず口ですね」

 

 ガザスはニヤリとグレズとホーンを見て宣言するが、該当者の二体は全く動じない。

 動揺していたのは___大天使のアルファだった。

 

「ガザス……貴様がその手に持っているのは!」

「ああ? これか。そうだよ、てめーのお仲間だよ」

 

 ガザスが片手に持っている、白い何かの機械は頭部のように見え、目にあたる部分は既に光が失われている。

 アルファの言葉で連合軍はそれが何かを理解してしまう。

 ___そう、インヴェルズが出現したときにガザスに攻撃を仕掛けた大天使 ヴァイロン・シグマは無残な姿となり果てていた。

 ガザスは愉快そうに笑う。

 

「ああ、残りも壊し終わったぜ?」

「残り……だと!エプシロン、デルタ、応答せよ!」

 

 エプシロン、デルタ。シグマとユウキたちと同じく、東西南北にいる上級インヴェルズを討伐するために向かっていた大天使の名を、アルファは叫ぶ。

 だが、彼の中に二人の声が届くことはなかった。

 

「オメガ!シグマ、エプシロン、デルタが既に破壊されている!」

「ついでに言っとくと、そいつらに付いてた護衛は全員食ってやった。中々美味だったぜ?」

 

 その一言で連合軍に絶望が襲い掛かった。

 ユウキ同様、上級インヴェルズに戦いを挑む大天使の護衛として、各部族から何人かのメンバーが同行していた。それが、全滅したとガザスは言う。

 特に、ジェムナイトの動揺は大きい。それは、彼らが護衛として送り出したメンバー全員は融合の力を手にした上級の戦士だったからだ。

 その事実に、プリズムオーラが震える。

 そんな状況だからこそ、機械であり、連合軍をまとめ上げる長であるオメガは冷静に敵を分析する。

 

「ガザス、お前が最上級インヴェルズとなったのはそれが理由か。だが、問題ない。ここで裁きを下すことに変わりはない」

「だから、機械はダメなんだよ。この、『絶望』っていう最高の調味料が分かんねえからなぁ!!」

「さあ、食事の時間といこうか。ガザス、ホーン。誰が一番腹いっぱい食えるか。大食い対決と行こうじゃねぇかぁ!!」

「では___いただきます」

 

 そして、悪魔は笑い、食事の時間が始まった。

 

 

 

 

 

 それから時間は進み、ユウキが気を失い落下する場面に戻る。

 背中に重傷を負い、銀河眼も実体化が解けてしまった以上、ユウキとファイに残された道は落下しかなかった。重力に従って、一直線に地面に落下していく二人。

 

「起きて!起きてってば!!ユウキさん!!」

 

 守られたファイは涙を流しながらユウキに叫ぶが、彼の目が開くことはない。

 あと数秒後には地面に血だまりができる。そこまでの高さになって、ファイはぎゅっと目をつぶる。

 

 

 

 

 

 ___だが、感じたのは痛みではなく、優しい生き物の体温だった。

 

「……え?」

 

 目を恐る恐る開けると、緑の体毛が目に飛び込んできた。

 

「間に合ったよね!?そうじゃないと困るよ!!ユウキ!ファイちゃん!」

 

 そしてファイが目線を上げると、そこには見慣れた少女が自分たちを乗せている鳥獣を操っていた。

 

「ウ、ウィンダさん……」

「ファイちゃんは無事みたい。ユウキ!意識があるなら返事して!!」

「ユウキさん!!起きてください!!」

 

「……かろうじで、起きてるよ……」

 

 腕を緩めファイを開放すると、ユウキは苦しそうに、しかし笑みを浮かべてウィンダを見た。

 出血は多く、彼の顔はすでに青白くなり始めている。

 

「ガルド、周囲の注意しながら着陸して。ユウキ、ちょっと背中見せてね」

 

 ユウキをうつぶせに寝かせ、ウィンダは腰につけているポーチからナイフを取り出し彼の服を切って破く。ユウキは背中が大きく切り裂かれており、血が今でも止まらない。

 それを見たファイは、再び涙を流しながらユウキの手を握る。

 

「お願い……!死なないで、ユウキさん!!」

「ファイちゃんそのまま手を握ってて。ユウキ、ちょっと我慢して」

 

 ナイフをしまうと、続いてウィンダは一本の瓶を取り出し、中に入っている緑の液体をすべて傷にかける。

 

「がぁ!?」

「我慢して!傷薬だから。それから__『healing breeze』」

 

 ウィンダは杖を掲げ呪文を唱えると、優しい風が傷の周りに集まり、少しずつ痛みを拭い去っていく。リチュアの魔術ほどではないが、ガスタの治癒魔術によって少しずつユウキの顔色が良くなっていく。

 そして、弱弱しくはあるが彼が目を開けるとファイがユウキの胸に飛び込んできた。

 

「ユウキさん!!ユウキさん!!!……よかった、よかったよぉ……」

 

 胸の中で泣きじゃくるファイの頭をなでながら、ユウキは感謝を述べる。

 現実問題として服がないので、ウィンダから新しい衣服をもらい着ている。

 

「ウィンダ、ありがとう。でも、なんでここに?」

「さっき、ガザスが他のヴァイロン様を壊したって聞いたから。全力でガルドに飛んでもらってユウキを助けに来たんだけど……ガルド、どうしたの?」

 

 ユウキを休ませるために、地上に着陸するようにガルドに指示していたはずだが、ガルドは一向に地上に降りようとしなかった。

 

「キュイィィィ……!」

「何かに、威嚇してる?」

 

 気になってしまったウィンダが地上を見る。

 

 

 ____瞬間、彼女の体が固まった。

 

「……ウィンダ?」

 

 ユウキも気になって下を見ると、そこには___

 

 

 

 その鉄壁の盾ごと体を貫かれて、体に空いた穴から大量の血を流して地面に倒れている、ジェムナイト・アクアマリナと、近くで勝利の笑いを上げているインヴェルズ・ギラファが立っていた。

 

「ユウキ、エリアルは?」

 

 ウィンダが震えた声でユウキに確認をとる。ユウキはうつむいて横に首を振る。

 

「ごめん。まだ下にいると思う」

「わかった……。ガルド、ユウキたちをお願い」

 

 ユウキの意見を聞くこともなく、地面に降り立つウィンダ。

 

「『Breeze』!」

 

 着地する際に、『そよ風』を起こしふんわりと緩やかに着地すると、新たに表れた餌を前に、ギラファの顔が喜びにゆがむ。

 

「宝石野郎の次は、新鮮な肉が来やがった。ちょうどいいな!」

「アクアさんに、何をした……」

「あ? 見ての通りだよ。自慢の盾とやらをぶっ壊してやったんだよ。この、俺の一撃でな」

 

 ギラファは腕の大砲をウィンダに見せびらかす。

 先ほどの戦い。確かに、終盤はアクアが押しておりギラファは防戦一方だった。

 だが、それこそがギラファの狙い。

 アクアは防御特化の戦士だ。すなわち、敵を一撃で倒すことはできないと、ギラファは解析した。

 だから、わざと隙を作り攻撃に転じさせた。そうすれば、ユウキを守れないことで焦っているアクアは必ず自分を倒しに来るだろうと。

 

 ここで、アクアは一つミスを犯していたのだ。

 そして、絶対にしてはいけないミスがもう一つあった。

 

 それは、ギラファはアクアとの戦闘中、自身の大砲を使っていなかったのだ。___使えなかったのではなくて、わざと使わなかった。

 それはすべて、アクアの持つ盾ごと彼を貫き殺すため。

 ギラファの狙いは見事に当たり、アクアはギラファにとどめを刺そうと大きな一撃を食らわせた。

 それをわざと食らったギラファは、彼の盾を片手でつかみ最大限にまで貯めたエネルギーを大砲から至近距離で放ったのだ。

 

 ___盾ごとアクアを貫く。

 

 宣言通り、ギラファは見事にそれを達成したのだ。

 

「しかし、こいつらの部族は食えねえな。石食ってるようなもんだ。殺したばっかりだっていうのに、食える場所がねえとか。生物失格だな」

 

 物言わぬ死体となったアクアを、ギラファはあざ笑いながら蹴り飛ばした。

 ガランガラン、と鉱石が転がる音が湿地帯で鳴り響く。

 

 彼女の杖を持つ手は怒りで震え、歯を強く食いしばる。

 

「インヴェルズ……。あんたは、絶対に許さない!!!」

 

 怒りを爆発させ、ウィンダはギラファに挑む。

 

「はん!てめーじゃ勝てねえよ!くらいなぁ!!」

「『cyclone』!!」

 

 ギラファが大砲をウィンダに構え、そのままビームを放つ。対するウィンダは、一点に集中させた風の一閃を放つ。

 ぶつかり合った攻撃は互いに相殺され、衝撃が湿地帯を震わせる。

 ウィンダの一撃がギラファの攻撃を相殺したことに、上から見ているユウキは驚きを隠せない。

 ギラファも手加減をしているように見えない。彼女の一撃は儀式体となったエリアルが放つものと同じくらいの威力だったからだ。

 

「ウィンダ、いつの間にそんな力を?」

 

 感情があそこまで魔術に作用するとは思えない。それとも、怒りでリミッターが外れ、今が本来のウィンダの力なのか。

 ガルドに乗って上から見ている彼では、どちらにせよ真相はわからない。

 理解していることはただ一つ。

 

 あの温厚で優しいウィンダが、本気で怒っていることだけだ。

 

 衝撃で上がった土煙が消える前に、ウィンダはすかさず次の魔術を放つ。

 

「『storm』!」

 

 今まではガルドの力を借りてつくり上げてい巨大な竜巻を作り上げ、ギラファにぶつける。その余波で周期の草木が巻き上げられ、地面がえぐり取られていく。

 

「思ったよりやるみてぇだな!ダメージあったままじゃキツイか!」

 

 ギラファにとっても予想以上の力だったらしく、ウィンダの『嵐』に飲み込まれ、アクアから受けた傷がさらに深くなる。

 とっさにギラファは近くにいる下級インヴェルズを捕食し、自身の傷を癒そうとする。

 

「させない!『cyclone』!!」

 

 それにウィンダは反応。歩哨をつかんだギラファの腕を器用に魔術で狙い撃ち、回復を阻止する。

 捕食者の『食事』を妨害することは逆鱗触れることと同じ。

 

「____潰す」

「っ!」

 

 ギラファの顔から戦いを楽しむ余裕がなくなり、真顔でウィンダへ処刑宣告を行う。

 

 自身を囲んでいる嵐を無理やり両手で切り裂き、そのままウィンダへと突っ込んでいくとその勢いそのままに、大砲から何発もの砲撃を放つ。

 ギラファも学んでいるのだ。

 今まで自分の一撃を相殺していたのは、ウィンダの使う魔術の中でも強力なものだ。そして、ウィンダの疲労している顔から、それらを打つには相当の魔力がいることを見抜いていた。砲弾の一発の威力を上げるのではなく、多くの砲弾でウィンダを葬ろうとする。

 実際、ギラファの読みは当たっており、ウィンダは内心焦り始めていた。

 いくらヴァイロンのもとにいる時に修行して魔術の腕と魔力量を上げたからと言って、いきなり上級インヴェルズに勝てるとは思えなかった。

 それでも戦いを挑んだのは、ユウキたちを助けるため。幾度となくガスタを守ってくれたアクアマリアの敵を討つため。

 何より___ガスタを傷つけた者をウィンダは許せない。

 

「『whirlwind』!」

「もうてめーの風は見飽きた。失せなぁ!!!」

 

 だが、感情だけで力の差が埋まるほど現実は甘くない。

 砲弾を『つむじ風』で防ぐが、接近したギラファは腕でたやすく切り裂く。

 

 ___あっという間に、ウィンダは絶命する数秒前を迎える。

 

 命を確実に奪う拳が、ウィンダの体に風穴を開けるために放たれる。

 

「ウィンダ!!!」

 

 ユウキの声はむなしく、湿地帯に響き渡る。

 

 ウィンダの最後の感情は、恐怖だった。

 

 走馬灯のように、ギラファの拳がゆっくりと近づく。

 

 自分を確実に絶命させるであろう悪魔の一撃。逃れることのできない、死の運命。

 

(ああ、やだなぁ……。死にたく、ないなぁ……)

 

 彼女がどう思おうと、拳が止まることはない。

 

 そのままギラファの腕は彼女の腹部に穴をあける。

 

 

 

 

 

 

 ____はずだった。

 

「ガッ!!?」

「……?」

 

 ギラファの動きが突然止まる。何か鎖につながれているわけでもなく、傷による痛みによって止まったわけでもない。

 状況は呑み込めないが、とっさにウィンダはその場を離れる。

 改めて彼女が状況を確認する。自分を殺そうとしていたギラファは体を無理やり動かそうとしているが、体が小刻みに震えるだけだ。

 そして、新たな人影がギラファの近くに立っていることにようやく気付いた。

 黒い魔女帽子をかぶり、体にはいくつもの傷を負いながらも必死になって魔術を使用している____水色の髪の少女。

 

「禁術__『縛魂(ソウルバインド)』!」

「儀式の……小娘がぁ!!!!」

「エリアル!?」

 

 マインドオーガスから人間体と戻ったエリアルがギラファに魔術を仕掛けていたのだ。

 ただ、エリアルの顔だけはマインドオーガスの時と同じように、悪魔の線が入っており、その表情は苦痛で歪んでいた。

 

「早く……しなさい!!こいつを動けなくするのは……大量の魔力と精神使うんだからぁ!」

 

 エリアルは先ほどのマディスとの戦闘でかなりの魔力を使用している。そんな中で、続けて上級インヴェルズとの戦闘することは生命にもかかわってくる。

 

「___終わらせる」

 

 ウィンダは杖を構え、瞳を閉じる。この世界の全ての生命に敵なす者に、裁きを下すために祈りをささげる。

 

 彼女の周囲に風が集まり始める。杖を空に掲げると、徐々に巨大な魔力が光となって収束し始める。

 

「___我らが神よ。悪魔を滅ぼすために、力をお借りします」

 

 神への祈りを終え、ウィンダは目を開き、杖を悪魔へと振り落とした。

 

 

「今こそ裁きを!『judgement』!!」

 

 神の一撃。風を操る魔術の、最後の到達点。天空からギラファに向けて(いかずち)が落ちる。

 

 音もなく落ちた光は一瞬だけ湿地帯を白く染めたあと、対象を消去した。

 塵も灰も残らず、インヴェルズ・ギラファは一瞬で消滅したのだった。

 

 上級インヴェルズが三体消えたことにより、湿地帯に存在していた下級インヴェルズたちの統制が消える。

 それを見たファイは、地面に向かって命令する。

 

「溶岩よ、すべてを飲み込め!!」

 

 全ての下級インヴェルズの下から溶岩が吹き出し、そのまま地面へと引きずり込んでいく。溶岩は土へと還り、下級悪魔もまた強制的に土へと還らされた。

 ___湿地帯にようやく静寂が戻る。

 インヴェルズが消えたことによって、ようやくエリアルの顔から安堵の表情が浮かび__そのまま地面に倒れこむ。

 

「エリアル___あ」

 

 エリアルのもとにウィンダが駆け寄ろうとするが、ウィンダも同じく膝から崩れ落ちてしまう。パートナーが倒れたことを心配し、上空を飛んでいたガルドがウィンダのもとに着陸する。

 ユウキは痛みが引いていないためガルドの上から動けず、代わりにファイがエリアルの元へ駆けつける。

 

「エリアルさん……生きてますか?」

「当たり前でしょ……死にそうなくらい魔力使ったけど……」

 

 顔は完全にエリアルに戻っており、疲労の色が見て分かった。

 

「あの、戦っていたインヴェルズは……?」

「消した……じゃなきゃこっちに戻ってきてないわよ……。あいつは?」

「……ユウキさんですか?」

「そう……。ウィンダがいるってことは、なんかあったんでしょ?」

 

 ファイは動かなくなってしまったアクアを見て、再び涙をためてエリアルに事情を説明する。

 

「そっか。ジェムナイトの奴は、死んだんだ」

 

 コクンと泣きながら頷くファイ。エリアルは特に悲しむような顔はしなかったが、何か思うことがあったのか目をつぶる。

 

「戦争だから、しょうがないのよ。あんたもああなるかもしれない。それは頭に置いておきなさい」

 

 一方のウィンダは、ガルドにつつかれていた。

 

「ガルド、大丈夫だから。ちょっと疲れただけ」

「キュイ!!」

 

 無理をした相棒を心配したと伝えるように、ガルドはウィンダを突っつきまくる。

 

「痛い痛い!!悪かったって、一人で戦って!」

「ウィンダ、大丈夫か?」

 

 ガルドの上からユウキが顔を出すと、ウィンダは笑顔で答える。

 

「ユウキのほうが重症でしょ?大丈夫大丈夫!」

 

 そういうと、またガルドが突っつきまくる。ウィンダがなんとかそれを止めると、エリアルとファイが戻ってきた。

 

「無事?」

「何とかね。エリアル、さっきは助けてくれてありがと」

「……そ」

 

 そっぽを向くエリアルはやっぱり顔が少し赤い。

 ウィンダは、本当に純粋な好意に弱いんだなぁ、とほほえましい気持ちになったが、すぐにその気持ちを切り替え、アクアのもとに移動した。

 体に風穴が開いて、既に血は止まっている。もう体からは生命の息吹は感じられず、胸に埋め込まれた核石だけが輝いていた。

 

「アクアマリアさん。今までありがとうございました。どうか、安らかに……」

 

 膝をつきウィンダが祈りをささげ、続いてユウキとファイも祈る。

 

 

「ほいっと」

 

 

 ___が、エリアルだけは別でアクアの死体から核石を取り外した。

 

「エリアル!?何してるの!!」

 

 死体を平気であさるという行為にウィンダは驚愕し激怒するが、エリアルは涼しい顔で、しかし説得力のある言葉を返す。

 

「死体を放置しておくより、活用できるのなら利用する。今私たちは魔力が尽きかけてる。ジェムナイトの核石には融合の力が秘められていて、大量の魔力が秘められている。なら、それを使わせてもらえばいいでしょ?」

「でも!」

 

 

 

「___それに、形見の一つくらい、クリスタに持って行ってあげたら?」

 

 

 

 ウィンダが怒ったのは、エリアルの行為がリチュアの犠牲を厭わない考えからだと思ったからだ。

 だが、実際は違った。

 エリアルは彼女なりにアクアマリアを気遣い、生き残るためにその選択をとったのだ。

 

「うん。回復するには十分すぎるわね。あとあんたも回復させるから。そうでないと、あっちに合流できないでしょ?」

「ああ。向こうに合流しなきゃいけないんだっけ……忘れてた」

「あんたねぇ……」

 

 ウィンダに助けられたことで安心してしまっていたユウキ。それを見て呆れるエリアルだが、彼は少し前までただの大学生だったのだ。

 戦争に関してなら彼女たちのほうが経験しているのだ。銀河眼から消えてから腰が抜けてしまっている。

 

「ったく、少し休んでおきなさい。銀河眼も召喚するのに精神力使うんでしょ?」

「アハハ……面目ない」

「ジェムナイト。あんたの魔力、使うからね。『回復』」

 

 手に持ったアクアマリアの核石が淡い光を放ち、温かい光が全員を包み込む。

 ユウキの背中の傷をはじめとした肉体の傷、魔術で消費した魔力、そして戦場ですり減った精神力が光によって回復していく。

 10分にしないうちにすべての傷は消え、ユウキもちゃんと動けるようになり、エリアルとウィンダも顔色が良くなり、全員戦えるようになる。

 それに比例して、核石の輝きが黒ずんでいくが、完全に輝きが失われることはなかった。

 

「……ユウキさん」

「どうしたの、ファイちゃん」

「……生きてて、よかったぁ……!」

 

 事態が収束したところで、ファイが再び彼に抱き着いて泣き始める。

 

「ファイ、ちゃん?」

「うわああああん!!!死ななくて、生きてて、よかったよぉ……」

 

 怪我をさせてしまった罪悪感からファイは先ほどから非常に落ち込んでいた。

 ラヴァルどころか、全部族の中でも幼いファイ。自分が誰かの代わりに命を落とすことは、非常に恐ろしいことだ。

 その恐怖に耐え切れなくなって、ユウキが生きていて安心して、わんわんと泣くファイを受け止め、彼女の頭をなでるユウキ。

 ウィンダとエリアルはそれを無言で眺めていた。

 

 

 

 

(なんで、こんなもやもやするの……?)

 

 エリアルは胸の内に浮かんだ感情に戸惑いを感じながら、ユウキたちを見ていた。

 

 

「落ち着いた?」

「……ん」

 

 ファイが泣き止み落ち着くと、ユウキは彼女を離し立ち上がる。

 

「ウィンダ、あっちはどうなってるの?」

「私が離れる前はガザス、ホーン、グレズと戦闘してた。ただ、オメガ様とアルファ様以外の大天使様は……」

「だからここに三体の上級インヴェルズがいたのね。納得」

「……それって、向こう側がすごくピンチってこと?」

「わからない。さっきから向こうに連絡してるんだけど、誰とも繋がらないの……」

 

 ウィンダの不安はユウキたちも感じていたことだ。先ほどからヴァイロンとの連絡ができない。

 オメガやアルファだけでなく、ヴァイロンと合体している四人とすらできないのだ。

 

『そりゃあ、やべぇ状況だってことだろ。さっさと向かうとするか?』

 

 ユウキの脳内に銀河眼の声が響く。てっきり消滅したと思っていた彼は思わず生きていたことに驚く。

 

「銀河眼、お前生きてたのか」

『当たり前だ!つーか、破壊されてねーし!お前が勝手に気を失って、実体化ができなくなっただけだっての!』

「悪い。それで、あれ、使えるようになった?」

『ああ、何とか俺様の力で解除できた。いけるぜ』

 

 インヴェルズとの戦争前に銀河眼との約束を確認すると、ユウキは決意の表情でデッキからカードを引いた。

 すると、デュエルが再開したようで銀河眼の光子竜が再び姿を現す。

 

「手札はこの一枚だけ。今のうちに時間を稼いでおきたいけど、ヴァイロン達の元へ急ごう!エリアルとファイちゃんも銀河眼に乗って」

「……今度こそ、守りますから」

「魔力も回復したし、戦わない理由はないわね」

 

 ユウキ、ファイ、エリアルは銀河眼に。ウィンダはガルドに乗り、インヴェルズの巣へと飛ぶ。移動間にデッキが光り、ユウキはさらに一枚ドローする。

 

「ドロー!……よしよし」

「時間経過じゃないと引けないのね。魔力じゃどうにもならない?」

 

 エリアルの疑問にユウキはよくわかっていないと返答する。

 彼自身も銀河眼に教えてもらったことは少ない。あとは自身が持っていたデュエルの知識でどうにかしてきただけだ。

 ユウキの回答に、エリアルはリチュアとしての一面。『未知』に対して笑みを浮かべた。

 その笑みに苦笑いを浮かべながら、ユウキはエリアルに提案する。

 

「時間があれば、エリアルにもデッキ貸そうか?」

「え!?いいの!!?」

「お、おう。いいよ?返してくれるなら、だけど……」

「じゃあ、機会があればじっっっくり調べさせてもらうから。フフフ♪」

「……エリアルさん、とても楽しそう」

「今までで一番楽しそうだなぁ……」

 

 もうすぐ決戦だというのに雰囲気が緩んでいる。

 ___だからこそ、ユウキは思う。この何気ない時間を守りたいと。

 

「見えてきたよ!ユウキ、準備して!」

「わかった!」

 

 インヴェルズの巣。大地が黒く染まった戦場に一陣の風と銀河の光が駆けつける。

 地上は大量の下級インヴェルズと交戦中の連合軍。空も、羽根つきのインヴェルズたちと戦闘が繰り広げられている。

 

「銀河眼の光子竜!破滅のフォトン・ストリーム!!」

「ガルド、一緒にいくよ!『storm』!」

「キュイ!!」

 

 銀河眼の一撃とウィンダとガルドの連携技で下級インヴェルズたちが蹴散らされていくが、すぐにその数は元に戻ってしまう。

 

「ウィンダ!戻ったか!!ユウキ君も!」

「お父さん!戦況は!?」

 

 上空で戦っているウィンダールと合流する。彼の顔からは焦りが浮かんでおり、戦況が厳しいことが言葉にしなくても分かってしまった。

 

「下級インヴェルズをいくら片付けようとしても、最上級三体の影響で次々と大地から発生してくる!ユウキ君、君はヴァイロン様と共闘して奴らを倒してくれ!」

「わかりました。エリアルとファイちゃんはどうする?」

「私は……ユウキさんを守ります!それが、与えられた役割ですから……!」

「私も同じよ。役割を果たすため」

 

 二人を見てユウキは頷く。それを見てウィンダールは申し訳なさそうに、ユウキに話す。

 

「ユウキ君……本当に申し訳ない」

「何を謝るんですか?」

「君を都合のいいように扱ってしまっている、我々全員からの謝罪だと思ってくれ。……健闘を祈る。生きてまた会おう!いくぞ、ウィンダ!!」

「また後で!ユウキ、ファイちゃん、エリアル!」

 

 ウィンダとウィンダールは上空のインヴェルズを引きつけ、銀河眼の後をつけさせない。

 その場を二人に託しユウキたちは地上の最上級インヴェルズの元へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 ユウキたちが地上に近づくたびに、戦況が非常に悪いことに改めて気づかされていく。

 ヴァイロンの大天使と護衛部隊の死亡。それによって連合軍の士気は大きく下がっているその状況での最上級インヴェルズ三体と無限とも思える下級インヴェルズ。

 戦況は___最悪だった。

 

「はん。こんなもんかよ、クソ天使の力を手に入れたと言ってもよぉ!」

「くっ……悪魔と天使の力じゃうまく合わないのかしら」

「ぼさっとすんじゃねぇ!ここで死ぬ気か!?」

 

 ガザスと交戦中のテトラオーグルとステライドは、恐ろしいほどの腕力に押されていた。

 一撃食らえば、体の欠片すら残さないほどの力。他者の攻撃を受け付けない強靭な体。

 まさに、攻防隙が無い強敵となっていた。

 ステライドとテトラオーグルは体のあちこちに傷がついており、ガザスはまだ無傷。正確に言えば、下級インヴェルズを食って回復している。

 二人にも自動治癒能力は備わっているものの、それが追い付かないほどのダメージを負っていた。特に、前線で戦っていたステライドは各部の損傷が激しい。

 

「リチュア!俺が攻める。魔術の支援頼んだぞ!!」

「はいはい」

 

 ステライドはガザスに接近。ガザスにラッシュをかける。

 ラヴァルのパワーにヴァイロンの光速が加わり、光と炎の乱舞がガザスに襲い掛かる。

 だが、ガザスはそれに臆することなく笑みを浮かべてラッシュにつっこんでいく。

 

「禁術『貫撃(スラスト)』」

 

 テトラオーグルが魔法陣を自身の前に展開。そこから白と黒が混ざった、すべてを貫く槍がラッシュの間を縫ってガザスに向けて放たれる。

 

「堂々と打ってきやがったか。だがなぁ!」

 

 ガザスはすぐに反応し、右手に瘴気が集める。そして、『貫撃』をそのまま右手でつかみ、粉々に握りつぶした。

 

「あら」

「てめーらの力は俺たちの力でもある。なら、砕けねえことはないだろ?」

「よそ見してんじゃねえよ!ふきとべぇ!!」

 

 魔術に気を取られていたガザスの隙をついて、ステライドが強化されたマグマキャノンで頭へのゼロ距離射撃を行う。

 

 ___当然のようにガザスは首を少し傾いているだけ。何かされたのか、という顔でステライドをあざ笑っていた。

 

 ガザスはステライドに離脱する隙を与えず、マグマキャノンを右手でつかむ。

 

「な!?」

「ずいぶん大層なもん着けてんな、てめー。それ、ギラファにくれよ」

 

 つかんでいる右手に瘴気を再び発生させると、ステライドは冷や汗を浮かべなんとか離れようとする。

 が、それは叶わない。

 相手は絶対捕食者、狙った獲物は必ず食い尽くす。古の悪魔、インヴェルズなのだから。

 

 めきゃ、と機械の装甲がつぶれた音がした直後。

 

 

 ばきぃばきぃ!!!

 

 

「があああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

「っと、壊しちまった。これじゃギラファに渡せねぇな」

 

 ステライドの片腕、マグマキャノンが引きちぎられ血が噴き出す。

 いくらヴァイロンと合体しようと、痛みは消せない。ステライド、否、ラヴァル・キャノンは自身の分身ともいえるキャノンを失い、痛みで地面にのたうち回る。

 

「うるせぇ」

 

 そんなことは関係ないと、ガザスはキャノンの体を踏み潰す。こうして戦場にまた、あちらこちらに散らばっている死体が一つ増えた。

 戦場ではよくある光景だ。力なき者は強き者に殺される。

 

 ___これが、戦争なのだから。

 

「次はてめーだ。クソ女」

「あらあら。でも、抗わせてもらいますね。禁術『破滅(ドゥーム)』」

 

 エリアルが以前放った『入減(デス)』よりも、より死を具現化したような黒い魔弾がガザスに何発も襲い掛かる。

 本来、禁術と呼ばれるものは何発も連続で打てるものでもないし、打つだけで強大な魔力を消費し自身に大きな負担をかける。

 それをヴァイロンの力とノエリアの才能で打ち消しており、まさしく魔術なら最強だろう。

 

 そんな最強にすら、悪魔は笑みを浮かべる。

 

「なかなかいい死じゃねぇか。が、俺様には通じない」

 

 襲い掛かる魔弾をすべて高速で避けると、テトラオーグルに接近。敵を握りつぶそうとかまえる。

 

「禁術『模写(エクタイブ)』」

「!こいつは……」

「ラヴァルの敵、という訳ではないですが、握りつぶし返してあげましょう」

 

 当然、ただで終わるリチュアではない。魔術を唱えると、テトラオーグルはガザスの腕をつかむ。すると、テトラオーグルの手に瘴気が集まる。『模写』の魔術によってガザスの技を文字通り模写したのだ。

 先ほどのステライドにした時と同じようにガザスの腕を引きちぎろうとする。

 

「俺様の力を使うっていうのはいい戦略だ。だがな、俺様が片手しかそれができないと思ったのか?」

 

 ガザスの判断は一瞬だった。

 ガザスはつかまれていない左手に一瞬で瘴気を蓄えると、手刀でつかんでいるテトラオーグルの腕を切り裂く。

 

「ああっ!!?」

「んで、てめーも終わりだ。おらぁ!!」

「っ……禁術『妖革(ハードカバー)』!」

 

 解放された右手でテトラオーグルを貫こうとする直前、テトラオーグルは魔法陣から布を出現させる。

 出現した布__どちらかというと殻は、インヴェルズの甲殻と同じ強度を持っているものだ。それでも、ガザスの必殺の一撃は『妖革』を貫き、そのままテトラオーグルへと突き刺さった。

 

「こふっ!!」

「流石、俺たちと契約しているリチュアといったところか。死ぬところを致命傷で済ませやがった」

 

 テトラオーグルの体から深く刺さった腕を抜き、血を払うガザス。

 地に落ちてガザスの前で倒れるテトラオーグルは姿を保てず、ノエリアの姿へと戻った。

 

「だが、所詮悪あがきだ。これで、終わりだぁ!!」

 

 命を刈り取るために、ガザスがノエリアにとどめを刺す。

 

 

 その寸前で、一陣の風が悪魔に襲い掛かる。

 

「させない!!!!」

「__おらぁ!!」

 

 後ろから奇襲を仕掛けたのは、ダイガスタ・スフィアードだ。風をまとわせた杖で切り裂こうとするが、ガザスは杖に蹴りを入れて軌道をそらす。

 攻撃をいなされたスフィアードは地面に華麗に着地し、ガザスをにらむ。

 

「なんだ、クソ緑か」

「これ以上やらせない!」

「そうかよ!」

 

 既にヴァイロンと合体した四人のうち、半数がすでに再起不能となっている。

 現在、オメガとアルファはグレズに手がいっぱいで、残り一人のクリスタことプリズムオーラは一人でホーンを食い止めている。

 圧倒的に連合軍は不利。全滅も時間の問題だった。

 それを何とか覆そうと、スフィアードはガザスに戦いを挑む。

 スフィアードは先ほどまでの二人とは違い、ガザスと同じ大きさではなく小柄だ。それを活かし、ガザスの攻撃を風のようにかわし、懐へと入り込む。

 

「はあああ!!!『tempest』!!!」

 

 集束した風が『暴風雨』となり、それを乗せた拳がガザスの腹部に叩き込まれる。

 

「けっ!まだまだだなぁ!!」

 

 攻撃は確かに入り、ガザスの顔が少しだけゆがんだが、体を回転させスフィアードを目標にとらえる。

 

(嘘でしょ!?ホーンすら少しだけど吹き飛ばせた『tempest』でも、あいつは動かないの!?)

 

 強力な攻撃の反動でスフィアードはとっさに動けない。ガザスの手がスフィアードをつかみ、握りつぶそうとする。メキメキと嫌な音がガザスの手の中から鳴り始めた。

 

「こ、のっ……!!」

 

 脱出を試みるが、絶対捕食者はそれを許そうとはしない。さらに、握る力が強くなり、スフィアードの意識が朦朧とし始める。

 スフィアードが握り潰されるのも時間の問題だった。

 

「一刀両断……叩き切る!!」

 

 それを許さない者が二人。

 ガザスの背後から高速で近づく巨大な竜。その手には巨大な太刀が握られており、その一太刀でガザスの腕を切り裂くことに成功する。

 

「なん、だとぉ!!?」

 

 まさか切断されるとは思っていなかったようで、ガザスの顔に初めて驚愕の表情が浮かぶ。スフィアードが手から逃れると、今度はガザスの下に魔法陣が生まれる。

 

「『重圧(プレッシャー)』!!」

「ぐおおおお!?体が、重いっ!!?」

 

 次に現れたのは、下半身がイカのような触手のようになっている女性。

 それは、エリアルのマインドオーガスによく似ている姿だった。

 

「大丈夫、リーズ!?」

「遅くなったが、助太刀に来たぞ」

「その声……まさか、アバンスとエミリア!?」

 

 竜はアバンスの声でしゃべり、もう一人の悪魔は上半身がエミリアの姿をしている。変わり果てた顔見知りの二人にスフィアードは驚愕する。

 

「私だってリチュアなんだから、儀式体も学んでるよ。……ちょっと不完全だけどね」

「今の俺は、イビリチュア・リヴァイアニマ。エミリアのほうが、イビリチュア・ガストクラーケだ。それより前を見ろ。どうやら魔術から抜け出すみたいだぞ」

 

 アバンスことリヴァイアニマは再び太刀を構え、ガストクラーケも杖をガザスへと向ける。スフィアードも戦闘態勢を再びとった。

 ガザスは無理やり魔法陣を残った腕の拳で砕き、『重圧』の魔術から逃れる。

 

「まさか、腕一本持ってかれるとはな……。褒めてやるよ、クソ竜」

 

 ガザスは腕を回復するために、近くにいる下級インヴェルズを捕食しようとする。スフィアードは阻止しようとするが、先ほどダメージで動けない。

 リヴァイアニマは動くまでにタイムロスがあって、ガストクラーケが魔術を放とうとするが、動きが途中で止まってしまう。

 

「っ……やっぱり、同調が!」

 

 ガザスが回復すれば、次こそチャンスはない。

 

 

 

 ___消えるチャンスを拾い上げるのは、三人目の儀式師。

 

「『雷撃(ライトニングボルト)』!!!」

 

 ガザスの上空から雷が一発落ちる。神の一撃と比べると力は小さいが、それでもガザスの体を傷つけるには十分すぎる一撃だった。

 

「ちぃ!!この、儀式野郎がぁ!!!」

「野郎じゃないわよ。下品な悪魔」

 

 この危機を察知したエリアルことマインドオーガスがユウキたちよりも一足先に三人に合流。チャンスを拾い上げる。

 彼女はリチュアの二人を見て、少しだけ驚いた顔で問いかけた。

 

「アバンス、エミリア、まさか儀式体になっているなんてね」

「助かったぞ、エリアル……いや、マインドオーガスか」

「エリアル、さっすがぁ!」

 

 ___そこに、今まであり得なかった光景が現れる。

 

 マインドオーガスであるエリアル、リヴァイアニマであるアバンス、ガストクラーケであるエミリア。三人のリチュア幹部が一体の敵へと立ち向かう。

 マインドオーガスに続いて、光の竜が戦場に到着する。

 

「リヴァイアニマとガストクラーケ!?アバンスとエミリアも儀式体に!?」

 

 驚くユウキとは裏腹に、銀河眼はガザスを見ていた。実力を上げていることは感じていたが興味がなさそうにユウキに告げる。

 

『あんときの悪魔か……。だが、こいつが一番強いわけじゃねえ。残りの二体と戦いに行くぞ!』

「……エリアル、ガザスの相手は任せてもいい?」

「リチュアを甘く見ないで。あんたはどうせ残りの二体のところ行くんでしょ?」

「俺たちもいる。まかせろ」

「エリアルの代わりって言ったら悪いけど、リーズを連れて行ったら?向こうがやばいでしょ?」

 

 リチュア三人から後押しされ、ユウキは頷いてからスフィアードを保護する。

 

「リーズ、大丈夫?」

「一応ね……。クリスタ様が戦ってる。むこうに早く行って、ユウキ!」

「エリアル、アバンス、エミリア!生きてまた!!」

 

 銀河眼と共に巣のさらに奥へ飛び込んでいくユウキたちを背に、イビリチュアは自身の力の根源に挑む。

 一瞬でガストクラーケの不安定さを見抜き、彼女を守るように前に立つマインドオーガス。

 

「ガストクラーケ……あんたは私の支援係。自分から魔術を撃とうとしないで」

「アハハ……お見通し?」

「当たり前でしょ。そんな魂がここにない儀式体使ってるなんて、同調をとれないでしょ。遠距離から操れるほど力もないのに」

 

 ガストクラーケとマインドオーガスは魔術での攻撃を行う。その二人の前に出て、前衛を務めるのはリヴァイアニマだ。

 

「俺が攻める。支援は任せたぞ」

 

 再び太刀を構え、ガザスに突撃する。ガザスは隻腕になっているため、リヴァイアニマに対して慎重に行動せざるを得ない。

 リヴァイアニマ___人の姿を捨て、アバンスの能力をすべて向上させる儀式体。

 特に巨体から生み出される怪力を得たことにより、巨大な太刀を普段使用している儀水刀と同じように扱えるようになり、火力が格段に上がっている。

 だが、ガザスも隻腕となっても最上級インヴェルズであることには変わらない。接近してきたリヴァイアニマの一撃をかわし、太刀をつかんで攻撃を止める。

 

「『魔刃(スレイヤー)』!!!」

「『捕獲(キャッチ)』!!!」

 

 太刀をつかんだことで動きが止まったガザスに対して、マインドオーガスが魔法陣から赤黒い刃を飛ばし、ガストクラーケは文字の縄でガザスを縛り上げる。

 リヴァイアニマはガザスに捕まれた太刀に全体重を乗せ、体を力任せにたたき切る。竜の巨体の体重を乗せた斬撃はガザスの体を切り裂き、マインドオーガスが放った魔を貫く刃がその太刀傷に刺さる。

 

「がぁああ!!!餌どもがぁあああああ!!!!!!」

 

 初めてガザスの顔が苦痛で歪む。だが、それと同時にさらに怒りと憎しみで悪魔としての力が上昇していることにマインドオーガスは気づいていた。すぐさま対策をとる。

 

「リヴァイアニマ!速度をもっと上げて!『強化(エンチャント)』!」

「私も!『強化(エンチャント)』!」

 

 二重の『強化』の魔術の光がリヴァイアニマを包み込み、儀式の竜はさらなる力を得る。

 その忌々しい『光』を見て、ガザスはさらに怒りが増す。

 

「その程度でぇ!!!」

「リチュアをなめるな!絶対捕食者!」

 

 憎しみや怒りの負の感情で強化されたガザスの速度が上がった拳を、リヴァイアニマは太刀で防ぐ。

 それは竜の巨体にも響き渡る一撃だが、リヴァイアニマは踏みとどまり、ガザスにさらに一撃を加える。

 

「魔力補強完了___叩き切る!!」

 

 青白い光を太刀に魔力をまとわせ、ガザスを横に切り裂く。

 ガザスの甲殻をいともたやすく切り裂く強化を得たリヴァイアニマの太刀は、悪魔の力とは思えないほど光り輝いていた。

 

「て__めぇえええ!!!!!」

「叫んでばかりいても、強そうに見えないわよ。禁術『煉獄(ゲヘナ)』!」

 

 ガザスが絶叫しながらリヴァイアニマに襲い掛かるが、それをマインドオーガスが許さない。黒い魔法陣から、黒色が混ざった魔性の炎がガザスの体を焼き尽くす。

 苦しむガザスだが、さらに追撃がかかる。

 

「おまけにこれも!禁術『魔棘(ソーン)』!」

 

 ガストクラーケがガザスの足元から、紫色の棘を大量に発生させる。いくつもの棘が足を貫き、動きを鈍くする。

 動きが抑制されてダメージを負っているガザスを見て、リヴァイアニマは勝機を見出す。

 

 巨大な翼を広げ、天高く上空へと飛び立つ。

 

 両手で太刀を握り空へ掲げると、太刀が青の魔力で輝き始める。

 

「なめるな……俺様は、絶対捕食者だぁあああああああ!!!!!!!!!!」

 

 ガザスも背中の翼を広げ、空へと飛び立とうとする___

 

「「『重力(プレッシャー)』!!!」」

 

 ___だが、それを二人の悪魔の魔術が阻止する。二重の魔術でガザスの体が重さでついに地面にひれ伏す。

 

「ががあああああああああああアああああアあアああアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 ガザスが吠える。自分は負けることなどないと、自分は常に食らう者だと。

 

 だが、それは違う。たった一人の強者などありえないのだ。

 そういう者は、いつも多くの弱者によって打たれる。

 

 

 それを『結束』というが、絶対捕食者には理解できないことだろう。

 

「終わりだ、インヴェルズ・ガザス!!!」

 

 上空から地上へと駆け抜けるリヴァイアニマ。速く、より速く、儀式の竜は速度を上げていき、太刀を振るうと___古の悪魔の体は一刀両断され二つに割れた。

 

「俺は、おれは、オレハ、ィィィニノナャシクョホイタッゼ(ぜったいほしょくしゃなのにぃぃぃ)!!!!」

 

 割れたガザスの体から黒い瘴気が空へと上がっていき、そのままあっけなく消えていった。

 最上級インヴェルズという強敵を撃破し、少しだけ気を緩める儀式師たち。

 

「終わったな……」

「大勝利だね!!エリアルありがと!」

「まだ終わってない。インヴェルズを滅ぼすまではね」

 

 ガザスが消えようと、彼らの周囲にいる下級インヴェルズは消えない。三人は再び気を入れ直し、下級インヴェルズへと挑むのであった。

 

 

___後編へ続く

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