端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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第五話ー後編 そして悪魔は笑う

「クリスタさん!ヴァイロン!!」

 

 インヴェルズの巣。その最深部に二体の悪魔とそれに立ち向かう大天使と輝く騎士がいた。周囲には今まで以上に瘴気が満ち溢れているが、周囲に下級インヴェルズは存在していなかった・

 

「お、新しい餌。しかも、異世界の奴ときたか」

「ええ、気分が上がりますね。さっさと食えない機械を壊してしまいましょう」

 

 二体の最上級インヴェルズは目の前の敵と殴り合いながら、銀河眼とユウキを見て笑みを浮かべる。

 

「ユウキ君か!無事でよかった!」

「高屋ユウキ!上級インヴェルズはどうなった!?」

 

 プリズムオーラはユウキを見てホッと安心し、アルファは今確認するべき事項をユウキに問いかけた。

 

「マディス、モース、ギラファは倒した!ガザスもエリアル達が対峙してる!だから、あとはこいつらだけだ!!」

「クリスタ様!遅れて申し訳ありません!」

 

 銀河眼から飛び降りると、プリズムオーラの横に着地するスフィアード。未だ銀河眼から降りないファイは最上級インヴェルズの気迫に押されてしまっており、ユウキにくっついている。

 ユウキの報告を聞いたグレズはあきれ顔でため息をついた。

 

「なんだ、食われたのかあいつら。弱いもんはこうなる運命だ。どうだこうだ思うことはねぇ」

「やはり、君を引き入れたのは正解だったようだ。高屋ユウキ。ならば、やることはわかるな?」

 

 オメガは光の輪から無数の武器を出現させ、無数の光線を放つ。受けるグレズは手から闇を発生させ、自分の前に展開。光をすべて吸収する。

 プリズムオーラとスフィアードはホーンとの戦闘を再開する。

 

「わかってる。これに勝って、元の世界に帰るためにも!俺のターン!ドロー!!」

 

 ドローしたカードを確認し、ユウキはニヤリと笑う。

 

「俺は装備魔法 銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)を発動!墓地にあるフォトン、ギャラクシーモンスター一体をこのカードを装備して特殊召喚!現れよ、フォトン・パイレーツ!」

 

 ユウキが魔法カードを発動すると、中央に黒い穴が開いた紫の魔法陣の中からフォトン・パイレーツが再出現するが、体からフォトンの光は消えている。

 

「ただし、装備している間は攻撃できず、モンスター効果も発動できない!さらに、フォトン・サテライトを召喚!」

 

 新たなフォトンモンスターが出現する。それは今までのモンスターとは違い完全な無機質で、その名の通り衛星のようなモンスターだった。

 サテライトから放たれている力は微小なもので、ホーンはそんな下級モンスターを見て嘲笑う。

 

「なんですか、その貧弱そうなやつ。フフ」

「ホーン。確かにこのモンスターだけじゃ弱いかもしれない。でもな、こいつがお前たちを倒す力となる!」

「なんですって?」

「フォトン・サテライトの効果!このモンスターとフォトン・パイレーツのレベルをそれぞれのレベルの合計に変更する!パイレーツは3、サテライトは1!よって、二体のレベルは4となる!」

『条件はそろった!いけ、ユウキ!』

 

 ユウキのエクストラデッキのカードが、姿と力を取り戻す。これが銀河眼と約束していたこと。

 最上級インヴェルズに対する切り札として用意した、まだこの世界にない未知の力だ。

 

「俺は、レベル4のフォトン・パイレーツとフォトン・サテライトの二体で、オーバーレイ!!」

 

 二体のモンスターが黄色の光球となって、突然出現した宇宙の渦に吸い込まれていく。

 

「二体の光属性モンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!!」

 

 光球を吸い込んだ渦はいったん集束し、一気に爆発を起こす。それはまるで、新しい宇宙が生まれるかのように。

 

「エクシーズ……地上の該当項目なし。まだ未知の力を持っていたのか」

 

 オメガが冷静に解析するがその結果は、『未知』だった。

 爆発の中から、新たな人影が登場する。光の剣を持ち、白い体を持った一体の剣士。剣士の周囲には、先ほどの二つの光球が飛び回っていた。

 

「現れよ!ランク4、輝光子パラディオス!!」

「トオァ!!」

 

 

 この世界に再び新たな力が降臨した瞬間だった。

 

 

 だが、新たなモンスターの登場にもインヴェルズたちは動揺しない。むしろ、新しい餌が増えたことに内心歓喜しているくらいだ。

 銀河眼とユウキはホーンの前に降り立ち、パラディオスはオメガたちの前に移動する。

 

「いくら増援を呼んだところで、俺たちに勝てるとでも思ってるのかぁ?」

「思ってるから、切り札を切ったんだろ!パラディオスの効果発動!オーバーレイユニットを二つ使い、グレズ!お前の攻撃力を0にし、さらに効果を無効化する!」

 

 ユウキの宣言によってパラディオスが効果を発動するために、光球__オーバーレイユニットを二つ剣で切り裂き、剣から赤い光線を放つ。

 

「何かしてくるってことはお見通しなんだよぉ!」

 

 グレズも指から赤い雷を放ち、パラディオスの光線と激突する。瘴気の影響もあり、パラディオスのほうが押され気味だ。

 その光景にユウキも焦り始める。まさか、モンスター効果も封殺されるとは思ってなかったようだ。

 

『集中しろ、ユウキ!ぼさっとして勝てる相手じゃねえ!』

 

 銀河眼の一言でハッとしたユウキが前を見ると、ホーンが襲い掛かってくる寸前だった。

 複数体のモンスターを操るのには相当の集中力がいる。それは自我がある銀河眼を操っているときでも同じだ。

 それが一瞬でも気を抜いたら食われる状況でやれば、致命的なミスを犯すこととなる。

 

 

 ホーンがユウキを捕食する数秒前___プリズムオーラが間に入る。

 

「はぁあ!!!」

 

 攻撃を盾で受け止め、そのまま輝く剣で横払う。ホーンは舌打ちをして、後ろへと飛ぶ。

 

「ちっ、もう少しで食べれたものの。食べられない奴は邪魔しないでください」

「悪いが、お前たちに負けるように修行してないんでね!」

 

 プリズムオーラの実力は、ほかのヴァイロンと合体した三人と比べてもトップに立てるほどにまで強化されている。体の硬度はクリスタ時よりはるかに上昇。ここまでホーンに食らいつけていたのはこの防御力が理由だ。

 さらに、打撃ではなく盾と剣を持ったことで戦い方がさらに防御寄りになっていることも特徴である。

 

「ユウキ君。君の力は確かに素晴らしい。だが、弱点は自身が狙われることだ。それを私が補おう」

「クリスタさん……。はい!お願いします!!」

 

 プリズムオーラに守ってもらえる事実に、喜びと気合が戻ってくるユウキ。それに比例して、モンスターたちへの集中力も戻ってくる。

 

「パラディオス、少し持ちこたえて!銀河眼の光子竜!インヴェルズ・ホーンに攻撃!破滅のフォトン・ストリーム!!」

 

 銀河眼へホーンへの攻撃命令を出すと、銀河眼は周囲の光を吸収し口から銀河の破壊光線を放つ。

 これに対して、ホーンはニヤリと笑い、右手を広げて受け止めようとする。

 

「これくらいの光、よける必要もないですね」

「嘘!?」

 

 ファイは驚きの声を上げた。

 上級インヴェルズのモースさえも葬った一撃を、ホーンは気にせず受け止めようとしている。

 モースを消し去った光景を見ているファイはそれが信じられず、だが、ホーンが嘘を言って言うようにも見えなかった。

 それほどまでに、最上級インヴェルズの力はすさまじいものだったのだ。

 

 

 だが、ニヤリと笑ったのはホーンだけではなかった。

 

「ここで銀河眼の効果、発動!」

「……え?」

「銀河眼の光子竜とホーンを一時的に除外!」

 

 ユウキの効果発動宣言で、ホーンと銀河眼の姿が消える。これは以前、マインドオーガスにも使用した効果。だが、一時的な除外。ホーンを消し去ることはできない。

 ファイはそのことをヴァイロンの情報から知っている。なぜ、そんなインヴェルズを倒せないことをするのか。それが理解できなかった。

 銀河眼とホーンの姿が消えた後も、ユウキの宣言は続く。手札から一枚のカードを発動する。

 

「銀河眼の光子竜が自身の効果で除外されたとき、手札のディメンション・ワンダラーの効果発動!」

「手札からもできるモンスターがいるの!?」

 

 手札からのモンスター効果。これがユウキの狙いだった。

 

「ディメンション・ワンダラーを墓地に送り、相手に3000ポイントのダメージを与える!つまり……グレズ!お前に次元を超えた攻撃が襲い掛かるってことだ!」

「何ぃ?」

 

 ユウキが宣言を終わると、グレズの上空に魔法陣が現れ、その中から光の輪郭だけだが銀河眼の上部が登場し、グレズへ攻撃を仕掛ける。

 

「次元を超えた一撃__ディメンション・フォトン・ストリーム!!」

「___ふん!!」

 

 その一撃をグレズは、パラディオスの光線を防いでいる手とは逆の手で受け止めた。

 

「がはっは!!俺を誰だか忘れたのかぁ、異世界の餌よ!俺はインヴェルズ・グレズ。この絶対捕食者の長!そんな光で食われるとでも思ったかぁ!!」

 

 高笑いを上げるグレズ。そんなグレズを見ても、ユウキは笑みをなくさなかった。

 

「忘れているのはお前だ。愚かなインヴェルズよ」

「裁きの光を受けるがいい!」

 

 いつの間にか上空に上がったオメガとアルファが協力して、ガザスに巨大な雷を叩き込もうとしていた。

 グレズも当然それに反応。よけようと体を動かそうとするが___

 

「逃がすか!!」

 

 ユウキは大半の集中力を使い、銀河眼が戻ってくる時間を長くする。それによって、グレズへの攻撃、パラディオスの効果と次元を超えた銀河眼の一撃、が継続される。

 受け止めることはできても、その場を動くことはできない。

 邪魔をしてくれるホーンも次元のかなたにいる。

 下級インヴェルズを呼ぼうにも、スフィアードとプリズムオーラがいて簡単に倒される。

 

 絶対捕食者の慢心がこの四方八方の状況をつくったのだ。

 

「ちぃ!!」

 

 結果、グレズは動くことができず、ヴァイロン二体による裁きを受けることになる。

 インヴェルズを滅ぼすことを基礎プログラムとしているヴァイロンの一撃は、古の悪魔にとって致命傷となる。大天使レベルになれば、常に体から放たれている光ですら下級インヴェルズを滅ぼすものになる。

 それが、二体の大天使の力を集結したものならなおさらだった。

 

「がぁあああああああああ!!!!!!」

 

 裁きによってグレズの体制が崩れる。すなわち、ユウキが行った二つの攻撃も当たるということだ。銀河眼の次元を超えた一撃と共にパラディオスの光線が直撃すると、グレズに変化が訪れる。

 周囲に集まる瘴気の大半が消えうせ、存在しているだけで闇を生み出す力が弱まったのだ。

 

「な、なんだとぉ!何が起こりやがった!?」

「お前の効果と攻撃力を奪ったのさ。お前の力はほとんど封じさせてもらった!」

「なめた真似をぉ!!!」

 

 プライドを傷つけられたグレズ。その怒りと憎しみによって封じられた力を無理やり取り戻そうとしていた。

 

「高屋ユウキ!もう一度だ!」

 

 アルファからもう一度パラディオスの効果を使え、と指示されるが、パラディオスにはオーバーレイユニットがもうない。つまり使用不可能。

 さらに不幸は続く。突然空間にひびが入り、そこからホーンと銀河眼が取っ組み合いをしながら飛び出してくる。ユウキの焦りに連動したかのように、効果が切れて銀河眼とホーンが戦場に戻ってきたのだ。

 

「ふう。戻ってこれました。そこの竜は食えませんでしたが」

『流石に効果発動中に倒せはしなかったか……』

 

 銀河眼の帰還と同時にユウキの集中力が切れ、膝をついてしまう。

 いくらエリアルの魔術で回復したとはいえ、戦いということに慣れていないユウキにとって、命が簡単に失われていくこの場所では大きなストレスとなっていた。

 苦しさを無理やり押し込めて、銀河眼に一つ頼みごとをする。

 

「銀河眼、すっごく言いずらいんだけどさ……」

『分かってらぁ。俺様だけで戦えっていうんだろ?お前はパラディオスのほうを注意しとけ!』

「ギャオオオオオオ!!!!!!」

 

 銀河眼が気合を入れなおすように咆哮を上げ、ホーンへと突っ込んでいく。

 デュエリストあってのモンスター。モンスターだけでは全力はおろか、半分の力も出せないだろう。

 それでも__銀河眼はホーンへと突っ込んでいった。

 

「消え失せなぁ!!」

「っ!パラディオス、フォトン・ディバイディング!!」

 

 グレズの攻撃にユウキはパラディオスに反撃命令を下す。

 パラディオスが銀河の剣で迫りくるグレズの手を切り裂こうとするが、それは叶わず、パラディオスは握りつぶされてしまう。

 

 この戦闘で初めてモンスターの戦闘破壊が起こった。

 

 それはすなわち、LPが減少する条件だ。体の中から大切な何かが消えていく感覚がユウキを襲った。

 

「がっ……でもっ、パラディオスの効果で一枚ドローっ!」

 

 顔を苦痛で歪めながら、パラディオスの効果を実行する。

 モンスター効果で引いたカードを確認する。その一枚が次の希望になると信じて。

 それを奪うかのように、または傷つけられたプライドを取り戻すためか、グレズがユウキに迫る。

 ヴァイロン二体がそれを食い止めるが、永くは持たないだろう。

 ホーンのほうも、銀河眼とプリズムオーラ、スフィアードの三人で食い止めようとしているがこちらも長くは持たない。

 

「……ユウキさん。役立たずで、ごめんなさい……」

 

 ずっとユウキの背中に捕まっていたファイが口を開く。彼女を見ると、ぽろぽろと涙を流していた。

 

「どうしたの、ファイちゃん?」

「だって、私、ユウキさんを守れてない……役に立ててないから……」

 

 幼くはあるが、この戦いの重要性は理解している。自分の役目が果たせていないことの悔しさでファイは涙を流す。

 ユウキはそれを見て、無理やり笑顔を作って答える。

 

「そうでもないさ。今から協力してもらえる?」

「……え?」

「ファイちゃん、回復ってできる?」

「……ちょ、ちょっとだけ」

「それでいいよ。ちょっとくれない?」

 

 ファイは無言でうなずいて、ぎゅーっと背中からユウキに抱き着いた。

 彼女は溶岩、大地の鼓動をその体に宿すラヴァル。生命に力を与えることができる存在だ。

 ファイの温かさがユウキの精神を落ち着け、次の一手を繰り出す活力となる。

 ユウキの意思に連動したのか、デッキのカードが光り、ドロー可能となる。

 

「俺のターン、ドロー!……よし!!俺は銀河の魔導士(ギャラクシー・ウィザード)を召喚!」

 

 ユウキが召喚した新たなモンスター。白いローブを被ったような無機質な魔法使い。

 

「これはファイちゃんの力で引けた一枚。絶対に無駄にしない!」

 

 『自分の力』

 

 その言葉は、ファイの涙を止めるには十分すぎる言葉だった。

 

「銀河の魔導士の効果!このモンスターのレベルを4つ上げる!これで、レベル8のモンスターが二体!」

『お、俺様をエクシーズ素材にするつもりか!?』

 

 こんな状況で文句を言う銀河眼を無視して、ユウキはエクシーズ召喚の宣言を行う。

 

「俺はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河の魔導士でオーバーレイ!」

 

 デュエリストの指示には逆らえず、銀河眼と銀河の魔導士は黄色の光となって宇宙の渦に吸い込まれ、そして爆発が起こる。

 

「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!現れよ、聖刻神龍―エネアード!!」

 

 金色の鎧をまとった巨大な赤き龍が戦場に降臨する。

 ランク8という高ランクのエクシーズモンスターが放つ威圧はすさまじく、ホーンが思わず動きを止めてしまう。

 

「さらに、フォトン・サンクチュアリを発動し、フォトン・トークンを二体生成!そして、エネアードのモンスター効果!」

 

 残りの手札であるフォトン・サンクチュアリを発動し、フォトン・トークンを生成したのち、ユウキがエネアードの効果発動宣言する。

 オーバーレイユニットを捕食したエネアードは、両手にフォトン・トークンを乗せそのまま握りつぶす。

 

「手札、フィールドの自分モンスターを任意の枚数リリースし、それと同じ数のカードを破壊!対象は、グレズとホーン!」

 

 トークンを握りつぶした手の中から、エネアードは巨大な光球を二つ悪魔へと放つ。

 グレズは完全に調子が戻っておらずそのまま直撃。体が大きく焼ける。一方のホーンは涼しい顔でよけようとするが___

 

「この一撃は必ず届かせる!!リーズ!!」

「わかっています!絶対に、負けないってカームに約束したんだからぁ!!」

 

 プリズムオーラとスフィアードがホーンに襲い掛かる。プリズムオーラはシールドバッシュを全力で放つ。

 

「はぁあああ!!!」

「無駄なあがきをっ!!」

 

 だが、ホーンは突っ込んでくるプリズムオーラの盾を腕で受け流し、直撃を避ける。当然、それを読めないプリズムオーラではない。

 

「リーズ!!!」

「今度も吹き飛ばす!!全力全開のぉ……『tempest』!!!」

 

 プリズムオーラの後ろから、スフィアードが風をまといながらホーンへと突進する。

 プリズムオーラは囮。すべてはこの一撃をぶつけるため。友の悔しさを乗せた、『暴風雨』が悪魔に炸裂する。

 

「がぁああああ!!!!?この、餌がぁあああ!!!」

 

 文字通り、すべてを乗せた一撃だったようでスフィアードに装着されているヴァイロン・スフィアの眼から光が消え、リーズへと戻ってしまい、そのまま地面に落ちていく。

 

 ___だが、十分に時間はできた。

 ホーンにも神龍の破壊が衝突し、リーズの一撃と加えて大ダメージが入る。

 

「「今こそ裁きを。消え失せろ、インヴェルズよ!!!」」

 

 上空でエネルギーをためていたアルファとオメガは同時に審判を下すと、今までの中で最も大きな裁きの光を、絶対捕食者へと振りだす。

 

「「絶対捕食者を、最上級インヴェルズをなめるなぁ!餌どもがぁああ!!!!」」

 

 インヴェルズの邪念も負けてはいなかった。

 自身たちが持つ最大の瘴気、闇と絶望、今まで食らってきた命を消費し、裁きの光を別方向へと弾き飛ばしたのだ。

 

「なんだと!!?」

 

 今まで感情の起伏がなかったオメガもこれには動揺を隠せず、グレズは勝利の雄叫びを上げる。

 

「どうだ!!お前たちの裁きなんぞ、俺たちインヴェルズには下されやしないんだよぉ!!終わるのは、お前らのほうなんだよぉおおおおお!!!!」

 

 その雄叫びは戦場に響き渡り、ヴァイロンですら諦めようとしていた。

 

 

 

 そんな中でも___いや、そんな時だから、希望の光は輝くのだ。

 

 

 

「それはどうかな!?インヴェルズ!!!」

 

「終わらせます!私たちが!!」

 

「なにぃ!!?」

 

 ___裁きの光は完全に消えてはいなかった。

 オメガの光は、はじかれた後プリズムオーラが剣で吸収していた。

 宝石の体を持つ彼らは、体内に取り込む光の屈折率を調整できる者がいる。水晶の体を持つクリスタにとって、光を開放・吸収することは昔からやっていたことだった。

 しかも、今はヴァイロンと合体している。同じ力なら裁きの光を受け止めきれるとプリズムオーラは信じて、賭けに出た。

 結果は成功。彼の持つ剣に裁きの光が宿っている。

 

 もう一つのオメガの光は大地に落ち、消えてしまったかのように思えた。

 だが、ここに大地の鼓動を聞き、そして操れる者が一人。

 自分を役立たずと言っていたラヴァルらしからぬラヴァル。ファイだ。

 ファイは大地に手を当て、外された裁きの光を溶岩と共に放出しようとしている。

 

 大地から聖なる光が漏れる。

 その、神々が生み出す美しい光景を創り出したのが力弱き小さなラヴァルだと、誰が信じられるだろうか。

 その雄姿を見たユウキは、心からの称賛をこぼす。

 

「ファイちゃん。君はすごいよ」

「こ、この、餌のくせにぃいいいいい!!!!!」

「くそがぁあああああ!!!!!」

 

 ___絶対捕食者にようやく裁きの時が訪れる。

 プリズムオーラは大地を蹴って、グレズへと駆け出し一閃する。

 ファイは自分の持てるすべての力を使った、光を放つ溶岩の蛇でホーンを飲み込む。

 裁きの光を受けた二体の悪魔の体が解け始める。

 

「が、があああああ……!こんな、こんなところでぇ、シヌナドト、イナエリア(ありえない)!!!!!」

ダレズチミモチタエマオ、ラナノヌシ(しぬのなら、おまえたちもみちずれだ)!!!!!!」

 

 悪魔たちは最期の悪あがきを始める。体が解けようと、その魂が消えようと、絶対捕食者のプライドがさせた行動だった。

 グレズはプリズムオーラから戻ってしまったクリスタとリーズに。ホーンは疲労したファイとユウキに、とびかかる。

 その巨体から繰り出されるプレスは、食らえば即死。そして、疲労している四人にとっては回避不能の悪あがきだった。

 

「「ェエエエエエネシ(死ねえええええぇ)!!!!!」」

「くっ……!」

 

 なんとか気絶しているリーズをかけて回避しようとするクリスタだが、すでに回避不可能。ただの人間であるユウキならなおさらだった。

 目をつぶり、死を覚悟した四人。その命を守るために、大天使は悪魔へと突っ込む。

 グレズをオメガが、ホーンをアルファが食い止める。

 

「「ンロイァヴ(ヴァイロン)!!!!!!!!」」

 

 鋭い爪が白い機体にめり込んでいく。まだ悪魔としての力は健在で、ヴァイロンの体に瘴気が流れ込み、バチバチと機体が悲鳴を上げていた。

 

「ヴァイロン!」

「気にするな!我々は、インヴェルズのために作られた機械。奴らを滅ぼせるのなら、それでよい!」

「高屋ユウキよ。すまぬな。君の願いを叶えることはできないようだ」

「……」

 

 オメガの言葉でユウキは察してしまう。オメガとアルファは自爆するつもりだと。

 そうなれば、大天使はすべて消える。ただのヴァイロンには異世界への転移など不可能だろう。

 その事実にユウキは顔を俯けて__そして、すぐに顔を上げて敬意をもって答えた。

 

「自分で見つけるさ。今までお疲れさま、世界の観測者 機械の天使 ヴァイロン」

 

 

 その時、ユウキにはオメガが笑ったように見えた。

 

 

「地獄まで、我らが案内してやろう!感謝しながら死ぬがよい、インヴェルズ!!」

「連合軍の諸君よ!この戦い、我々の勝利だ!これからの世界、お前たちが創るのだ!!!」

 

 大天使の二体は最後の力を振り絞り、インヴェルズを抱えて空へ飛び立つ。

 そして全身から光を放ち__

 

 ___大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 オメガとアルファ、グレズとホーンが消えて30分もしない頃、下級インヴェルズはすべての統率を失い、連合軍によって殲滅された。

 ユウキたちはインヴェルズの巣だった場所から動いておらず、地面に座りっぱなしだった。そんなユウキたちに儀式体を解いたリチュアの三人が合流した。

 彼女たち三人も疲労の色が見え、壮絶な戦いを繰り広げたことを物語っていた。

 

「ちゃんと、生きてたのね。あんたたち」

「エリアル……それに、アバンスにエミリア」

「まさか最上級インヴェルズに挑んで無事とはな。流石ヴァイロンに目をつけられたことはある」

「本当だよ。ただの人間なのに、すごいよ君」

「本当にだよ・・・・・・ノエリアさんは?」

「重症だけど、生きてる」

「そっか。よかったね、エリアル」

 

 ユウキの言葉にエリアルはそっぽを向く。それを見て、ユウキにも笑みが浮かぶ。

 

「ユ~キ~!リーズさ~ん~!大丈夫ですか~!!?」

 

 上空からウィンダが駆けつける。彼女もガルドも傷だらけで戦い抜いたことが一目でわかった。

 

「俺は大丈夫。リーズはまだ寝てる。ついでにファイちゃんも」

「そっか。クリスタさんもお疲れ様です」

「ああ、お疲れ。今まで以上に精神を消耗した戦いだったよ」

「ちゃんと、全員で生きてまた会えましたね」

 

 分かれる前に必ず言っていた約束。

 

 『生きてまた』

 

 それは本当なら不可能だったのかもしれない。

 だが、それは今叶えられている。こうして生きて、再び会えたことが奇跡だった。

 そのことにユウキが安堵している___その時だった。

 

 リチュアの魔法陣が地面に展開され、そこから一人の男性が出現する。

 黒い髪をした鋭い目の男性はユウキを見て近づいてきた。

 

「高屋 ユウキだな」

 

 男性はユウキの前に立ち、彼の見ながら確認した。

 当然ユウキは彼の名前を知っているが、なぜここに現れたのかがわからなかった。

 

「リチュア・ヴァニティ……さん?」

 

 リチュア・ヴァニティ。リチュアの副官で、今回も後方でサポートに徹していた彼がなぜここにいるのか。

 

 その答えに到達してしまったウィンダは驚愕と絶望で顔をゆがませ、叫ぶ。

 

「ユウキ逃げて!!!」

「え?」

「『魔睡(スリープ)』」

 

 『魔睡』の魔術をかけられたユウキの意識は暗闇に一瞬でおち、地面に倒れてしまう。

 眠った彼を担いだヴァニティはアバンスたちに近づき、声をかける。

 

「これでいいんだな、アバンス」

「はい。これで義母さんの命令も達成です」

 

 淡々と話す二人。残りのエミリアとエリアルは何も言わない。

 すぐさまリチュアと対峙するクリスタとウィンダ。

 

「ユウキをどうする気だ!?」

「立ち上がるな、ジェムナイトよ。お前もここで死ぬわけにはいかないだろう?」

 

 怒るクリスタに対し、ヴァニティは即座に魔法陣を展開。アバンスも儀水刀を抜き戦闘態勢に入る。

 いくらクリスタでも、ここまで疲労した状態で二人相手に戦える状態ではない。同じ理由でウィンダも何もできない。

 

「それではな。わずかな同盟の間だったが、私たちリチュアが生き残る手助けをしてくれてありがとう。『転移(シフト)』」

 

 ヴァニティが魔術を唱えると、リチュア四人とユウキの姿が消える。

 残されたウィンダ達は、悪魔の笑い声がその場に響き渡ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 インヴェルズ消滅。

 その事実を知らないまま、彼は湿地帯奥地をさまよっていた。

 自分は下級の悪魔だ。固有名もなければ、学ぶ知力もない。

 ただ、自分が殺される可能性が高いこと。そして、死にたくないことだけはわかった。

 自分はあの時、上級インヴェルズに食われ死ぬ運命だった。

 それを変えたのは、敵対する風使い。

 感謝するわけではない。助かったことは事実。それだけだ。

 小さな体で必死に歩き続ける。何かあてがあるわけではないのに、止まるわけにはいかなかった。

 

 そんな彼の前に、流星が一つ落ちた。それは、ヴァイロン・オメガの輪だった。

 何かに惹かれるように、無意識に彼はその手を伸ばし輪に触れる。

 

 

 その瞬間、彼の全てが変わった。

 

 

 姿、力、そして、生命としての在り方そのもの。文字通り『全て』が変わったのだ。

 

「私は、いったい……?」

 

 自分の姿を見る。今までの小さな体ではなく、金色の外殻。黒い胴体。二つの羽に腰には一本のサーベル。

 インヴェルズでありながら、彼は捕食の欲がなくなり、常識と心を獲得した。

 死ぬはずだった命。それが奇妙な運命によって、生命の輪廻から外れた存在と化したのだ。

 仇討ち、などという愚かな行いは彼には思いつかなかった。彼はまず、世界を知ろうとした。

 

「___ありがとう」

 

 運命を変えた風使いの少女、そして、星の外から力に感謝し、その星の悪魔は姿を消した。




どうでもいい(かもしれない)補足解説
・リチュアとガスタの魔術名について
ガスタは風の名前を英語にしてます。BFで有名ですね。ゲイルとか
リチュアのほうは、遊戯王全く関係ないところからとってます。
冒険企画局様から出版されている 魔導書大戦RPG マギカロギアの魔法からとっています。
これに気になった方は、ぜひ調べてみてください。とても面白いTRPGとなっています。
ニコニコ動画に遊戯王キャラがマギカロギアをやっている動画もありますので、よければぜひ!個人的には『サラダロギア』がおすすめです。

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