端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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第六話ー後編 理想郷を壊すは銀河

 エリアルが地上に出た時、すでに絶望が連合軍を支配しているのが分かった。

 空には禍々しく輝く絶対管理者の姿があり、連合軍の切り札とも言える『結束』の戦士たちはほとんどが姿を消していた。

 アメジスはすでにヴァニティとアイオーラに戻っており、エクシーズの戦士はパールしか姿が見えない。

 そんな中、地面に突っ伏しながら体を震わせているアバンスの姿がエリアルの瞳に映る。

 

「何があったの」

 

 状況を確認するため、簡易な言葉でアバンスに問いかける。

 だが、アバンスから返ってくる言葉はその答えではなかった。

 

「守れなかった……何もできなかった……」

 

 自分に対する怒り、悲しみ、後悔、そして、絶望が混ざった震えた声だった。

 

「だったら? そんなことを伝えるために私を呼んだの? アホらし」

「___エリアルぅ!!!!」

 

 どうして自分の悲しみを分かってくれないのか。そのことを無視するのか。

 アバンスは怒りで顔を上げ、エリアルにつかみかかる。

 

「エミリアが死んだんだぞ!!!?」

「そう。それで、アバンスはうじうじ泣いていると?」

「泣いたらいけないか!!?」

「いけないわよ。エミリアの仇をとるまでは」

 

 アバンスはそこで我に返った。頭から血が引いていき、少し落ち着く。

 

「手を放してほしいんだけど」

「ああ……すまない」

 

 エリアルを手ばなし、アバンスはやるべきことを伝える。

 

「エミリアがディシグマに捕食された」

「魂と肉体、どっちも?」

「ああ。魂が取り込まれた途端に、儀式体のほうも止まっちまった」

 

 ガストクラーケの姿は見えず、ディシグマの体にその残骸が現れていた。

 ガストクラーケ以外にも、フェニクス、メロウガイスト、イグニス、ドラグーン、そしてフェニクスのから分離しようとしたが逃げきれなかったファルコの残骸が見える。

 

「わかった。で、取り戻すんでしょ?」

「……当たり前だ!!!!」

 

 アバンスは腰から儀水刀を再び抜刀し、エリアルも儀水鏡の魔杖を構える。

 二人は儀式を発動。リヴァイアニマとマインドオーガスの姿へ変わる。リヴァイアニマは翼を広げ、ディシグマに突撃する。

 

「エミリアを……カエセェ!!!!」

「アバンス、ダメだ!!」

 

 太刀を振り上げディシグマを一閃しようとする寸前に、交戦しているパールが彼を制止する。

 ディシグマへと太刀を振り下ろそうとする目の前に、エミリアの幻影が現れる。

 

「エミリア!?」

「悪意を確認。消去する」

「下がれ、アバンス!!」

 

 ディシグマのオーバーレイユニットが消える前に、パールが体当たりでディシグマをよろけさせる。その間にリヴァイアニマは間合いを取る。

 

「パール!どういうことだ!?」

「あいつは吸収した者を自由自在に使っている。盾にしたり、新たなるエネルギーにしたり……吸収させた人々を助けなければ攻撃すらできない!!」

「くっ……」

「古の悪魔の力を使うもの。生かしてはおけない」

 

 今度はオーバーレイユニットを使うことなく、ディシグマは水の魔術を二人に放つ。

 俺はリチュアが使うものと全く同じ。詳しく言うなら、エミリアと全く同じものだった。その光景にリヴァイアニマの動きが鈍り、回避行動が追い付かない。

 

「『魔弾(マジックミサイル)』!!!アバンスしっかりしなさい!!」

 

 ディシグマの攻撃はマインドオーガスの魔術が打ち消す。『飛行(フライ)』の魔術で空まで飛んできたのだ。

 

「ぼさっとしない!前を向く!!」

「っ……わかってる!!」

 

 太刀を構えなおし、ディシグマと向かい合うリヴァイアニマ。マインドオーガスは初めて対峙するディシグマを観察し、パールは彼らを守護するかのように二人の前に立つ。

 

「エリアル、何かできそうか?」

「『解放(リベレーション)』の呪文でどうにか……でも、リチュアを取り込んでるなら、魔術が効くかどうか分からない」

「二人は私のサポートを頼めるか?どうやらディシグマは私に吸収能力を使えないみたいだ」

「パールにだけ……使わない?」

 

 頭を回転させ、マインドオーガスは突破口を見つけ出そうとする。だが、ディシグマはそれを待ってくれない。

 

「消去する」

「炎……今度はラヴァルか!」

 

 ディシグマの体から炎が発生し、灼熱の鎖が三人を襲う。その速度はまるで風のようだ。

 

「二人とも私の後ろに!!」

「これくらいっ!」

「『魔盾(シールド)』!!!」

 

 パールの指示を無視し、リヴァイアニマは翼で、マインドオーガスは魔術の盾を発声させて防ごうとする。

 それが、慢心という物と知らず。

 

「がぁあああああ!!!!!?」

「なっ……!?」

 

 守りは一瞬で砕け散り、リヴァイアニマは大きなダメージを食らってしまう。強力な魔術でも傷つかないリヴァイアニマの体にすら巨大な火傷が残る。

 そして、リヴァイアニマよりも肉体強度が低いマインドオーガスは当然___

 

「きゃああああああああ!!!!!!!!」

 

 直撃したマインドオーガスは灼熱地獄に襲われ、そのまま落下。落下し終わると、その姿がエリアルに戻ってしまう。

 

「リチュア、消去」

「「させるか!!!」」

 

 地上に落下したエリアルにとどめを刺そうとするディシグマを止めようとパールとリヴァイアニマが攻撃を仕掛けようとするが、エミリアたちの幻影がそれを拒む。

 ディシグマが放つ黒と白が混ざった光線。本来のディシグマの攻撃をエリアルはよけられない。

 

「っ……『光翼(ハロー)』!!!」

 

 自らの魂を削り、相手の攻撃を文字通り『消す』魔術『光翼(ハロー)』。

 苦しみながら魔術を放つエリアルだったが、先ほどと同じように光線によって魔術が打ち砕かれる。

 

「エリアル!!!!!!」

 

 アバンスの声が遠く感じる。エリアルの目の前に迫りくるのは『死』。

 前の大戦でウィンダが感じたものと同じ。

 あの時はエリアルがウィンダを救ったが、今彼女を救える者をエリアル自身知らない。

 ウィンダは後方にいる。前線の連合軍は少ない。

 

(ここで、終わり?お義母さんの娘にもなれず、たった独りで、死ぬの?)

 

 今まで殺してきた命も、最後にこんなことを考えていたのだろうか?

 

「やだ……死にたくないよ……。まだ、まだ、なにも成し遂げてないのに!」

 

 

 

 

「まだ、何もできてないのに___」

 

 

 

 

 少女が嘆こうと、『死』は彼女を迎えに来る。

 こうして、一人の少女の運命は幕を下ろす___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___ことを、彼が許すわけがないのだ。

 

「フォトぉ!!!!!!!」

 

 エリアルと光線の間に突然一つの影が入り込んだ。それは青い体をした電球のような形をしている謎の生物。彼女はそれを見たことがある。

 そう、あの青年が召喚していた召喚獣の一体。

 

「クリフォトンの効果!LPを2000払い手札のこのカードを捨てることで、受けるダメージを0にする!!!」

「フォトぉ!!!!!」

 

 クリフォトンから光の壁が発生し、光線から、『死』からエリアルを守る。

 彼女の後ろから三つの足音が聞こえ、そちらを振り向くと___

 

「はぁ……はぁ……間に合った!!」

「エリアル、大丈夫!!?」

「……ファルコ、お前のおかげで、間に合ったよ」

 

 ウィンダ、カムイがユウキに肩を貸しながらもエリアルの後ろに立っていた。

 ユウキの足元の鎖は無理やり切られており、ユウキはかなりフラフラになっている。同様にウィンダとカムイも衣服がボロボロになっており、激しい戦いをしてきたことがわかる。

 自分の怪我を無視してウィンダはすぐさまエリアルに駆け寄り、治癒魔術を施す。

 

「ガスタと異世界の者を確認。異世界の者に悪意を確認。消去対象に加える」

「そんなことはどうでもいい」

 

 ディシグマの宣告にユウキが答える。___その声は酷く冷たかった。

 

「ディシグマ、お前を完全に破壊する。俺のターン、ドロー!」

 

 奪われていたはずのデッキからカードを引き、新たなモンスターを召喚する。

 

「フォトン・サークラーを召喚!」

 

 ユウキが呼んだのはカカシのような姿をした魔術師だった。体はフォトンモンスターを示すように、青白く光っている箇所がある。

 

「さらに、墓地のクリフォトンの効果!手札のフォトンモンスター、フォトン・クラッシャーを捨てて、このカードを回収!そして、装備魔法 銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)を発動!クラッシャーを復活させる!!」

 

 今度は魔法カードの効果でフォトン・クラッシャーを呼び出す。これで、レベル4のモンスターが二体そろった。

 

「俺はサークラーとクラッシャーでオーバーレイ!エクシーズ召喚!!現れよ、輝光帝 ギャラクシオン!!」

「ハァっ!!!」

 

 ユウキは新たなエクシーズモンスターを召喚。

 パラディオスと似た姿を持つ銀河の帝。その力は、光の竜を導くもの。

 

「ギャラクシオンの効果!オーバーレイユニットを二つ使い、デッキから銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)を特殊召喚!」

 

 ユウキがデッキの中で光る一枚のカードを引き、光の竜を降臨させる。

 

「闇に輝く銀河よ。希望の光となりて我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!!現れよ、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!!!」

 

 ユウキが投げた赤い十字架に光が集まり、ここに希望の光の化身が現れる。

 

「ギャオオオ!!!!!!」

銀河眼(ギャラクシーアイズ)……」

 

 エリアルとディシグマの間に銀河眼は降臨し、エリアルはその背中を見る。

 ___かつて、対峙した竜の背中は頼もしく見えた。

 

「光の竜。お前も削除対象だ」

『ケッ。さくっと吹っ飛ばすぞ、ユウキ!』

「当り前だ!!ウィンダとカムイはエリアルと負傷者を頼む」

 

 珍しく怒りの表情を隠すことなくディシグマに向かい合うユウキと銀河眼。

 ディシグマに攻撃を仕掛けようとするユウキに、リヴァイアニマが必死に叫ぶ。

 

「ユウキ!!こいつに攻撃したら、エミリアが……!!」

「それだけじゃない!ディシグマの中には多くの人が吸収されている!ここで攻撃したら、彼らがどうなるか分からない!!」

銀河眼(ギャラクシーアイズ)!!ヴァイロン・ディシグマに攻撃!!」

「ユウキ!?」

 

 その言葉が聞こえていないのか。ユウキは銀河眼に攻撃命令をする。エリアルとウィンダはそれが信じられなかった。

 ディシグマは先ほどとは違い、吸収された人々全員の幻影を銀河眼の前に展開する。

 その中には、ムスト、ファルコ、ルノが苦しそうに立っていた。その最悪の光景に、ユウキの怒りがさらに燃え上がる。

 

銀河眼(ギャラクシーアイズ)!!!」

『分かってらぁ!!!』

 

 そのまま銀河眼(ギャラクシーアイズ)は口に光のエネルギーを収束させ、ディシグマへと放出する。

 

「破滅のフォトン・ストリーム!!!」

 

 銀河眼の放った一撃はまっすぐディシグマと出現させている幻影の壁に向かい、直撃______する寸前でユウキが銀河眼(ギャラクシーアイズ)の効果を発動させる。

 

銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)の効果発動!!銀河眼と戦闘を行うモンスターをバトルフェイズ終了まで除外し、その後フィールドに戻す!」

 

 銀河眼とその攻撃、そしてディシグマと出現させていた幻影が消え、再び出現する。

 その効果はエリアルも受けたことがある。一時的に別の次元に飛ばす能力だが、敵を倒すことはできない。

 ディシグマもそれを分かっているようで、嘲笑うかのようにユウキに話す。

 

「無意味、無意味。そんなことをして何の意味がある。お前も捕食する」

「マズい!逃げろ、ユウキ!!!」

 

 パールが叫ぶがもう遅い。ディシグマはオーバレイユニットを使い___

 

 

 

 

 

 ____ディシグマの周囲を飛び回っていたオーバーレイユニットが一つもないことに、ユウキ以外がここで気づく。

 

「何?」

「教えてやるよ、ディシグマ。銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)の異名を」

 

 戻ってきた銀河眼(ギャラクシーアイズ)の体は先ほどよりも白く輝く。

 まとっている力も除外される前より強くなっており、ディシグマにも負けないほどの圧力がある。

 

銀河眼(ギャラクシーアイズ)は、『エクシーズモンスターキラー』って言われてたのさ。特にディシグマ。お前には天敵みたいな効果なんだよ」

 

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)の除外する効果には続きがある。

 『除外したモンスターがエクシーズモンスターでオーバーレイユニットを墓地に送った場合、一つにつき攻撃力が500上昇する』というもの。

 そして、ユウキが銀河眼(ギャラクシーアイズ)を天敵といった理由。

 

「そして、ディシグマ。お前を守る盾はもうないぞ」

「が_が_が_!?@#%$&!!!???」

 

 言葉を発するディシグマだが、エラーが発生したように音を発し始めた。

 壊れた機械天使は許容を超え、破裂した水風船のようにその体から無数の光が飛び出していくのだ。

 

「これは、取り込まれた魂たちか!!」

 

 一度除外されたことにより、取り込んでいた魂が解放される。すなわち、無限のエネルギー供給と身代わりの盾ができなくなったのだ。

 このタイミングでユウキが膝をつく。

 

「ユウキおにーちゃん!」

「はは……怒っても、気力は持たないか。ごめんカムイ、ちょっと支えてもらっていいか」

 

 牢獄に囚われていた影響で十分に体力がない。銀河眼(ギャラクシーアイズ)を維持するだけで精一杯だった。

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)を消さないように、必死になって意識を保つ。

 

「無理ないよ……。体感時間が何倍にもなる魔術がかけられてた牢獄だし」

「悪趣味だよな……。悪いけど、パールさんとアバンス、後は頼む」

「ああ。任せろ!!」

「エミリアの仇を、取らせてもらうぞ!!」

 

 幻影がなくなった以上、彼らが攻撃をためらう理由はない。パールとリヴァイアニマが攻撃を仕掛け始める。

 

「うぉおおおおおおおお!!!!!!」

 

 パールの眼が緑から赤色に変わり、スイッチが入る。

 誰かを救う、誰かを守る。その優しき心こそジェムナイトの力を引き出すきっかけとなる。

 その連撃は今まで以上に早く、そして重い。

 その姿はまるで___『鬼神』。

 

「魔力補強完了____切り刻む!!!」

 

 儀水刀に魔力を充填させ、リヴァイアニマは高速でディシグマの周囲を飛び回る。

 受けた傷はまだ癒えていない。痛みも当然ある。

 

 

 

 だが、それでも討たなくてはいけない敵が目の前にいる。

 目の前で失った笑顔のためにも。

 

 

 

 高速で何度も何度も、ディシグマを切り裂いていく。消えていったリチュアのためにも、負けるわけにはいかない。

 想いの強さならパールにも負けていなかった。

 

「ガがga____管理、かんり、カンリ、リンカ___消去しょうきょョキウョシ」

 

 既にディシグマはまともな意識はなかった。話す言葉もめちゃくちゃだ。

 だが、ゆがんだ行動基盤は健在であり、攻撃を仕掛けるパールとリヴァイアニマ以外の生命体にも黒白の光線を放つ。

 だが、それは銀河眼とギャラクシオンがすべて打ち消していく。

 

『ユウキの意識が持たねぇ。さっさとその機械天使をぶっ壊せ!!』

「アバンス、パールさん!これを!!『受け継がれる力』!」

 

 ユウキは手札から二枚の同名カードを発動する。その名も『受け継がれる力』

 

「銀河眼とギャラクシオンをリリースして、その力をパールさんとアバンスに与える!!」

 

 二体のモンスターは光の粒子となって、パールとリヴァイアニマに溶け込んでいく。

 そしてその力が宿った二人の体からは銀河の光があふれていた。

 

「これで___」

「___終わらせる!!!」

 

「ゼッタイなる、カンリを。ゼッタイなる、セカイヲ。ヘイワナ、理想郷ヲ」

 

 ディシグマの虚ろな言葉に、パールとアバンスが反論する。

 

「お前が創ろうとしてるのは理想郷などではない!!」

「お前が語っているのは、ただのディストピアだ!!!」

 

 決着の時はきた。

 パールの拳がディシグマの体を貫き、リヴァイアニマがその体を二つに切断する。

 二人が地上に降りると、ディシグマは上空で大爆発を起こす。

 その時、絶対管理者は何を思ったのか。正気に戻れたのか。

 ___その答えは誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 長い大戦がようやく終わりを告げる。消えてしまった人々はあまりに多く、どの部族も悲しみが広がっていた。

 インヴェルズの大戦。ディシグマの暴走。

 この大戦で傷つかなかったものは誰もいない。その中で連合軍は、戦いが終わった余韻に酔っていた。

 本来なら、本拠地にしているリチュアの本部に戻るべきなのだが、長すぎる戦いが終わり誰も動く気配がない。

 ディシグマを倒したアバンスも同じだ。

 降ってきた雨を気にできず、そのまま戦場だった場所に突っ立っている。

 思い出すのは、赤髪の幼馴染。

 

___こら、アバンス!お母さんの招集に遅れないの!!

 

___アバンス、儀式の勉強教えて? ね?

 

___アバンス、いつも支えてくれてありがと

 

___ねえ、アバンス。いつか、平和な世界になったら一緒に___

 

「旅、できないじゃないか」

 

 かつてかわした約束。自分たちが知る世界の外側を旅する。

 それが終わったら、異世界を。

 

 

 一緒に。

 

 

「もう、約束、守れないじゃないか……」

 

 

 さっきまで隣にいたはずなのに。自分に笑いかけてくれたはずなのに。

 その少女は、エミリアは、もういない。

 

 それを実感してしまったアバンスの眼からは、涙がこぼれ落ちていた。

 今まで、旧友を殺しても、侵略をしようとも、特に流されなかった涙が、今になってあふれてくる。

 今でも嫌いなノエリアの息子になってまでリチュアにいたい理由。

 

「ああ。そっか。俺は___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、お前のそばにいたかったんだ。エミリア」

 

 

 もう、涙が止まらなかった。声を押し殺すこともできなかった。

 

 もう、我慢できなかった。

 

「ううっ……うわあああああ!!!!!」

 

 ただ、泣いた。母が死んだ時以来だった。こぼれる涙を、悲しみを、こらえることなく、アバンスは吐き出す。

 

 周囲にいるエリアルやウィンダのことなど、もはやどうでもよかった。

 隣にいてほしかった。

 ただ、それだけだったのに。

 もう、会えないのか___

 

 

 

 本来の歴史ならば、この後少年は少女を必死になって取り戻そうとし悪魔に乗り移られてしまう。

 だが、ここはIFの世界。

 ならば、それ以外の可能性があるということである。

 

 

 

「リチュア・アバンス」

 

 絶叫するアバンスに、異世界の青年が声をかける。

 

「……なんだ、ユウキ……」

 

 嗚咽をこらえ、アバンスはユウキと向きあう。

 ユウキはフラフラだが、しっかりとした目でアバンスの顔を見る。

 

「リチュア・アバンス。お前にとって、リチュア・エミリアとはどんな存在だ」

「何を、今さら……。決まっている」

 

 

 

 

 

 

「幼馴染で、家族で、ずっと横にいてほしかった人だ」

 

 

 

 

 

 

「___わかった。なら、エリアルにももっと優しくしてやってくれ」

「ユウキ、何を……?」

 

 ユウキが一枚のカードを構えると、脳内に銀河眼の声が響く。

 

『いいのか? それは超強力カードだぞ?』

「わかってる」

『いや、わかってねぇな。魔法カードは再使用までに魔力の再補給がいる。だが、それはおそらく生きているうちはもう二度と使えないくらいの補給時間がいる』

「だろうな」

『それに、たった一人救ったところで、他の奴らは救えねぇ。奴らの期待を裏切るかもしれねぇぞ』

 

「だったらどうした」

『……』

「俺は救世主じゃない。普通の人間だ。___だからこそ、救いたいと思ったものを救うんだよ」

 

 その言葉の後、銀河眼の言葉は聞こえなくなった。

 そしてユウキは、世界の戦いのためでなく、自分の欲のために、一枚のカードを切る。

 

「魔法カード 死者蘇生!!!」

 

 それは緑色のアンクが描かれた魔法カード。決闘者ならほとんどが知っている、超強力な魔法カード。

 原作漫画 遊☆戯☆王 でも最初と最後のキーカードとなったほどに。

 死者蘇生のカードは、今までのカードの中でも一番強力な光を放っている。

 

「このカードは、墓地にあるモンスターを特殊召喚できる!俺が対象に取るのは、リチュア・エミリアだ!!」

 

 ユウキが宣言すると、カードから放たれる光が徐々に一つの人型へと変わっていき______光が消えると、そこにはエミリアが立っていた。

 

「あれ……私……」

 

 瞳を開けたエミリアは周囲と自分を見る。

 肉体と魂は分離しておらず、今まで負った傷はなかったかのように消えている。

 

「エミ、リア」

「アバンス……? どうしたの、そんな顔して__」

「エミリア!!!!」

 

 フラフラと立ち上がったアバンスは人目を気にすることなく、エミリアを抱きしめた。

 当のエミリアは困惑と恥ずかしさで顔を赤くして、あたふたしている。

 

「あ、アバンス……」

「よかった……本当に、よかった……」

 

 体を震わせながら、アバンスは強くエミリアを抱きしめる。

 強く、強く、もう離さないというように。

 

「アバンス……。うん、私はここにいるよ……」

 

 エミリアもアバンスを抱きしめ返す。

 

 その姿をユウキたちは見守り

 

 先ほど出てきた青空もまた、二人を見守っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「大戦は終わったようだな。ふぅ」

 

 戦場の少し外れの場所で、星の悪魔は安堵の息を漏らす。

 少し前のこと。ディシグマの出現を重く見た彼は、なんとかして異世界の青年を脱出させようとした。

 リチュアの監視を気絶させそこまでの転移魔術を作ったのはいいが、誰かにやってもらわなくてはいけない。

 自分が出ていけばインヴェルズだと誤解されかねないし、何より観測者として外部にあまり干渉するわけにはいかない。

 どうしようかと悩んでいるときだった。地面に一つの防具が落ちていることに気づく。

 

「これは……ガスタの契約獣のものか。」

「ひぐっ……ひぐっ……」

「おっと、隠れなくては」

 

 少年の泣き声が聞こえ、とっさに姿を隠す悪魔。様子を疑うと、一人の少年が泣きじゃくっていた。

 

(あれはガスタの子か……)

「ファルコ……ぐすっ」

(ファルコ……これをつけていた契約獣の名前、なのかもしれない)

 

 そのとき、彼にアイデアがひらめいた。

 魔術で防具を宙に浮かせ、少年 カムイの元に近づける。

 ふとカムイが顔を上げると、そこにはファルコの防具が浮いていた。

 

「ファルコ……?」

(ごめんよ少年。君の心を利用するようで、申し訳ない)

 

 悪魔は浮かせた魔術を、自身がつくったリチュアへ侵入する魔法陣へと誘導する。

 

「ま、待ってよ、ファルコ!!」

 

 悪魔の思い通り、カムイは防具を追いかけて奥地に入っていく。

 ふう、と息をついたところで、敵意を向けられていることに気づいた。

 

「あなた、何者ですか」

「あ、怪しい物では!……って、君はあの時の」

 

 悪魔の後ろに立っていたのは、緑の髪の少女。ウィンダだ。結果として彼は彼女に命を救われた、恩人である。

 

「……? どこかでお会いしましたっけ?」

「いや、君はわからないだろう。だが、言っておかなくてはいけない。ありがとう」

「は、はぁ」

「話を戻そう。私は君たちの味方でも敵でもない。ただの観測者だよ」

「観測者……ですか」

 

 敵意がないことを悟ったのか、ウィンダは杖を下ろし警戒を解く。

 そして、彼女に自分がやろうとしていたことを説明する。

 

「ということだ。異世界の彼を脱出させてくれ。そうでないと、より犠牲が出てしまう」

「……少し信じられないけど、分かりました。カムイも行っちゃったんですね?」

「ああ。申し訳ないが、彼の心を利用させてもらった……」

「わかりました。ユウキを助けたいのは私もですし。ありがとうございます!ええっと……」

「私に名前はないよ。ただの観測者だからね」

「じゃあ、ローチさんで」

「ローチ……今度からそう名乗らせてもらおうか。では、さらばだ」

 

 役目は果たした。星の悪魔 インヴェルズ・ローチはウィンダの前から姿を消す。

 ウィンダもローチに教えてもらった道を走る。

 

 こうしてユウキの脱獄は成功し、大戦は一度幕を下ろす。

 名を与えられた星の悪魔 ローチは、平和を願いながら姿を消した。

 その顔に、優しい笑みを浮かべながら。




・ディシグマの能力について
劇中連合軍に対して無双していたディシグマですが、うちのディシグマが持っている能力を解説します。

① 負の感情を持つ者を吸収(捕食)する能力
これは公式設定です。ディシグマは負の感情、怒り、憎しみ、悲しみなどを持つ者を自身の能力で取り込むことができます。
うちでは恐怖や敵意も負の感情として扱い、唯一純粋な『守護の心』を持っているジェムナイトたちは被害が少ないようにしてます。
能力発動時の金色の糸は完全に妄想ですので、実際どうやって取り込むのかはわかりません。
なので、対象にも周囲にも恐怖を与えるような描写にしました。
二回目に能力が上がっていたのは、②の能力由来です。

② 取り込んだ者と同じ属性を持つ者に対しての特攻付与
これがエリアルとアバンスが大ダメージを受けた理由です。由来は、ディシグマのモンスター効果から。
ディシグマが明確に取り込んだと描写されて言うのは、フェニクス、メロウガイスト、イグニス、ファルコ、ガストクラーケの六体。うちではさらに大勢のガスタ、リチュア、ラヴァルを取り込んでいます。
つまり、ディシグマは水、風、炎の三属性を取り込んでおり、水属性であるリチュアの二人には大ダメージが。取り込まれていない地属性のパールには特攻は入らなかったのです。
パールはそのことに気づいており、自分の後ろに行くように指示したのです。
まあ、無視されてましたが……。
あと、『取り込んでいる』者限定なので、ディシグマと同じ光属性の銀河眼には特攻は付与されません。
銀河眼とギャラクシオンが攻撃を防げていた理由がこれになります。

③ 取り込んだ者を幻影として盾にできる
作中でパールとアバンスが攻撃できなかった最大の理由。これも由来はディシグマのモンスター効果です。
堕ちても観測者であるディシグマは開戦してから観測を開始。彼らに対して最も効果がある戦闘方法を観測、測定しました。
その結果、彼らの『心』を利用して反撃を防ぐ方法をとりました。
彼らにとって大切な人を盾にするという、あまりにも外道すぎる方法を。
幻影を攻撃すれば、中に取り込まれている者たちの魂が傷つくだけでディシグマには攻撃が通らない、という能力です。
実はこの能力、②と連動しているので弱点があります。
それは、取り込まれていない属性の者の攻撃は幻影がそのまま幻となって盾の意味をなさないことです。
つまりパールさん、攻撃できたんですね。
ただ、ディシグマが言葉巧みにだまし、パールさんも心優しいのでうかつに手が出せなかったのです。

④ 小型ヴァイロンの生成
メタ的なことを言うと、ディシグマ単体VS連合軍にしないための能力。
邪念に犯されたディシグマはインヴェルズの特性を一部継いでいる設定にしました。
その一つが、生物が子をなすこと。つまり、生み出す能力。
大量の小型ヴァイロンを生み出し、自分の手足として扱っています。
小型ヴァイロンはそれぞれ、オメガが生み出したヴァイロンの武器をダウンロード、使用できるようになっており、今までの下級ヴァイロンよりも戦闘能力が非常に向上している厄介な敵でした。
見た目のイメージは、今までの下級ヴァイロンの体がディシグマの体のように黒く染まっている感じで考えてます。

⑤ 取り込んだ者たちからのエネルギー採取
定番の能力。取り込んだ者はただの傀儡。ディシグマによって自由ははく奪され、解放されることはない……。

ちなみに、リチュアがディシグマに使用していた『縛魂』は効果がいまひとつだったりします。機械に魂はないですからね。
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