花ノ命短シ恋セヨ乙女   作:あまてら

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2話 笑顔はゼロ円。

 

 

 いっぱい稼いで、こんなとこ早くおさらばしたいわっ!

 

 朝からイライラしながら愛用の"のーと・ぱそこん"を出した唯は、そのぱそこんを使って求人情報をチェックしていた。

 向かい側のソファには、デカイわんちゃんの定春が寝ている。

 そういえば、あのメガネの少年とチャイナ娘はこの店の子たちだったのねぇ。

 一旦操作する手を休め、部屋中を見渡してみた。想像よりも案外普通の暮らしには見える。家計はピンチだろうが……。それにしても起きるのが遅い。唯は時計へ目を向けた。

 昨晩からこの『万事屋』に訳ありで住むことになったのだが、寝る場所について色々議論があったことを振り返る。

 

「わたしの寝室は?」

「私のところは無理アル! 狭くてこれ以上寝れないヨ」

 押入れの前で両手を広げる神楽から眼鏡少年へ視線を投げる。

「僕は実家があるんでね。たまにこの部屋で寝ますけど……」

 眼鏡少年こと新八は、襖を開けて畳の部屋を唯に見せた。

「部屋らしい部屋はこの和室だけなんですが……。銀さんと一緒になります」

「あ~、仕方ないなぁー。俺と一緒の部屋で寝るしかないなぁ」

 一瞬間があり、『却下』と唯が即答する。

「わたし、これでも花の乙女なの。なんでこの人と一緒に寝なきゃならないのよ。足くさいし無理」

「即答かよっ。こっちだってなぁ、ガキには興味ねぇよ」

 ボソっと銀時がボヤき、また何かを言ってしまいそうな勢いだ。──が、新八によって口を押さえられて阻止された。

 危機一髪。唯の表情は凄まじく恐ろしく、瞳孔が開いていた。

「わたし、このソファで寝るわ」

 何なら寝袋を買って来て床で寝る。そう唯は言った。

「後から『銀さんと一緒に寝たいの~』なんて言っても遅いぞ」

「それは絶対マジでない」

「オイ! また即答かコノヤロー!」

 何かと勃発しそうな二人に対し新八は、これから先大丈夫だろうかと少々不安に思った。

 そして最終的に唯はソファで寝るという結果で終わり、静かに初日の朝を迎えたのである。

「どうしよう……」

 なかなか起きてこない二人を起こしたほうが良いのか迷う。すると、玄関から『おはようございまーす』と新八の声が聞こえてきた。

「あ、おはよう新八くん」

「おはようございます。起きてたんですね」

「うん。朝は自然と目が覚めちゃうから」

「二人はまだ起きてきませんか?」

「まだ寝てる。起こしたほうが良かった?」

「あの二人はいつもこうですからね~。次からそうしてくれるとありがたいです」

 他愛無い会話の後、そのまま台所に向かって行く新八に付いて唯も台所に入った。

「さぁて、朝ごはんと……」

「へぇー、新八くんが御飯作ってるの?」

「当番制ですけどね。まぁ、あの二人はなかなか起きないですからほとんど朝は僕担当ですよ、まったく」

 ため息混じりに新八は、お米を炊こうと準備し始める。

「手伝おうか? わたし料理得意なんだ」

「すいません、助かります」

「ううん。一応ここに住むことになったんだし、何かしないとね」

 持っていた紐を使い、慣れた手つきで着物の袖をたすき掛けした唯は、米を研ぐ新八の隣でまな板や包丁を用意した。

「あぁ……、昨日はどうもあの男が失礼しました。悪い人じゃないんですけどね~」

「新八くんも色々大変そうだよね」

「えぇ。いつもはだらしない男ですけど、やるときはやる人だし、決めるときは……こうビシッと決めてくれちゃう人で、きっと唯さんもそのうちわかると思いますよ」

 銀時という男に尊敬を表しているかのような物言いの新八に、唯は信じられなくて不思議に思っていた。

 そのうち、ねえ……。

 朝御飯を二人で作り終えると、まだ寝ている様子の銀時と神楽を起こすことにした。

 新八は押入れを空けて神楽を起こし、次に銀時を起こす。起きた二人は、眠気眼でヨロヨロとしていた。

「ふぁ~あ、眠ぃ」

「ったく二人とも寝すぎですよ!」

 ぼりぼりと腹を掻きながらソファに座る銀時と神楽。良い匂いのする食卓に注目すれば、いつもより朝ご飯が旨そうに見える。

「新八、腕あげたな」

「今日は、唯さんと僕とで作ったんです。唯さん手際が良くて驚きましたよ」

「そ、そう? ありがとう」

 少し照れながら礼を言う唯を横目に、銀時は一口食べてみる。内心美味しいとは思ったのだが、『まぁまぁだな」とあえて皮肉った感想を出した。

「そうかアルか? 私結構好きな味アルヨ。唯、晩御飯もよろしくなっ!」

「コラコラっ、晩御飯は神楽ちゃんが担当でしょ!」

 財布の中をほぼ空にさせてくれた相手ではあるけれども、自分が作った卵焼きを美味しそうに頬張る神楽の姿は、見てて嬉しく思う。

「いいよいいよ、御飯作るの苦じゃないし。神楽ちゃん何が食べたい?」

「卵がけ御飯!」

「え?」

「あー、神楽はこう見えて質素なおかずが好きなんだよ」

 マジか、と唯は、黙々と食べ終えた銀時から新八へ視線を流す。

「へ、へぇ。じゃあ新八くんは何が食べたい?」

「僕ですか? えーと……」

 新八が何にしようかと考えていると、主張するように『肉的なもの』と、銀時が答えた。

「はぁ?」

「はぁ? って、銀さんはリクエストしちゃいけねぇってのか? 最近食ってないんだよなぁ、肉。あっ、費用は今金ないから出しといてくれる?」

 耳をほじりながら言う、なんだか偉そうな銀時には腹が立ってくる。そんな銀時とは反対に、申し訳なさそうな顔をしていたのは新八だった。

「すいません。家計がピンチなんです……」

「ううん。どうせ私も食べるんだし、良いよ」

 ここは謝ってくれた新八に免じよう。唯は笑みを見せるが、心の中では銀時に怒りMAXであった。

 

 朝御飯の片付けが終わり、唯は再びぱそこんを開いた。求人情報をチェックする為だ

 あんまり良い時給のバイトないなぁ……。

 このご時世、不況なので良い仕事がなかなかみつからない。自然と溜息が漏れた。

「それ、何アルか?」

 酢昆布を食べながら、神楽が背後から覗き込んできた。

「あぁ、これはね、"ぱそこん"って言う機械(からくり)よ」

「へぇ~」

 どうやら神楽は、ぱそこんに興味がありそうである。

「やってみる?」

「良いアルか?」

 唯は神楽をソファに座らせ、ぱそこんの操作の仕方を教えてやる。

「む……むずかしいからよくわかんないヨ」

「まぁ、最初はね」

 その光景を微笑ましく見つめる新八は、デスクに足を乗っけながら座ってジャンプを読む銀時に話しかけた。

「神楽ちゃん、唯さんに早くも慣れちゃいましたね」

 銀時はジャンプを読むのを一旦止め、チラリと二人を見た後で、またジャンプを読み始めた。

「まぁ、ガキ同士気が合うんじゃねぇーか?」

「ガキって……、唯さんって一体何歳なんでしょうね。僕と同じ年ぐらいかな?」

「さぁな。どっちにしてもガキには変わりねぇんだし。俺はもっとこう、大人っぽいっていうかなんというか、結野アナくらいの……」

「誰もアンタの好みなんか聞いてませんよ」

 冷めた目つきで突っ込む新八。すると、そんな新八に唯が声をかける。

「新八くん。お願いがあるんだけどさ、今から付いてきてほしい場所があるんだけど」

「いいですよ。いきましょうか」

「良かったぁ、ありがとう。あっ、神楽ちゃん、それで遊んでて良いけどぶっ壊さないでね」

「了解アル!」

「それじゃあ、銀さん行ってきますね。洗濯忘れずしておいてくださいよ」

 気の抜けた返事の銀時と、ぱそこんを食い入るように見てぎこちなく操作する神楽を残し、新八と唯は万事屋を出た。

 そして、二人でスナックお登勢の店の前を通りがかったその時である。入り口がガラリと開き、中から怖い顔をした年配の女性が新八を呼び止めた。どうやらこの店の店主のようだ。

「あっ、お登勢さんおはようございます」

 お登勢と呼ばれた年配の女性は、凄みのある顔をして空を一度見上げた。

「おはようございますって、もう昼近くだよ。それはそうと、今月と先月の家賃は?」

「えっとー、それがまだ……。すいません」

「ったく、あんたの主に早く家賃払うように言っておくんだね」

「はい……」

 マジでありえないんですけど。

 まさかの家賃滞納には驚きを隠せない。『家計もあぶない』と言うのは唯の中で半信半疑であったのだけれど、これで本当に『お金がない』ということがわかってしまった。

 最悪なところに住んじゃったんじゃ?

 現状、今の自分もお金がない。もう溜息しか出なかった。

「誰だィこの娘は?」

 新八の隣で項垂れる唯が目に入り、お登勢が指を指す。

「昨日銀さんがストーカーから助けた人ですよ。唯さん、お登勢さんはこのお店のオーナーで、万事屋の大家さんです」

「初めまして。土方唯といいます」

 かしこまった挨拶をする唯を見つめ、お登勢はしかめた表情から笑みを浮かべた。

「へぇ~、あいつもなかなかやるじゃないか」

「でも色々訳あって一緒に住むことになったんですよね」

 それを聞いて、お登勢の顔から笑みが消える。

「はァ? 何考えてんだあの男は! 家賃もろくに払えねぇクセに次から次へと!」

「唯さんはある意味被害者なんで……」

「ったく……。アンタも変なのに関わっちまったぁね」

「は、はあ」

 お登勢とのやり取りを何とか終了させ、唯と新八は再び歩き出す。

「新八くん」

「なんですか?」

「今は全部は出せないけどさ、わたしも住むことになったんだし、一応家賃払うからね」

 仕方なくではあるけれど、居候の身。それくらいは当たり前だよと唯は言った。

「本当ですか? めちゃくちゃ助かります!! 万事屋っていつも暇なんですよねぇ。だからろくに僕たち給料も貰えないぐらいなんで……」

 ──哀れ。唯はまた、新八を哀れんだ表情で見つめた。

「同情はいらねぇぇぇぇ!! ってそれより、どこについて行ったらいいんですか?」

「あ〜、"スナックすまいる"ってところなんだけど。わかる?」

「スナックすまいる? その店なら角を曲がった先にありますよ」

「へ、へぇ~」

「そこに用なんですか?」

「うん。なんか募集してたから、働きたいなぁって思ってさ、時給も良かったし。一度どんなところか見に行こうと」

「なるほど。それなら案内しますね」

 お安い御用と新八に案内され、スナックすまいるに到着した。

「ここかぁ。思ってたよりも大きな店なのね」

「有名店ですからねぇ。実は僕には姉がいるんですが、姉はこの店で働いているんですよ」

「そうなの?」

「実家は道場なんですが、色々とワケあってきりもりするのに必死なんですよね」

「本当大変だね新八くん……」

 苦労しているんだなと、またも哀れに思った唯が自分なりに励まそうとしたその時だった。『新ちゃん』と背後から新八の名を呼ぶ声がして、二人で後ろを振り向いてみたのである。

「こんなところで何してるの?」

「あっ、姉上!」

 どうやら新八の姉のようだ。綺麗な顔立ちに、やさしそうな笑顔。しかし何故だか、身体中から怒りのオーラーが湧き出ている。

「実はですね──」

「テメェは仕事もしないで何イチャイチャ女とデートしてやがんだァ! ああぁ?」

「ぐふぉぉっっ!!」

 唯の目の前で新八が吹っ飛んだ。姉にラリアットを食らわされたからだ。

「ち、違います姉上!!」

 唖然と見ているしかなかった唯は、恐怖ながらも止めに入った。

「あっ、あの! 私、土方唯と言います! 新八くんは遊んでた訳じゃなくてその、頼んでついてきてもらっただけなんです!」

 もう一発入れようとしたところだった。新八の姉は攻撃を止め、唯へ目を向ける。

「なぁんだ、そうなの。私は新ちゃんの姉の志村妙。よろしくね」

 荒々しい態度とは打って変わり、スイッチを切り替えるように物腰が柔らかいおしとやかな女性に戻った。

「だから違うって言ったじゃないですかぁ……。彼女は銀さん絡みで、かくかくしかじか……」

「かくかくしかじかって、なぁに? 新ちゃん?」

「昔の典型的な説明内容を省略する時に使われる言葉ですよ姉上。かくかくしかじかには、今までのあらすじやなんかがぎっしりと含まれていて、わざわざ最初から説明しなくても簡単にまとめたコレを言えば、何故か相手が納得するというアニメや漫画ではお馴染ですよ!」

 数秒の間が流れる。

「あらあら、あなたそんなことがあったのねぇ」

 納得したらしい姉に新八が思いっきり脱力しているが、放っておこう。

「はぁ、ええまあ……」

「今日も私ここで仕事があるから、店長にでもあなたのこと伝えておくわ」

「え、本当ですか? ありがとうございます!」

「いいのいいの。新ちゃんがお世話になったんだし」

「あの、それと別にお願いしたいことがあって……。良かったら今日、仕事場に出勤する時にご一緒してもらっても良いですか?」

「勿論良いわよ。じゃあ今日の晩、万事屋に迎えに行くわね」

 助かった。初見でラリアットなんて物凄い恐いお姉さんだなって思ったけど、それだけじゃなくてマジで良かった。

 唯はもう一度お礼を言うと、お妙と晩に約束して別れた。

「新八くんのお姉さんデンジャラスな人だけど、優しそうな方ね」

「確かに恐ろしいところありますけど、良い姉ですよ。さて、どうしますか?」

「そうだねぇ。早いけど、夕飯用の買い物するから手伝ってくれるかな?」

「はいっ」

 

 買い物を済ませ、新八と共に万事屋に帰宅途中での会話である。

「坂田さんさぁー、『肉的なもの』って言ってたんだけど、糖尿の気があるんでしょう? ちゃんと食生活改善とか気をつけたりしてるの?」

「あの人はそんなことなんてしていませんよ。気をつけている事と言ったら、週一だけパフェを食べるぐらいですかねぇ~。お酒は好きだし、『適度に甘いもの取らないとイライラする』とかって毎日のように言ってるし。食生活改善を銀さんに訴えても無駄ですよ」

 ろくでもない男ね、坂田さんて……。

 聞きながら顔を引きつらせる唯は、呆れて物が言えなかった。いい大人が仕事もまともにせずにパチンコ行ってお金もなく、しかも糖尿の気があるとは。開いた口が塞がらないとはこのことであろう。

「唯さんそこ違う道ですよ!」

 後ろから新八に呼び止められ、唯は我に返える。

「あ、ごめん!」

「そういえば思ったんですけど、さっきから唯さん同じような行動ばかりしてますよね? ちょっと僕が目を離した隙に、違う場所に入り込んだりとか……」

 唯はぎくりとした。

「う、あ、あのね、実はわたし、方向音痴なの。一度入ったお店なんかを出ると、どっちから来たかわからなくなっちゃってるし、例えば江戸に向かった筈なのに、薩摩に着いちゃったりとか?」

「極度だなっ! ていうかもはや極度と言うのかどうか。一度診察おすすめしますよ」

「アハハッ……」

 まともそうな人物がやっと現れたと思っていたらそうでもなかった。唯が極度過ぎる方向音痴である事実を知った新八は、ツッコミが追いつかなくなるなぁと、頭を悩ませるのだった。

 

 万事屋に帰宅後。何故か唯のぱそこんでエロ画像を見ていた銀時に怒りのハリセンを食らわしたりと、なんやかんやで時間は過ぎていく。それから夕食も終え、後はお妙の迎えを待つばかり。

 先に食べ終わった唯と新八は後片付けの最中。神楽は、何杯目かのご飯のおかわりを漸く食べ終えた。

「あー、美味かったヨ~。もう食べれないネ」

「オイ神楽。お前なぁ、いつものことだが食い過ぎだっつーの。ちったぁ食欲を抑えろ! むしろ食欲を無くせ!」

「例え銀ちゃんの頼みでも無理ネ。私から食欲を取ったら、なんの取り柄も無いヨ! ただのフツーな酢昆布好きのか弱い少女になっちゃうアル!」

「大丈夫だ神楽。食欲を取っても取らなくても、お前は普通のか弱い少女じゃないしそうならない。だが、『酢昆布娘』という称号はお前の中から消え去ることはないだろう」

「銀さんも神楽ちゃんもふざけてないで、自分の食べた皿ぐらい片付けてくださいよ」

 銀時と神楽のやり取りを冷ややかな目で見ていた新八が、二人の食べ終えた食器を重ねながら言った。

「あん? んなもん気づいたヤツがやりゃぁ良いだろ。銀さんは今からドラマ見るんだから邪魔すんな、駄目眼鏡くん。略してダメガネ」

「……はいはい。わかりましたよ」

「わかれば良いアルヨ。ダメガネ」

「って! 今日夕飯当番のくせに人任せにしたお前が言うなァァァァァァァ!!」

 ダメガネ呼ばわりされた怒りの矛先をどこにぶつけようか考えながら、新八は重ねた食器を台所に持って行く。

「確かもうすぐしたらお妙さんくるよね?」

「そうですね。あっ残り僕やっておきますよ」

「ありがとう。じゃあこれ、後洗い流すだけだから」

 バトンタッチ。唯は食器を洗う手を止め、新八にスポンジを渡した。すると、玄関から『こんばんは』と声がした。タイミング良くお妙が迎えに来たのだ。

「あっ、こんばんはお妙さん。早かったですね! 今仕度するので少し待っててもらえますか?」

「ええ良いわよ。少し早めに来たから気にしないで」

 お妙は居間に入り、よいしょとソファに座る。

「あっ、姉御アルっ」

「こんばんは神楽ちゃん、銀さん」

「何か用でもあんのか?」

 見たいテレビから目を離さずに、銀時はお妙に声をかけた。

「用っていうか、唯さんのお迎えよ」

「アイツの迎え? 何? お前たち知り合いだったの?」

「今日初めて会ったばかりだけれどね。後、色々と聞いたけど……」

「ごめんなさいお待たせしました! 行きましょう!」

 急いで仕度をした唯が和室から出てきた。

「唯ー、どこ行くアルか?」

「仕事の面接だよ。じゃあ、行ってくるね」

 唯は神楽に手を振り、お妙と万事屋を出て行った。そこへ、洗い物を終えた新八が居間に入って来る。

「新八~、お妙が迎えにって来たけどさ、仕事って?」

「あぁ、"スナックすまいる"ですよ。唯さんが面接行こうかなって言ってたんで、姉上のこと教えていたら、偶然会っちゃったんですよ」

「へぇ~」

 自分から聞いておいて全く興味が無い返事である。一方、スナックすまいるに到着したお妙と唯はというと──。

 

「おはようございます。店長」

「おはようー。あれ? お妙ちゃんその娘は?」

「ここで働きたいって面接に来た唯ちゃんです」

 お妙に店長を紹介され、唯は軽くお辞儀をした。

「唯ちゃんねぇ。……キミ可愛いけどさぁ、ウチの店、子供は働けないんだよね」

 店長は自分の顎に手を当てながら、唯を上から下までチェックするように見る。

 ──またか。唯は小さく溜息を吐いて、懐から運転免許証を出して見せた。

「子供じゃないです。わたし、18歳ですから働けますよね?」

「あー、そーなんだ? 童顔だからそう見えちゃったよ。なら良いじゃん良いじゃん。じゃあオッケー。唯ちゃん、早速だけど今日から働けちゃったりする?」

 

 これって面接受かったってこと?

 

 早くも働き口GETである。今までキャバクラで働いたことはないが、お金を稼ぐ為に頑張らねば。唯は頭を深く下げた。

「はいっ! 頑張りますっ」

「初心者だっけ? ま、店に慣れるまでしばらくヘルプで入ってもらうとして、仕事の内容はお妙ちゃんに聞けば良いから。あっ、お妙ちゃん、唯ちゃんに今日ヘルプで入ってもらうよ」

「はい」

「よろしくお願いします。お妙さん」

 お世話になるであろうお妙にも頭を下げる。

「やだ唯ちゃんたら。同い年なんだから、さんづけなんてしなくて良いのに」

「えっ、同い年なんですか? 随分大人っぽいから……年上のお姉さんかと」

 同じ年齢なのに全く違う。醸し出す大人の色気がお妙にはあった。

「もう、やぁね。これからは敬語とかも無しの方向でお願いね。ささっ、唯ちゃん。ちょっとこっちにいらっしゃいな」

 お妙に連れられ、ある一室に入る。

「唯ちゃんあなた、化粧してないでしょう?」

「えっ、うん。するのが下手で……」

「そうなの? もったいないわぁ。唯ちゃん素材は良いんだから化粧すると凄く綺麗になりそうなんだけど。ちょっと顔貸してごらんなさい」

「か、顔?」

 十数分後。お妙によって化粧と着物の着付けをされ、唯は別人のようになった。

「やだぁーっ、唯ちゃん見違えるようよ!!」

 唯は、太ももまでの短い着物の丈が気になって顔を赤らめる。

「お妙さんこれ、丈が短過ぎじゃないですか?」

「そう? 充分似合ってるわよ。お化粧すればもっと綺麗になるんだからもっと自信持ちなさいな」

「は、はあ……」

 唯は恐る恐る鏡を覗きこみ、自分の姿を今一度見てみる。

 

 お妙さん化粧うま。この仕事きっかけに練習すべきかなやっぱ。

 

 化粧はしたことはあるけれども、自分では下手なのでしてこなかった。しかし今後は練習も兼ねて化粧をやるべきなのかもしれない。唯は短い丈を押さえつつ思った。

 

「お妙ちゃん4番テーブルに指名でーす」

「はーい。さぁ、唯ちゃん行きましょう」

「は、はいっ」

 控えで待っていると、お妙に指名が入った。ヘルプに付いたのだから勿論唯も一緒に行動しなくてらならない。

 

 だァァァ! 緊張するうぅ! 気合いぃ!

 

 初めての仕事場はやっぱり緊張する。初めが肝心だから愛想良くとか、お客相手にどんな顔をすれば良いのか。などと考えつつ、お妙の後ろに付いてお客が待つ4番テーブルに向かった。

「あっ、お妙さァァん!! あなたの勲がまたまたやって参りました!」

 そこに待っていたのは、ゴリラの様な男と、なんだか地味そうな男だった。

 ゴリラ男の横にはお妙が座り、その隣には唯が座る。

「あら、ゴリラさん。毎度毎度むさくるしいわね」

 ゴリラと言われても当たり前のように、ゴリラ男は平気な顔をしている。お妙は笑顔で毒舌だ。

「アハハハ。そういやぁお妙さん、そちらの彼女は?」

「そうそう、このコ今日入った唯ちゃん。唯ちゃん、こちらゴリラさん。ゴリラなのに真選組の局長さんなのよ」

「初めまして、ゴ、ゴリラさん、唯です」

 真選組と聞いて驚く。その名前もだけれど。

「あっはっはっはっ。ヒドイなぁお妙さん。ゴリラじゃないですよ、近藤勲です。てか今日入ったばっかなんですかぁ。お美しい方ですね。ですがすいません。俺はお妙さんの美しさの奴隷ですから、やはりあなたで──ぶほォっ!?」

 喋っている途中、お妙がゴリラ……もとい近藤にアッパーをかまし、にっこりと微笑んだ。

「やだわっ。ゴリラさんたら気色悪い」

「いやぁー、さすがだなぁお妙さんは。今の一発、勲の心にビシッと来ました! あ、そうそう、忘れる所だった。今日は部下を連れて来たんですよ」

 そう言って近藤は、自分の隣にいる地味な男を紹介する。

「や、山崎です。どうも初めまして」

「ダッハッハッ。こいつキャバクラ初心者でね、緊張してるんですよ」

 山崎と言う男はぎこちない表情で笑いつつ、お妙や唯に聞こえないようにこっそりと近藤に話しかける。

「局長、マジありがたいんですけど、俺じゃなくて副長と来れば良かったじゃないですかっ?」

「あーアイツは興味ないって断ったんだよ。まぁ、楽しめ山崎。美女二人の前だぞ」

「は、はあ……」

 気を取り直ししてと、豪快に近藤は笑った。

「唯ちゃん、山崎さんのお隣で作ってあげて」

「はい」

 指名が入る前にお妙に水割りの作り方を教わっていた唯は山崎の隣に座り、ぎこちない手で水割りを作ってそっと渡した。

「初めて作ったんで、美味しくなかったらごめんなさい」

 

 営業スマイルすべし?

 

 ファストフード店やファミレスでのバイト経験を活かすべく、そこでの営業スマイルを思い浮かべながら山崎に笑顔を向ける。

「ど、どうもすいません」

 山崎は唯から受け取った水割りを一口だけ飲むと、顔を赤らめて俯いた。

「あ、あの、もしかして美味しくなかったですか……?」

 営業スマイルがこの店では通用しなかったのか。はたまた水割りが不味かったのか。唯は不安になった。

「い、い、いえッッッ! と、とっても美味しかったです! はいッ」

 慌てて顔を上げるも、挙動不審で焦る山崎。それを見て何か気付いた近藤は、ニヤけながら山崎にこっそりと耳打ちをした。

「山崎ぃ、お前唯ちゃんに惚れたのか? 惚れちゃったのかァァ? コラコラ、簡単に惚れちゃあならんぞっ恋は。慎重にいけッ慎重にッ」

 あんたに言われたくないよと心の中で突っ込んだ山崎は、ふと、隣に座って心配そうにこちらを見つめる唯と目が合い、また顔を赤くして水割りを一気に飲み干した。

「あっ、お妙さん肩にゴミがついてますよー」

「きゃーやだぁ!」

「ぎゃあァァ!」

 お妙は肩に触ってきた近藤の手首を掴み、バキッと曲がってはいけない方向に曲げていた。

 そんな恐怖シーンを見せられつつ、あっという間に時間は過ぎていき、唯の初キャバ嬢の仕事は無事になんとか終了したのだった。

 

「お疲れ様でしたー」

 帰る頃、外はすっかり真っ暗だった。けれど夜明けも近い。帰り道は、お妙と二人で歩く。

「唯ちゃん今日はお疲れ様。中々筋が良かったんじゃないかしら。何人か指名取ってくれそうなお客さんいたわねぇ」

「そ、そうかなぁ? あっ、今日は色々ありがとう、お妙さん。おかげで働き口も見付かったし。それに、万事屋まで送ってくれるなんて」

「良いのよ。方向音痴なんですってね。大変よねぇ、まぁ困った時はお互い様だから」

「お妙さん……」

 何て優しいんだろ。人の親切心に癒されかけた時だった。

 

破亜限堕津(はーげんだっつ)20個で良いわよ」

 

 一瞬、時間が止まる。

「……はい?」

「まさかタダで送ってくれると思ったの? 私、そこまでの優しさなんて持ちあわせてないわよ」

 お妙の笑顔の奥に、何かドス黒いのを感じとった唯であった。

 

「さぁ、着いたわよ」

「ありがとう、お妙さん」

「こっちこそコレ、ありがとうね」

 途中遠回りして寄ったコンビニで、唯に買ってもらった破亜限堕津入りの袋をチラつかせてお妙は微笑む。

「い、いえ~。これからもお世話になるんだし。あっ、それじゃあ今日はお疲れ様です」

「じゃあまたね。おやすみなさい」

 万事屋の前でお妙と別れ、階段を上って玄関の前に立つ。

 

 真っ暗。そりゃあみんな寝てるわよね。

 

 玄関の入り口をゆっくりと開けて中に入る。鍵を持っていないし、閉められてたらどうしようかと思っていたが開いていて良かった。

 

 閉められてたらぶち壊してでも入るけどね。ていうか、お妙さん夜道大丈夫かなぁ。

 

 ついでではないけれど、お妙の心配をしてみる。けれど、今日一緒に仕事をしてみてのお妙の強さは一目瞭然なので、あの強さをお持ちなら少々の輩相手は大丈夫だろう。と、気にしない方向で脳内解決した。

 居間に入って直ぐにソファに座り込む。窓から薄っすらと夜明けの光が伺えた。化粧を落とさなければと思うのだが、眠い。──駄目だ。唯は立ち上がると、洗い場で化粧を落として再び居間のソファに腰を下ろした。

 

 今寝たら、確実朝御飯の時に起きれない予感。

 

 朝御飯まで頑張って起きていよう。唯は眠気を必死に堪えて完全な朝を待った。

 そして外が完全に明るくなった頃、和室から新八が出てきた。

「唯さんおはようございます」

 良い匂いにつられて台所に入れば、唯が朝御飯を作っていた。

「おはよう。あれ? 新八くんいたんだ」

「昨日の夜、銀さんが飲みに出かけちゃったんでね。唯さんもどうせ仕事だと思ったし」

「わかってたんだぁ。連絡出来なくてごめんね。でもまぁ、働き口見付かったし。一先ず安心よ」

「唯さん、目がものっ凄い充血してますよ」

「マジで!? 慣れてないから物凄い眠い。でも寝たら起きれそうになくて……。とりあえず朝御飯まで起きとこうと思ったの」

「寝たほうが良いですって! まだ銀さん出かけて帰って来てないし、今なら和室で寝れますから!」

 新八は唯の背中を無理やり押して、和室へと連れて行く。

「でも朝御飯は……」

「後は、僕がやっておきますから。唯さんは休んで下さい」

「ありがとう新八くん。悪いけど爆睡させてもらうね。今日も仕事あるし、お昼過ぎには絶対起きるから」

 和室で寝るのは躊躇したけれど、今は新八の優しさに甘えよう。襖を閉めた唯は、布団を敷いてその上に倒れ込む。その布団を誰が使っていたとかそんなことを気にする余裕もなく、唯はものの数秒で眠りについた。

 それから2時間過ぎた頃、銀時が二日酔いでフラフラしながら帰ってきた。

「あーー気持悪っ。いちご牛乳くれっ新八ぃ……」

「……ったく。お酒もほどほどにした方が良いですよ! はい」

 ソファに雪崩れ込むように座っていた銀時は、新八からいちご牛乳を渡されて一気に飲み干した。

「朝からうっせぇよ……。酒は男の醍醐味なんだぞッ?」

「ハイハイそーすね」

「俺ぁ、ちょっと寝る」

 ソファから立ち上がり、和室の襖を開けて入ろうとする銀時を新八が止める。

「あっ、今唯さん寝てますから。寝るならソファにしといてくださいって……聞いてる? 銀さん!」

 新八が急いで和室を見ると、爆睡している唯から少し離れた隣に、新たに布団を敷いて寝ようとしている銀時がいた。

「ちょっ、何やってるんです銀さん!」

「今は布団で寝たい気分なんだって。それにめんどくせぇ。いちいちコイツの為になんで俺が遠慮しなけりゃいけねぇんだよ。大体、ガキにゃあ興味ねぇって」

 銀時は布団を被ると、秒で寝にはいった。唯を起こすべきだったか。知らずにスヤスヤと寝ている唯に申し訳ないと思いつつも新八は、後でどうなっても知らんぞと襖を閉めた。

 

 数時間、和室から二つ悲鳴が上がった。一つは唯。目覚めた唯の目の前に銀時の顔があったからだ。

 それからもう一つ。ハリセンでシバかれる、銀時の野太い悲鳴である。

 

 

 

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