万事屋で銀時達と暮らし始めて、二週間が経とうとしていたある日のことである。
「ありがとうございましたー」
神楽と一緒に大江戸ストアへ買い物に来ていた唯は、購入した食材をレシートと照らし合わせつつ、それらを買い物袋に入れていた。
「唯ーっ! これ集まったアル!」
嬉しそうに声を上げる神楽は、食材を袋に入れ終えた唯に集まった福引の券を見せてきた。
「やっと集まったんだぁ」
「外でやってるから行くヨ!!」
神楽に手をひかれながら一緒に外へ出た唯は、福引を出しているテントにそのまま並んだ。
「神楽ちゃん回しなよ」
「良いアルか?」
「うん良いよ。わたしクジ運悪いし、それに神楽ちゃん楽しみにしてたでしょう?」
「おっしゃあァァァ!」
気合いを入れ、生唾を飲み込む緊張の一瞬。神楽は福引器を回した。
15分後。万事屋では、暇そうに新八が茶をすすり、銀時がいつものようにジャンプを読んでいる。
「ただいまーー」
唯と神楽が声を揃えて帰ってきた。
「お帰りなさい。神楽ちゃん、唯さん」
神楽は居間に入るや否や、新八と銀時の前で偉そうに仁王立ちをして見せる。
「何やってんだオメー」
「ひざまずくアル愚眠達よ」
意味がわからない銀時と新八は、神楽の横にいる唯を見て『どうしちゃったの神楽?』と、問うてみた。
「聞いてるアルか!? 頭が高いって言ってんだヨこの貧乏侍どもが!! 工場長とお呼び!」
「はァ? 女王様の方が良いんじゃねーのか、工場長?」
「女王様なんかより、工場長の方が生産的だから偉いアル! やせこけた工場長とお呼び!」
「……はいはい工場長。唯さん、トイレットペーパー買ってきてくれました?」
ドヤ顔の神楽をジト目で見つめた新八は、そのまま唯へと視線を移す。
「あっ、忘れてた。ごめん」
「オイっ勘弁しろよッ。安売り今日までなんだぞ!」
「だからごめんって言ったじゃないっ」
「ごめんですんだら警察なんていらねーつーの!」
恒例となりそうな銀時と唯のいがみ合いが始まろうとしたその時である。バンっという大きな音に注目すれば、神楽がテーブルの上に買い物袋を叩きつけるように置いた音だった。
「あのね、ケツ拭く紙は忘れてたけど、もっと素敵な紙は手に入れたヨ」
神楽は買い物袋に勢いよく手を突っ込むと、ある紙を銀時と新八に見せた。二人はその紙を神楽から奪い取り、じっくりと見つめて息を飲む。
「う、宇宙への旅、四名様!?」
紙を引きちぎらんばかりに驚いた銀時と新八は、神楽の前にひざまずいてこうべを垂れたのだった。
「こ、工場長オオオォ!!」
そして、『宇宙への旅』当日。四人はターミナルにて出発を待っていた。
「あれ? 坂田さんは?」
「あぁ、ゲートでなんか引っかかってんじゃないですか? ──って、神楽ちゃん。何で連れてきた?」
隣にいるであろう神楽を視界に入れれば、何故か定春が神楽に覆いかぶさっているではないか。
「新八ィ、しぃ~アル。コレはただの人形なんだから、黙ってればバレないネ」
声を潜めて言う神楽に対して新八は、『いや、絶対バレるだろ』と静かに突っ込んだ。
「お客様。ペットのお連れ込みは禁止になっております」
案の定である。定春に気づいたらしいターミナルの係員が、慌てて神楽のもとにやって来た。
「違うヨ。人形だヨ」
係員には完全にバレている。しかし神楽はそれでも尚、定春を人形だと言い張った。
「定春、誰にも迷惑かけてないし人にもかみつかないヨ。私、保証するアル」
「いや、やってるから! 言ってるそばからやってるから!」
主張も空しく、いつの間にか定春が神楽から離れていて、寝転んでいる知らない男を噛んでいた。係員は大慌て。噛まれている男のもとへと走って行った。
「お客様ァァァ!! 大丈夫ですかァ!?」
すると、その男は定春に噛みつかれたままの状態で起き上がり、何事も無いそぶりで喋り出した。
「……あ~なんじゃ、気持ち良く寝ちょったのにもうフライトの時間かや~~」
その人物に起こっている状況には、唖然とさせられる。
「お客様、恐れ入りますが頭のほうがフライとしかけております」
「なんじゃ~頭ァ? なんかズキズキするの~。昨日飲み過ぎたきにぃ。アッハッハッハッ!」
「いや、飲み過ぎたじゃなくて飲まれております」
「寝汗もベトベトじゃ、アレ? まっ赤じゃ……。あぁ、トマトジュース飲んだからかぁ」
頭からの流血をトマトジュースとは。係員もツッコミに必死だ。
「おいィィ。ポジティブシンキングにも程があるぞォ!!」
「あー体も重いし、完全に二日酔いじゃのぉ。アッハッハッハッ」
「ちょっとォォ! 人の話聞いてんの!?」
係員を無視したのか聞こえなかったのかはわからない。定春に噛みつかれたままの状態のその男は、定春ごと、どこかに行ってしまった。
「あ~! 定春ぅぅ!!」
返してと定春を追う神楽は放っておいて、先ほどの男の後姿をまだ唖然と見ていたのは、新八と唯だ。
「何だ、あの人?」
「さ、さぁ?」
見知らぬ人ではあったものの、唯はその男の笑い声に何か引っかかるものがあった。
どこかで聞き覚えがある?
何故だろうか。不思議なことに、思い出そうとすると身震いが起きた。
何はともあれ宇宙に出発後。機内では食事が配られ、神楽が銀時に先ほどの出来事を話していた。
「何? 定春が拐われたって?」
「そうアル。私もう旅行なんて楽しめそうにないヨ」
そう哀しげに話しつつも神楽は、ガツガツと機内食の肉を頬張る。
「だーーからババアに預けとけって言ったんだよ。もう台無しじゃねーか旅行が……」
そう返す銀時さえも、ラーメンをズルズルとすすっていた。そんな二人を呆れて見ていた新八は、『台無しなのはお前らの人間性だよ』と突っ込んだ。
「だって定春だけ残していくのかわいそーネ! 銀ちゃんは定春がかわいくないアルか?」
「旅先でギャーギャー喚くんじゃねーよ。あーあ、興冷めだ。もう帰るか」
「食事中ぐらい静かにしてなさいよ」
いい加減にしてほしいくらい煩い。唯が新八と共に注意していた時だった。
《──皆様、よろしければ左側の窓をご覧になって下さい》
機内放送だ。
《あれが太陽系で最も美しいとされる、我らが母なる星、地球です》
「わーきれいだ~」
つい今しがたまで喧しく騒いでいた銀時と神楽は、打って変わって楽しそうに地球を眺めている。
「わーじゃねーよ! キッチリエンジョイしてんじゃねーか! なんだオメーら!」
「小さな悩みなんてどーでもよくなってくるなぁ、神楽?」
「ホントアルネ、銀ちゃん。心洗われるヨ」
「洗っちゃいけないよ! 心に残しておかなきゃいけない汚れもあるよ!」
新八による必死な突っ込みも空しいと思う程に、二人は窓にへばり付いて宇宙に浸っている。
「新八くん、やめよ? 無駄に神経使うだけだよ」
「唯さん……」
これ以上のツッコミは無駄だ。唯は『ドンマイ』とフォローしつつ、流れを切り替える。
「あの人らは放っておいて、定春を探そう?」
内心、唯も宇宙を楽しみたかった。けれども、後で面倒なことになるであろうことは安易に想像出来るので、それを避ける為にも今は、定春を探した方が賢明であると思った。
「そうですね。銀さん、ちょっと僕たち定春を探してきますよ。同じ船乗ってるかもしれないし」
宇宙しか見えていない銀時と神楽をおいて席を立とうとしたその瞬間。『動くな』と言う声と共に、武装した男が新八の頭に銃を向けた。
──何?
気づくのが遅かった。機内にはもう一人の武装した男がいて、他の乗客に銃を突きつけていた。
突然のことに周りの乗客達は驚いて、皆が疎らに悲鳴を上げる。
「うるせー! 騒ぐなァァ!!」
悲鳴を止めるよう、武装した男の一人が声を荒げ出した。見るに、武装連中のリーダーらしい。
「これよりこの船は、我々革命組織『萌える闘魂』が乗っ取った! 貴様らの行く先は、楽しい観光地から地獄に変わったんだ! 宇宙旅行などという堕落した遊興にうつつを抜かしおって。我らの星が天人が来訪してより、腐り始めたのを忘れたかぁ!! この船はこのまま地球へと進路を戻し、我が星を腐敗させた、元凶たるターミナルにつっ込む! 我らの血肉は燃え尽きるが、憎き天人に大打撃を加える事ができようその礎となれることを誇りとして死んで行け!」
高々く吼える武装男に、乗客達は恐怖におののく。
最悪……。面倒なことに巻き込まれたどころの騒ぎじゃないわ。
折角の宇宙旅行もここでお終いか、いや人生最後か。などと色々考えている一方、銃を突きつけられているせいで身動きの取れない新八は、どうしたらこの状況を打破出来るだろうかと焦る心を落ち着かせながら、きっと頼りになるであろう銀時を横目で見た。
「俺、死んだら宇宙葬にしてもらおっかな。星になれる気がするわ」
「ああ、なれるともさ」
だかしかし、相変わらず銀時と神楽は宇宙を眺め浸っている。
「うぉーーい! ホントに星になっちまうぞ!!」
今の状況を知ってか知らずか。新八も焦りのツッコミを入れた。
「オイ、貴様ら何をやっている?」
銀時と神楽に気づいた武装男が、二人に近付きながら銃口を向ける。
「我らの話、きいてい──」
言葉の途中、神楽が近寄ってくるのを待ってましたと言わんばかりに武装男を蹴り上げた。応戦で銃を発砲しようとしたもう一人も、銀時の蹴りに合ってその場に気絶した。
「おのれ────!!」
武装連中のリーダーも参戦とばかりに襲いかかって来たのだが、新八がナイスタイミングでラーメンの器を下から顎に向けてぶつけ割り、リーダーは崩れ落ちるように倒れた。
倒れて起き上がらない武装連中を見て安心した乗客達は、銀時達に拍手を送り、『助かった』と歓声を上げた。
あー、本当に良かった。
座席の隅に咄嗟に隠れていた唯は安堵の溜息と共に立ち上がり、万事屋の三人を見つめた。いつもはふざけたことばかりしている銀時達が、いざという時に頼りになるというのは意外であった。
「テメェらふざけやがって! 死ねェェ!!」
安心するのが早かった。まだ残っていた武装連中の一人が、たまたま目が合った唯に銃口を向けたのである。
まだいたーァァァ!?
今度こそわたし死んじゃう5秒前だと思った瞬間。機内の扉が勢い良く開かれ、その衝撃によって最後の一人は倒された。
一体誰だ。皆が一斉に、その扉から出てきた人物に注目する。
「あ~、気持ち悪いの~。酔い止めば飲んでくるの忘れたきぃ、アッハッハッハッ」
体をフラつかせ、定春に頭を噛み付かれた状態の男が入ってきた。確かターミナルで見た、頭がもじゃもじゃとした男だ。現在進行形で定春に噛まれているとは驚きである。
「あり? 何? なんぞあったがかー?」
みんなからの視線に気づき、呆気に囚われていたこちらを見た。
「このヤロー! 定春ば返すぜよォォ!!」
誘拐犯め。と神楽がその男を蹴り飛し、男は後ろのドアの角に頭を打って気絶した。
「定春ぅ、よかったよヨ~。ヨーシヨーシ」
取り戻した定春に噛みつかれながらあやす神楽の横から、銀時が顔を覗かせる。
「こっ……、こいつァ」
気絶している男の顔を見て直ぐ、ぼそりと呟くように銀時が言った。
「知り合いなの?」
銀時の反応からの興味本位である。唯は恐々と新八の背後から覗き見た。
──ん? ちょっとまって。
全身が栗立つ。見覚えのある顔だ。
確かこの人は────。
すると突然、唐突な爆発音して皆が我に返った。
「うわああぁ爆発だァァ!!」
「大変だ、操舵室で爆発がァ!!」
「操縦士達も全員負傷!!」
操舵室から逃げてきた船員が慌ててやって来る。
「終わりだよ。お前ら天人に迎合する売国奴共など、みんな死ねばよい……」
意識を戻したリーダーの男は、せせら笑う。
それは、まるで雷の轟きであった。宇宙船がゴゴゴという音と共に傾いたせいで、皆が同時に横倒れになった。
「どなたか宇宙船の操縦の経験のある方はいらっしゃいませんか!?」
船員の呼びかけに反応した銀時は、何やら閃いたらしい。気絶しているモジャモジャ男の髪を鷲掴み、引きずって操舵室に走っていった。
「銀さん!? 仕方ない、僕たちも行こう!!」
新八が銀時を追いかけようとしても、呆けたままの唯はその場から動こうとしない。
「唯さん? 大丈夫ですか?」
「あっ、う、……うん! ごめん。大丈夫!」
新八の声で正気に返る。
どうしたんだろうと気になった新八を余所に、唯は先程の男のことを思い出そうとしていた。
あの男……。あのモジャモジャの髪、あの怪しげなグラサン。そして、あの笑い声──。見覚えあるし聞き覚えがある!
忘れたくても忘れられない記憶。そう、あれは去年の寒い冬の夜。旅疲れでどこか休める場所を探している最中、偶然見かけた小さな屋台の店に入った時のことだ。
「おじさん、おでんちょうだい」
「いらっしゃい。何にする?」
「んー、何にしようかなぁ」
「この店は大根がうまいぜよ」
おでんの具選びに悩んでいると、ふらりと現れたもじゃもじゃ頭の男が唯の隣に座って言った。
「へぇ~。じゃあ大根二つ!」
「あいよ。大根だよ」
出された大根をゆっくりと頬張れば、冷えた身体に染み渡るうまさだった。
「おいしい……!」
「アッハッハッハッ! うまいじゃろ。ここのおでんは格別やきのォ。あ、大将いつもの頼むきぃ」
男が『いつもの』と言えば、店主は焼酎を一杯、卵と大根にはんぺんを器に盛って出した。
「あの、この店の常連なんですか?」
「まぁそうじゃな。ところでお嬢ちゃんの方じゃ。こーんな時間に子供が一人で何しよるんじゃ?」
焼酎をちびちびと呑みながら男は、唯の横に置いてあるキャリーバッグを気にして言う。
「言われますけど子供じゃないですし家出でもないです。それに今は旅の途中なんです」
取ったばかりの車の免許証で年齢確認させようとすれば、『すまんすまん』と男が謝る。
「わしゃあてっきり家出して来た子供かと思うちょった。それにしてもぉ、お嬢ちゃんみたいな女の子が一人旅とは……。あっと、お嬢ちゃんじゃアレやきぃ、名前なんて言うんじゃ?」
男は自分を、『坂本』と名乗った。
「唯、です」
「唯ちゃんかぁ。可愛らしい顔に似合っとるええ名前やのぉ。よし! 今夜は、わしが奢っちゃるき!」
「え? でも、知り合ったばかりなのに」
「気にせんでええちや! 唯ちゃんに出会えた祝いじゃ! 大将、酒じゃ酒ェ!! ほれぇ、一杯呑んでくれや! アッハッハッハッ」
コップに注がれた焼酎を差し出され、唯は困惑した。
「お、お酒!? え、まだ飲めない──」
「アッハッハッハッ。今日は無礼講じゃー!」
「え、あぁ……」
ここは空気を読んで一杯だけなら。初対面相手に気を使ってしまったのが甘かった。今更ながらこの時断れば良かったと思う。坂本という男は調子に乗り、『もう一杯、最後に一杯だけでも』と言っては、勢いに任せて次から次へと唯に酒を飲ませたのである。
「おお! 良い飲みっぷりじゃの~!」
「アハハッ! 坂本さんの髪の毛鳥の巣なんですけどマジウケるんですけどぉーー! ギャハハハ!」
結果泥酔。
「アッハッハッハッ。面白いの~〜唯ちゃんはァ。わしの頭は鳥の巣じゃないきぃ」
「あ゙っ? うっせーよ。モジャモジャ」
「アッハッハッハッ! 目がすわっとるぜよ」
「あぁー、花畑がみえる〜」
「こんなとこで寝たらいかんき。おーい、唯ちゃん?」
酒の力には抗えず、不本意に訪れた眠気が唯を襲った。閉じられる寸前の瞼、もじゃもじゃサングラスの笑い声が頭上に響き、そのままフェードアウトした。
それからどのくらい眠っていたのかわからない。目覚めると少しだけ頭が重たかった。
「あ、れ? ここは……?」
やけにピンクががって薄暗い。でも即座に理解出来たのは、自分が目覚めた場所がホテルの一室であるということ。
酷く酔っていて屋台からの記憶は無い。でも、もしかして酔いながらも泊まる宿を探し、部屋に入ってからまた眠っちゃったのかもしれない。──と、思っていたのも束の間。
「え、水の音……?」
浴室からシャワーの音がするではないか。
徐々に冴えてくる意識。何となく部屋中を見渡してみれば、この部屋が普通の宿ではないことに気付いた。ピンク色の派手な内装、天井や壁の両面が鏡張り。
これはもしかしてもしかしなくても……。
話に聞いたことのある、事を致すホテルなのでは──。と唯は気付いた。
「……わたし、一人でこの部屋に入った?」
シャワーの音が止まった瞬間、緊張が走る。
「おっ、やっと起きたかぁ」
聞き覚えのある声に振り向けば、もじゃもじゃ頭の坂本が裸で、下半身にバスタオルを巻いただけの状態で立っている。
その姿を目の当たりした唯は、唖然として声も出せなかった。
「ん? 目が点になっちゅうぞ。どうしたんじゃ?」
あられもない姿の坂本は、徐々に徐々にと近寄ってくる。
──貞操の危機!
生命の危機をも感じ取った唯は、ありったけの声で叫ぶ。
「ひっいぃ! い、いやあああァァァァーー!!」
そして、おもいっきり坂本の急所を蹴り上げた。とにかく必死だったのだ。近くに置かれていた自分のキャリーバッグを持ち、無我夢中で外へと飛び出した。
その後の記憶は無い。気づくと何故か大阪の町に着いていた。やっと江戸に近付けていたというのに。
こんな偶然ってある?
もう会うことはないだろうと思っていた。──マジでありえない。相手が覚えているとは限らないけれど、なるべくおとなしく息を潜めていよう。そうすればあの時に会ったのが自分だとは絶対バレない筈。意識を戻した坂本を警戒しつつ、唯は静かに新八と神楽の背後に隠れる。
「銀さんヤバイですよ! みんな念仏唱えだしてます」
操舵室に着くと、中は爆発の衝撃で荒れ果てていた。
「心配いらねーよ、あいつに任しときゃあ。昔の馴染みでな、頭はカラだが無類の船好き、銀河を股にかけて飛び回っている奴だ。坂本辰馬にとっちゃ、船動かすなんざ自分の手足動かすようなモンよ」
新八は、坂本辰馬という人物を全く知らない。けれど銀時が言うのだからもしかしたらと、期待を込めた眼差しで坂本という男を見つめる。
一方で唯の場合は、坂本が銀時と馴染みあるという事実を知って、より一層驚愕していた。
「よーし、準備万端じゃ。行くぜよ!」
銀時の言う通り、本当に頭がカラらしい。坂本は倒れていた操縦士の足を、舵のように持ち上げた。
「ホントだ。頭カラだ……」
新八が呆れながら言った。銀時は坂本を一発殴り、舵の場所を大急ぎで見つけ出すけれど、既に遅かった。もうどこかの惑星に落ちかけていたのである。
「こうなったら僕が!」
「どけヨ新八。私がやるアル!」
「いやここは俺の出番だろ!」
何故か新八、神楽、銀時の三人が、舵を誰が操縦するかで揉め始めた。
「素人がさわるとポッキリいくから」
揉めているのを間に入って阻止しようとした坂本であったが、足元に剥がれ落ちてあった壁の破片に躓き、自分がポッキリと舵を折ってしまった。
「アッハッハッハッ。そーゆーパターンできたか! どうしようハッハッハッ!!」
「アッハッハッハッじゃねーーよ!!」
腹が立つぐらいの坂本の笑い声が船内に響く。宇宙船は、どこかの惑星に空しく落ちていくのであった。