花ノ命短シ恋セヨ乙女   作:あまてら

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4話 笑えば許されると思うな 後篇

 

 

 

 不時着した宇宙船は大きく損傷してしまったが、乗客達は皆、奇跡的に無事であった。

 しかし中は危険だと外に出てみれば、着いた場所が一面砂漠で絶望しかない。しかも気温は通常よりも更に高く、あまりの猛暑に気が遠くなりそうだった。

 船体の僅かな影に入り、頭にハンドタオルなどを被ったりと、異常な暑さを何とかしのごうとする。

 唯は坂本に知られないようにタオルを頭からかけて顔を隠し、坂本から離れて座っている神楽の隣に腰を下ろして息を潜めた。

 

 暑い……。やばい、暑い……煮える。

 

 頭の中で考えることは暑さだけ。もう暑い以外の言葉が見つからない。何やら坂本と銀時が騒がしいが、暑いので怒る気にもならないし、騒げば目立つので仕方なくうずくまって堪えるのみである。

 

 ああ、どうかバレませんように。ていうか、わたしの名前も顔も忘れていますように……。

 

 そんな願いも虚しく終わる。

「オイ唯、うずくまってると暑さで窒息しちまうぞ」

 何故に今話しかけてきたのか。銀時から名前を呼ばれた唯は、思わぬ事態に緊張が走った。

「あり? ……唯?」

 銀時の口から出た、唯と言う名前に坂本が反応した。

「あ? どうした辰馬?」

「おんしゃ、今"唯"と言わんかったか?」

「はァ? それがどうしたってんだよ。唯ってのは、神楽の横にうずくまってる奴だぜ。なんだよ、お前ら知り合いかァ?」

 

 これはヤバイ。覚えていたパターンきた。

 

 全く余計なことを。唯は何も知らない銀時を恨んだ。

「うーん。どっかで聞いたことのある名前やが……。どこでやったかのぉ?」

 

 よし、このまま記憶から消しておいて。

 

 坂本が完全に覚えていないと知って胸をなでおろした。ついでにこの流れも変わらないだろうかと思っていたその時である。

「そうじゃッ! 顔見たらわかるかもしれん!」

 声に出せない分、唯は心の中で盛大に悲鳴を上げた。

 こういう時に使うのだろうか、絶体絶命。もう、逃げられない。坂本は一歩一歩と唯に近づいてくる。

 

 どうする!? どうするわたし!?

 

 一体どうすれば良いのか、今の心理状態では上手く判断出来ない。

「すまんのー。少しわしに顔を見せてくれんかのー?」

 唯の前に膝を折った坂本が、うずくまるその左肩に手を置いた。

「くーくー……」

 足りない時間で考えた末に、唯は寝たふりをかましたのである。正直言って唯自身でも『これはナイ』と思っていた。

「ん? なんじゃあ、寝ェちゅうがか? なら仕方ないのー」

 なんということでしょう。咄嗟の狸寝入りは通用しないとばかりに思っていたら、坂本は簡単に諦め、唯から離れて行ってしまったではないか。

 

 よっしゃあぁ! 自信なかったのに上手くいったアァ!

 

 心の中でガッツポーズ。後はもう、救助が来るまで寝たフリをしていれば何とかなる気がする。一時的に難を逃れた唯はそのまま狸寝入りを続行し、この最悪な状況下をどうにかやり過ごすことに専念した。

 

「あーもう! 暑いから騒ぐなや~~!!」

 暫くして、苛立ちを募らせた新八がこれ以上我慢出来ないと吼える。何故なら、再び銀時と坂本が騒ぎ始めたからだ。

「ったく……。あっ、神楽ちゃんも大丈夫? キミは元々、日の光に弱いんだからね」

 静かになった銀時と坂本から視線を外し、隣にいる神楽に声をかける。

「大丈夫アルヨ。傘があれば平気だヨ」

 神楽は白い歯を見せながらすっくと立ち上がると、真っ直ぐ前を向いてどこかに歩いていく。

「でも、喉渇いたからちょっとあっちの川で水飲んでくるネ」

「川ってどこ!? イカンイカンイカン! その川渡ったらダメだよおぉぉ!!」

 暑さのせいでおかしくなってしまった神楽を、新八は慌てて止めに入った。

「とっつァん、もう勘弁してくれ。俺ァボクシングなんてもどーでもいいんだ。水が飲みてーんだよ」

「誰がとっつァんだぁ! 銀さんヤバイよ!! 神楽ちゃんが三途の川渡ろうとしてるよ!!」

 新八に呼ばれた銀時も、神楽を止めようとして急いだ。

「おーい、しっかりしろ神楽」

「とっつァん。やっぱ俺、ボクシングやってみるよ」

「あー、ダメだこりゃ。目がすわっちゃってる」

 完全にすわっている目をした神楽は、足元がもうおぼついていない。やれやれ。銀時は仕方なく、自ら神楽をおんぶした。

「しょーがねーな。オイ新八、今からあっちにある川で水飲ましてくらァ」

「お前も見えてんのかぃぃぃぃ!!」

 しっかりしろや。新八は、背後から銀時にかかと落しを食らわせる。

 肝心な銀時も暑さでやられてしまった。しかも気づけば坂本までやられているではないか。

「あぁぁ! もうダメだ! 誰も信用できねーー! おしまいだあああ!!」

 新八は頭を押さえながら絶望した。

 

 ──新八くん。わたしは、まだ大丈夫だよ!

 

 絶望の淵に立たされている新八の叫び。膝にうずくまりながら聞いていた唯は、自分は『まだ正気だよ』と声を出して伝えたかった。けれども、そんな話しかける気力など残されてはいなかった。

 

 あ……、ヤバイヤバイ。これはマジで寝そうだわ。

 

 このままでは、みんなお陀仏──かと思われたその時である。

 上空から何やら音がするのだ。

 幻聴か。否、幻聴ではない。

「船だあああ!!」

 乗客だった誰かかそう叫んだ。

 気を失いかけていた唯は、空を見上げて騒ぐ声に反応して顔を上げる。

「救援だァァ!!」

 空を飛ぶ三隻の船だ。一隻だけ、乗ってきた宇宙船よりも大きく見えた。

「こがなとこにおったんか」

「アッハッハッハッ。すまんのう陸奥! 助かったぜよ」

 降りてきた三隻の内、一際大きな一隻の船から男装した女が姿を見せる。名は陸奥という。どうやら坂本を迎えに来たらしい。

(かしら)のあんたがこんなんじゃあ困るき。わしらに黙ってフラフラするがも、今回限りじゃ」

 呆れるを通り越してなのか。陸奥にあまり表情は無い。

「アッハッハッハッ。やっぱ女は地球の女しか受け付けんきぃ」

 なんというふざけた言い訳であろうか。陸奥は更に冷たい眼差しを坂本に向けながら、『程々にせんと、また病気うつされるろう』と、嫌味を言う。

「アッハッハッハッ。ぶっ飛ばすぞクソ女」

 坂本のマジ返しに『これはガチだな』と悟りつつ、新八は陸奥が乗っていた船に目を移した。

「坂本さん、この船は?」

「ああ、これはのう──」

 新八に船のことを問われた坂本は、話の流れを切り替えるように説明し始めた。

 この船は『快援隊』といって、坂本の私設艦隊みたいなものであると。戦用の艦隊ではなく、会社(カンパニー)と称してこの船を使い、大きい商いをしているのだそうだ。

「色んな星々回って品物を売り買いしよる。まぁ、貿易じゃあ。けんど近頃宇宙は物騒やき、自衛の手段としてこうして武装もしちゅうがよ」

 坂本辰馬という男は、戦が好きではない。人を動かすのは武力でも思想でもなく、『利益』である、と。商売を通じ、天人と地球人双方に利潤をもたらして関係の調和をはかる。坂本は坂本なりのやり方で国を護ろうと考えているのだ。

 へえ、凄い人だな。うちのとこの銀時(大将)とはえらい違いだなと思いながらも、『アンタただのバカじゃなかったんですね』と新八は笑った。

 

「あー助かったぁ」

 これぞまさに天の助け。遊歩甲板で腰を下ろす乗客らの一人が言った。

 迎えに来たついでではあるけれどと、陸奥のご好意により、快援隊に乗客達全員を乗せてもらえることになったのだ。しかも水まで提供してくれるとは有り難い。

 

 ──まだまだ油断大敵だけどね。

 

 確かにこれで一安心。けれども、まだ気を抜くのは早いだろう。油断は禁物だ。更に影を薄くしなくては。唯は一刻も早く地球に戻りたいと願いつつ、目立たない他の乗客らの背に隠れるようにして身を潜めた。

 すると突然、どこからか耳をつんざくような悲鳴が上がった。

 何だ何だと見てみれば、悲鳴を上げた者達が指差す方向に何やら馬鹿でかい触覚らしきものが蠢いていて、何人かが次々とその触覚によって捕らえられた。

「ほっとけほっとけぃ。幻覚じゃあ。アッハッハッハッーー」

 暑さの幻だと笑う坂本も、謎の触覚に巻きつかれて捕らわれてしまった。

「なっ、なな、何だアレェェー!!」

 何の化け物だ。他の者達が慌てふためいている時に、陸奥が冷静に『あれは砂蟲』と、教えてくれた。

「この星の生態系で頂点に立つ生物や。普段は静かやが、砂漠でガチャガチャ騒いじょったきに、目を覚ましてしもうたか……」

「ちょっとアンタ! 自分の上司がエライことなってんのに何で、そんなに落ち着いてんの!?」

 陸奥のあまりの落ち着きように、新八はツッコミを入れざるを得ない。

「勝手なことばかりやりゆうきこんなことになるんじゃ。砂蟲よォォ! そのモジャモジャやっちゃって~! 特に股間を重点的に」

「何? 何の恨みがあんの!?」

 どうやら陸奥という女性も、坂本によって何かしら酷い目にあったのだろうかと、隅で見ていた唯は身震いした。

「アッハッハッハッ! わしがこんな所で死ぬかァァ!!」

 砂蟲の足に捕らわれていた坂本は懐から拳銃を取り出し、他に捕われてしまっている人達に巻き付く砂蟲の足を次々と撃った。

「みんなァ逃げェェい!!」

 巻き付かれていた人達は砂蟲から解放され、皆逃げ出すことが出来た。しかし、坂本だけがまだ捕まったままである。

 そして砂漠の地面から地響きが起こり、砂蟲の大きい本体が姿を現した。

 その見た目は大きな殻にでも入っているような、まるでタコかイカのようであった。

「でっ、出たァァァァァァ!!」

 坂本を捕らえている状態の砂蟲が何本もある足で船を掴む。

「ヤバイ! 船ごと地中に引きずりこむつもりだ!!」

 砂蟲の地中に引きずり込む力は半端ではない。

「大砲じゃあああ!! わしはかまんきぃ、大砲をお見舞いしちゃれェェェ!!」

 坂本の言葉に新八は驚いた。

「でも坂本さん!!」

「大砲うてええエエェ!!」

 睦奥が大砲発射の合図をかける。容赦なく、だ。

「ちょっ……、あんた坂本さん殺すつもりですか!?」

 正気の沙汰じゃない。信じられないと陸奥を見れば、彼女の坂本を見つめる眼にはひとつも揺るぎはなかった。

「奴一人の為に乗客全てを危機にさらせん。今やるべきことは、乗客の命を救うことじゃ」

 

 『大義をうしなうな』

 

 それが坂本の口癖だった。

「撃てエエェ!!」

 大砲は砂蟲を撃つ、撃つ、撃つ。

「奴は攘夷戦争の時、地上で戦う仲間ほっぽいて宇宙へ向った男じゃ。なんでそんなこと出来たかわかるか? 『大義』の為よ。目先の争いよりも、もっとずっと先を見据えて将来の国の為に出来ることを、考えて苦渋の決断ばしたんじゃ。あの男は……」

 そんな坂本()に惹かれ、陸奥達は集まった。だから、坂本の生き方に反するような真似は出来ない。

「それに奴は、こんなことで死ぬ男じゃあないき」

 決してここではない。だがしかし、大砲を受けた砂蟲は、坂本ごと地中に逃げようとしていた。

「いやいやいや! 死んじゃうってアレ! どう考えても死ぬよアレ! 地中に引きずり込まれてる!!」

「砂蟲が土の中に逃げるそォ!!」

「イカン! 坂本さんが……!!」

 早く救わねば。慌てた坂本の部下達は、完全に潜られる前に砂蟲を仕留めようとした。

 ──その時。銀時が部下達の背後から高く跳び上がり、大砲の発射部分に木刀を突き刺しながら着地した。

「こんなモンぶちこむからビビッて潜っちまったんだろーが。やっこさんが寝てたのを起こしたのは俺たちだぜ。『大義』を通す前にマナーを通せマナーを」

 大砲の上に立ち、如何にも正論ぶる銀時に陸奥は、『オメーが言うな』とジト目で呟いた。

「辰馬ァてめぇ、星を救うとかデケーこと吐いてたくせにこれで終わりか? 昔からてめぇは口だけなんだよ。俺を見ろ俺を。自分の思った通り生きてっぞォォ!!」

 それを言い終えたとほぼ同時だった。銀時が砂蟲に向かいながら跳び降りたのは。

 砂蟲によって地中に深く潜り込んでいってしまった坂本を助ける為に、危険を承知で自分も潜ったのである。

「銀さん!!」

「銀ちゃん!」

 新八と神楽が名を呼んだ。驚きの行動に出た銀時に唖然とした者達は、皆一斉に砂蟲の潜った砂漠を船から見下ろした。

 

 ──ちょ、ちょっとおぉ!?

 

 無謀にも程がある。隅で潜んでいた唯も、その一人だった。

 顔を隠す為にかけていたタオルが頭から落ちたが、気にも留めなかった。

 何も出来ない。無事なのかそうでないのか。皆から言葉は消え、黙った。

 二人の無事を祈って数分が過ぎた頃……。

「あっ──」

 砂蟲が沈んだ後の砂煙が徐々に消え失せる。見えてきたのは、銀時によって地上に引き上げられた坂本と、その銀時の姿だった。

「坂本さんじゃ!!」

「坂本さんが生きちょったあああ!!」

 坂本の部下達は急いで船から降りると、無事であったことに大喜びしながら二人のもとへと走っていく。

「無茶なことを……」

 銀時という男は一体何を考えているのだ。坂本と銀時の姿を船から見つめていた陸奥が、堪らず口を開いた。

「ホントッスね。何考えてんでしょ、あの人達」

 陸奥の横に立つ新八も、ずれたメガネを直しながら言った。

「何を考えてるていうか、何も考えてないネ」

 銀時はいつもそうだ。神楽が答えれば、新八は少しだけ微笑みながら言った。

「でもなんか、あの人らしか見えないもんがあるのかな……」

 隅っこでいなきゃと思っていたことなどすっかり頭から抜けてしまっていた唯は、新八達から一歩離れた場所に立って、理解不能な行動に対して呆けながら考えていた。

 まだ二週間ぐらいしか彼らと過ごしていないせいもあるのか、彼らにはついていけない部分があった。

 

 よく考えてみても、ありえないから。

 

 そうだ。一般的に考えて普通とは違うから、ついていけないのも無理はないのかもしれない。

 

 ──でも。

 

 ただ、先程のあんな無茶な行動をしたり、普段がまるで駄目な男ではあるけれども、何か惹かれるものがあるからこそ、新八や神楽は銀時から離れていかないのだろう。坂本に惹かれた陸奥達のように。

 

 わたしにはまだ、わからないや。

 

 銀時の新たな一面を見て少し理解に苦しみつつも、自分でもわからない何かに少しずつ惹かれ始めていることを、唯はまだ知らなかった。

 

「銀さーん!」

「銀ちゃーん!」

 船に銀時と坂本が戻った。坂本はガハハと笑っていて、睦奥が皮肉った言葉で出迎える。銀時のもとには新八と神楽が走って駆け付け、唯も遅れながら向かった。その手にはハリセンが握られており、銀時の頭を一発叩いた。

「いてッ、何すんのお前!? 無事だった俺に対してその扱いひどくねーかッ」

「いくらなんでも無茶し過ぎ! 新八くんと神楽ちゃんがどれ程心配してたことか」

 ハリセンで叩かれた頭を摩る銀時が、唯から新八と神楽に目を移した。

「えっ、私そんなに心配じゃなかったヨ」

「僕も然程は……」

 あれ、そうでもないのか。これは想定外。思わず唯の目が点になる。

「なーんだ。凄く心配してくれちゃってんのはお前の方じゃねーか。ったく……、素直じゃねーなァ、オイ」

 銀時はニヤニヤと小馬鹿にしながら笑った。

「もう一回地中に埋めてやろーかァァァ! あアァ?」

 顔を真っ赤にした唯は、銀時の胸ぐらを片手で掴み、もう片方の手に持つハリセンで頭や顔を何度も叩きまくった。

 

 おやおや、何じゃあ──。騒がしさに目が行った坂本は、ハリセンで銀時を殴る唯を見て何かを思い出し、堪らずに声を上げた。

「おおおおォォ!!」

 唯に悪寒が走る。ハリセンで殴る手を止めた次の瞬間だった。突然に真横に現れた坂本が、唯の両肩を掴んできたのだ。

 

 ──は?

 

 一瞬何が起きたのかわからなかった。バレた時に誤魔化せるよう頭にかけていた筈のタオルのことを思い出した唯は、それが無いことに気づくと、自分の目の前にいる坂本を見て凍りついた。

「そうじゃそうじゃあ! 思い出したぞッ! やっぱりあの唯ちゃんじゃ! 偶然じゃの~。まっこと久しぶりぜよ! そういえば、あん時の唯ちゃんの蹴りでわしゃあ死ぬかと思うたきの~〜。アッハッハッハッ」

 急に何なの一体と、横で見ていた銀時達は一拍置いてから納得した。

「何だ、やっぱ知り合いじゃねーか」

「っていうか唯さん凍りついてますよ。後、気になるワードの『蹴り』って何? 坂本さん何やったんだよ」

「わしに会うてから感激のあまりに凍ってしもうたかッ! アッハッハッハッ!」

「そうは見えないアル」

 石のように固まる唯を指で突っつきながら神楽が言う。

「おーい唯ちゃん。しっかりするぜよ! こうしてまた出会えたのも何かの縁じゃ。この後わしと一緒に──」

 坂本が喋っている途中だった。固まった体が解け、唯の瞳孔が開いたのは。

「いっやああァァァーー!!」

 数秒後。遠いどこかの惑星で、金蹴りされた坂本の悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 あれから無事に地球に帰ってきた。

 唯は今日も、いつものようにスナックすまいるで働いている。

 

 ホント……、あの後マジで色々めんどくさかったわ。

 

 地球に帰る船の中で、坂本とは一体どういう関係なのかと銀時達から質問責めに合い、最初から金蹴りまで全部説明する羽目になったり、『あの時の出来事は決してイヤらしい事をするためじゃない』と弁解してくる坂本が、笑いながら『これからの友情を築いていこうのハグ』と称して抱き着いてきそうになったりした。

 まあ、それは陸奥が顔面グーパンで止めてくれたお陰で逃れられたが……。

「唯ちゃん、どうかしたの?」

 控え室でぼうっとしていた唯に、お妙が声をかける。

「え、あ、ううん。ごめんなさい。何でもないよ。ところでさ、今日もゴリ……じゃなかった、近藤さん来るの?」

 ほぼ毎日来店してくる近藤の話をすれば、お妙が深いため息を吐いた。

「来るでしょうねぇ。全く気持悪いったらありゃしないわ。そうだ、気持ち悪いと言えば……。唯ちゃんがこの店来る前からね、おりょうちゃんを必ず指名してる常連のお客さんがいるんだけど、やけにベタベタしたりオシリ触ってきたりで気持ち悪いって言ってたの思い出したわ」

「えェェ! ヤダァ」

「ホントやーよねぇ。因みに今日も来てるみたいよ」

 客だからって、お金払えば何しても良いと思ってる最低な奴だ。唯が憤慨すると、控え室の扉を少し開けたお妙がこっそりと店内を指差した。

「ホラ、あそこ。6番テーブル。あのモジャモジャの人がそうよ」

「モジャモジャ?」

 モジャモジャと聞いて一人だけ心当たりはあったものの、『まさかな』と、半笑いでお妙が指した6番テーブルを見た。

「アッハッハッハッ! おりょうちゃんは今日も美しいの~! わしの嫁に来てくださいッ!アッハッハッハッ」

 件のセクハラ客は、あの坂本であった。

 坂本はおりょうにベッタリとくっつき、そのおりょうは顔が引きつっていた。

 その光景を見てゾッとした唯は、心の底からおりょうに同情するのだった。

 

「ご愁傷様、おりょうちゃん……」

 

 

 

 

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