花ノ命短シ恋セヨ乙女   作:あまてら

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注)子供時代の土方の年齢11歳(家を出る時の)を変えてます。




6話 二次元ほど現実の妹には萌えない 後篇

 

 

 

 土方家はその村で有名な豪農であり、父は当主。唯は10人兄妹の末の娘として生まれた。

 唯は父の顔を知らない。何故なら父は、唯が産まれる前に労咳によって亡くなっていたからである。また、母も物心がつく前に同じ労咳で亡くなっていて、次の当主となった兄の為五郎とその妻の元で、他の兄や姉らに世話を受けながらすくすくと育っていった。

 唯には、9人の兄と姉以外にもう一人の兄がいた。唯が産まれる2ヶ月前、兄の為五郎によって引き取られた父の妾の息子──。それが後の真選組の副長、土方十四郎である。

 

 

 

 真選組屯所では、朝から数名の隊士達が何やら声を潜めて話をしていた。

「なぁなぁ、なんかさァ、副長元気なくね?」

「確かにな。機嫌もいつもの倍悪いし……」

「山崎、お前何か知らない?」

 集まって話をする隊士らとは一歩離れていた山崎に、皆が注目する。

「そういえば昨日、近藤さんたちと『すまいる』行ってたよな?」

「えっ……!」

 一斉に詰め寄られ、山崎は冷や汗を流した。

「知ってるんだろ?」

 昨日の出来事を知っている山崎は、近藤に『内緒にしておけ』と口止めされていたので、それだけはどうしても言えやしないと、この場を乗り切るために知らないふりをしようと考える。

「し、知らないですよッ。全く知らないなァ」

 しかし、明らかに不自然の如く動揺する山崎を見て、隊士たちはより一層怪しんだ。

「めちゃくちゃ怪しいじゃねーか」

「あ~〜わかった! 女絡みじゃね?」

 その中の一人が言うと、詰め寄る山崎からそちらに皆が逸れた。

「あははッ、何? フラれたとかそんなんか?」

「バカ言うなよ。あの副長だぜ? フル女なんていんのか?」

「なんか面白そうな話?」

 盛り上がり出した隊士達の背後から声が聞こえ、『誰だ』と振り向けば、そこにいたのは真選組一番隊の隊長、沖田総悟だった。

 ちょうどその頃。話題の人物であった十四郎は、口に煙草をくわえながら自身の部屋でひとり惚けていた。机の上に置いてある情報書類に少し目をやっていたものの、集中する事は全く出来ずに、部屋の外から見える空をじいっと見つめては物思いにふけっているのである。

 思い出されるのは、兄の為五郎や姉、のぶと一緒に、まだ赤ん坊だった妹をこっそりと抱いた日の事。そして、凍った心に温かい気持ちを与えてくれたあの日の事だ。

 

「ホラ、唯だ。可愛いだろう?」

 

 恐る恐る抱いた赤子は、とても小さくて柔らかかった。

「今まで十四郎、お前が一番下の末ッ子だったが、これからは違う。今日からお前も兄になるんだ。しっかり唯を守ってやるんだぞ」

 こちらを見て笑う、何も知らない無垢な『妹』。

 為五郎やのぶ以外の兄達から忌み嫌われ、ぶつける先の無い怒りを抑える日々。小さな世界で生きるしかないそんな中で、自分を真っ直ぐに慕ってくる妹は、幼い己の心の強い支えとなった。

 

 守ってやるどころか俺は……。

 

 吸っていた煙草を灰皿に押し消しながら、十四郎は自嘲した。

 昨晩の唯がフラッシュバックすれば、口から自然に『唯』とこぼれる。

「入るぞ」

 その声に我に返ると、近藤が襖を開けて入って来た。

「なんか用でもあるのか?」

 眉間に皺を寄せ、目も合わせない十四郎を見ながら近藤は、少し苦笑いを浮かべた。

「別に用って訳でもないんだがな……」

 一時沈黙が流れた後、耐えられなくなった土方が隣に座る近藤に目を向け、口を開いた。

「近藤さん、昨日はすまねぇ。実はあの時──」

「気にするな。妹さんと再会した事だろ? 見た感じでは久しぶりの再会のようだったなぁ。トシに妹がいたなんて初耳だったから、少々驚きはしたが……」

「……悪ィ」

「だから気にするなと言っただろう? 何があったかは知らねぇが、俺が口を挟む事じゃない。お前が言いたくなければ言わなくて良いんだ。だが、元気ない顔はよせ。いつものお前らしくないから、他の隊士達が驚いてるぞ」

 近藤はニカリと笑って見せる。

「近藤さん」

 煙草に火を着けて口にくわえた十四郎は、開いていた障子の外から見える曇り空に視線を移した。

「ん? なんだ?」

「少し、話を聞いてくれねーか?」

 

 ほぼ同時刻。万事屋では、相変わらず和室に唯が引きこもっていた。

「唯ーー! 朝御飯食べないアルかァ?」

 ソファに座りながら、和室にいる唯に向けて神楽が声をかけた。

「今日は美味しい銀ちゃんの朝御飯ヨ~〜」

 応答は、なしである。

「ほっとけってんだろッ神楽。食う気ねーヤツに無理に食わす事ァねぇって」

 既に食べ終えていた銀時がジャンプを読みながら気怠げに言う。そんな銀時を横目に、神楽はぼそりと呟いた。

「やっぱ冷たいアル」

「なんか言ったか?」

「何でもないネッ。ちょっと定春と散歩行ってくるアル。行こう! 定春ぅ」

 気不味い雰囲気に耐えられず、神楽が定春と出て行こうとした時だった。

 玄関の引き戸が、勢い良く音を立てて開かれる。

「お邪魔致します!!」

「姉御!?」

 開けたのは、お妙であった。

「姉上ッ!!」

 お妙より少し後に新八も現れた。

 一体全体何だ。不思議に思いながら神楽は、二人に付いて居間へと戻る。

「何? どうした?」

 突然のお妙の訪問。少し驚いた銀時もジャンプを読むのを止め、寝ていた身体を半分起こした。

「っておーい無視ですか?」

 お妙は銀時の質問には一切答えない。真っ直ぐと和室の襖を見つめ、勢い良く開け放つ。

「お、お妙さん……?」

 いきなり現れたお妙に、唯は唖然とした。

「ど、どうした──」

「どうしたもこうしたもないわァァァ!!」

 飛びかかるかの様に唯の胸ぐらを掴むと、その掴む手を更に強くさせて顔を近付ける。

「お、お妙さ……」

「唯ちゃん、あなた共同生活するにあたって、相手の素性もわからないまま暮らしていける?」

「──は?」

「あなたは誰にも自分の事を教えたりなんかしないの? そうやって引きこもって悩んだりしても、なんの解決にもならないわよ。もう少し、私達に頼ったり信用してくれても良いんじゃないかしら?」

 そして胸ぐらを掴む手を離し、今度は唯の両肩に自分の両手を置いた。

「どういう理由だろうと、あなたは『万事屋』で銀さん達と暮らしているの。関係なくないで、あなたを放って置いて生活なんて出来ないのよ? 新ちゃんや神楽ちゃんがどれ程心配してるかわかっているの? 銀さんだって冷たいようだけれど、内心どうしていいか分からずにイライラしてるんだから」

 お妙から視線を横に移せば、心配そうにこちらを見つめる新八と神楽と目が合った。ソファに座る銀時とも目が合ったのだが、直ぐにそらされてしまった。

「最初は仕方ないって思ったわ。深入りしてほしくない事情かもしれないし、まだ知り合って間もないしあえて色々聞かなかった。お節介だしね。でもね、少しくらいは心開いて悩んでる事を相談してほしいの。いつまでかはわからない。ここにいる間だけでも良いから銀さん達を頼ってほしいし、勿論仕事仲間の私にも。……これからは友達として、ね?」

 怒りの形相はどこへやら。お妙は唯の両手を優しく包み込む様に握ると、にっこりと微笑んだ。

「何か悩んでたアルか?」

「僕達まだ頼りないかもですけど、愚痴とか悩みとか聞きますよ。話すだけでもスッキリすると言うか……、一人より、皆で悩みましょうよッ」

 側らで伺っていた新八や神楽も、なんだか照れ臭そうに声をかける。

「そうヨ! ここは『万事屋』アル! ネッ、銀ちゃん?」

 神楽は、ソファに座っている銀時を呼んだ。

「……ッたくよー、お前が元気ないから神楽や新八がウルサイのなんのって」

 既に読んでないジャンプをテーブルの上に置き、銀時は耳の中を小指でほじくりながら言う。

「仕方ねーな~〜オイ、安く相談にのってやっても良いぜ?」

 

 わたしの事、心配してくれてるんだ……。

 

 ここから早く出たかった。どうせ短い付き合いだろうから、深く関わる事なんてしないしされないと思ってたのに。ただ、皆にとってはくだらない事で落ち込んで悩んでいただけであったのに。

 唯の心は、温かい何かに包まれた気持ちになった。

「心配かけてごめんなさい。あの、ね、わたし、相談にのってほしいことがあるの」

 待ってました。唯のその言葉に新八と神楽、お妙は笑顔になった。

 居間のソファに座り、そして唯が俯き加減で語り出す。

「実は昨日、ずっと会ってなかった兄と再会したの……」

 幼いながらに覚えている数少ない大切な思い出の中で、決して忘れる事の出来ない記憶が蘇る。

 

 あの日は雨が降っていた。

「やっぱりオレが悪いんだ。オレのせいであの人(・・・)が……!」

 午後を少し過ぎた頃。外は雨で遊べず、仕方なく自分の部屋で絵を描いていた唯の耳に、庭から十四郎の嘆く声が入って来た。

 どうしたんだろう。いつもとは違う兄の様子に、唯は幼いながらに只ならぬものを感じ取った。

 理由はあったのだ。

 村で大火事が起きたある年、家に盗みに入った暴漢から為五郎が十四郎を守り、両目を失明する大怪我をした。

 怒りに任せて我を忘れ、暴漢相手に十四郎は暴れた。結果的には撃退し、これ以上の被害と犠牲にはならなかったものの、その残酷なやり方には他の兄や姉が皆、十四郎を恐れるようになった。

「トシくん、あなたが悪いんじゃない。いつまでも自分を責めちゃ駄目よ」

 庭へ顔を覗かせれば、拳を握り締めながら顔を俯かせる十四郎と、濡れないように傘を差して側にいたのぶが見えた。

「あいつらだってオレを恐がってる、オレは疫病神だって。オレさえいなきゃ、オレさえ……っ!」

「トシくん!」

「あんただってそう思ってるんだ」

 もしかして、泣いているんじゃないか。そう感じた唯は、傘も差さずに飛び出した。

「おにいちゃん! どうしたの?」

 唯の声にびくりと身体を震わせた兄の十四郎は、突然現れた唯を困惑の表情で見る。

「……何でもねぇからあっち行ってろ」

 顔を別に逸らし、十四郎は三歩離れた。

「どうしたの? おなか痛いの? お薬のもう?」

 この時はまだ、幼過ぎて兄の気持ちや状況を理解出来なかった。唯の前では優しくて明るいのに、今は辛そうな顔でいるのが不安で仕方ない。きっと何か悪い物でも食べて具合が悪いんだ、としか思わなかったのだ。

「あっち行けって」

「お薬のめばなおるよ。ね、おにいちゃん」

 いつもの兄に戻ってほしかった。この手を取ればきっと、こちらを見て笑ってくれる。そう当たり前に信じて、唯は十四郎の握り締めていた手に自分の手を伸ばす。

 ──僅かに触れた瞬間だった。

「触るな!」

 唯の手を、十四郎は強く振り払った。

 そのせいか、唯は地面に突き飛ばされるように倒れてしまったのである。

「唯ちゃん!」

 のぶが慌てて唯を抱き起こし、十四郎に声を上げた。

「トシくん! 何で!」

 十四郎の顔は唖然呆然。唯もまた同じくそうで、あまりの事に泣くのも忘れている。

「……から、だから、オレさえいなければ──っ!」

 まだ唖然としている唯とのぶから逃げるように、十四郎は走り去った。

「お、おにいちゃん!」

「トシくん!」

 その日から十四郎は姿を消した。直ぐに帰って来ると思われたが、翌日の唯の誕生日にも、十四郎は家に戻りはしなかった。

 以前からもあった。3日程帰らない事も。

 唯は信じていた。

 いつも側にいてくれて、守ってくれて、きっと今までのような笑顔で『ごめんな』って言って帰って来ると。

 ひたすらに待った。それから一年経っても、二年経っても。他の兄達や姉達が待つのを止めても、ずっと、ずっと。

「外は寒いから風邪をひくわよ。中に入りましょ?」

「はいらない。トシおにいちゃん、帰ってくるかもしれないから」

「唯ちゃん……」

「他の兄上や姉上はトシおにいちゃんのこと嫌いでも、ゆいにとっては大好きなおにいちゃんだから、帰りを待ってたいの。だけど……お、おにいちゃん…ッ、わ、わたしのこと嫌いになったのかな? だから、家をでて、帰ってこないのかな?」

 大粒の涙を流しながら言う唯を抱き締め、のぶが雪降る夜空を見上げた。

「そんなことない。唯ちゃんが嫌いになったから帰ってこないんじゃない。十四郎はあなたのことを、私達以上にとっても大事にしてた。きっとそのうち帰ってくるわよ」

 

 ──それから数年。長兄の為五郎が病の末亡くなり、14歳の誕生日を迎えた唯は、十四郎の帰りを少しずつ諦めかけていた。

 所謂思春期。何かに対して苛立つ事も増え、他の兄達や姉に不満をぶつけたりするようにもなった。だからあの日以来、いなくなって連絡もなし。長兄が亡くなった時でさえ帰ってこない十四郎には、悲しみよりも先に怒りの方が増していた。

「トシお兄ちゃん、きっと兄上や姉上のことなんか忘れたんだよ。どうせ、今頃知らない女の人と暮らしちゃって帰ってこないんじゃないかな」

「あなた今まで『大好きなお兄ちゃんだから待ってる!』って散々言ってたじゃない。みんなが諦めても、あなただけはずっと諦めないで待ってると思ってたんだけど……」

「だって! いつまで経っても帰ってこないじゃない! 連絡だってないし、やっぱりわたしのこと嫌いになったんだよ! あの日の朝だって、絶対に誕生日はお祝いするって約束したのに』

 あの時だって本当は、ショックで堪らなく悲しかった。振り払われた手や心の痛みは今も忘れられない。大好きだけれど、大嫌い。

 ただ、十四郎の当時の事を知らされれば、仕方がないという気持ちもある。

「だからいつも言ってるだろう、アイツは疫病神だ」

 長兄の跡を継いだ次兄が言う。

「あんな妾の子、いなくなってせいせいするわ」

 久しぶりに訪ねて来た次姉も言う。

「あんなのは忘れてしまえ。恐ろしい眼をして非道な奴、土方の家には必要ない」

 十四郎を嫌う兄や姉達の言葉が胸に刺さる。

 

 そんな事言わないで。

 

 いつもならそう言い返してた。

 けれどもその時は、思春期が邪魔をして言えなかったのだ。

 

 お兄ちゃんのこと、悪く言うなんて酷いよ。

 

 言えば良かった。なのに口から出たのは違うものだった。

「トシお兄ちゃんなんて、嫌いだ。大嫌い。知らない。もう待たない」

 言って直ぐに涙が出てきた。自分の胸が痛んだのだ。それは本心じゃなかったからである。

 気付けば時間だけが過ぎていく。そんなある日。

「トシくんから連絡が、手紙が来たのよ!」

 突然の報せだった。

 連絡をしなかった事の謝りと、家にはもう帰らないという事のみ。今は何をしてどう生きてるなんてのは一切書かれてはいなかった。

「なんだ、やっぱり帰ってこないんだ」

 思春期を終えてからは、あの日の事を冷静に考えるようにはなってきていた。だが、自分の言葉に後ろめたいものはある。『もう待たない』、『大嫌い』それらが脳内を駆け回っているせいで、『あんな事言ってしまったから、だからもう帰ってはこないんだ』と、十四郎からの手紙の内容で酷く落ち込んだ。

 それからも、十四郎からの直接的な手紙は送られてはこなかった。

 

「──その後、わたしは江戸で一人暮らしを決めて家を出たの。まぁ、色々あって江戸に来るまで時間がかかったんだけど……。今年の始め、姉宛に手紙が届いて、兄が、トシお兄ちゃんがわたしに会いたいって。でもわたし、会うのを拒んだの……」

 俯きがちな唯に向け、新八が問う。

「どうしてなんですか?」

「だって兄は、もうわたしのことなんてどうでも良いって、きっと会いたくないくらい嫌いになってるんじゃないかって、わたし勝手にそう思ってきてたし。それに10年以上まともに連絡も何もよこさないで急に会いたいって言われても……」

「そうよね、色々複雑な心境だものね」

 お妙がそう言うと、唯はゆっくりと頷いた。

「一度断るとなんだか会いづらくなって、でも会って色々言いたいことが山ほどあるし、でも会う機会もタイミングもどうしたらいいかわかんなくて……」

 唯は両手で顔を押さえた。

 悩んでいるところ、まさかの仕事場でばったりなのである。

「それであんなに元気なかったんですねぇ」

 それなら引きこもっていた理由も何となく頷けると新八。すると、腕を組みながら黙って全てを聞いていた男が遂に口を開いた。

「じゃあこれから先も、ずっと会わねぇで逃げて引きこもるつもりか?」

 皆が一斉に銀時を見る。

「ったくよ~、静かに聞いてりゃお前、兄貴大好きブラコンじゃねェか。なんだかんだでものすごーーく会いてェんだろ? それを何で躊躇して拒んでんのか俺はさっぱりわかんねーぜ。10年くらいの月日が何? 急に会ったがどうした? キャバクラで会ったがどうした? そんな事ァどーでも良い。今会わないでいつ会うんだ? このまま逃げて会わねぇで何かあった時に後悔したって遅いぞッ」

「坂田さん……」

 この男からのまともな言葉である。

「銀ちゃんの言うとおりアル!!」

「そうですよッ。唯さん、会いましょうよ!!」

 身を乗り出して神楽と新八が言った。

「唯ちゃん。一人で会いに行くのがあれだったら、私ついて行くから」

 隣にいるお妙が、唯の手を優しく包むように握る。

「あ、あの……」

「俺ら『万事屋』だ。くれるもんくれたらちゃんとこなすぜ。会いに行けねぇってんだったら、その"トシお兄ちゃん"とやらを、万時屋(ここ)に連れて来てやるよ」

 胸の辺りがこそばゆく、少し恥ずかしい気もする。けれど唯は、先程よりももっと温かな思いに包まれた気持ちになった。

「わ、わたし会いに、会いに行くッ!! でも、少し心細いから……」

 顔を赤らめて恥ずかしそうにお妙を見れば、お妙はにっこりと微笑んだ。

「大丈夫、私達も一緒に行くから」

 皆を見れば心強く感じ、唯の目は涙で潤んだ。

「で、お前の兄貴の名前なんて言うの? 居場所はわかってんのか?」

「うん。真選組で働いてるから……」

「えっ何、お前の兄貴真選組隊士なのかよ」

「隊士っていうかその……」

 歯切れ悪くもじもじとする唯を見つめながら、新八があることに気づいた。

「真選組、ん? そういえば唯さんの苗字って……」

 

 その頃十四郎は、近藤に唯とのこれまでの経緯や思い出を語り終えていた。

 為五郎の失明は自分のせいだ。そう今でも思わない日はない。あの時の幼い自分は、直ぐにでもいなくなってしまいたかった。けれど、ギリギリのところを踏みとどまらせていたのは唯の存在だった。

 しかしそれも最早限界だった。

 自分のせいだ。自分は疫病神なのだ。他の兄や姉からの言葉が突き刺さる。為五郎が病に伏せぎがちになると、十四郎はますます自分自身を責めてしまっていた。

 唯の手を振りほどいてしまったのは、こんな疫病神の自分に触れられたくはなかったから。為五郎のような不幸を妹にも与えてしまうのではないかと恐れたからである。

 

「そんなことがあったのか……」

「色々話しが長くなっちまってすまねェ」

「いや、トシ、話してくれてありがとな」

「礼なんて言われるような話はしてねぇ。後悔ばかり残ってる馬鹿なガキの頃の懺悔さ」

 この話の間で何本目か。十四郎はまた煙草を一本手に取り、ライターで火をつける。

「すまねぇ、気づいてやらねぇで。俺がもっと早くに話を聞いてやれば……」

「よしてくれ近藤さん。アンタにはそういうつもりで話を聞いてもらったんじゃねぇよ。今の俺がいるのは近藤さんのお陰なんだ」

「そうか。なァ、唯ちゃんには、ちゃんと会って話しはするつもりなんだろ?」

 頭を軽く掻きながら近藤が問う。

「ああ、今はちゃんと会って話しねェと。けどむこうが拒否してんだ。……まぁ、嫌われて当然な兄貴だから仕方ねェんだけどよ」

 溜息を漏らすように煙を吐けば、馴染みのある声が廊下側の障子の向こうから聞こえてきた。

「なーんでィ土方さんよ、水臭ェじゃね~ですかィ」

 十四郎が勢い良く障子を開けると、にたにたと薄気味悪い微笑みを浮かべながら真選組一番隊隊長の沖田総悟か部屋に入って来た。

「そッ、総悟!?」

「いやァね、聞くつもりじゃなかったんですよ。山崎があんまりに口割らねェんでシメてやろーかなァって。で、土方さんの妹がどうたらこうたらと吐いてくれたんですがね、詳しくは分からなかったんで直で聞いてやろーって思ったら、運良く聴こえてきたって訳ですァ」

 そう言った沖田は、十四郎の顔を見てニヤリと含みのある笑みを向けた。

「オイッ! 何、勝手に話全部聞いてやがんだッ!? しかもなんだッ、そのニヤリはッ!」

「いや~、今日は良い天気だぜィ」

 曇りなのにどこが良い天気だと言うのか。

「話そらしてんじゃねーよ! くっそ、山崎のヤローぶった切ってやるッッ!」

 怒りの矛先は山崎へ。十四郎はそのまま部屋を出て行ってしまった。残されたのは、近藤と沖田のみである。

「……総悟、さっき聴いた事はみんなには黙ってるんだぞ。後、その話で色々トシに事はやめといてやれ」

 沖田は一瞬近藤に目を向けると、すぐさま違う方へと逸らした。不満はあるものの、近藤の前ではそれを出さない。沖田は、適当な返事をしてから部屋を出て行った。

 

「山崎ッ! どこだー!」

 屯所の中をバタバタと探し回る十四郎に、通りすがりの隊士が声をかける。

「あれ、副長何してるんですか?」

「山崎知らねェか?」

「えっ、山崎? あれ? さっきまで一緒にいたんですが……」

 山崎は殺気を感じ取り、十四郎から隠れていた。

 

 あ、危なかったーー!

 

 沖田に無理矢理とはいえ、話してしまったのは事実。このままでは副長に殺されてしまうのでは。死を予感して身震いした山崎は、これからどこに隠れようかと必死に考えていた。

「ん?」

 ふと、真選組屯所の出入り口から誰かが入ってきたのが見える。山崎は忍び足をして歩くことも忘れ、外へ出てみた。

「あ、お妙さん!」

 近寄ってみると、その人物はお妙であでった。

「あら、……どなたでしたっけ?」

「や、山崎です。あの、近藤局長と『すまいる』で御一緒した……」

 妙は暫し考えて何かを思い出す。

「ああッ、あの山崎さんねェ。ごめんなさい~、あんまり地味だったから覚えてなくて」

「い、いえッ、いいんですよ! よく言われますから。所でなんか用ですか? あっ、局長ですか? 呼びますよ」

「いいえ結構です。それに、用があるのは私じゃなくて……」

 お妙が振り向けば、遅れて万事屋三人組が現れた。

「あれッ、旦那じゃないですか! ってことは、用があるのは旦那ですか?」

「あ? ちげーよ。なんで俺が用あってこんなとこに。用があんのは、コイツ」

 気怠げに銀時は、出入り口からなかなか入ってこない唯を引っ張り入れた。

「わッ! ちょッ…」

「唯さん!」

 現れた唯は、不自然に虚どっていた。

「もしかしなくても、副長に用ですよね?」

 山崎は何かを察した。

「そうですよ。僕ら、てか唯さんが土方さんに会いに来たんですよ」

「そうヨッ、さっさっと案内するアル!」

 新八と神楽が山崎に詰め寄る。

「あ…、はい」

 案内しようとしたその時、山崎を探す十四郎の声が耳に入る。

「げっ、副長……忘れてた!」

 山崎の口から『副長』と出たことに唯は反応し、咄嗟に銀時の背後に隠れた。

「山崎ィ~、テメェ何総悟にバラして……」

 山崎を探していた十四郎は、屯所出入り口にいる山崎を見つけるや否や、その場から怒りを持って駆け出した。

 顔を青くし、怯える山崎の後ろに見えたのは万事屋の坂田銀時。

「──ん? お前ら何やってんだ?」

 そしてその銀時の背後にいるのが唯だった。

「唯、何でここに……」

 場所を移動し、真選組屯所のとある一室。

 唯と十四郎を十四郎の部屋で二人っきりにさせ、銀時達はこの部屋で静かに待機していた。

「大丈夫かしらね、あの二人。様子、見てこようかしら……」

 そわそわとしていたお妙が立ち上がろうとすると、『やめとけ』と銀時が止める。

「今は二人でじっくり話さねェといけねぇ時なんだ。俺達が口はさんじゃあいけねェよ。ほっといてやれ」

「銀さん……。そうよね、二人の問題だもの、二人で解決しなきゃ意味がないのよね。うん、そうよ。きっと」

 そうは言っても、気になって仕方がないお妙は、不安そうな顔を浮かべて深い溜息を漏らした。

「なァに、心配無用ですよお妙さん」

 今までそこにいたかのように、当たり前に近藤がお妙の隣で答えた。

「何当たり前に横にいるんじゃァゴルァァァーー!!」

 お妙が近藤にアッパーをかまし、近藤は虚しく血を吐き崩れ去った。

 時を同じくして二人っきりになった唯と十四郎はというと、向き合いながらお互い顔だけを逸らし、暫くの長い沈黙を続けていた。二人共、何から喋って良いのか分からなかったからだ。

 そんな中、唯は兄、十四郎を見つめる。

 

 ──お兄ちゃん、変わったなぁ。

 

 最後に見て以来、すまいるの時にはこんなにもまじまじと見れてはいなかったので、今改めて思う。昔よりもっとカッコ良くなったと。

 唯に見られてる事に気付いた十四郎は気不味さを感じ、堪らず煙草に火をつけて吸い始めた。

 しかし我に返る。慌てた十四郎は『わッ、悪ィ』と言って、吸っていた煙草を灰皿に押し消した。

「あ、消さなくても良かったのに……」

 そしてまた、静かな沈黙が流れる。

「げ──、元気だったか?」

 勇気を振り絞り、先に十四郎が口を開いた。

「う、うん」

 ぎこちなく唯は答えた。

「そうか……、それなら良かった」

 また沈黙かと思われたが、心を決めた唯が遂に切り出した。

「あ、あのッ! お兄ちゃんは、私のこと……、嫌いじゃなかったの?」

 その問いに驚いた十四郎は、強く否定した。

「違う! 唯、俺は、一度もお前を嫌ったりなんかしてねぇ!」

「でもお兄ちゃんは、あの日からまともに連絡もしてこなかったじゃない! それを今になって、会いたいって言われても……」

 堪らずに大きな声を出した唯は、感情を押さえきれなくて涙が溢れ出す。

「わたし、ずっと待ってたんだよ? ずっとずっと、お兄ちゃんが帰ってくるのッ……。だけど、お兄ちゃんはわたしのことを忘れたからもう帰ってこないんじゃないかって一度は諦めた。やっときた手紙に『もう家には帰らない』ってきて、ああ、わたしや姉上や兄上のことはもうどうでも良いんだって……」

「本当にすまねェ。今はどんな回りくどい理由言ったって分かっちゃもらえねェってのは承知してる。ただ、謝るぐらいしか今の俺には出来ねェ。直ぐに連絡をしなかったのは、あんな俺のことを忘れてほしかったんだ。でも、これだけは信じて忘れないでほしい。俺はあの人やのぶ姉、それにお前の事を1日足りとも忘れたことはない」

 十四郎は、自分の拳を強く握り締めた。

「あの時手を振り払っちまったのは、お前まであの人のようにしてしまうんじゃないかって恐れたからだ。飛び出した後暫くして冷静に考えると後悔はしたさ。あんな最後でな。もう会っちゃいけねぇって自分で言い聞かせてはいたんだが、やっぱり駄目だった」

「お兄ちゃん……」

「あの家にとっちゃあ疫病神の俺なんかが、お前に会う資格はないってのに……」

「違う! お兄ちゃんは疫病神なんかじゃない!」

 唯は思わず十四郎に抱き着いた。

「兄上は、最期までお兄ちゃんのこと心配してた。姉上もわたしも、お兄ちゃんが疫病神だなんて思ってない!」

「唯……」

「お兄ちゃんにずっと会いたかった……だけど、お兄ちゃんはわたしのことを嫌いになってると思ってたし、だから、わたしの居場所や連絡先は教えなかった。お兄ちゃんに会うのが怖くて……。ごめんなさい」

「いいや、悪ィのは俺なんだ……」

 目を閉じれば、記憶に蘇る幼い妹の姿が今と重なる。十四郎は、唯の頭をあの頃のように優しく撫でた。

 

 一方、二人を待つ別室では──。

「仲直りしたかしら。二人とも」

「大丈夫ですよ、姉上。それにしても、まさかお兄さんが真選組の土方さんだったなんて驚きだよね」

「あんまり似てないヨ」

「瞳孔開く感じはやっぱ兄妹って感じよね」

 お妙と新八、神楽が相槌を打ちながら会話をしていると、馴染んだ感じで会話に加わろうする者が一人。

「そういえばお妙さんと新八君も、姉弟でしたなぁ。やっぱ良いもんですか? 弟がいるってのは?」

「話に入って来ないでくださる? ゴリラさん?」

 近藤である。お妙はにこりと微笑むと、近藤に顔面パンチを食らわした。その脇で銀時は、寝転がりながら鼻をホジっている。

 するとそこへ、十四郎と話を終えた唯が部屋に入って来た。此処に来る前と比べると、唯の表情が随分穏やかに見える。

「その様子じゃ、大丈夫だったのね」

 お妙がそう言うと、唯は皆の顔を見てから深く頭を下げた。

「おかげさまでお兄ちゃんと向き合う事が出来た。本当にありがとうございました!」

 数年の月日は流れてしまったけれど、兄の十四郎と向き合うことが出来て本当に良かった。今まで秘めてきた悩みが一気に吹き飛んだように、唯の心は晴れ晴れとしていた。

 遅れること数秒。十四郎が姿を現わした。

「待たせたな。って、近藤さんここにいたのか……」

 まさか近藤もいたとは思わなかった十四郎は、妙な照れ臭さを感じていた。

「トシ。良かったな」

「ああ」

「お兄ちゃん」

 まず先にでしょう、唯が十四郎の服を引っ張って合図をすれば、十四郎は唯に笑みを見せ、銀時達へと向き直った。

「あんたらには唯が世話になったみたいで、色々すまねェな。今回の事はマジで感謝してる。ありがとよ」

 礼を述べた十四郎に対し、一人納得いかないのが銀時だった。

「土方くーん、それマジで感謝してる態度なわけ?」

「あ? ちゃんと礼言ったじゃねーか」

「礼? ハハッ、『ありがとな』が礼ですか。もうちょっとかしこまった言い方あるだろがッ。こちとらそんな暇じゃねーんだよな。だけどよォ会いたくても会いづれぇ兄貴がいるって言うじゃねェか。だから俺ァ勇気付けてやって感動の再会させてやったわけだ」

「……何が言いてェ?」

「そりゃあやっぱりアレだろ、依頼なんだしこっちは生活かかってんだ。お代はくれねーとなァ。あッ、土下座も良いなァ、土方くん?」

 銀時は薄ら笑いを浮かべながら十四郎に言ったので

「テメェ……」

 いらり。十四郎は銀時を睨み上げた。

 その時である。二人の不穏な会話を切るかの如く、唯が十四郎と銀時に、ハリセンを1発ずつくらわせたのだ。

「お兄ちゃん! こうやってわたし達が会えたのも、みんなのお陰だって言ったじゃない! だからさっきのお礼の言い方は駄目よ。後、坂田さん、あなたのこと見直したと思ったけど撤回するわ。生活かかってるですって? わたしが働いた分殆んど生活費にまわしてるんですけど。ていうか家賃二ヶ月分代わりに出してるんですけど!」

「ッてーなオイ、お前も一緒に住んでんだから生活費出すの当たり前だろーが。家賃は、その、アレだ。まァそのうち返す。あッそうだ、このお礼のお金を土方君にもらってだな、それをお前に渡すって事で……」

「なんか違うだろッそれェェ!」

 唯はまた銀時を、スパンと音を立ててハリセンでしばいた。

 その二人の光景をやれやれといった感じで見ている新八達とは違い、十四郎だけは唖然と見つめている。

 それは唯が先程、生活費をまわす、家賃を代わりに出した、と言ったことに、ある疑問が沸き上がったのだ。

 

 何で唯が、万事屋の生活費やら家賃なんか……。

 

 疑問は、銀時が言った『お前も一緒に住んでる』の一言で、ある確信に変わる。

「オイ唯ッ!」

 銀時と言い合っていた唯を止め、自らに向き直させた。

「何お兄ちゃん、こわい顔して」

「お前、コイツと……」

 まさかだとは思いたい、絶対に。

「万事屋で一緒に住んでんのか?」

 ──しまった。唯は冷や汗を流した。

「えッ、そ、そんなこと言った、かな?」

 取り敢えず笑って誤魔化すも、十四郎の開いた瞳孔はより険しくなって、ギロリと銀時を睨む。当の銀時はというと、『一体何?』と言うような感じで新八達に助けを求める。

「しりませんよ僕。」

 新八や神楽に見放された銀時が、十四郎へと顔を向けようとした瞬間である。一体何処から用意したのか。十四郎は一瞬で刀を鞘から抜くと、銀時を斬ろうと刀を横に振った。だが銀時は、間一髪それを避ける。

「あッぶねーな! オイオイ何? 土方君どーしたの?」

 十四郎は悔しそうに舌打ちをした。

「ちょっとお兄ちゃん! 何やってんのよッ!?」

 驚いた唯が慌てて止めに入るも、『危ねェからどいてろ』と怒鳴られてしまった。

「俺の、大事な妹だぞ……」

 刀を構え、じりじりと銀時を隅に追い込む。

「うんうん、それはわかってるよ。てか何で俺斬ろうとしてんの? 物騒だよ? 早く刀しまっちゃいなよ」

「まあまあトシ、落ち着いたらどうだ?」

 側にいた近藤がなだめながら二人の間に入ろうとする。

「悪ィ近藤さん、ちょっくら黙っててくんねェか? 今はコイツを、綺麗サッパリと切り倒してやりてぇ気分なんだ」

「オイオイ! 綺麗サッパリとって何! 俺ァ何も悪ィ事はしてないぜ。ん? もしかして前に負けた仕返しかなんか? そうだろう、ナァ大串君?」

「違ェよ。それに大串って言うなッ! てか坂田ァ、お前ェ唯と一緒に住んでるんだってな?」

「え? 何、その事? 別にヤラシイ意味で一緒に住んでる訳じゃねーぜ。なァ唯?」

 不意に銀時に話をふられた唯は、動揺しつつ引きつった笑顔で応える。

「え!? う、うん、そう。そうなの。色々あって今は万事屋にいるの!」

「なッ? だから刀しまえ。手なんか出してねーから。それに俺の好みはもっとこう、色気があるほうが良いしな。アハハ──」

 それが更に逆鱗に触れた。

「それは唯に色気がねェって言いてェてのかァァァ!」

「ちょッとォォ!! なんでそこで怒ってんのッ!?」

 再び斬りかかられたが、銀時はギリギリを避ける。

 このままじゃ収まりがつかないだろう。新八は呆れながら言う。

「どうしましょう。銀さん、斬られる事になりそうですよ」

 銀時と十四郎には何やら相容れぬものがあるのかもしれない。それも相まってかヒートアップしたのか。これは面倒だ。

 これからどう兄を説得しようか。などと考えていると、銀時が聞き捨てならないことを言い出した。

「どう見ても色気はねーだろ」

 この状況に遂に苛立ってきた銀時は、気にせず挑発モードに入った。

「んだとコラッ!もういっぺん言ってみろッッ!」

「本当の事だろーが。見た目、神楽と同じ歳ぐらいにしか見えねェロリ顔じゃねーか。俺ァ、ガキ臭ェ女に興味なんかねェから、安心しろや」

「ってんめェ……。どう考えてもロリコンだろーが」

「何いっちゃってんの? そういうお前ェはシスコンじゃねーか」

「うるせー! シスコンで悪ィかよこのロリコン野郎」

「なんか、いつの間にかロリコンかシスコンかの言い争いに変化してるんすけど……」

 二人が違う争いを発展させた事に呆れる新八が、ふと、隣にいる唯を見てみると、怒りで微かに震えてるのがわかった。

「ロリコンでもシスコンでも、どっちでも良いんじゃァァァ!」

 ハリセン炸裂。二人の頭に雷が落ちた。

「さ・か・たさーん。ガキ臭くて色気無くてごめんなさァァ~い」

 唯はハリセンの角で銀時の顔を刺すように押し突いた。

「痛ェッッ、痛いよ唯! 角は痛いよッ」

 そしてくるりと振り向き、十四郎を見上げる。鬼の形相はすっかり消え失せていた。

「お兄ちゃん、何にもないって言ってるでしょ?」

「けど唯ッ、俺ァ、ただ心配で……」

「お金貯まったら出ていくし」

「じゃあ、俺が出してやるからッ、なッ? 今すぐそうしろ!」

 刀を鞘に戻した十四郎が視界から銀時を消し、何とかしたくて唯の両肩に手を置いた。

「ありがとう。でも、ごめん。お兄ちゃんに出して貰うつもりないから」

「な、何で!?」

「こればっかりは自分で頑張りたいの。お兄ちゃんに頼るために、江戸に来た訳じゃないから……」

「もう、兄貴として、俺を頼ってくれねェのか?」

 唯は、顔を横に振る。

「悩みとか、相談にはのってほしいよ。だけど昔のまま、お兄ちゃんばかりに頼りきる自分は嫌なの。だから、ゴメンね。気持ちだけ受け取るね」

 もう、唯は幼い頃の妹ではない。成長した事を喜ぶべきだろう。けれど十四郎はそれを、兄として寂しく思った。

「何があって万事屋なんかに暮らしてるかわかんねーけど、唯がそう自分で決めてるなら、黙って見守るしかねェな」

 今まで様子を眺めているしかなかったお妙と新八と神楽も、落ち着いた十四郎の様子にこれで一安心だと安堵した。

「なんやかんやと揉めましたが、なんとか良い具合いに収まりましたね」

「でも、なんか一時休戦の予感アル」

「ある意味大変よね。お兄さんがああだと、恋愛するのも大変そう……」

「やっぱ、アレですか? お妙さんも恋愛とかしちゃったりしたい派ですか?」

「どさくさに紛れて会話に入ってくんなッて言っただろーがァァァ!」

 またも何気無く会話に参加してきた近藤に腹を立てたお妙は、近藤の頭を何度も踏み潰した。そして何故か神楽も参戦して近藤を蹴るのだった。

 

 さて、十四郎は納得したのか。否、出来る筈がない。けれどこれ以上は強く出れない。今は唯の手前、納得したと見せかけるべきだろうが、いずれは何とかしなくてはならないだろう。

 しかし今は最愛なる妹の唯と、再び仲の良い兄妹としてこれからも過ごせる事に喜びを噛み締めたい。十四郎は、銀時から微笑む唯に目を移した。

 

 

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