八雲藍side
部屋の中にはもう既に窓からの月明かりが
差さなくなっている。
その代わりに、窓の外の空はいつも通りに夜
明けを知らせるべく、その身を白く染め始め
ていた。
その様子を見る限りに於いても、チルノたち
と共に解決に向かってから、ずいぶんと時間
が経過したことが伺える。
……私はその景色を見ながら、逸る気持ちを
抑えつつ部屋の見張りと怪我人である十六夜
咲夜の看病を美鈴と共にしていた。
と、言ってもあとは容態が急変しないかどう
かを見ているだけなのだが……
パ「そんなに焦っていてもしょうがないわよ
?八雲藍……」
するとそんな私の心情を察してか、先ほど
この部屋に入って来た彼女・・・パチュリー
・ノーレッジが声を掛けてきた。
藍「しかしだな…私は一刻も早く事態を収束
に向かわせたいのだ。紫様とて、それは同じ
はずで…だから、出来る限り早く決着がつい
て欲しいと願うのは無理もないというか……」
パ「…そうだとしても、今は彼女たちを信じ
るしかないでしょう?今私たちが行っても足
手纏いだろうし、咲夜のことも気になるし
……」
美「確かに、お力になれないのは大変心苦し
いですけれどね…今は、信じて待つほかあり
ませんか……」
そう言ってパチュリーはベッドの上に寝か
されている咲夜を心配そうに見やる。
美鈴はそれを受けて私と同様に己の無力を歯
痒く感じているのか、拳を握る手に力を込め
つつも、今は待つしかないと判断したようだ。
しかし、ここにこれだけの者が集まっていれ
ば確かに並大抵の敵は怖くもなんともないだ
ろう。
並大抵で無い敵は今チルノたちが相手をして
いるし、それなら後は滅多なことが無い限り
、私たちで対処出来るはずだ。
━━━━とそんなことを考えていると、部屋
のドアをコンコン!とノックする音が部屋の
中に響いた。
橙「ひ、ひぇぇっぇええぇぇっ!!…ま、ま
たぁ!?」
いきなりのノックに橙がこの部屋に来て初
めに遭遇したの出来事を思い出してか怯えて
飛び跳ねる。
加えて私や美鈴、パチュリーも突然の来訪者
に対して警戒を強めた。
藍「何者だ!!!何の目的でこの部屋を訪れ
た?」
全員が扉に目を向けながら構える中で、外
にいる者の気の抜けたような声が部屋に入っ
てきた。
チ「……あたいはチルノ……目的は敵を打倒し
たことの報告。これでいいかな?大妖怪の式
神さん?」
その声と気配に部屋の皆は安堵の溜息をこ
ぼす。
同時に私も、仲間の帰還とその結果を心の内
で称えた。
藍「なんだ、お前だったのか…驚かせないで
くれ……ノックなどしなくともただ声を掛け
てくれるだけで良いと言うのに……」
チ「いやぁ、一度こういうドアの前でやって
見たかったんだよ。それに……万が一着替え
中とかだったら悪いしね」
美「き、き、着替えってぇ!!…な、なんで
そんなところに遭遇すると思ってるですか!
?///」
チ「そりゃまぁ、咲夜の寝汗を拭いてあげた
りするかなぁ~~とか……」
美「━━━っ!!」
チルノの何気ない一言に過剰に反応した美
鈴がそのチルノに一言反論され、地雷を踏ん
でしまったことに気付き更に周囲から集まっ
た視線に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
……まったく、こんな時に何を考えているの
やら……それはともかく、私たちはチルノた
ちを部屋に招きいれ、事の詳細を聞くことに
した。
ドアを開けるとそこにはチルノが大妖精をお
ぶってドアの外に立っていた。
藍「!!大妖精っ!どうした!?まさか、敵
に……」
チ「いや、これは単に疲れと緊張の糸が緩ん
で眠ってるだけ。ここに来る途中で飛びなが
ら船漕いでて危ないから、あたいが背負って
ここまで来たんだよ。……それにしても、や
られた、だなんて縁起でもない…ちょっと神
経質やしない?」
藍「ん……そうか?…しかしだな……」
チ「う~ん…でもまぁ、無理もないか……と
、そんなことより、咲夜の方は大丈夫なの?」
藍「ああ…今は応急処置も済んで、よく眠っ
ている……いや、それは最初からだがな」
大妖精が敵にやられたのかと心配したが、
どうやら杞憂だったようだ。
次いで咲夜の容態について訊ねられたが、こ
ちらも幸い大したことは無かった旨を伝えた。
と、二人して部屋の入口で話していると、そ
れを見かねたパチュリーが私たちに声を掛け
る。
パ「いい加減、そんなところで立ち話してな
いで入ったら?部屋の主は私じゃないけれど
……咲夜に代わって言っておくわ」
美「そうですよ!お二人とも!話の続きは部
屋で休みながらでも出来るのですからっ!!
ささ、どうぞこちらへ!」
言いながらそそくさと二人分の椅子をどこ
かから引っ張り出してパチュリーと向かい合
えるように置いてくれた。
それにはどこか、なにか照れくさい物を誤魔
化そうとするような他意が見え隠れしたが、
それはひとまず置いといて、私はチルノから
、事の詳細を聞くことにした。
━━━尚、チルノがおぶっていた大妖精は咲
夜の隣に寝かせてある━━━
チ「━━━━とまぁ、大まかに言うとこんな
感じかな?」
チルノから話を聞いて、その場に途中まで
居たというパチュリーの方を見やる。
パ「ええ…間違いないわ。……でも、そう……
やったのね…ありがとう。恩に着るわ」
チ「どういたしまして。それじゃ早速、現場
の方に行きますか…」
パチュリーの無表情かつ退屈そうな顔が心
の底からの感謝と安心に染まったどこか優し
い面持ちでチルノに礼を言った。
まぁ、疑っていたわけでもないが、どうやら
話は本当らしい。
というわけで私は大妖精と咲夜の見張りを橙
と美鈴とパチュリーに任せ、チルノと共にそ
の場へと向かった。━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━数分後、その部屋
を見た私の感想は一言でいうなら、"しっち
ゃかめっちゃか"という表現が一番しっくり
来るだろう。
その広間はそこらじゅうの壁と言う壁に金や
鉱石が張り付いているかと思えば、樹木が見
え隠れしており、更にはそれと他のものが燃
え盛っていたり、かと思えば濡れている所や
水溜まりがあるなど、壁もいくらか崩れてい
たりと散々な状況だった。
その部屋の奥の壁の中央辺りに
レミリア・スカーレットその人が氷漬けにな
り壁に貼り付けられていた。
チ「ほら、あそこだよ。早いとこ紫を呼んで
藍「ああ……そうだな、そうしよう…」
私はその一言に賛成し、紫様への交信を始
めた。
紫side
私は一人、魔法の森を探索していた。
それは、探しものである彼女、、、リグル・
ナイトバグの活動範囲であるからだった。
しかし、いくら探しても一向に出てくる様子
がない。
先ほどからスキマを使ってあちらこちらへと
つないで、虱潰しに捜索しているのだが一向
に見つからない…これは流石におかしい……
まさか………
紫「…もう既に影に支配されて蟲による察知
能力が上がっている?」
ここで言う蟲とは自然界の昆虫等の方だ。
この魔法の森に居る蟲たちを通じて私の来訪
を事前に察知し、どこか別の場に逃避してい
るのだとすれば、蟲たちの感覚も鋭敏なばか
りか、それらと繋がっているリグル本人にも
精神的なストレスが尋常ならざるはずである。
しかし、それをものともしないという事はも
はや意識そのものが乗っ取られていると推察
できる。
能力の強化は恐らく
が送られているのだろう。
それか若しくは能力を効率良く運用させてい
るのか…いずれにしても、もうこれは敵の手
に落ちていると見て間違いはなさそうだ。
早合点は禁物だが、こちらも時間がないので
ある程度は決めてかかる他ない。
…そして確認の意味も込めて彼女を探す為の
最後の手段に出る。
紫「…妖力を結構もっていかれるからできれ
ばこれはあまり使いたくないのだけれど…
止むを得ませんわね……」
その呟きののち、即座に瞼を閉じ、全神経
を集中して己の中の意識を研ぎ澄ませる。
━━━━━そこで聞こえてくるのは森の木々
の葉の擦れ合う音、虫たちの鳴き声、羽音、
イノシシや鹿などの動物の動く気配、森の茸
が噴き出す魔法の胞子、森を吹き抜ける風の
音……その音から導かれる風の行く手、そ
の風は天高く舞い上がり、幻想郷全体を俯瞰
した。
そこで目を見開いた私は、幻想郷と一つとな
っていた。
そして、その
子の存在を確かに感じ取った。
故に、それのいる場所も判明した。
その者は幻想郷の中で太陽の畑と呼ばれる場
所にいた━━━━とそこまで視て、すぐさま
その座標へとスキマを繋ぎ、移動する。
…先ほどの手段と言うのは、自身の意識と幻
想郷全体との境界を取り払って幻想郷の異変
を見つける為の言わば監視システムなのだが
この方法を取ると妖力をかなり持って行かれ
る上、出来ることは異変の有無を確かめる事
だけなので、普段はあまり使わない手法だ。
しかし、それが今回はリグルが影に憑かれて
いると仮定し、更に動き回っていると読むこ
とによって捜索に利用した。
そして、その推測と仮定は正しかったことが
今、目の前の光景によって証明されている。
……私の目には今まさに私から逃げようと
飛行する“リグル・ナイトバグ”の姿が映っ
ていた。
紫「………―――ッ!!」
私は無言で相手をスキマに掛けて捕まえよ
うとした。
……しかし、何故か寸前で避けられてしまっ
た。
その後何度も同じことを試みるも、一向に捕
まらず、相手との距離は伸びていく一方だっ
た。
そこで、相手の前にスキマで先回りして捕ま
えようとするも、またもや躱されてしまう。
━━━辺りにいる蟲だけでここまで読まれる
わけ……そこまで考えて一つ忘れていたこと
を思い出した━━━
紫「……そうだったわ…確か、あの影には私へ
の対策が施されてるんだったわね……」
そう、相手が意識の無い状態…つまり、気
絶か睡眠の最中ならばその限りではないが、
今の状態に於いては影は私の存在に対して、
また、能力や妖力を敏感に察知して動くこと
が可能なのだ。
そして、それらをもとに自身が取り憑いてい
る宿主を操っているのである……ならば……!
紫「…!これで、どうかしらっ!スペル!
式神「橙」っ!」
相手を追いながらスペルを宣言しつつ、ス
キマの中に手を入れ、中から何の事情も把握
していないであろう自身の式の式を間借りし
、そして・・・・・・その橙を
いるリグルに向かってブンッ!と投げつけた。
橙「━━━ッ!!
…ンニャアアアァァァァァァァッッッッッ
!!!!!??」
何も知らない哀れな化け猫が一匹、中空で
体を縦回転させながら目を回して(ついでに
目に涙を滲ませながら)敵に突撃していく…
…これがまさに、猫の手も借りたい―という
奴だろうか。。。などと
とを考えて居ると前方の方からドンっ!とい
う音とフギャッ!という声が聞こえた直後に
何かが地面にドサッと落ちる音が聞こえた。
…どうやら目論見通りに事が運んだらしく、
その結果が自身の行く手に転がっていた。
紫「……どうやら、私の能力が関わっていな
い、若しくはその力の結果によるモノにまで
対応することはできないみたいね……」
私は一言、それだけ言うと地面で目を回す
二人に目を向ける。
地面で情けなく「ふにゃぁ~~……」と鳴き
声を上げながら気絶する八雲藍の式を無言の
ままスキマで元の場所へ戻しながら頭の中で
━━鍛え方が足りないわね…後で藍に言って
置かないと…―――と聞く者が聞けば物騒なこ
とを一瞬考えた後、未だ気絶中の探し人を一
瞥して、自身の能力でリグルの影を引き剥が
しに掛かった。
━━━━数分後、彼女の影の中から黒い影の
ような何かが蠢きながら這い出てきた。
それを境界の中に閉じ込めて手に持ったまま
、自分の上半身を今も博麗神社の境内で見張
りをしているであろう巫女の数メートル前に
スキマで送ったのだった。
霊夢side
霊「……暇ねぇ・・・はぁ~~…」
魔「そ、それを言うなよ!……はぁ~~……
━━っていうか、今暇なのはむしろ良い事だ
ろ?なんせこれから敵さんを
いとなんだぜ?今の内に休んどかねぇと…」
霊「そりゃ、あんたにはそうなんでしょうけ
ど…私はこの結界の維持に気を取られてビミ
ョーに休めないし、敵が押し寄せたら対応す
るのはあんたじゃない……それらコミでつま
んないのよ…」
魔「ま、まぁ…私一人で対処できなくなって
来たらお前にもお鉢が回って来るかも知れな
いぜ?」
霊「それもそれで勘弁して欲しいのよね~~
・・・後半に入るほどに閉じ込める
るっていうのに更に負担が増えるなんて冗談
じゃないわ……」
紫「あら、博麗の巫女ともあろうものが、そ
れも歴代の中でも飛びぬけた才能を持ったあ
なたの言葉とは思えないわね~~」
とそんな、いつもの胡散臭くもウザったい
声がどこからともなく聞こえてきたかと思え
ば、目の前数メートル先の何もないはずの空
間にすぅーー…、と線が引かれ、その真ん中
が開いてスキマが展開され、その中から厄介
事しか運んでこない私にとっては文字通り疫
病神な幻想郷の賢者が上半身だけを出してこ
ちらをムカつく笑顔で見ていた。
霊「紫……」
紫「あっ!あと、良いものを持って来てあげ
たわよ?」
霊「なによ……どうせあれでしょ?例の影の
蟲かなんかを持って来ってだけでしょ?」
魔「まぁ……ろくでも無い物なのは確かだろ
うな」
己の勘に任せて決めつけて掛かる私に便乗
するように魔理沙もそれに賛同する。
その反応に溜め息を吐きながら、見せかけだ
けの凹むような仕草を見せる紫。ほんとにう
っとおしい。
紫「そんなに言う事ないじゃない……!!
;つД`)…それに、影蟲だけじゃないんだか
ら!」
魔「当たっては居たのか……」
紫「…でも、半分正解で半分未回答ってとこ
ろね……つまり不正解…」
霊「そんなことはどうでもいいから、一体な
んの用なのか言いなさいよ!……あと、その
蟲寄越しなさいよ」
紫「……まぁいいわ…はい、これ。よろしく
ね♪」
少し語気を強めて言うと、流石に今そんな
ことをしている場合ではないと気付いたのか
、素直に例のモノを渡す紫。
そして、渡されたそれに結界を施し、それと
同時にソレに掛けられていた境界による結界
が解かれた。
紫「それじゃ、次の用件に移ろうかしらね…
…手早くするに越したことは無いし……と言っ
てもこれに関してはあなたたちは何もしなく
て良いわ」
そう私たちに告げた後、自身のスキマに手
を入れて、中から
その手に掴まれていたのは八雲紫が探してい
た、「蟲を操る程度の能力」を持つ、「闇に
蠢く光の蟲」こと、リグル・ナイトバグだっ
た。
魔「…なるほど、見つけたんだな……という事
はそいつを強化して……」
霊「藍達について行かせれば、あんたは影を
引っぺがすのにその現場に行くだけで、あと
の時間はここに常駐できるというわけね」
紫「まぁ、そうなるわね……どう?朗報でし
ょ?」
霊「うん、そうね……そうだわ。……なに
よ、紫!あんたもたまには役に立つじゃない
!」
紫「"たまに"は余計よ」
魔「ま、普段は畑に突っ立ってる案山子みた
いにただ成り行きを見てるだけだもんな!」
紫「あら、案山子だって
なるじゃない…それも立ってるだけで」
霊「まぁ…それでも入って来る奴は入って来
るけど」
しかし、これなら結界の維持に集中できる
し、ここで共に戦うというのなら久しぶりに
紫の本気も見られるかもしれない。
なるほど、確かに朗報だ……とそこまで考え
て、ふと紫のいる方を見ると、紫がリグルを
起こしている所だった。
恐らく協力を要請する為だろう。
紫「ほら、いい加減起きなさい?」ペチペチッ
リ「━━━ん……んぅ……?……ハッ…!━━━こ、
ここは!?」
紫「やっと起きたわね……それじゃ、次は状
況説明を……」
リ「━━━え?…いやいやいやいやっ!!?
何が何だか全然分から
ないんだけど?」
紫「だから、それを今から説明するのよ」
紫が頬を軽く叩いて気絶から覚めたリグル
が身に覚えのない場所に驚き、そして目覚め
ていきなり説明を始める紫に、焦ったリグル
がストップをかけるが、これまでのことを全
て説明するとの紫の言葉で、多少の落ち着き
を取り戻した彼女は…取り敢えず紫の説明に
耳を傾ける気になったらしい。
リ「まぁ…、それじゃあ…ひとまず事情を聞
こうかな…」
紫「ええ、助かるわ。最初は…そうね、今幻
想郷に訪れている危機についてからかしら━
━━…」
それから、紫の説明を聞いた彼女は驚きの
あまり叫び声を上げた。
リ「うええええええーーーーっ!!!……そ
んなことになってたの?・・・確かに、なん
かここ最近体にあった倦怠感が、無くなって
はいるけど……」
紫「そう…それに証拠なら…ホラ、そこに転
がってるじゃない」
紫が指して見せたその先には私が結界で抑
えている蟲たちが気色悪く蠢いていた。
リ「えっ……うわっ…キモっ……!!」
紫が指差すその先に目をやったリグルはと
言うと、目の前でのたうつ気色悪い影がうね
うね動く様とそいつらが苦し気に発する不快
なキィキィと鳴く声に顔を顰め、嫌悪感を露
わにする。
リ「こんなのが私に取り憑いてたって言うの
!?…うぅっ…考えただけで寒気が……!」
紫「信じて頂けたかしら?…まぁ尤も、あな
たには協力して貰う以外に選択肢なんて無い
わけだけれど」
リ「?…それはどういう……」
紫「あなたにはこいつらを操ってここに運ん
でもらいたいからよ」
リ「・・・・・・・っえええええ!?…わ、
私が?…で、でも私はこいつらなんか操れな
いわよ?」
紫「そこは私がなんとかするわ……私が境
界を弄ることであなたの能力を拡張してそこ
で這いずっている蟲にも適応できるようにす
る……」
リ「な、なるほど……」
そこで紫は先にリグルに釘を刺すようにし
て言った。
紫「わかっているとは思うけれど、妙な真似
は考えないことね。その力はあくまで幻想郷
の異変を解決するために必要なのであって、
もしも悪用しようものなら命はないものと思
いなさい……いや、命が無いだけならまだ、マ
シ……と思えるような目にあって貰いますわ」
リ「ひ、ひえぇぇーーーーっ!わ、分かりま
した!!」
紫がリグルにそう釘を刺すとを間もなく、
紫によるリグルの能力強化が始まった。
リグルはただ目を閉じて、静かにじっと動か
ず紫に身を任せている。
私と魔理沙はそれに口を挟む事無く、ただ二
人のやり取りを眺め
ていた。
私はさして興味なさそうに、魔理沙は逆に興
味津々でその様子を見守る。
……すると、やがて紫がリグルに向けていた
扇子の先がほんの少し発光したかと思うと、
リグルの周りの空間も彼女の輪郭に沿うよう
に一瞬歪み、彼女自身も一瞬発光した。
そこで紫は目を開き、リグルに「もういいわ
よ…」と語りかける。
その声に応じリグルも目を開いて自身の体を
見てみるが特に変化が無かったせいかキョト
ンとした表情を浮かべていた。
リ「えぇーーっと…これで…?」
紫「ええ、できるようになっているはずよ」
それだけ言って、紫は自身もいつでも動け
るように身構えつ、私に蟲たちの中の一匹の
結界を解くように言った。
……どうやら、本当に操れるかどうか試験を
するつもりらしい。
紫「今、霊夢に蟲共の内の一匹の結界を解く
ように言ったわ。……これで、あなたがこい
つらを操り、統制できるかどうかを見極める
ことができる。わたしが合図したら霊夢が結
界を解くから…気を引き締めて掛かりなさい」
リ「……ふぅ……わかりました。お願いしま
す!」
一度深呼吸をして、覚悟を決めたリグル。
一応私も紫もいつでも動けるようにはしてい
るけれど、何が起こるか分からない以上、油
断は禁物だ。
━━━━そして、紫から、「よーーい…始め
!」という合図とともに私は一つの結界を解
いた。
突然、自身を苦しく束縛していた結界が解
かれた途端、その蟲は獲物の影に向かって勢
いよく且つ、胸糞悪く地面を泳ぎ始めた……
その向かう先は……魔理沙だ!
魔「……って、うおっ!私か!」
今まで、高みの見物を決め込んでいた者の
内、私で無く魔理沙に的が絞られた。
そのことに若干狼狽えつつも、おどけたよう
な飄々とした態度で声を発する魔理沙。
その魔理沙から見て向かってくる蟲を挟んだ
向こう側でリグルは気弾でも放つかのように
右手を前に出してそれに左手を添えていた。
…そして、一言、良く通るはっきりした声で
その影蟲に命ずる。
リ「止まれ!!」
一瞬だった。
そのリグルの声に果たして蟲は……その体を
くねらせた状態のまま、静止した。
更にそれはあと一瞬遅かったら、魔理沙が乗
っ取られていた、という…そういうタイミン
グでもあった。
もし、そうなっていた場合、紫と私とで魔理
沙を抑え、紫が魔理沙の影から蟲を引っ張り
出さなければならないというとてつも無く面
倒な工程が追加される羽目になっていたが、
この結果を見る限り、その心配はないようだ。
魔「……ったく、冷や冷やさせやがるぜ。あ
まりの冷えっぷりに、凍り付くかと……」
霊「安心しなさい、魔理沙…もし、そうなっ
ていても私があんたを引っ叩いてでも気絶さ
せたあとに紫にゆっくり影回収してもらうか
ら………まあ、多少顔面が百八十度回転してる
かもだけど」
魔「…………それが嫌だから、ひやひやし………
って、それじゃ、元も子も無いぜ!?死んで
るじゃねぇか………」
霊「大丈夫よぉ……元はとるわ!」
魔「一体何のだ!……っていうか、そのガッ
ツポーズをやめろ!縁起でも無い……」
紫「まぁ、なにはともあれ成功ね」
リ「ふぅ、よかったぁ~~……」
そこで、一同は取り敢えずの成功を各々喜
んだ後、リグルの命令
によって止まったままの影を再び封印した。
魔「しかし…今、ふと思ったんだが……」
紫「何かしら?」
魔「ついさっき、恐らくリグルのだと思うん
だが、影の奴を結界に閉じ込めて、ここまで
持ってきてたじゃないか。それなら、リグル
にやらせる意味、あんまりなくないか?」
紫「それは、小振りの奴だったからよ…何故
かこいつら、私の境界の結界をすり抜けよう
としたり、飛び越えようとしたりするのよね
…それが大きくなってくると私では閉じ込め
て置けないから滅するしかなくなる……でも
、滅したら…」
霊「作り主のところに行かれてしまう……か
、ホント厄介ったらないわ」
魔「それじゃ、リグルに憑いてた奴がデカか
ったら……」
紫「それはそれで、仕方なく滅していたでし
ょうね。それ程にこの子は重要だから」
魔「でもよ、少しくらい大きいか強くても一
瞬くらいは持つんじゃないのか?事実、お前
から聞いた話の中で永琳に憑いた影は大きか
ったって言っていたじゃないか」
紫「あの時は、剥がしてから直ぐに滅したか
ら良かったの……それに……その子が持って
くるモノが
ない。……もしかしなくても、引き剥がすだ
けで精一杯になのは目に見えてるわ」
魔「ふーん……なるほどなぁ~~……」
魔理沙は一応、紫の説明に納得したようだ。
でも、作業の終わった後にそれそのものの必
要性に対しての質問をするのは如何なものか。
そんな会話の最中、紫がふと、自身の頭に
手を触れて何かに対して耳を澄ますような素
振りを見せた。
紫「……噂をすれば…ね…リグル…早くも出番
が回って来たわ……行きましょうか」
霊「もしかして……」
魔「やったのか?」
紫「ええ…今しがた、藍から交信があったわ。
……影に操られた者を
…ってね」
リ「それじゃあ……?」
紫「ええ、チルノの影……ではないけれども、
それに操られていたらしき者を倒した……と
…そして、その者の影をここまで運ぶにはあ
なたの協力が不可欠…手伝ってくれるかしら
?」
リ「……選択権なんてないんじゃなかったっ
け?」
紫「モチロンッ♪……それでも、一応ね?」
リ「わかりました!行きましょう!私にも…
やらないと……後で後悔しそうですから
ね!」
紫「そう言うと信じていたわ…有難う…」
紫は改めてリグルの決意を確認すると、ら
しくも無く素直にお礼を述べた。
力づくで従わせておいて、感謝も何も無いだ
ろうに……と思ったあとに…もしかすると、
謝罪の意だったのかも知れないと思い、少し
可笑しかった。それにしても……
魔「倒されたのって一体誰だ?そりゃあ幻想
郷の誰かだろが……」
紫「ああ…それは……」
紫は思わせぶりに間をおいてから、その者
が誰かを告げた。
霊「どうせ、レミリアとかでしょ?」
紫「っ!?…なぜみやぶった…?」
霊「ただの勘です☆」
紫「なん………だと……!」
魔「毎度の事だからもう全然吃驚しねぇ……
何の感慨も沸かねぇ……」
と、ひとしきりの茶番が終わると紫は改め
てその者の名を呼ぶ……
紫「そう、紅魔館の主にして、「紅い悪魔」
と称される…レミリア・スカーレットよ…」
その後、紫とリグルは直接その館へと作業
の為に向かい(スキマで)、境内には私たち
だけが取り残された。
魔「けど…!
っ!!……そりゃ、一筋縄ではいかないだ
ろうとは思ってたけどさぁ…」
霊「もし、そうだったら早く異変も解決して
万々歳だったんだけどねぇ……これが現実っ
て奴か……」
私は比較的平然と受け止めていたし、魔理
沙も口では残念そうに言いながら、その実、
駄菓子屋でハズレくじを引いてちょっと残念
……くらいのノリだ。
魔理沙のそんな様子をよそに、私は今回敵の
手に落ちていたレミリアのことを考えていた。
まさか、あの吸血鬼が落とされるとは……ね…
いや、それも仕方が無いと思える程に強大な
力を目の当たりにしたので何も不思議ではな
いはずなのだが、それにしたって間違いなく
本気だったであろうレミリアを…たった一晩
…いや、恐らく少なくとも数時間以内に仕留
めるなど、完全に常軌を逸していて、未だに
信じられない。
魔「まさか……あのレミリアでもダメとはなぁ
……」
霊「そうね、普段は何かとやらかしたり、た
まにお子ちゃまみたいな態度を取ったりする
ことはあっても、それでもあいつ、この幻想
郷のパワーバランスの一角なのよねぇ……」
魔「いやむしろ、その幼稚さすら演技といか
わざとやってるまであるぜ」
そう、あいつがやられるな余程の事だ。
今まさにその時だと言えばそれまでだがやは
りにわかには信じ難い………ああ……それに
しても……
霊「これはまた………面倒臭くなりそうね……」
しかしまぁ、結界の維持のこともあるので
、そこは魔理沙や紫が相手をしてくれるだろ
う。(尤も、最初の方は手伝えるが……)
藍side
私が紫様に式とその主としての繋がりを利
用してことの次第を大まかに報告してから約
数分後、空間にスキマが開き、紫様ご自身と
もう一人…頭から触覚を生やし、白シャツに
紺のキュロット、背には甲虫の外羽を模した
ような燕尾状のマント姿の者が、共に現れた。
もしかして…あの姿は、縁起の中の絵にもあ
った………
藍「紫様…もしや、その者が
紫「……そうよ、リグル・ナイトバグを連れ
て来たわ。これで、霊夢の元へ蟲を運んでも
らって、封印できるわね」
藍「ありがとうございます!これなら何とか
成りそうですね!!」
紫「喜ぶのはまだ早いわ……まだ、危機が完
全に去ったわけでも無いのだし……」
藍「そ、そうですね……申し訳ありません」
私はその紫様のお言葉で気を引き締め直し
た。
そうだ、まだ何も終わっていない。
今回倒した相手も、操られていただけの者で
、本丸はまだここで活動を続けているのだか
ら………
しかし、そうか…………!
紫「ふふ……でも、確かに
いるみたいね……そう、やられてばかりでは
無いのよ……」
そう、一言仰られてから、紫様はチルノの
方に目を向けられた。
チ「……なんの事かな」
チルノはそのお言葉にとぼけたように流そ
うとする………━━━━━一体何の事だ?
私はてっきり進展とはリグルの事とばかり…
……
紫「とぼけなくても良いわ……先の戦いで、
幾らか能力を身に付けたでしょう?」
紫様のその妖艶な笑顔の中の射抜くような
視線に、チルノは溜め息を吐きながら、諦め
たように答える。
チ「……、まぁ確かに幾らか持ってるけどさ
ぁ……やっぱりあんたには隠せ無い、か……
紫」
藍「……!!」
私は驚いていた。
まさか先程の戦いで、更に能力を身に付けた
というのか!?
…しかし、彼女のから
むしろ当然なのか?……などと私が戦慄して
いると、紫様からお声が上がった。
紫「まぁ、ただ単に予想しただけなんだけれ
どね♪……あなたならそのくらい出来てもお
かしく無いかな~って♪」
チ「……って!カマかけただけかよっ!!」
……戦慄はしたが、それはそれとして何と
も抜けたところがあるというか………
すると、流石にしびれを切らしたらしきリグ
ルが本題に入るように促す。
リ「お取込み中のところ悪いんだけどさぁ~
…あれ、どうにかしなくていいの?そのため
に私連れて来られたんでしょ~?…合ってる
よね?あの人に憑いてるんだ…よね?」
そう言いつつリグルが指差す先にはここの
紅魔館の主の姿が、氷漬けになったまま彼女
を包む氷が壁に刺さったような状態でそこに
在った。
確かに、今はレミリアに取り憑かせられた蟲
を切り離して霊夢の元へ持って行かせるのが
先決だ……、そして今わかったことだが、リグ
ルには蟲を感知したりすることはできないら
しく、レミリアがその対象だということはあ
の状態からの単なる予測でしか無いようだ。
(まぁ、説明を聞いた後にあんな状態の者を
見れば誰でもそうではないかと疑うだろうが
……)
チ「うん。合ってるから大丈夫だよリグル…
…じゃあ、紫…お喋りはこれくらいにして、
早いとこ始めてよ」
紫「ええ、そうね……」
チルノのその催促に応じた紫様が、レミリ
アの方を見上げ、それにしても……と呟かれた。
紫「全く……なんてモノを憑かせてるのよ…!
私でも切り離すのが精一杯の…いえ、それす
らも怪しいくらいよ……」
そのように驚かれる紫様のお顔はそのお顔
の中に若干の焦りが混じっているようだった。
━━━━━━そこからの作業は、意外にも難
航した。
まず、紫様の境界操作による切り離しが中々
上手く行かず、切り離す際には今まで見たこ
ともなかったスパークが見られ、当の紫様も
涼しいようでいて堪えるような表情で額には
少しだけ汗を浮かべられながらの作業だった。
紫様の仰られるには今の作業が難航したのは、
影の蟲の強さとその宿主との癒着率が関係し
ているとのことだ。
その両方の強さに比例して、分離し易いか否
かが左右されるのだろう。
そして・・・ようやく
払うことができたその瞬間に影は次なる獲物
を求め……なんと……私に飛びかかってきた
……!
藍「━━━━…っ!!?」
リ「止まれっ!」
部屋から差し込む月光の下、あと数ミリ程
で私にできた影と重なり、そこから取り憑く
ことができるという寸前のところで、その大
きい何か不定形なモノの姿をした影の
の身をうねらせた状態のままそこで一ミリも
動けずに佇んで静止していた。
それも、リグルが命令を下してから数秒の間
も空けずに一瞬で止まった。
更に"止まれ"と言われてから全く微動だにし
ないところからも、その命令の強さが伺える。
そのことに私はただただ息を呑んでいた。
まさかここまでとは……その後も彼女の蟲の
操作は続いた。
リ「よーーし…そこからゆっくりとこっちに
戻って、私の前で止まりなさい」
彼女の指令通りに巨大な影が動いて行く…
…と、彼女の前まで来た時点で動きを止めた。
紫「これで、取り敢えず一つ片付いたわね……
後は
━と言うわけで、リグル、あなたこれを連れ
て一旦に戻りなさい」
リ「……えッ?なんで私が!?あなたのスキ
マで運べばいいじゃない!」
紫「それはそうなんだけど~…そいつら、私
の能力とどこまでも相性が悪いのか、運ぶと
その分消耗するのよね……だから、もしも
の時に備えて体力を温存しときたいというか
……それに私は霊夢たちの所にできる限り
常駐して、敵が現れたら加勢するつもりだな
のよね…」
リ「う……、そうかぁ……なら、しょうがな
いかぁ…」
紫「取り敢えず、私も付いていって、神社に
着いたらあなただけを藍達の所にスキマで送
るから……」
リ「わ、わかったわよ…」
紫様から説得され、渋々と言った風にそれ
に従うリグル。
チ「それじゃ、仕事も一応済んだことだし一
旦さっきの部屋に戻ろうか」
藍「そうだな、戻ろう」
チルノの提案に私は賛成してこの部屋をで
ることにし、紫様たちは博麗神社へ引き返し
、チルノはこの部屋を出る前にレミリアの氷
結を解いて自らの背におぶると、出口に向か
って飛び始めた。
私も、それに倣いこの部屋を後にした。
……そのあとこの場には惨憺たる戦の爪痕が
残るのみとなっているのをみてなんとも言え
ない気持ちになった。
それから、部屋に戻る途中の廊下で、今チル
ノが背負っている、レミリアの妹のフランド
ール・スカーレットが氷漬けの状態になって
いるのを発見した。
その凍らされている者の約1.5倍程の六角の
氷柱のなかで、その瞬間を切り取られたかの
ように凍らされているその姿は、どこか一種
の作品のようにも見える程にに見事だった
……とそんな不謹慎な思考に囚われていた
一瞬の間にチルノがその氷結を解いて、私を
呼んだ。
チ「ねぇ、藍。この子運んでくれない?…あ
たいはレミリアをおぶってて、両手が塞がっ
てるからさ」
藍「……ん?あ、ああっ!…分かった」
チルノに呼ばれて我に返った私はその要請
に従い、さっき迄凍っていたフランを自身の
背に負うと、再び進み始めたチルノの後を追
って他の皆がいる部屋を目指した。
パチュリーside
藍とチルノが部屋を出て行ってから数十分
ほどが経過していた。
私はベッドに横たわり眠る友人の従者とその
隣に寝ている大妖精を時折見比べつつ様子を
見ながら、二人の帰りを、同じく部屋に居る
紅魔館の門番である美鈴や藍の式神である橙
と共に待っていた。
パ「・・・・・・(まだかしらね……あの
二人は…)」
そんなことをふと思いつつ、私がふぅ…
と小さく一つ溜め息を吐く…のと、大妖精
が目を覚ますのは奇しくも同じタイミングだ
った。
大「ン…んぅ………っ!……ここは…」
パ「ようやくお目覚め?」
大「あっ!パチュリーさん!・・・えぇと、
ここは?…ってうわぁ!」
大妖精は私に気が付くと次に隣で寝ている
咲夜を見て驚いたが、次第に落ち着きを取り
戻した。
大方、咲夜を見てここがどこなのかおおよそ
見当が付いたか、朧気ながら戦いの前のやり
取りを思い出したといったところだろう。
大「そっか……ここは咲夜さんの部屋…です
ね。でも、なんで私ここに……」
パ「あなたの友人がとても大事そうにあなた
を背負ってこの部屋に現れたわ……あとで礼
を言っておいたら?親しき仲にもなんとやら
…でしょ?」
それを言う私の顔は若干微笑んでいた…
と思う。
なにせ、こういうものは普段は他愛のないも
のと思っていても微笑ましく感じるものだか
らだ━━━こういうのも、悪く無い………
大「~~~っ!!///は、はいぃ~………」
顔を赤らめ、背を縮こませて指を体の前で
組みもじもじとしながら消え入りそうな声で
返事をする大妖精が思いの外可愛らしく、そ
れが私の嗜虐心を刺激した。
パ「とっても幸せそうにぐっすり眠っていた
わよ?…全身を大好きな
、もたれ掛かって……そう、特に背中の真ん
中辺りなんて・・・あなたのそのみかけに寄
らず豊な……」
大「そ、それ以上はヤメテェ…///!!……
うぅ…なんでそんなイジワル言うんですかぁ
…(泣………ひどいですよぅ…」
顔を赤らめ、涙まで目に滲ませて眉をハの
字にさせている大妖精に更なる嗜虐心と悪戯
心が湧いてきてしまうが、ここは堪えて謝罪
に入る。
パ「…ふふっ…ごめんなさい…あなたの反応
が可愛かったからつい・・・」
大「もう……あ、そうだ!その…チルノちゃ
んたちは?」
美「ああ、それならレミリアお嬢様の影?を
離すと出て行かれてからかれこれもう40分
くらい経つので……そろそろではないでし
ょうか?」
大妖精は辺りを見回し、礼を言うべきその
相手を探してからその者の居場所を聞き、そ
の問いには美鈴が代わりに答えた。
そして、それを肯定するかのようにこの部屋
にいた藍の式、橙が嬌声を上げる。
橙「…?…あぁっ!なんとなくだけど、藍様
の気配がする!!」
それはつまり、彼女と一緒にいたチルノも
この部屋に帰って来るだろう事を意味する。
大「えっ!…それじゃあ…!」
自然、大妖精の顔も綻び、私と美鈴も表に
は出さずとも安堵する。
そして、扉が開かれ、果たして部屋にはレミ
ィを背負ったチルノとフランを背負った藍が
入室した。
大「チルノちゃんっ!!」
チルノの名前を呼ぶや否やチルノに駆け寄
る大妖精。
美「お嬢様!……それに妹様っ!」
藍「大丈夫だ……今は少し気を失って眠って
いるだけだよ」
美「…そうですか……良かったぁ…」
レミィとフランの様子を見て駆け付けた美
鈴も藍のその一言でホッと胸をなで下ろした。
かくいう私もそのことに改めてチルノと大妖
精に感謝する。
…そしてふとレミィを見やると彼女はさっき
迄のことが嘘のように安らかに寝息を立てて
いる。
そのことに安心し、私は本題を進めることに
した。
パ「それで・・・これからどうするの?敵は
待ってはくれないのでしょう?それなら、早
めに動いたほうが良いんじゃない?」
その私の言葉にその場の全員の空気が変わ
るのを感じる。
と藍がそのことについて提案を持ち掛ける。
藍「そのことなのだが、私たち四人……リグ
ルを入れた五人はこれから奴を追う……これ
は変わらないが、レミリア・スカーレットに
フランドール・スカーレット、そして十六夜
咲夜も倒れている今、紅魔館の守りはあなた
とそこの門番だけ……ならばいっそ皆博麗神
社に行ったほうが安全なのではないかと思う
のだが……どうだろうか?それなら互いに協
力合えるし、守り合える……こちらとしても
霊夢たちの方に助力が増えるのはありがたい
し合理的だと思うのだが……どうだろうか」
パ「……確かに合理的ね……それに願っても
ない話だわ……でも、そうやって私たちが紅
魔館を離れている間、誰が
ら?」
藍「そ、それはそうだが……」
パ「確かに、これははただの建物だし、壊れ
ても作り直せるわ……でも、出来ることな
ら壊されたくはない…………ここは、私たち
の家だから………」
藍「……………」
パ「だから私たちはこの場とその主であるあ
の子たちを守る……!この場所も、互いも
、無くてはならない存在だから」
美「…パチュリー様…」
パ「なにより、レミィが目覚めた時に紅魔館
を放って行ったなんてどんな顔をして言えば
いいかわからないわ……だから、あなたの
提案は嬉しいけれどここは断らせてもらうわ
。それと……力になれなくてごめんなさい」
藍「いや、こちらこそ無理を言ったな……
確かに、私も…マヨヒガを捨てて逃げろと言
われれば恐らくできないだろう…それが紫様
からのご命令ならばともかくな……」
パ「ええ、だから
頂戴…」
藍「わかった!そういうことなら是非もない
……お言葉に甘えるとしよう」
藍がそう言うと、他の皆も納得したように
頷いた。
それからは、チルノがせめて少しでも早く三
人が回復するようにと即席で回復用の結晶を
作ってその場に置いて行き、その場の四人…
…八雲藍、橙、チルノ、大妖精はこの紅魔館
をつい数時間前ほどに後にした。
美「パチュリー様……必ず、ここを守り抜き
ましょう!私たちの帰るべき…この
を!」
パ「………言われるまでも無いわ……そんな、
当たり前の事を今更言われても……」
美「って! 今、そういう流れだったじゃ
ないですかぁ!」
パ「ふっ………そうね…………ええ…何として
も…ね…」
私も、そして美鈴も、吸血鬼としては眠り
の時間に入る朝の…その陽射しを、私はい
つもの眠そうな顔の中に………美鈴はいつ
もより凛とした顔の中に………それぞれ決
意を秘めながら、山の端からゆっくりと昇
る朝日を見つめた………