何故か?もうお分かりの方も……というかそう言う方
しかいないんじゃ無いでしょうか……
でも、それでわからなかったからって気にする必要
は全くありません!寧ろありがとうございます!
さぁ、ここからは…予想通り過ぎてつまらんか、予想
外に期待外れかのどっちかでしょう!
……当たり前か……哀しみ……━━━では、参る!!
???side
何か、胸騒ぎがする…………それに、この
気配は………?━━━
━━━私は、昨日まで地底の旧地獄跡……旧
都と呼ばれるその場所でいつものように…同
じ鬼であり、山の四天王にして、飲み仲間の
勇儀と、朝から晩…晩から朝まで梯子酒をし
て店を巡り歩いていたんだけど……━━因み
に何度か勇儀は席を外したらしく姿が見当た
らないことがあったが酔ってて正直よく覚え
てない━━そこで私が“よ"おぉ⤴~~ーし
ぃ⤴…もう一軒、もういっけん~~♪”と次
の店を目指し始めた時だった━━━その時は
丁度勇儀の奴の姿が見えなかったけど、また
すぐ戻ってくるだろう、とか、また旧都の見
廻りでもしてんだろう、とか、深くは考えな
かった……それに、すぐにそれどころじゃ無
くなった……
伊吹萃香=萃
萃「・・・?………………なぁんか……………
萃香side
………何か変な予感というか引っかかりを
感じた私は地上に向かって飛んで行った。
━━━この時は何故か久々に、気味の悪い事
に…酔いから醒めていた。
旧都の出入り口、地上と地下を繋ぐ穴の番
人である嫉妬の橋姫やら、やたらに明るい土
蜘蛛やら、釣瓶落としの妖怪やらに絡まれな
いよう自身の『疎と密』を操り、霧と化して
移動する。
その際、あえて橋姫のすぐ横を通り抜ける……
これは自身の能力に対する信頼故だった。
水橋パルスィ=水
水「━━!?……今なにか………?……気のせ
いか……」
首を傾げるパルスィ…………━━━━━━
ゑゑぇ……(困惑)どんだけひとを嫉みたい
の……コイツ……
……そして相手の姿が小さくなってから呟く
……
萃「なんか
うとか何とか疑われてるみたいだけど、あり
ゃ筋金入りだな……」
通り掛かるだけで…とかどんだけだ…とか
独りごちながら地底の出口である縦穴へと向
かう……霧に変じた身体は時折人に近い形を
取ったり雲のような不定形になりながら穴の
中を進む。
まぁ
……くらいの頻度と形だが。
そのまま上に向って進んで行くと、例の如く
先程思い浮かべた愛想の良い土蜘蛛と、釣瓶
落としが世間話に花を咲かせていた。
キスメと黒谷ヤマメだ。
『釣瓶落とし』のキスメの方は入っている桶
が何処かから吊り下がっていて、ヤマメの奴
は自身の張った蜘蛛の巣の上に腰掛け、脚を
ぶらぶらさせながら談笑中だ。━━蜘蛛の巣
といってもただ座る為だけの細めのもので、
片すのは簡単そうだ━━時折、キスメの意見
も求めながら、それでさぁ〜……など、呑気
に話している。
その横を━━さっきの橋姫の事もあるので━
━更に薄く広がりつつ、離れながら通り過ぎ
る……当たり前だが今度は全く勘付かれもしな
い。
そのことを確認しつつ、縦穴を更に上へ上へ
と進み……この穴の出口、妖怪の山の空洞を
目指す。
そう、この地底への入口は妖怪の山へと通じ
ているのである。
かつては自身も妖怪の山に住み、他の鬼と共
に現在の上位種の天狗の上に立ち、四天王の
一角だったりもしたが、今は山を降り、幻想
郷のあちこちに
━━そのうち、暗い穴の先に光が見え始めた。
最初は小さな点に過ぎなかった光も、近づく
につれて大きくなってくる……その色はまだ
赤みが差してはいない。
━━となると……今地上は昼間か昼前くらい
か……
何となく、そう思いそのまま外へと抜け……
………ようとした…が………
見張り天狗A
「ここのところ、なぁ〜んか上の連中ピリピ
リしてないか?」
見張り天狗B
「……まぁ、確かにな……一体、何を殺気立
っているんだか……」
見張り天狗A
「でも、ちょっと分かる気もすんだよな……」
見張り天狗B
「……お前もか……実は俺も変な感じはし
てる……嫌な気配だ……」
━━━ふうん……ここには、滅多に誰も配備
されないのに珍しく山の天狗がいるのはそう
いう理由か……
私がそのまま縦穴から洞窟を抜けて行こうと
すると、男の天狗(恐らく若手)が二人、洞
窟の入口の見張りに付いていた。
………しかもなんか、そこそこに出来る奴を寄
越してんじゃん……
その二人の鴉天狗はその後も軽く言葉を交
し合いながらも辺りに鋭い視線をそれとなく
送り油断無く周囲を警戒している。
……しかも、集中が一切途切れることない……
萃「おいおい……どんな警戒網敷いてんの…
…どんだけだよ………(しかも……)」
私は既に霧状態のまま見張りの天狗たちを
難なく通過して、その上空にまで出て来てい
たのだが……そこでも……
萃「等間隔に……六、七……十…………、……
…………………………………………まじか……」
およそ、天狗組織内でも精鋭に数えられる
であろう者たちが、私が漂うその周辺だけで
も数十は居て、それぞれ巡回、警邏、警備に
当っている。
その者たち以外にも、格は下がるものの兵士
と思われる者たちも妖怪の山を囲むように警
護に付いている。
山の麓辺りを哨戒(白狼)天狗、中腹を鴉天
狗、その上を更に精鋭の鴉天狗が見張ってい
る。
萃「…………(しかもあいつまでいるし……)」
なんと警戒に当っている鴉天狗の中に混じ
って天狗の長……天魔までいる。
私は既に霧状の自分を山全体に広げていたの
で天狗たちの数を正確に把握する事も出来た
がそれよりもこの状況を説明してもらう為に
、次期天魔に話を聞きに行くことにした。
━━━というかぶっちゃけ二十を数えた辺り
からめんどくなってやめた……
萃「………正直、羊数えてるみたいで眠くな
りそうだし意味無いし……」
???「…………(……くそっ! 何なんだ?
これは一体!? 何かが具体的に攻めて来て
るワケでもねーのに……嫌な感覚だけは露骨
に伝わって来やがる!!)」
萃「よぉ! 随分、気が立ってるねぇ〜」
???「っ!?」
萃「……そんなビビるこたぁないだろ?私
だよわ・た・し…忘れちゃったか?
話かけた瞬間警戒と鋭い視線を向けて来た
顔見知り、来坊(くるぼう)こと
が私の姿を見止めて警戒を解き代わりに面倒
くさそうな顔に変わりながら返す。
魔社宮来遠=来
来「…忘れるワケないでしょう…ガキの頃か
ら付き合いのある人を……っていうか、今仕
事中ですし、昼間っから絡まんで下さいよ…
……ましてや、今立て込んでまっし……」
萃「ほう……それはそれは……やっぱり天魔
ともなるとあちこち引っ張り回されて大変っ
てコト?」
来「それも…次期天魔ってだけですケドね…
……いや、これはそういうんじゃ無くて……
なんつーか……」
そこから、ソイツ……次期天魔の少年(若
しくは青年?)は少しの間逡巡した後ぽつり
と、自身の蓬髪に手を埋めて掻くようにしな
がら……
来「今は具体的にどうこうって段階では無ん
すけど……」
萃「………?」
煮えきらない物言いをする彼を訝しみなが
らも私が次の言葉を待つと、頭に手をやるの
をやめ…こちらをまっすぐ見つめながら話始
める。
来「俺も何か異様な気配というか、ただなら
ぬ雰囲気っつーか……とにかく嫌な予感が付
いて離れないんですよ………それが俺一人な
らいざ知らず、哨戒の白狼天狗から俺直属の
奴らに至るまで漏れなく全員がその怖気とい
うか嫌な感じというか、その気配のことを訴
えかけてくるんです……」
萃「……ふむ、つまり何かの前触れみたいな
のを感じると……」
来「えぇ……まだ何も起こっていないんで
なんともいえないんですけど、だからといっ
て起きてからでは遅いし見過せないんで、こ
うやって警戒体勢取るしかないっていう……」
つまりは予感だけひしひしと感じられる割
りには未だ妖怪の山には異変が無く、膠着し
ているということらしい。
来「いや…まぁ、この妙な気配で山全体が殺
気立ってんのが異変と言え無くもないんすけ
ど……でも、これはまだ…なんつーか、単な
る氷山の一角な気がすんですよね……」
萃「う〜〜ン………とどのつまり、その気配
とやらはなんかのオマケってことかい?」
来「確証も何も無いただの感触っすけど、可
能性はあります」
萃「ん〜〜〜……あ! あいつは?あんたの
親父で現天魔の……」
私がその名を口にした途端、食い気味に“ハ
ァ〜…”とため息をついて顔に手を当てる来
坊。
来「あ〜もう!あのクソ親父っ! こんな時
に一体どこほっつき歩いてやがんだよ……!
!ったく……っ!」
萃「あぁ〜〜……」
次期天魔の少年こと、来坊のその嘆きを聞
いて納得した私はもうその事について触れな
かったが、本人はヤレ母をどうの、ヤレそも
そも長としての自覚がどうのと、尚も愚痴り
続ける。
それにもげんなりして来たのていい加減話を
変える。
萃「…っていうか、あんた…なんで身分隠し
て警備してんの?」
来「……っえ?」
萃「いや、だって……なんでわざわざ下っ端
になりすましてんの? 次期天魔なんだから
堂々としてりゃ良いじゃん。 まぁ鴉天狗で
も実力や地位はあるほうだけども」
そう、天狗は種族の中でも上位種。
その中でも鴉天狗は報道担当とはいえかなり
の実力を備えている。
来「ぁ〜………それはまぁなんというか、ぶ
っちゃけめんどいじゃないですか……色々と」
萃「………はぁ!? いやいや! 身分隠し
てるほうがめんどいだろ!? どうしてそう
なった!」
叫ぶ私に、来坊は静かに……
来「いえ……実際色々動けて便利でっし、
変に気負わないで良いから気楽なんですよね」
ゑゑぇ……と困惑する私にそれに、と続ける。
来「その方が組織の頭押さえようとする連中に
も見つかりにくいでしょうし、伝令も確実に出
来て楽なんすよ」
としたり顔(いやちょっとキメ顔入ってた
かな)で言う来坊に呆れて嘆息しながら、心
配を口にする。
萃「お前ェ……そんなで大丈夫か?ちゃんと
友達いるか?周りと…上手く行ってるか?」
来「…!そ、そんな事どうだって良いじゃな
いっすか!? お、大きなお世話っすよ!!」
明らかな動揺を見せた彼に私は更に言葉を
重ねる。
萃「ま、まさかお前……今巷で言う所のぼっ
ち━━」
来「へ、へ変な、言い掛かりはよしてくださ
いよ!? ちゃんとツレの一人や二人居ます
し!!」
萃「………おい、私は鬼なもんで嘘が嫌い
だから一応きくけど……そのツレとやらに
はちゃんと打ち明けてるんだろうね………
実在するならだけど……」
慌てた様子で言い募る彼に私は声を低くす
る。
来「それはもちろん……っていうか隠すの無
理ですよ……さすがに……あ、因みにいまソ
イツら、地底に通じる洞窟見張ってます。来
るとき見ませんでした?……って!幾ら何で
も失礼じゃないすか!? ノンフィクション
っす!!! 実在の団体や人物っすよ!!!
ちゃんと!!」
………あいつらかよ!!
私は洞窟を抜けて最初に出くわした、くっち
ゃべりつつも周りに鋭い警戒の目を油断無く
……それとなく光らせていた鴉天狗二人を思
い出す。
来「まぁこんな時なんで、内から外からに限
らずヤバいようなとこを見張らせてんすけど
ね……ほら、地底って地底に何かあっても地
底から何か来てもヤバいじゃないですか……」
そんな危険極まる所を(恐らく)なけなし
の友達二人に見張らせて大丈夫か……と思っ
たが、その友達とやらも最初に見た時にかな
りのやり手っぽかった事を思い出して、心配
を取り消した。
萃「……ってことはソイツら二人がお前さん
の直属かい?」
一応聞いて見ると案の定…
来「えぇ、それにそこには他に部下もいるし
なんかあったら即知らせが来ます」
萃「………ねぇ。やっぱその身分隠すの意味
あんの?その知らせに来る奴だって来坊が天
魔って知ってんだろ?」
来「?…いいえ? 知りませんよ? だって
ダチの二人以外には言ってないですから」
萃「…え? だったらなんであんたのとこに
知らせが行くのさ?」
来「俺は単なる、天魔に対する連絡報告係っ
て事になってますから……あ、因みに他にも
そういう奴らがいるんで特別視される事もな
いっす」
萃「いや……だったらソイツらだって報告す
る時にお前だって気付k…」
来「姐さん。 報告の際は面と向かってじゃ
無いし、他の奴らと報告する時は妖術使って
そこに天魔がいるっぽく仕立てるんすよ……
それでもみんな不審がりません……こういう
時は便利ですよね……天魔の畏れ多さって(
遠い目)」
萃「……そこまでする〜…? いや絶対そっ
ちのがめんどくさいって!」
目の前で遠い目をしながら言い募る少年の
未来が心配になった私は更に言葉を重ねる。
萃「あんた、そんな事しててコミュ障とか大
丈夫?」
来「大丈夫ですっ!!俺、ぼっちじゃないん
でっっ!! 何より
その証拠っ!」
力強く拳をつきあげるように体の前で握り
締めながら断言する未来の天魔少年を前にし
て若干の目眩を覚えながら話題を変える。
萃「……はぁ…まぁもうそれはいいや……
しかし……あんたが『天嵐』を持ち出す程と
はね……」
来「えぇ、これは俺の独断ですが……その位
ヤバいと判断したもんで」
『天嵐』とは、天狗という種族内の各種族
の中に於いて精鋭のみで構成される各種族混
成部隊のこと。
さっき山全体の警戒に当っている天狗をざっ
と見渡した時に精鋭鴉天狗(たぶん『天嵐』)
は頂上付近に固まってたけど、それはそこが
割りかし多いってだけで山の中腹の鴉天狗や
裾野や麓の辺の白狼天狗とかにもちらほらと
いた。
来「……っていうかこんなとこで油売ってて
良いんですかい?姐さん」
萃「ん?」
来「いや、ほら……滅多に
姐さんがここに来たってことは俺らほどで無
いにしても何かしらを感じ取ったから足運ん
だんでしょう?」
萃「まぁそうだけど……」
目の前で怪訝そうな顔を向けてくる若き天
魔にニヤリと笑いかける。
萃「忘れちゃった? あたしは
来「知ってますよそりゃ……でも、それを今
出してるなんてどーやってわかるってんです
か…」
そう、私は幻想郷の各地に分身を置いてい
る。(分身っていうより分裂体?)
これは密と疎の内、疎を操る能力の応用だ。
その力で自分自身を小さく分裂させることも
出来るので、後はソイツらを私の等身大にま
で大きくするだけだ。
萃「んじゃ……ここでのことはだいたいわか
ったしそろそろお暇するよ〜……」
そう言うが早いか、少年天魔の目の前で山
四天王が一人…伊吹萃香の姿が霧となり消え
てゆく。
最初は先っぽの纏められた薄茶色の長髪の端
から……次は、腰から鎖で吊るされた分銅(
三角錐、球、立方体)の中で三角錐……かと
思えば真紅の瞳の右の方から……続いてその
身長に不釣り合いな、頭から左右に生えた捻
れた角の左の先……等まるで捉え所が無い━
━━━その後も白のノースリーブの肩が、伊
吹瓢の底が、紫のロングスカートの腰部が……
と消えて行き、果ては頭の赤いリボンまでも
が霧化して消えた。
……そして、伊吹萃香の姿が霧に掻き消えた
後、その場に残された魔社宮来遠はポツリと
………
来「………ったく、マジ勘弁だわ………向か
いあって話してたあの姿も本体の何割か……
実際はもっと色んな角度から見渡したり、俺
を観察してました〜とか……相変わらず半端
ねぇーーなあの
そう、彼には見えていた。萃香が去る直前
、彼女の周りに霧がかすかに
を中心に渦巻いていたのを━━━━━━━━
それが見えたのは、果たして故意になのかそ
れとも彼の感覚の鋭さ故か、はたまた偶然な
のか……それを知る術も機会も永遠に失われた。
━━━後に残されたのは、額から冷や汗を一
筋つぅ…と伝わせる……鴉天狗を装った、山
の上位種のその頂点……ただ一人であった。
妖怪の山中腹の上空某所での一人の若き天
魔と四天王の邂逅から時を遡ることおよそ二
時間
━━━人里…貸し本屋『鈴奈庵』
小鈴side
鈴「あぁーー……ああああぁぁぁぁーー……
…………ぁぁあああぁぁぁぁーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…………」
求「小鈴五月蝿い…………ホラ! お客さん
が私だけだからってだらけないのっ!」
狭い店内に二人の少女の声が響く。
一方は本棚から目当ての本を探しており、も
う一方はさっきまで店番で勘定台を挟んで来
客を待っていたのが、余りの閑古鳥の鳴きっ
ぷりに退屈し、悲鳴とも呻きともつかない声
を上げ、台の上にうつ伏せに身を投げて突っ
伏し……潰れた生卵のような醜態を晒してい
た。
………そのもう一方の少女こと私、本居小鈴
は誰がどう見ても、どこからどう見ても完全
にだらけきった姿勢で、うぅ〜…とヤル気の
ない呻き声を上げる。
しかし、それも仕方無いではないかと思う。
何せ、ここ最近は客足も遠のき気味で更には
別段変わったことも無いからだ……
鈴「だってぇ〜〜……しょうがないじゃない
〜……暇なのよぉ〜〜………」
求「それなら本棚の掃除とか…」
鈴「やった……」
求「……なら整理とか……」
鈴「やった……」
求「じゃあ貸し出し期限切れの貸し本回収し
てきたら?」
鈴「それももうやったよ……まだ期限内の貸
し本の確認も終わったし……」
求「だったら製本は?」
鈴「…………依頼が無い……」
求「そう…でも、私が近いうちに頼むからね」
私は友人のその言葉に反応し、期待と共に
“ばっ!”と顔を上げる!
鈴「………っ!クリスQの新作っ!?」
求「いいえ……歴史本関連。つまり仕事」
鈴「………小説の方だって仕事じゃん……」
……期待を込めた問に対して首を横に振る
それを見かねてか、阿求は本棚から本を手に
取り、表紙を確認しては戻す作業をしながら
尚も提案してくる。
求「じゃあもうこのお店の本でも読んでたら
?そんなみっともないとこをお客さんに見ら
れるよりマシでしょ?」
鈴「えぇ~〜〜……そうだけど……このお店
の本は一通り読んじゃったし……」
求「……って!…どんだけひまなのよ?……
新しく本が幻想入りとかしてないの?」
暇過ぎて店内の本を読破してしまった事を
告げると呆れと驚きの伺える表情がこちらに
向けられる。
阿求の言うそれらは外来本と言い、外の世界
から博麗大結界に隔離されたこの幻想郷内に
流れついた本の事を指している。
確かにそれらがあれば、少なくとも退屈から
は抜け出せるが………
鈴「……それなら良かったんだけどねぇ〜〜…
…」
求「あぁ……何もない、と……」
そうそう都合の良いことがあるわけもなく
……(まぁあったらあったで怪しいけれど)
というか、間が悪過ぎる気がする。
いつもなら、(まぁありきたりなのばかりだ
けど)外来本の一つや二つ流れついている筈
なのだ。
……それが一冊も見当たらない……いつもの
場所に探しに行っても……
鈴「……えぇ、そうなのよねぇ〜〜…いつも
ならつまんないながらも何かしら落ちてたり
するのに……」
求「それ大丈夫なの?ここは主に外来本を扱
ってるんでしょ?」
鈴「それなら大丈夫。今までに入った本があ
れば足りるし……っていうかそもそも今はそ
んな流行ってないし……はぁ………」
……と、また話が最初の…この店の不況と
いう話題に戻ってしまったことで思わずため
息が洩れる……だがそ、れにしても…と思う。
この退屈さは何か異常な……嵐の前の静けさ
……という奴ではないのだろうか……?
確かに、そうであって欲しいというかそうと
でも考えていなければとてもじゃないけどや
ってられないと言う気持ちもあるが……それ
だけではないようななにか予感めいたものを
感じる気がするのだ。
そういう予感が、ワクワク感が…ギリギリの
所で私の気持を繋いでくれている…………も
ちろん、これは気のせいで…私がそう思いた
いだけのただの願望……なのかも知れないが
……とにかく、何かがこのひたすらに鬱屈し
た状況を打ち砕いてくれないかと思わずには
おれなかったし、何か起こりそうな気がする
のも事実なのだ。
………しかし、私はわかってなかった…………
う既に危機がすぐそこまで来ている証で、今
までの代わり映えしない日常が如何に尊く…
今のこの退屈ささえもそれの前にはマシと思
えるような地獄が待っていることを……私は
、まるでわかっていなかった。
阿求side
私の目の前で、友人が如何にも気だるげと
いった風の声を上げ、受付台の上に突っ伏し
、情けない声で呻いている。
その友人とは、飴色の髪を鈴の髪止めでツイ
ンテールにした、紅と薄紅の市松模様の着物
を着たこの店の看板娘にして店員の、本居小
鈴という可愛らしい少女である。
因みにいまは店番中でありクリーム色のフリ
ルエプロンを上から身に着けている。
そんな彼女を横目に私はお店の本棚から目的
の本を探して、手に取って表紙を見ては戻し
見ては戻し……と、物色を繰り返しながら、
目的のものが見つかれば腕に抱えていく。
その作業中に彼女としていた何気ない会話か
ら……どうやら小鈴はこのあまりの静けさに
辟易しているということらしい……
確かに、今この店は閑古鳥が鳴き続けている
ようだけれど……
それに、特に異変もなく平和であるのは確か
なのだし…寧ろ妖魔本が無いことで、小鈴が
不用意に妖魔本に手を出して凶事に巻き込ま
れることも、
いだろうし……と、そこまで考え、次の本を
手に取ろう…と手元にあった本を棚に戻そう
……としたその時。
チリリィン……ィイン………
?「……じゃまするぞ〜い」
求「……?………えぇ……」
鈴「っ!! い、いらっしゃいま…せ…
あっ!!お久しぶりです!マミゾウさん!!」
私は今やこの店には珍しくなった、来客に
ふと顔を向ける……
久々の鈴奈庵への来客は、よりにもよって例
の化け狸………『捕らぬ狸のディスガイザー』
こと、二ツ岩マミゾウだった……
二ツ岩マミゾウ=岩
岩「いや〜久しぶりじゃの小鈴……と稗田
のご当主」
二ツ岩マミゾウ…佐渡の二ツ岩ともあだ名
される彼女は幻想郷の勢力の中でも実力者の
部類に入る。
手下の狸たちを従え、裏で暗躍する。
果たして今回の彼女は敵か味方か………
いずれにしても油断のならない相手であるこ
とは間違いないが………味方であったところ
で何を狙っているのかわかったものではない
からだ……まぁ、根本的に妖怪は人間が必要
なので真っ向から敵には回らないだろうが…
……
岩「……いやいや!そんなに警戒する事無い
じゃろうて…!」
私の疑いの眼差しに気付いてか、マミゾウ
氏が宥めるような事を言う……
求「正直、以前にあなたに良いように利用さ
れていたことを知ってから、油断ならないと
思っています……ですが……」
私は彼女へ向けていた警戒を解くように、
ため息と共に目を閉じ、すぐに開く。
岩「ああ。わしは今回……というか、今回も
!そちら側じゃぞ!」
鈴「……あ、それはそうとマミゾウさん…今
まで何処にいたんですか?」
岩「ふむ…良い質問じゃな……実は…」
その言葉の終わるか終わらない内に彼女の
姿が人里に紛れる為の格好から普段の妖怪と
しての装いに変わる。
人間変装時の黄緑色の紋付き羽織に黒の長着
、頭に葉っぱの髪留めをしただけの姿がボン
っという音と共に煙に包まれ、煙が晴れたか
と思うと妖怪としての普段の姿………
狸というよりアライグマのような尻尾に、頭
に狸耳を生やし、服は薄い桃色の肩掛けに黄
土色の無地のノースリーブと、臙脂色のスカ
ートで素足に下駄を履き、頭にはさっきの髪
留めが変化したのか、一部丸く枯れた木の葉
の帽子を被った平常時と思しき姿に変わる。
岩「さて…気付いておるかの〜……最近、人
里の様子がちょいとおかしいのは…儂はその
原因を探る為、独自に動いておったのよ」
鈴「人里? 人里がなにか?……別に普段と
変わらないと思いますけど…」
求「ええ…特に人が消えたとか事件が起きた
とかは聞かなかったですし……」
岩「まぁ、人里でなにかあればお前さんらの
耳に入らん筈はないのぉ…」
そうである。片や最近まで盛況だった貸本
屋…片や、言っても稗田家当主である…まし
てや、狭い人里内…何かの騒ぎや事件があれ
ば噂として耳に入る筈……
岩「じゃが、里全体が既に変容していれば…
どうじゃ?」
求・鈴「「……!?」」
求「……まさか…そんな……!」
ザザッ……!
その時、店の外で何者かの足裏が地面を擦
る音がした……
岩「そうら……もう来おったぞ〜…!」
まるでその言葉を待っていたかのように、
次々と店内に人型の機械人形のような黒い兵
が店に押し入り、あっというまに取り囲まれ
てしまった……
マミゾウは不敵かつ老獪な笑みを貼り付けた
まま周囲の招かれざる客達を目だけで見渡す。
その者どもの内中央の一体が指揮官なのか、
両手の鉤爪状の武器を片腕だけ上げてこちら
へ振り下ろし…差し向けて来た!
ふと咄嗟にマミゾウを見た。
岩「流石に多勢に無勢じゃな…ふむ」
その言葉の中途にはもう懐から葉っぱを取
り出し……しかし、それをさせまいと敵が一
斉にこちらへ襲い掛かる!
だがそれが届くか届かないかの寸前でドロン
ッ!と辺りが煙に包まれ、晴れた時には二人
の姿は消え…人形兵達も二人を見失ったよう
に辺りを見回している。(何故か私の事にも
気付かない…)やがて…一通り店内を虱潰し
に探し、いないと見るやぞろぞろと鈴奈庵を
出ていった。
だがそこにはまだ人形兵が二人……と思うが
早いか、ドロンッ!という変化の術特有の音
と煙が立ち込め、薄れるようにすぅ……と消
えたかと思うと、先程まで消えていた二人が
姿を現した……
そこでようやくからくりに気付く。
つまり、消えたのではなくマミゾウ本人を含
めた三人共化けさせられていたのだ。
岩「さて…取り敢えず危機を脱したわけじゃ
が……」
求「…今のは何だったんですか?」
鈴「何か全身…黒尽くめだったよね……?」
変化が解けての第一声を彼女が上げると私
たちもそれに続くように質問をする。
岩「それはまだ儂にも定かではない……奴ら
が何者なのかはな……」
求「それなら、ひとまず里の守護者のもとへ
行きませんか?何か知っているかも……」
岩「いや…あの寺子屋の教師も知っているの
は現状くらいのものじゃと思うぞ?会いに行
くのは賛成じゃが」
他に誰も居なくなった店内…異様な静けさ
の中でこれからの方針について話し合う。
鈴「う〜ん…それじゃまずは慧音先生の所
…?」
求「そうね……今はそれくらいしか……」
取り敢えず方針は決し、人里の守護者であ
る上白沢慧音のもとを尋ねることとなった。
……店の外へ出ても異様に静かなのは変わら
なかった……
人が…誰もいない……私が店に入るまでの状
況とかけ離れた情景に流石に違和感を覚える
が、あんなモノたちがうろついているのだか
ら里の者が皆逃げるか隠れるかしている方が
自然かと考えを改める……でも、それにして
は……
求「皆、何処かに避難するか家に閉じ籠って
いるのでしょうか……」
岩「いや、それはないじゃろう」
鈴「え?どうして?」
岩「お前さんらは店内におる時、誰かの悲鳴
やら、騒ぎがあるのを聞いたか?」
鈴「…そういわれれば……」
そう、あのモノたちから逃げたのだとすれ
ば何かしら騒ぎになっていてもおかしくはな
い…にも関わらずそれらしい騒音も喧騒も、
全く聞こえて来なかった…
岩「それに…先程儂がした話を覚えておるか
のぅ…この里全体に異変が生じ……里の人間
の様子がおかしいと…」
鈴「あっ!」
求「…それは……どういった異変ですか……
?」
岩「まぁ待て…続きはあの教師と合流してか
らにしよう……ここだと、いつまた奴らが来
るか分からんからな」
それもそうだ…こんな誰もいない通りにた
ち尽くしていては、どうぞ狙ってくださいと
言っているようなものだろう。
私たちは寺子屋を目指し移動した。
因みに今は昼を少し過ぎたくらいなので本来
なら寺子屋で授業か行われている筈である…
ゆえに慧音もそこにいるだろう……そこまで
の道筋は私が覚えているのでその自分の記憶
に従って進む。
里人A side
……ここは何処だ……いや、周りには竹が
生い茂っているので竹林ということはわかる。
そして恐らくは幻想郷の「迷いの竹林」だろ
うことも予想出来る……が肝心なのはその「
迷いの竹林」どのあたりなのか見当もつかな
い。ということだ。入口なのか、出口なのか
……はたまた真ん中らへんなのか……全くわ
からない……それどころか…まぁ入った者を
迷わせるのがこの「迷いの竹林」の性質らし
いから当たり前なのだが………いや、それも
問題だがそれ以上に………………俺にはここ
まで来た時の記憶が無い。
いや…正確には、どの道順で…どこを通って
…等の記憶は朧げながらある。
だが、何故そうしようと思ったのか、どんな
目的や意図があったのか等の記憶が無い……
………そして、更に妙なのは……これは今も
そうなんだが……何故か変に……、冷静で…
落ち着いている。
普通はこんな所に、わけも分からず一人で居
れば多少の混乱や狼狽等があっても良さそう
なものなのに今でも…そんな自分の状態も含
めて粛々と受け止めている。
こんな所……というのは、ここは入った者を
迷わすというだけでなく、人を襲う危険な妖
怪も出没するという意味でもあるので尚のこ
とだ。
俺の名前……は……大丈夫だ……思い出せる
………俺の名前は「畑咲 空汰」だ。
「それにしても……何でこんな所に……」
俺は確か、嫁から買い物を頼まれていて、
仕事帰りに買って帰ろう……と考えながら仕
事場に……………向かった筈……とそこまで
思い当った所で、不意に背後の茂みからナニ
かの気配がした!
空汰「━━っ!!!!
!!」
な、なんだ……今、そこの茂みからっ……
!!
よ、妖怪……なのかっ……? く、くそう
…ぅ………………ふ………あ、足が震えて…
……腰もぬ、ぬ、抜け……………………く、
く、くくくく喰わ
れる!!
な、何なんだ? さっきのさっきまで異様な
程落ち着いていたってのに………き、急に恐
ろしくなって来て、恐怖で頭が真っ白に……
………!
?「ん? 誰だ?誰かそこにいるのかぁ?」
空汰「!?」
人間の…声?それも少女……?
い、いやっ!妖怪は人間に魅力的に見える姿
を取るから例え美男美女に見えても油断出来
……
?「お〜い!」 ガサッ
…ない…との結論に至った所で相手の方が
草場の陰から姿を現した。
……っっ!!
茂みから顔を出したのは白い洋服に肩掛けの
ついた赤いもんぺ姿でかごを背負った白髪の
美少女だった。
?「……あんた、こんな所で何してんだ?」
謎の白髪美人は訝しみながらこちらに質問
を投げかける。
……いや待て…確かコイツ…阿求様の幻想郷
縁起に……………………そうだ!!!コイ
ツは!!!
………藤原妹紅だ!!!
藤原妹紅=紅
紅「……おいあんた……大丈夫か? 顔が真
っ青だぞ……?」
……何故だ……相手のことがわかった……
敵でないこともわかった……それどころか、
俺のような人を守り、この竹林から出してく
れる人物なのも理解した………助けが来たん
だ!!…なのに…なんで
……━━━━━━━━━━━━━━━━━━
なんで、体の震えが止まらないんだ?
紅「おい、本当に大丈夫かあんた……震えて
いるが……どこか悪いのか?」
こちらを気遣って、手をのばしてくる不死
の少女………━━━━っ!!!
恐怖のあまり、ついその手から逃げてしまっ
た。
空汰「………っ!!」
紅「………はぁ………まぁ、そういう反応に
は慣れてきたつもりだったし、今更どうこう
言うつもりないけど…やっぱ精神的に…来る
ものあるよ……うん……不意打ちだったか
らかな?……はは……」
しかし、こちらのあんまりな態度にも、切
なそうにしながらも親切さが崩れない所を見
るに…やはり、言われ慣れているらしい。
そのような少女の境遇に同情しながらも……
やはりまだ恐れが心から消えてくれない……
一体……この不自然な恐怖心は何なんだっ…
……!!
ここまで来てもまだ怯える自身の心に苛立ち
を感じ始めたその時……………蓬莱の少女こ
と藤原妹紅が尚もこちらに差し出してくれて
いた手をそのまま……何かから俺を庇う形に
して俺とその何かの間に立つ。
紅「……ったく! こんな時に!……おいあ
んた…立てるか?」
少女が俺を護る体勢に入ったのと、グルル
ルゥ……!と野犬か熊か判別出来ないが、ど
ちらとも取れるような声が少女が顔を向けて
いる竹藪の方から聞こえて来るのはほぼ同時
だった。
俺を背に庇う少女から声が掛けられる。
俺は何とかその呼びかけに答える。
空汰「あ、あぁ……ああ!だ大丈夫だ!それ
よりあんた…………」
紅「ん?……いや、私は大丈夫だ……あんた
も…さっきの反応を見る限り、知ってんだろ
?私のコトを…多少はさ……そういうワケだ
から、少し下がってな」
相変わらず少し寂しそうな笑みの後、相手
に相対する為、前を向く藤原妹紅……
やっぱりだ……なんだコレは………?
今も、俺は向こうの化け物よりも、今尚俺を
背に庇って立ってくれている彼女に恐れを抱
いている……いや寧ろ、如何にもおどろおど
ろしい見た目をしたあっちの物の怪を見て歓
んですらいる……さっきから…本当にさっき
竹林で気が付いた時から一体なんだっていう
んだ?……まるで心が今までの自分と違うよ
うな……現にまだ、目の前の少女をまともに
見れないのに、化け物の方は………細部を
……観察…出来る。
頭部は狼のような形で目は左右に二つずつあ
り、獣耳が見当たらず立ち上がり二足歩行も
可能で前足と後ろ足に鋭いノコギリ状の爪が
……云々……………
普通は逆の筈……人の姿の妹紅を見て安心し
、向こうの化け物に怯える……本来抱くべき
人の感情とは真逆の己の思考に俺は戦慄して
いた。
いや、ある意味では、明らかに実力のあるこ
の少女と向こうの……見た目こそ恐ろしいが
、多分下級の妖怪であろう両者を見比べれば
畏れるべきは前者であるという見方も出来る
のかも知れない…が………そうではない。
そういうことではない……!
何故なら━━彼女は……味方なのだ。
味方がそれほど強ければ心強さを感じこそす
れ、恐ろしいだの怖いなどと怯えようがない
!!
……とそこで、間合いを見極めたのか、相手
と睨み合っていた少女が一歩動いた。
紅「おい……あいつは私が始末するから。あ
んたは出口に向って逃げな」
空汰「お、おい……」
紅「大丈夫…この竹林の出口だったら……幸
い、あんたの後ろの方をずっと真っ直ぐ行っ
たの所にある」
……彼女は俺に背を向けている…………
向かい合っている化け物も俺より彼女に注意
が向いている。
餌に立ち塞がる邪魔者の彼女を排除(或いは
食べるつもりか)したら次は俺を狙うつもり
だろう……まぁ、彼女が相手ではそのどちら
も叶うことはないだろうが……
少女が下級妖怪に攻撃しようと手を構え、術
を繰り出す…………………………………刹那
、この目が信じられない物を視界に捉えた。
紅「な、ぁ………かはっ………!」
少女の……肺から空気が絞りだされたよう
な呼気が漏れ…同時に敵対していた妖魔の方
からもギャア!と断末魔の鳴き声が上がる。
それは両者が互いに刺し違えた為ではない。
彼我の戦力差がありすぎるからだ。
なら何故妹紅の方からも苦鳴が上がったのか
………火を見るより明らかだった。
紅「あ、あんた……なんで………!こ、これ
は……」
空汰「こ、これは……!……そ、そんな…!
俺は……俺は……!!」
相変わらず、何故かはわからない…………
だが、目の前の現象を簡潔に説明すると……
………俺の影が……彼女ら二人を串刺しにし
ていた。
…………それも一撃で彼らを……まるで一本
の竹串に団子でも刺し通すが如く貫いている。
…………しばらくすると先に妖魔の方に変化
があった。
なんとも形容し難いおぞましい叫びを上げな
がら、かの妖怪の姿が縮んでゆく。
………これ程異常なことか己の眼前で展開し
ているにも関わらず、尚も冷静な自分に戸惑
う気持ちと、今起こっている事態に対する戦
慄と恐怖、そしてやはりそれらを客観的に冷
静に見つめる心が綯い交ぜになり、俺の精神
は混沌を極めていた。
………………………………ただ立ち尽くすの
みだ
紅「こ、コイツは……!くっ!!このぉっ
!!」
縮んでいく妖怪の姿か完全に影に吸収され
て消える間、彼女の方の体も見る間に炎に包
まれ、頭髪の数本を残して全て燃え尽きた。
紅「ふう……なんとか抜けたか…」
しかし、次の瞬間には彼女は元通りに、五
体満足でそこにいた。
そう……これが蓬莱人、藤原妹紅の…「死な
ない程度の能力」。
不老不死となれる蓬莱の薬を飲んだことで手
に入れたとされる……そして今のはそれを利
用し、自分の体を炎の妖術で焼き尽くし、己
の体を別の位置へ再生させることで、影の串
刺しから逃れたのだ。
だが……それは、まるでこの影のことを知っ
ているかのような動きと対応だった。
紅「なぁ……あんた…一緒に永遠亭まで来て
くれないか?」
妹紅のその申し出を聞いて、ふと気が付く
と、いつの間にか俺から出ていたあの黒い影
のようなモノは消えていた。
そこで彼女の方を見るとなにやら若干顔に冷
や汗を浮かべているような…
空汰「………」
紅「大丈夫…道案内は私がする…………道中
の安全も保証する。私があんたを送り届ける
から……」
その後、俺は妹紅に連れられ永遠亭まで護
衛されるのだった。
妹紅side
不味いことになった!! 非常に不味いっ
!!
紅「もし! 私の予想通りなら……!」
悪い予感が胸の中を渦巻く……!
竹林で出会った彼は永遠亭の奴らに投げてき
た。
あとはあいつらがなんとかするだろう。
私は私で思い浮かんだ悪い予想を確かめる為
竹林の中を疾走し、人里へと向っている。
紅「頼む!慧音っ!無事でいてくれっ!!」
あのお節介は里の守護者なだけに、今頃は
里中の人間を助けようと奔走しているはずだ。
竹林に居たあの人間だけが偶々影に侵されて
いた?……いや、それはないだろう……そう
なると、里中の人間が既に取り憑かれていて
あいつはその内の一人と考える方が自然……
…焦りと共に、走る足に力がこもる……とそ
こで気付く。
紅「……クソっ!飛んだ方が早いのはわかっ
てんだろう!!…気付くのが遅れた……!」
すぐに自身の妖力を込めて飛び、妖術で加
速を掛ける。
全身が炎に覆われ、目の前が赤く染まる。
走る勢いそのままに空へ飛び上がり、真昼の
青空に赤い線が走る……私は人里へ急行した。
慧音side
この現象は一体……?里の人間が皆一様に、
意識か希薄で朦朧としているように見える。
……駄目だ……あちらもこちらも声を掛けて
もまるで反応がない。
先程まで授業を受けていた子供達も一斉に、
なんの前触れもなくそうなった。
同じように…どの子からも反応がない。
誰か人を……と寺子屋の外へ飛び出したが、
そこでも、中の子供たちと同じ状態の人々が
そこかしこで立ち尽くしているのみだ。
しかし、取り敢えず私は里の外に出て、里
があったという歴史を食べ、人里を隠すこと
にした。
慧「この状態では、万一外から襲撃があった
際に対応できない……里中の人間全員を一人
一人避難させていたのでは間に合わないかも
知れん……」
私は里外に出て里の門を見上げ、能力を発
動させる。
……すると一瞬で里が丸ごと、そこに最初か
ら存在しなかったかのように忽然と姿を消し
た。そして、先程まで里のあったその何も無
い土地に背を向け、里の守護者として立ちは
だかる。
慧「……一先ずはこの里を死守することに全
力を尽くす!!」
……これで今の所は……心配ないか………
そう、これが、半人半獣たる私、上白沢慧音
の能力の片割れ…「歴史を喰う(隠す)程度
の能力」!人里がここに存在していた歴史を
喰い、人里を隠す。
今はこれで充分だ。
あとは私がここを守る……!!
慧「さぁ、鬼でも蛇でも来るなら来いっ!!」
阿求side
……やはりいないか………
萃「あれ〜〜いないなぁ……」
寺子屋を出てすぐの通り……そこを出て、
目的の人物どころか誰一人中にいなかった事
になんとなくふと振り返える……
鈴・岩・求「「「……っ!!!!!?」」」
屋根の上…誰かが幼子のする開脚のような
ポーズで座っていた。
後ろの二人も振り返っていたようで、驚きに
息を呑むのを微かに感じた。
私も驚きから思わず息を呑む。
無理もない………何しろ相手は━━━━━━
私が自分の縁起にも記している幻想郷の最上
位種にして最強の人攫い………「鬼」。
その中でも規格外の強さを持ち、山の四天王
を張る……『小さな百鬼夜行』こと伊吹萃香
、が……寺子屋の屋根の上、目の上にてを翳
す呑気な人探しの仕草で、さも当然のように
そこにいたのだから………
そこで、今気付いたのだろうか…彼女が下を
見下ろし、こちらに声を掛けてきた。
萃「ねぇ、あんたらさぁ……ここで教師やっ
てるっていう半人半獣……何処行ったか知ら
ない?」