東方極楽伝   作:一向一揆

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最近血圧が上がりすぎて戦々恐々している日々です。
まだ20代なのに高血圧寸前はマズイと思いました。

・・・三食マクドナルド生活が響いたのだろうか?




※追記

今更な感じがしなくもないですが、この小説には史実部分にもいくつか変更点や独自設定が含まれています。

いくつか例を挙げますと、

①藤原4兄弟および不比等の年齢の変更

 本来、不比等の次男房前と三男宇合の間は13歳、武智麻呂と房前・宇合と麻呂は其々1歳離れています。
 ですが、この小説においては、武智麻呂・妹紅・房前・宇合・麻呂が其々1歳差となっています。
 そして妹紅も、一番情報不足で扱いやすい不比等の五女をそのまま武智麻呂と房前の間に移動し、史実では不比等の長女であった藤原宮子より年上として扱っています。



②官位の変更

この第一部にあたる時代においては、天武天皇が定めた「飛鳥浄御原令」に基づいた官位なのですが、浄御原令の官位は専門的に勉強していない自分にはよく分からない内容だったので、代わりに別のものを持ってきました。
具体的には、不比等やその孫の藤原仲麻呂が編纂・施行した「養老令」をベースとして、10世紀の「延喜式」に記載されているいくつかの令外官(当初の令には定められておらず、後世新たに作られた官位)を採用しています。
 ついでに、第一部の舞台である695年頃の史実の藤原不比等はまだ中級役人であり、697年の文武天皇擁立の功績と藤原宮子入内によって公卿への道を歩み始めますが、この小説では701年に任官される大納言にすでになっています。



これからも、辻褄を合わせるために史実をいくつか変更することも大いにありえますので、そこは留意していただきたいです。


第四話 決して信用ならない男。 その名は藤原宇合

  Side 信孝

「さて信孝、覚悟はいいか?」

「ゴメンナサイゴメンナサイ申し訳ありません妹紅様。 だからそのお怒りを鎮めてください・・・」

「ゆ・る・せ・る・わ・け・無いだろうがこの馬鹿野郎がーー!!!!!」

「ぶへらっ!?!?」

 

 妹紅の強烈なアッパーを食らった俺は、その一撃で意識を刈り取られた。

 そもそも、どうしてこんな状況になってしまったのかと言うと、今からおよそ1年近く前の話に遡る。

 

 

  ~約1年前 藤原京~

 

 その日、俺は宇合に連れられて東市に買い物へやって来ていた。

 

「今回は思っていたよりも掘り出し物が多かったな宇合。 まさか50年前の乙巳の変(645年に蘇我入鹿・蘇我蝦夷等が暗殺された事件。 大化の改新として有名)の際に失われたと言われていた『天皇記』と『国記』の写本が現存しているとは思わなかったな。 後でおっちゃん経由で帝に献上するように言っとかないとな・・・」

「ほぅ、兄上はそんなものを見つけたのですか。 私も目的であった『親魏倭王』の印の発掘成功と、『魏武注孫子(三国志に登場する曹操がそれまで様々な種類が存在した『孫子』の本編十三篇をまとめ上げたもの)の原本』を露天で手に入れたので満足ですが」

「へぇ~・・・、ってそんなのまであったのかよ!? と言うかお前、いつの間に発掘なんてしてきたんだよ!?」

「・・・知りたいですか?」

「いいです」

 

 

 コイツの話に乗ったら、対価としてとんでもない事を要求されることは間違いないだろう。

 こいつの話に乗って痛い目にあうことは幼い頃だけで十分すぎるほど体感したから、今更もう一度味わうなんて真似はしたくない。

 

「しかし、毎度のことながら、藤原京の市のハイスペックぶりには毎回驚かされるな」

「確かにそうですね。 この│倭《ヤマト》のものではないものも頻繁に見かけますし・・・」

 

 

 

 前回、房前・麻呂・妹紅と一緒に西市へ来た時には、キ〇ストの処刑の際に使われたらしい釘・・・つまり『聖釘』なんて物まで売られていた。

 もしこれが最初のキリスト教伝来なら、一気に日本史の教科書が改訂されること間違いなしだろう。

 

 

 

 

 

 そして藤原京以上に驚かされることが、宇合の異常なまでの才能の高さだ。

 

 コイツは以前、何と御年10歳で遣唐使として唐へ行ったことがあるのだが、その時に「史記」「三国志」「晋書」「漢書」「孫子」「呉子」「論語」等、凡ゆる書物を読破し、それを翻訳するという作業を僅か2年でやり遂げるというハイスペックぶりだ。

 

 

 そのせいなのか古物収集や遺跡発掘に興味があるらしく、現在はは古の王国である「邪馬台国」の発掘作業を主導しているらしい。

 今回は、どこから発掘してきたのかは知らないが、「親魏倭王」の印綬を発掘して持ち帰ってきたらしい。

 

 

 ・・・こいつの手で日本古代史が解明されても、後世の人からしたら「また宇合か」で済まされそうだな。

 

 

 

 

 最も、一番の興味が「他人に罠を仕掛けること」にあるせいで、今上陛下からは「史上最高の『才能の無駄遣い』」という全く嬉しくない二つ名を貰っているがな。 どこまでも残念な野郎だよ本当にコイツは・・・

 

 

 

 

 

 ・・・話を戻そう。 宇合の武勇伝の話に入ると1話で収まりきらないからな。

 買い物の中身以外は平穏に終わり、屋敷への帰路へつこうとした時、唐突に宇合が俺を呼び止めた。

 

「兄上、少々よろしいですか?」

「・・・何だ宇合?」

「・・・兄上は今夜予定は空いてらっしゃいますか?」

「ん? 今夜は特に用事は無かった筈だが?」

「それなら、今夜共に藤原宮の内裏行きませんか?」

「はい!? 内裏!?」

 

 

 

 こいついったい何考えてるんだ!?

 

 藤原宮とは、藤原京の中心部にある役所や天皇の住居の総称であり、その中でも内裏は天皇家の居住地のことを指している。

 

 

 そんな最重要地区に無断で行くなんざ、いくら俺が近衛府の役人だからといっても、おっちゃんみたいに今上陛下と殴り合いするのが日課となっているような限られた異端児でもない限り、不敬罪で即刻処刑されてもおかしくないことなのだ。

 

 

 だが、ここで一つ重大な疑問があることに俺は気がついた。

それは、宇合が俺に対し単に「時間が空いているか?」と聞くこと自体、今までに一度も無かったにも関わらず、今回何故そのように話を切り出したかについてだ。

 

 普段のこいつだったら、「今上陛下を落とし穴に落とすため、朝堂院の何箇所かを掘りたいので今夜手伝ってください」と、さも当然のように言い出すので、何故理由を言い出さないのかを図りかねていたのだ。

 それとも、あの宇合が迷うような事柄なのか? だとしたらそれこそ大問題だ。

 

 

 だが、黙っていては何も分からないので、せめて理由だけでも宇合に聞き出さなければならないと思い、俺は疑問をぶつけることにした。

 

「何故だ? お前が理由を語らないということは、それほど重要な案件なのか? それとも内密にするよう誰かに頼まれでもしたか?」

「・・・ご明察です。 実は兄上に会いたいという者がおり、今夜引き合わせることが出来ないかと考えた次第でございます」

「・・・ちょっと待て、内裏にか?」

「左様にございます」

 

 ちょっと待てよ・・・、内裏にいる人物の中で、こんな時間帯に俺と会いたいと思うような人物はいないはずだ。

 

 

 そもそも俺は殿上人ではないので、一番諸侯と顔を合わせる機会の多い今上陛下とすら、おっちゃんの暴走時以外で語り合う機会はそれほど多くないのだ。 まして、それ以外の人物に至っては顔を合わせる機会すらあったかどうかといったところだ。

 

 

 まぁ、誘ってきたのが宇合の時点で怪しいことこの上なく、俺の脳内では「これは宇合の罠だ!!」と最大級の警報が鳴らしっぱなしであり、出来ることならこのまま屋敷に帰ってすぐに寝たいところだ。

 だが、ここでこいつの誘いを断ると次はどんな脅迫で承諾させようとしてくるか分からないから、下手な返事が出来ない。

 つまり、罠である可能性が高いが、それでもこの誘いに乗らなければならないという歯痒い状況なのだ。

 

 

「・・・はぁ、分かった。 今夜行かせてもらうぞ」

「ありがとうございます兄上。 これで、あの方も喜ばれましょう」

 

 

 だが、後々のことを考えた場合、ここで俺の脳内警告に従っていたら、今後東方世界に深く関わることなく一生を終えていたかもしれない可能性が高く、そう思うと承諾してよかったかもしれない・・・。

 

 

 ~深夜 藤原宮内部 内裏~

 

 

 夜警の衛兵たちの監視の目を潜り抜け、内裏の入口近くまでやってきた俺は、茂みの裏に隠れていた宇合と合流を果たした。

 

 

「よくいらっしゃいました兄上」

「あの監視の目を逃れながらここに来ることは流石に骨が折れたがな・・・。 それで、態々こんな時間帯に会いたいなんて言ってきた奇特な人物は何処にいるんだ?」

 

 何故か宇合は、この件に関してだけは「それは当日までのお楽しみですよ」とはぐらかし続けていたが、来たからにはその人物の正体を聞かなければならないだろう。

 

 唯でさえ内裏に無断で潜入したことがバレたら、俺の死罪は免れられないのだ。 まして、「宇合の案内」ということまでバレたら「藤原家絶家」という最悪のシナリオになりかねない。

 

 

 宇合に乗せられてここに来た俺も大概だが、理由もなくここに来させられた上死刑になることだけは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 さて、一体何処に連れて行かれるのy「麗景殿《れいけいでん》です」・・・・・・へ?

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・!?

 

「はあ!? 麗景殿だと!?」

 

 今こいつなんて言いやがった!?

「・・・もう一回言ってくれ宇合! どこに潜入すると言った!?」

「ぶっちゃけて言いますと、天皇家の一族や女御が住まう屋敷です」

「何でよりによってそこなんだよ! 一番行ってはならない一角じゃないか!!」

 

 当然俺は宇合に詰め寄った。

 

 麗景殿とは、天皇家の親王や内親王、女御や皇后といった天皇に非常に近い人物が住まう屋敷の一つである。 平安時代には「七殿五舎《しちでんごしゃ》」の「七殿」の一つとされ、承香殿《じょうきょうでん》と共に最高位の弘徽殿《こきでん》に次ぐとされる非常に格式が高い屋敷なのだ

 

 そんなところに侵入し、大逆罪で捕まった上斬首は勘弁だぞ!?

 

 

 

 

「実は、その屋敷にいるある方から『兄上を今日の晩自分のところに連れてきてほしい』と頼まれたのです」

「・・・待て、そもそも何でお前がその謎の人物と知り合いになっているんだよ?」

「私が帝や公達用の罠制作のために藤原宮に潜入した際、偶然出会った侍女を通じてその方と知り合いとなったのです。 さらに言えば、私が何回か衛士に気付かれぬように、彼女や他の侍女を市まで連れて行ったこともあります。 恐らく、その際に兄上のことを見かけたのでございましょう」

「お前まだそんなこと続けてたのかよ!?」

「それが私に課せられた宿命だからです(キリリッ」

「だめだこいつ、早く何とかしないと・・・」

 

 

 俺は改めて、こいつを野放しにすることの危険性を今一度再確認した。

 

 出会った経緯もそうだが、そんな宮廷の最奥に仕えているような身分の高い女性を、都の端で治安もあまり良くない地域に連れ回すとかどうかしている。

 

 やはり藤原家滅亡の引き金を引くのはコイツか!!

 

 

 

 

 だが、ここまで来た以上ここで引き返した場合、藤原家滅亡の前に俺の命が潰えることは間違いないだろう。

 

 そのためにも、一刻も早く顔合わせを終わらせ、直ぐ様ここから立ち去らなければならない。

 

 

 

「・・・ここまで来たら帰るわけにもいかないだろう? さっさと用事を済ませるぞ」

「分かりました(計画通り・・・・・・!)」

 

 

 

 

 

 何だろう、なんか背中が寒い・・・・・・。 やっぱりここに来なければよかったか・・・?

 

 

 

 

 

  ~少年達移動中~

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が彼女の寝室です」

「ここか・・・」

「では、私は主に取り次いでまいりますので、兄上はここで少々お待ちを・・・」

 

 そう言い残し、宇合は屋敷の中へと消えていった。

 

 

 宇合の姿が消えたことを確認した俺は、改めて連れられて来た麗景殿の姿を確認した。

 

 

 

 そこは、流石に内裏の中でも弘徽殿に次いで格式高い屋敷と呼称されるに恥じない大きさの寝所だった。

 

 現代の大豪邸と比較しても劣らないほどの大きさと、彼方此方に点在する金銀で出来た飾り物や唐や新羅、西域からの渡来品の数々がこの屋敷の価値を高めているのだろう。

 

 ここに居るということは、この屋敷の主か主人に仕える女官か使用人のどれかだろう。 今の麗景殿の主が誰だか覚えていないから、今一正体が掴めない。

 

 ・・・近衛府の役人として内裏の屋敷の主を覚えていないのは致命的だと感じた奴、出来れば黙っていてほしい。 俺もヤバいと自覚しているんだ・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・次の試験落ちるかも・・・

 

 

 

 それから10分程経ち、漸く宇合が姿を現した。

 

「お待たせしました。 用意が整ったので、どうぞお入りください」

「・・・お前、これだけ見ていると貴族じゃなくて使用人にしか見えないぞ?」

「このような場所に平然と入り込むことも、我々の業界では求められる技能の一つですぞ兄上?」

「何の業界だよ・・・」

 

 相変わらず、宇合の発言は訳が分からないことが多いな。 「気にしたら負け」とは、おそらくコイツの発言のことが一番良い見本となるだろうな・・・

 

 そして、宇合に案内された俺が用意された部屋に入ると、そこには俺と同じくらいの年齢と思われる1人の少女が座して待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「藤原信孝様、本日はよくぞいらっしゃいました」

 

 

 美しい、それが三つ指を立てて俺を出迎えた彼女に対する第一印象だった。 前世でもここまでの美少女はまず見ることはなかった。

 やや薄い色素の肌と艶やかな腰近くまである黒髪、そして俺とほぼ同じ年齢とは思えない起伏に富んだ体格は素晴らしいと思えた。

 

 ただ、彼女の顔はどこかで見たことがある気がする。 それが何処なのかが思い出せないのが歯痒い・・・

 

 

 

 

「君が俺を呼んだ女性なのか?」

「はい。 私は天武天皇《てんむてんのう》が長子、高市皇子《たけちのおうじ》の庶子、上白沢慧音と申します。 どうぞお見知りおきを・・・」

「なっ・・・!?」

 

 

 

 俺は辛うじて驚きの声を最小限に抑えることが出来た。

 

 高市皇子と言えば、20年程昔の壬申の乱《じんしんのらん》で天武天皇と共に戦った皇子だ。

 

 

 

 現在は、不比等のおっちゃんよりも上の官位である太政大臣に任命され、自身の義母である今上陛下を補佐する天皇に次ぐ権力者だったはずだ。

 現に、朝議の度に殴り合いを展開する今上陛下と不比等のおっちゃんの仲裁を行うことが出来る数少ない人材なのだ。

 

 しかも、その娘が慧音とは・・・。 歴史が変わりすぎて、最早ご都合主義すぎるだろこの展開・・・。

 

 

 

 

 これは後に聞いた話となるのだが、今から20年近く前に高市皇子が視察でとある豪族の視察に訪れた際、偶然襲った嵐を避難するためにその地の豪族であった上白沢家の屋敷に泊まることになったらしい。

 

 

 その際に世話を焼いていた一人娘と一夜を過ごした結果、その娘は一回で見事に妊娠し、慧音を産んだそうだ。

 そして、娘が自身の子を生んだと知った高市皇子は、その娘を自らの娘と認めたうえで彼女を引き取り、他に子がいなかった上白沢家に養子として送ることとなったらしい。

 

 

 それ以来、高市皇子の娘という手札を手に入れた上白沢家の家運は急激に上昇し、かつては役人の端くれしかなかった上白沢家が、現在では正四位上参議という高い官位を賜る家となるまで発展したそうだ。

 

 

 そして慧音は、「花嫁修業」という名目で宮中に送り込まれたのだが、どういう訳か今上陛下(持統天皇)と皇太子殿下(後の文武天皇)に大層気に入られることとなり、2名の駄々っ子(1人はもう老婆と言ってもおかしくない年だが・・・)が「慧音とすぐ会えるようにしたい!」とごねた結果、天皇の妻でも内親王でもない臣籍の人間にも関わらず、「麗景殿」を与えられることとなったらしい。

 

 

 

 

 ・・・慧音が可愛いことは認めるが、酷い職権乱用だ。

 

 前にも言ったが、もうこの国ダメかもしれん・・・

 

 

 

 

 

「? どうしました?」

「っ! ああ済まない、ちょっと考え事をね。 しかし、どうして君は俺をこんな場所へ呼んだのだ? 確か君と俺は正式に対面したことはなかったはずだが・・・?」

「はい、実は以前宇合様に連れられて市へ行った際に貴方様を見かけましたことはございますが、このような立場となって以降の正式な対面は今回が初めてでございます」

「・・・そう言えば、宇合の奴もそんなこと言ってたな。 だとすると、尚更俺を呼んだ理由が分からないのだが?」

 

 

 俺がそう言うと、彼女は一呼吸おいて、

 

 

 

「単刀直入に言います。 私はあなたのことをお慕いしております」

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥・

‥‥‥‥‥‥

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

what!?

 

 

 

 

 

「はいぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 

 

 ちょ、まさかの告白!?

 

 ・・・落ち着け、こういう不測の事態のときは素数を数えるんだ。 ○ッチ神父の教えにもそうせよと載っていた筈だ!

 

 

 1,2,3,5,7,11,・・・・・・・・・って1は素数じゃねぇぇ!!

 

 

 

「あの・・・・・・、信孝様?」

「ははははい!? なんでせうか!?」

 

 

 

 

 混乱している俺をよそに、彼女の告白は止まらない。

 

 

 

 

「・・・・・・私は、今まで誰かに対して恋といったものを感じたことはありませんでした。 無論、恋愛による結婚など、家柄や思惑に縛られるこの時勢では厳しいことであるということは百も承知です。 ですが、私はこの思いを否定したくはないのです! それに・・・」

「それに・・・?」

 

 

 

 そこで、慧音は何故か一呼吸を置いた。 涙目となったその姿は、まるで何かを堪えているかのような悲しい雰囲気を漂わせていた。

 そして意を決したのか、閉ざされた口が再び開いた。

 

 

 

 

「・・・・・・父上はもう長くはありません。 父上の最後の望みでとして、初孫の顔を見せてから逝ってほしいのです・・・」

 

「なっ・・・!? 高市皇子様が・・・!?」

 

 

 

 

 

 俺の記憶が正しかったら、高市皇子はまだ40歳を少し超えたくらいの年齢のはずだ。

 史実でも数え年で43歳という若さで薨御しているが、もう死期が近いなんて幾らなんでも早すぎる。

 

 

 

 

 ・・・あれか? 今上陛下と不比等のおっちゃんが巻き起こす騒動で心労でも溜まったのか!?

 だとしたら、詫びを入れた上でおっちゃんの寿命を切り崩してでも長生きしてもらわなければならない!!

 あのおっちゃんはどう考えても史実以上に長生きしそうだから、寿命を10年か20年くらい分けても普通に生き残りそうだからな・・・

 

 

 だが、高市皇子様の願いを叶えたいという慧音の想いも分からなくはない。

 

 しがない豪族でしかなかった実家を支援し続けたばかりか、身分差など関係なく嫡流の長屋王等他の子供達と対等に接し、ここまで育て上げてくれた大恩ある存在なのだから、その恩返しをしたいというのは至極当然の発想だからな。

 

 かく言う俺にとっても、壬申の乱の経験や過去の中華の戦の講義を行ってくれた軍学の師匠なのだ。

 

 師匠の願いを叶えたいという思いは俺にも勿論ある。

 だが、こんな願いを持っていたということは初耳だがな。

 

 

 

 

「事情は分かった。 しかし、お父上・・・高市皇子様はこのことを認めていらっしゃるのか?」

「はい! 父上も『初孫の顔も見なければ死んでも死にきれぬ。 お前の決意がそこまで固いのならば、喜んで援助しよう』と仰ってくださいました!」

 

 

 

 高市皇子、あんたもグルかァァァァ!!!

 

 

「では姫様、全ての準備は私が整えておきましたので、ごゆるりと」

「ありがとうございます宇合。 もう下がってよろしいですよ」

「はっ、では失礼いたします。 ・・・・・・・・・兄上、頑張ってください」

 

 まだいたのか宇合・・・、ってやはり貴様もグルか・・・・・・!

 

 

「てめぇ宇合! お前こうなること知っていただろ!?」

「ええ勿論。 それにしても、ここまで慌てる兄上を見るのもまた一興ですな」

「貴様やっぱそれが目的かぁぁぁぁぁぁ!!」

「では、私はこれで失礼いたしします」

 

 そう言って宇合は屋敷へと帰って行った。

 やっぱりあいつの誘いに乗ったのが間違いだったか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、言い忘れておりました。 私から兄上へ一言助言があります」

 

 

 

 

 すると、帰ったと思っていた宇合が隙間から顔だけこちらへ覗き込んできた。

 ・・・まだ何か罠でもあるのか?

 

 

 

 

「・・・何だ?」

「昔の人はよく言ったものです。 『据え膳食はぬは男の恥』と・・・。 それでは、今度こそこれで失礼いたす」

「・・・アンニャロォォォォォォ!! イツカコロォォォォォォォォス!!!」

 

 

 

 

 やりやがってあの野郎!! 慧音を使ったハニートラップとは恐れ入ったわ!!

 次に会った日が貴様の命日だぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

「信孝様」

「はっ、はい!?」

「今夜は宜しくお願いいたします///」

「い、いやしかし・・・ 慧音姫はなぜ私のことを慕うようになられたのかまだ聞いておりませぬゆえ・・・。 それに、まだ初対面の男女が・・・その・・・・・・いきなり閨を共にすることは如何なものかと・・・」

「・・・信孝様は覚えていらっしゃるか分かりませぬが、私達は以前顔を合わせたこともありますよ?」

「・・・・・・へ?」

 

 

 

 俺と慧音が顔見知り? いやいやそんなことはないだろ。

 慧音なんてこの時代では特に珍しい名前とこの容姿は嫌でも忘れられないだろ常考。

 

 

 

「先程言いましたよね? 『このような立場となって以降』と。 それ以前、つまり上白沢家にいた頃・・・もう10年以上も昔の話ですが、武智麻呂殿や妹紅君、房前殿、宇合殿、麻呂殿、そして不比等様と共に野を駆け回っていたのですよ?」

 

 

 

 ・・・そう言われてみれば、そんなことをした覚えもあるような無いような感じもするが・・・・・・。 ダメだ、うまく思い出せない。

 

 それよりもおっちゃん、何幼児と一緒に野原を駆け回っているんだよ? あんたこの頃既に重職に就いていただろ?

 

 

 

 

 

「その頃には既に初恋として信孝様のことをお慕いしておりました。 ですから、単なる一目惚れのような軽い気持ちではございません」

 

 

 そう言って、慧音は真っ直ぐな瞳で俺の方を見つめた。

 

 

 

 

 ・・・もう、ゴールしてもいいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 慧音みたいな容姿端麗、スタイルも並外れた少女から告白される機会なんてそうある事でもない。

 まして慧音は、曲がりなりにも今上陛下の従姉というれっきとした皇族なのだ。

 これ以上の良縁をどうやって望もうというのか、いやない(反語)。

 

 

 ・・・え? 妹紅はどうすんだって?

 妹紅の場合、容姿端麗・スタイル抜群に加えて「猪突猛進」が付くだろ?

 そこさえ直してくれればかなりの優良物件なんだがな・・・。 勿体無い少女だよ。

 

「・・・真によろしいのですか、慧音姫?」

「・・・この時を待ち望んでいたのです。 なぜ後悔などしましょうか。 そして、これから私のことは『慧音』とお呼びください、旦那様」

 

 ・・・グハッ!? 恥らいながら『旦那様』って呼ぶなんて反則だろ!?

 あー・・・ヤバい。 顔が真っ赤になるのが止まらない・・・。

 

「いえ・・・ 自分もこのようなことは初めてなもので、上手く出来るかどうか分かりません。 ですが、私なりに精一杯姫様・・・いいえ、慧音のことを愛そうと思います」

「・・・・・・はい!」

 

 

 

 くっ! 頬を赤らめた慧音の顔が無茶綺麗だ・・・・・・。 これで俺は飯があと三杯はいけそうだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ~えっちなのはいk(ry  そして翌朝~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・・・・ん・・・」

「どうしよう・・・・・・、ヤリすぎちまった」

 

 

 慧音も初めてだから、何とか共に《検閲により削除》しようと加減したつもりだったんだが、そんな相手に一晩中《規制中》するってのは自分のことながらどーよって思っちまったよ・・・。

 

 しかし、こんな形で俺が階段を上ることになるとは、昨日までの俺からでは全く予想がつかなかっただろう。

 

「ん・・・・・・あっ信孝様、おはようございます」

「あっああ、おはよう・・・」

 

 う~む、何て声をかければいいか全くわかんねぇ・・・

 こういう時に、女性に対してうまく声を掛けることが出来ない自分がなんと情けないことか・・・

 

 

「その、昨日はありがとうございました///」

「ああ、こちらこそありがとう」

 

 

 とまぁ、何処までも初々しいというか恥ずかしがり合っているような反応をお互いし、身支度を整えた俺は麗景殿を離れ屋敷へと帰っていった。

 

 今回ばかりは、宇合にちょっと感謝すべきかもな。

 慧音が幼馴染だったらしいという、俺自身も覚えていなかった記憶を思い出すという嬉しい誤算を生み出したのだから・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあこんな話が今から10ヶ月ほど前にあり、話は漸く現在(冒頭)に戻る。

 

 

 

 俺と妹紅が輝夜の屋敷から帰ってきてから4日後、突然彼女・・・慧音が共の侍従を連れ屋敷へやってきた。

 

 

「お久しぶりです信孝様」

「慧音じゃないか! 態々こんな所にまで来るなんて、一体何があったんだ?」

「はい。 実はお伝えしたい儀がありまして・・・」

「何だ? 態々本人がここまで来なければならない程の要件なんて思い浮かばないんだが・・・」

「ええ。 これを伝えることはどうしても私の口から申し上げたかったので・・・。 初、あの子をここへ」

「はいっ、ただいま!」

 

 

 慧音に初と呼ばれた侍女は、彼女の乗ってきた牛車から何かを持ってこちらへとやって来た。

 

 

 

 大きさで言えば大凡一小尺七寸(約50cm)程だろうか・・・。

 

 何故だろう、脳内警報がしきりに「逃げろ! 早くここ・・・もとい妹紅から離れろ!!」としきりに鳴っているんだけど?

 

 

 そして、侍女がからその何かを預かった慧音は、それを俺たちに見せつけた。

 その瞬間、俺を含め、その場にいた宇合を除く藤原一家全員が固まってしまった。

 最も、この時の俺は後ろに藤原一家が勢揃いしていたことには気づいていなかったが・・・。

 

「こちらをご覧ください」

 

 

 彼女の腕の中には、スヤスヤと心地良さそうに眠っている赤ん坊がいた。

 これは、もしかしなくてもアレか?

 

 

 

 辛うじて口を開いた俺は、この赤子の正体を慧音に訪ねた。

 と言っても、慧音の様子から大凡察しはついているが・・・

 

「・・・・・・この子は?」

「・・・あなたと私の息子です」

 

 

「・・・・・・・・・はい!?」

 

 改めて言われると、「やっぱりか」という気持ちと「本当に俺の子なのか?」という疑問が浮かび上がってくる。

 まさか、あの一回だけの閨で本当に妊娠してしまったのか!?

 

 

「その通りです」

「心読むなよ慧音・・・・・・」

 

 この時代の人間は、皆読心術を心得ているのだろうか・・・・・・?

 だが、俺はここで最も警戒すべき人物の存在を忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

「信孝!!!」

 

 

 

 

 

その声を聞いた瞬間、俺は思わず心の中で「俺\(^○^)/」と呟いた。

そうだよ、確実に激昂しそうな妹紅から離れることを忘れてた・・・・・・

 

「どういうことだ! いつの間に慧音との間に子供なんて作っているんだよ!?」

 

 恐怖に怯えつつ後ろを振り向くと、そこには怒りで顔を真っ赤にした夜叉・・・もとい我が麗しの従妹こと藤原妹紅がそこにいた。

 

 

 

「妹紅!? どうしてここに!?」

「何だか『今、信孝のところに行かないと大変なことになる』ってあたしの直感が囁いていたから、仕事を止めて急いで来てみたんだよ。

 そうしたら、お前が慧音との間に子供が既にいるなんて話になってたことを聞いたんだ。 さて、説明も済んだことだし、覚悟はいいか?」

 

 

 ヤバい! 誰かに助けを呼ばないと俺が死ぬ!

 慧音に頼るのは流石にダメだろうし・・・。 あっ、ちょうどいいところに良い楯・・・もとい人間がいた!

 

 

 

 

「武智麻呂! お前傍観してないで俺を助けろ!」

「何でお前を助けなきゃならんのだよこのボケ。 そんなことよりもこの光景を見ている方が楽しいんd「見世物じゃねぇぇぇ!!!」ぶるあぁぁぁぁ!!?」「武智麻呂ぉぉ!!?」

 

 俺は、妹紅のコークスクリューをまともに食らい、屋敷の壁を破壊しても尚吹き飛ばされてゆく武智麻呂をただ見ていることしか出来なかった。

 まぁ、あいつなら無駄に多い贅肉のおかげで衝撃はいくらか緩和しているだろうし、あの程度で死にはしないだろう。

 

 

 

 

「さて、邪魔ものも消えたし、改めて覚悟はいいか信孝?」

「お許しください妹紅様」

「許せるかぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 妹紅のアッパーカットは綺麗に俺の下顎に決まり、一瞬のうちに俺の意識を刈り取った。

 

 

 

 

「・・・・・・あれ、信孝様?」

 

 

 目まぐるしく変化する話の流れについて行けなかった慧音は、その間放置されたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

   ~追記~

 

 どうやら、その後妹紅と慧音は和解したらしく、次の日に俺の意識が回復したときには仲良さそうにしていた。

 幼馴染同士ってのもあってか仲直りが早いな。 やっぱり2人は仲良くしてないとしっくりこないな。

 

 あと高市皇子が、「初孫誕生記念!」とか言って、俺の官位を独断で引き上げ、「従五位下・式部少輔」に新任となった。 ・・・流石に私的な事情が入りすぎです高市皇子様。

 

 確かに、「貴族」として正式に呼ばれる官位である従五位下になれたことは嬉しいのだが、武智麻呂(現在、弟房前よりも官位が下の正六位上・中務大丞)から「妬ましい・・・・・・。 俺よりも先に出世する房前と信孝が妬ましい・・・」とずっと枕元で囁きを繰り返され、最近寝不足気味だ。

 

 しかし、翌朝きっちりと粛清したのにも関わらず、その日の昼には完全復活してるんだよなあいつ・・・。

 

 やっぱり、あの無駄に厚い脂肪のせいだろうか・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ~追記その2~

 

 

 

 俺との間に生まれた子供はとりあえず俺の母方の姓である織田を名乗らせ、元服するまでは新九郎《しんくろう》と名乗らせ、元服後は不比等のおっちゃんから一字貰って織田信等《おだののぶとし》と名乗らせることに合意した。

 

 順当にいけば藤原姓か上白沢姓を名乗らせるべきなのだが、高市皇子が「かつての名家である織田家を絶やすのは実に惜しい」と発言したため、俺たちはそれに従うこととなった。

 

 

 

 ・・・ひょっとして、この子の子孫が第六天魔王じゃないよな?

 

 

 

 

 

   ~追記その3~

 

 

 あれ以来妹紅が夜に俺の寝所に入り込もうとするようになった。

 何でこんなことをするのか妹紅に聞いてみたら、「慧音には負けてられないんだ!」とかなり決意を込めた目で言っていたので、俺は一言「がんばれよ!」と応援したら問答無用で右腕の関節をを外された。

 

 ・・・・・・そろそろヤバいんじゃないか俺の右腕?

 

 因みに、俺と妹紅はまだ関係を結んでないから。(ここ重要)

 

 流石に妹紅の想いには気づいているのだが、対抗意識で妹紅と関係を持ちたくはないなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そう言えば、あれ以来輝夜のところに行ってないな。

 明日あたり行ってみようかな?

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