ついにガストレア大戦が始まった。小説の中でもそこまで詳しくは描写されていないので将監は知らなかったが、その惨状を目の当たりにして、こんなの小説には絶対書けないな、と身震いした。
おぞましきクリーチャーであるガストレア。その全てが恐ろしく執拗に人類を狙う。自衛隊の隊員も必死に応戦しているが、どうしたって数が違い過ぎる。その戦線はジリジリと後退していくばかりだった。
一方その頃、将監は両親に連れられて民間のシェルターに身を隠していた。彼自身はあくまで民間人なのだから仕方ない。助喜与老人や蓮太郎もひどく心配していたが、流石に無理を通して政府用のシェルターに入れる訳には行かなかったのだ。
「大丈夫よ将監、すぐに自衛隊の方が助けに来てくれるわ。だから、今は座ってなさい」
その頃はシェルターのバラニウム化も進んでおらず、既存のものに薄くコーティングが施された程度だった。後に知ったのだが、シェルターに大した対策がされていなかった事も犠牲者が増える一端だったそうだ。
ぴすっ。
何かが刺さった様な、異様な音がした。と思うと、シェルターがぶち破られ、全長六メートルはあろうかと言うおぞましきクリーチャーが侵入してきた。やはり、薄いコーティング程度では防ぎ切れなかったのだ。
「な、何だよ・・・・・・・この化物」
一言で表現するのなら、『それ』は醜悪にカリチュアライズされた甲殻類だった。地面を噛む足は節足動物特有の外骨格に覆われていて、円形をした口の中では唾液を撒き散らしながらカチャカチャと牙がうごめいている。どの生物がガストレア化したのかすら分からない異形。間違いなくステージII以降の強力なガストレアだ。そいつが足を一振りする度に、かなりの数の人が何メートルも吹っ飛び、地面に落ちて絶命していく。
一気に人々はパニックに陥った。逃げようとする者、子供を庇って抱き締める母親、有り合わせの物でバリゲーとを作る者・・・・・・・しかし、将監が選んだのはそのどれでもなかった。
「みんな、逃げろっ!」
彼はシェルターの中に停車してあったトラック(民間人を輸送する際に使う予定だったのだろう、中身は空だった)に忍び込み、それでガストレアに突っ込んだのだ。凄まじい勢いでエンジンをふかし、一瞬にしてガストレアをシェルターの外へ吹っ飛ばす。丁度救援に来たのだろう、そのガストレアを近くにいた自衛隊が殲滅してくれた。
「よし!やっ・・・・・・」
た。と言い切ろうとした際、将監はごぼり。とねばつく血の塊を吐き出した。
「え・・・・・・・」
顎を引いて自分の胸元を見ると、直径十センチもある巨大な『杭』が二本、左右の肺を貫く形で刺さっていた。そう言えば・・・・・・と、転生する前、大学での授業を思い出した。原始の甲殻類アノマカリスの一種は、自らの歯を高速で飛ばして獲物を捕らえると聞いた。何故その能力を持っていたかわからないが、これが『進化への跳躍』なのだろう。
「おい!まだ子供だ!ヘリはまだ来ないのか!?」
「まて!室戸先生に連絡しろ!あの人じゃなきゃどうにもならないぞ!」
そんな言葉すら、遠く聞こえた。ミカエルの『設定』があるから、死にはしないだろう。とにかく・・・・・・・
将監は難儀しながらも首を動かし、シェルターを見た。かなりの数死傷者が出たが、無事な人も多い。良かった・・・・・・・そう思いながら、将監は穏やかに目を閉じた。
既に意識は無かったので、事後承諾と言う形で手術は始まり、そのバラニウム製の『人工肺』は見事に将監と適合した。たった七歳の少年である事を考えれば、成功する可能性はごくわずかとしか言えなかったが、彼は生きるのを諦めなかった。
「しかし天童閣下、よろしいのですか?ご養子の友人と聞きましたが、成功する確率はごくわずかでした。私としては試作型の実験が出来れば良いのですが、何故周囲の反対を押しきってまで?」
「何、誰かがやらねばならん実験だ。こやつ程根性のある奴なら、大丈夫だと思ったまでのこと。それに・・・・・・・」
「それに?」
「可愛い養子(わがこ)と孫娘が悲しむ姿は、儂とて見たく無いのでな」
室戸菫教授と、天童菊之丞の会話。この日、また『新人類』が一人、産み落とされた。陸上自衛隊東部方面隊第九二機械化特殊部隊『新人類創造計画』伊熊将監の誕生である。
それから、十年・・・・・・・世界の国々はガストレアに敗北し、人々はモノリスと呼ばれるバラニウムの塊の中に閉じ籠って暮らしていた。
「全く、世界も変わっちまったもんだ・・・・・・・」
モノリスによって五つに分けられたエリアのひとつ、東京エリア。転生した伊熊将監は、東京エリアの片隅で『伊熊民間警備会社』を立ち上げていた。IP序列は、原作より二千位程下の三千二百七十二位。それなりに繁盛はしている。事務所を擁するビルの屋上で、ラジオを聞きながら将監は大きく伸びをした。
「将監さん、朝ごはんが出来ました。そろそろ降りて来て下さい」
磨りガラスの扉を開けて出てきた少女は、千寿夏世(せんじゅ かよ)。頼れる頭脳派のイニシエーターだ。ショットガンなど銃火器の扱いに長け、近接戦闘に特化した将監を的確にサポートしてくれる。
「お、見てみろ夏世、最近仕事無かったからな、あいつら張り切ってるぜ」
すぐ下を見下ろすと、線の細い青年がツインテールの少女と自転車の二人乗りで飛び出していく所だった。
伊熊民間警備会社。それを擁するビルのお隣は、天童民間警備会社を擁するハッピービルディングなのだ。時たま差し入れをする。近所付き合いも上々である。
「ご飯が冷めてしまいます。早く行きましょう」
「そうだな。飯にするか」
二人は手を繋ぎ、事務所へと帰っていった。
これで時間軸が原作と同じになります。作者の文章力不足によって訳が分からない所も多々ありますが、緩く斜め読みしてくださると幸いです。