ゼロから始めるオール・ユー・ニード・イズ・キル 作:パトラッシュS
人にはそれぞれ役割というものがある。
僕の役割は、そうだな、なんと言えばいいだろうか?
今のところ一言で言い表すなら軍隊に所属するただの少佐といったところだろう。
そう、ただの少佐という役割を与えられた人間だったんだ僕は。しかも、米軍のメディア担当、戦場とは縁遠い人間のはずだった。
というのも、今は違う、どう違うのか? それは長い話になるが、皆には僕がどういった経緯でこんな事を口にしているのかを話しておくとしよう。
近未来の地球。
ギタイと呼ばれる侵略者の激しい攻撃に、人類の軍事力ではもはや太刀打ちできなくなっていた。
そんな中、対侵略者の任務に僕が就いたのは必然だったのだろう。
僕、ウィリアム・ケイジはある事をきっかけにタイムループの世界にとらわれ、戦闘と死を繰り返していた。
時には身体が吹っ飛び、頭は千切れ、何回も何回も死をループする。
そんな中、僕は何度も戦闘と死を繰り返しながら戦闘技術を向上させる事になった。
強大なギタイの戦力に対して、僕は劣勢な戦いを強いられていたが、「ヴェルダンの女神」「戦場の牝犬」の異名で知られるリタ・ヴラタスキの協力も得ることが出来た。
こうして順調に経験を積み上げ、死に戻り、僕はまた前線に出て戦うという毎日を繰り返す。何回か死に戻りをするのにも慣れたものだ。
歩兵用パワードアーマー、起動スーツを何度壊した事だろうか、あれがなければまともな戦闘もできるわけがない。
しかし、そんな事を繰り返しているうちに僕の中にある疑問が生まれた。
それは、タイムリープは必ずしも同じように起きない事も場合によってはあり得るのではないか? という疑問だ。
いつものように死に、再び、タイムリープするかと思われていたレールがいきなり切り替わるという事はこの時の僕は思ってもみなかった。
何故なら、起動スーツを着たまま死んだはずの僕が目を覚ますとそこに広がっていたのは。
「どこだ…ここは」
全く見覚えがない街並みのど真ん中に突っ立っていた。
それだけではない、市場も賑やかで数多くの人々が行き来している。まるで、別世界に来たようなそんな錯覚を感じた。
いつもなら、前線に着任した時に巻き戻る筈なのだが、これはどういった事だろうか?
周りの人々は興味深そうに僕の身体をジロジロと見ては通り過ぎていた。
確かに、この起動スーツを着た格好の僕は周りからしてみれば浮いていると思われても致し方ないだろう。
何かの手違いか? ならば、早く基地に戻りまた1から全てをやり直さなければならない、じゃないと手遅れになってしまう。
タイムリープに手違いがあるなんて僕も初耳だが、現にこうなっている。しのごの言ってられないだろう。
この時の僕は焦りと驚きとイレギュラーな出来事の連続で気が動転していたんだと思う。
冷静を保つため、僕は深い深呼吸をすると近くにいる出店の店主に話掛けることにした。
「ん、んん、…あー忙しいところすまない。貴方にお聞きしたい事があるんだが…」
「な、なんだあんた? お客さんかい?」
「すまないが、ここが何処かお訪ねしたい」
僕は冷静な口調で、物珍しそうにこちらを見てくる店主に訪ねる。こうなった以上はまずは自分の位置の特定が最優先だ。
イレギュラーである今回のようなケースは初めてだが、死んだ僕が生き返っているという事はタイムリープをした事には代わりはない、つまり、前線に戻れるという事だ。
となれば早く基地に帰りリタの協力を仰がなければ手遅れになる。あまり、時間はない。
だが、店主は左右に首を振ると僕にこう告げてきた。
「悪いが、お客さんじゃないなら帰ってくんな、冷やかしはごめんだ」
「そうか」
僕は淡々と告げてきた店主の目の前で起動スーツに腕に付いているバルカンの銃口を上に向け、上空に向けて発砲した。
店主はそのパワードスーツのから放たれた轟音に思わず悲鳴をあげて腰を抜かす。だが、僕も悪いがなり振り構ってはいられない。
上空に向けていたバルカンの銃口を僕はゆっくりと店主に向ける。
周りの市民は突然の轟音に驚いたのか、散るようにして逃げ惑い、市場は軽いパニックに陥っていた。
「もう一度聞くぞ! ここはどこだ! 緊急事態なんだ。早く答えてくれ!」
「わわわわわ、わかった! 王都! 王都だよ!」
「基地は何処にある!」
「知らねえ! 知らねえよ!」
怒鳴り声をあげる僕の脅しに腰を抜かした店主はそう言って首を左右に振る。
王都? 聞いたことがない地名だ。
だが、僕の着ている起動スーツのバルカンの発砲で周りの逃げ惑う人々を見ていれば確かにここは平和そのものであるという事はよくわかる。
もしかすると、ギタイが居ない世界なのか? なら、何故、僕はこの世界にタイムリープして来たのだ。
そんな様々な疑問を抱いていると、そのうちに兵を率いた王都の軍隊がこちらにへとやってくるのが目に見えてわかった。
見るからに鎮圧部隊だというところだろうか、彼らは僕の姿を見た瞬間にすぐさま集団で斬りかかってきた。
そこからは、王都の市街地は戦場と化した。
僕も簡単に殺されるわけにはいかない、すぐさま応戦し、起動スーツの活動限界まで戦い抜いた。
起動スーツのエネルギーが切れたらあとは銃で応戦した、銃の弾が切れたら体術、そうやって、鎮圧部隊を巻きながら、王都の市街地の外へ外へと僕は逃れた。
まあ、そこからは散々だ。
向こうには魔法なんて使う輩が居て苦戦を強いられる事になった。
ギタイではなく、同じような人間を殺す事になるなんて夢にも思わなかった。本来なら、ギタイから守るべき対象であるというのに。
戦いは激しさを増したが、僕は必死で抵抗をした。何度も何度もギタイに殺されていくうちに身についた生き残る術はこの世界でも当然役に立つ。
だが、それも時間の問題だった。数の暴力にはどんだけギタイに対して戦闘を積み重ねて来た僕といえど勝てない。
そして、身体も心もボロボロになった僕は戦いの果てにある者と遭遇する事になった。
一見して、美人だった彼女はボロボロになった僕を見て満面の笑みを浮かべると容赦なく凶器を振りかざし襲いかかってきた。
二本のククリ刀のようなナイフを武器としており、身体能力も非常に高く、銃も使い果たした僕は体術のみで抗ったが、手も足も出なかった。
彼女は確かこう名乗っていたな。
「あぁ、死にゆく貴方に名乗るのを忘れていたわ、私の名はエルザ…。もうじき死ぬ貴方が知ったところで仕方ない事なのだけれどね!」
そうやって、鎮圧部隊から逃走を繰り広げていた僕の胸には最後の最後には二本のナイフが突き刺さられた訳だ。
殺されたのに何故そんなに冷静なのかって? それは、僕自身が死に慣れているという事もあるが、それだけじゃない。
ある実験もこの時、僕は兼ねていたんだ。
というのも、この世界でのタイムリープの能力の確認ともう一つはタイムリープによって元の世界に帰れるかもしれないという可能性を推し量る事だ。
どちらにしろ、この世界であれだけ王都とやらで騒ぎを起こせば、僕自身の選択肢は限られてくる。
それならば、その状況下で情報をなるべく集めるに越した事はない。
そして、タイムリープがきっかけでこの世界に来たのだから、もしかすれば、一度死ねばまた元の世界線に帰れるのではないかという安直な試しだ。
結果から言うなら、これは失敗だった。
何故なら、目を覚ました僕が居た場所は起動スーツを装着したままで、王都の街中に突っ立って居たのだから。
要するに、この世界に来た当初と状況が何も変わらなかったという事だ。
唯一得た情報としてはこのまま起動スーツで騒ぎを起こしてしまえば、僕は再び死ぬ事になるという事くらいだろう。
それと、僕を殺したサイコパスなイカれた女が街の外に居るくらいだ。
タイムリープし、街中で突っ立っている僕は起動スーツを着たまま、街外に出ることにした。
考えても見れば、この起動スーツは明らかに過剰戦力。
僕が見た限り、この街の文明レベルからしてこのスーツは脅威でしかない。
しかし、起動スーツをむやみに街中で脱ぎ捨てる事なんて出来はしない、下手をすれば、起動スーツを悪用したり、価値があると思った輩から盗難される恐れがある。
なので、僕は敢えて王都の街はずれに足を運び、この起動スーツを隠す場所を探すことにしたのだ。
本来なら、王都の領主とやらに他国の軍人として保護を求めるのが本来なら一番なのだろうが、僕が目にしたこの文化、文明では多分この起動スーツは脅威として捉えられ、僕自身は危険分子、もしくは危険人物として扱われる事が目に見えてわかる。
魔法や剣で向かってくる騎士を見た時は正直何かのジョークかと思ったんだが、この世界を体感した限りだと間違いなくそれがこの世界では普通なのだろう。
「さて、これからどうしたものか」
僕は静かに考える。
するべき事はたくさんあるように思うが、何から手につけて良いかわからない。
だが、まずは身につけている起動スーツを外してどこかに隠さないとならないだろう。となれば、事情を話して協力してくれる人物を探すべきなんだろうな。
周りの視線が痛いので一旦、街の路地裏に僕は逃げ込んだ。
「ひとまずは金銭と情報…だな」
起動スーツを着たまま僕は路地裏を歩きながら思案する。
だが、しばらく歩いているうちに僕の目の前には三人のゴロツキ達が立っていた。やっぱり、考えながら道を歩くもんじゃないな。
男達三人はいかにも追い剥ぎ目的というのが僕には目に見えてわかった。
「おい、にいちゃん、変わった服着てんじゃねーか」
「身包み置いてきな」
僕はそんな彼らの横を無視して素通りする。
こちらは忙しいんだ。構っている時間が惜しい、早く、起動スーツを隠す場所を確保しないとならないし、何よりまだ土地勘もない。
すると、男の1人が僕の肩を乱暴に掴んできた。
「おい待て…」
「悪いが、君らに構っている暇はないんだ、退いてくれ」
だが、僕は乱暴にその手を振り払うと軽く男を小突く。
すると、起動スーツの威力からか男の身体は簡単に吹き飛び、壁に激しく身体を打ちつけてしまった。これには僕も思わず左右に首を振り顔を歪める。
ただ単に裏路地から街外まで出るだけというのに何故こうも問題が次から次へと起きるのか。
街中ということもあって起動スーツを着たまま目立たないように移動するというのは難しいと思う他ないな。
僕のこの世界での災難はどうやらまだ続きそうだ。
息抜き投稿です。誰か続きを書いてくれてもいいのですよ(ハスキーボイス)。