ゼロから始めるオール・ユー・ニード・イズ・キル   作:パトラッシュS

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協力者

 

 

 現在、起動スーツをどこかに隠そうと企んでいた僕は更なるトラブルに巻き込まれていた。

 

 というのも、街のチンピラに絡まれて起動スーツで僕が吹き飛ばしてしまったのがそもそもの原因ではあるのだが、この状況は非常に好ましくない。

 

 騒ぎを大きくすれば、また新たな問題や厄災が降りかかってくるのが目に見えてわかるからだ。

 

 

「あー…、なぁ、君たち、少し話をしようか? 僕も悪気があったわけじゃあないんだ」

「お、おい! 大丈夫かっ!」

「テメェ! やりやがったな!」

 

 

 吹き飛ばされた仲間の元に駆け寄るチンピラ達を見ながら、僕は表情をひきつらせていた。

 

 ここで、下手に警備兵なんて呼ばれれば、前回の二の舞いだろう。また、死に戻りをする必要が出てきてしまう。

 

 それは、僕としても本意ではないし、何より、この状況事態が予想だにしなかった出来事だ。

 

 となれば、後に取る手段は限られてくる。僕は笑顔を浮かべたまま、両手を広げ敵意がないように彼らに振る舞う。

 

 

「待て待て待て、落ち着け、落ち着くんだ。いいか? 良く考えろ? 絡んできたのは君達の方だ。僕には敵意は無いし、このまま何もしなければ僕はこのまま君達の前から消える。お仲間も医者に早く見せた方が良いだろう?」

「あ…あぁ、早く見せねーと…」

「そうだ、出血もしてるし…。君らにとっては災難だ。だから、僕はこのまま行くが何も問題は無いな? な?」

「いいや! このままじゃ腹の虫が収まらねぇ! こっちは仲間やられてるんだぞっ!」

 

 

 そう言ってチンピラの一人が刃物を取り出してこちらに向けてくる。

 

 正直、このくらいの連中なら素手でも余裕で制することは可能だ。だが、問題はそこじゃ無い、結果、騒ぎを起こして僕という存在がこの街の組織に知られるのが問題なのだ。

 

 出来るだけ、穏便に事を済ませたいし、今ならただの小競り合い程度で丸く収まる。なんにしろ、これは、無理矢理にでも彼らに納得してもらうしか無いだろう。

 

 

「そいつがどうなったか見ただろう? 僕は君達を傷つけたくないし、騒ぎにしたく無いんだ。君らもそうだろう?」

「そうだぞ、落ち着けよ…。俺たちも王都の警備兵に目を付けられるのは良くない」

「でもよ! こいつ…っ!」

「よく考えるんだ。先に絡んできたのはそいつで、僕がそれを振り解いた結果、起きてしまった、いわば、事故だ。僕はたまたまこの街に来たばかりの通行人みたいなものだし、互いに何もなかったように振る舞うのが一番良いと思う、なんだったら、僕は後日、君らに怪我をさせてしまった謝罪も行おう」

 

 

 僕は敵意がない事を示すように、両手を挙げたままニコリと笑みを浮かべて彼らに提案を持ち掛けてみた。

 

 彼らだって、おそらくは貧しい生活の中で生きていくために僕を襲おうとしたのかもしれない。

 

 僕も悪気があったわけではないが、彼らを怪我させてしまった責任がある。落とし所を見つけ手打ちにしてしまえば丸く収める事が出来るはずだ。

 

 どうやら、その僕の目論見はうまく行きそうだった顔を見合わせる彼らを見る限り、今の提案には前向きなのだろう。

 

 だが、物事というのはそう単純には動いてはくれないものだ。

 

 僕の話を聞いていた彼らの一人が僕に口を開き話をしようとしたその時だった。

 

 

「わかったよ…その話、乗ることに…」

「貴方達、こんなところで何をやっているのかしら?」

 

 

 それは、無駄に透き通るような綺麗な声だった。

 

 声がした方へと視線を向ければ、そこには、銀色の長い髪に紫紺の瞳を持つ美貌の少女が僕らの前に立っていた。

 

 僕は思わず顔を片手で抑えて天を仰ぐ。

 

 何故、よりにもよってこのタイミングでやってきてしまったのか、今なら別に揉め事も無く穏便に事が運びそうだったというのに。

 

 僕は顔をひきつらせながら、颯爽と現れたお嬢さんに言葉を濁しながら、急ぎ事の経緯を話すことにした。

 

 

「あー…お嬢さん何やら勘違いしてるみたいだけど、僕らは今取り込み中…」

「誰だお前は! 関係ねーだろ!」

「回れ右してとっとと消えな! お呼びじゃないんだよっ! クソ女!」

 

 

 そう言って、現れた彼女に容赦なく暴言を浴びせる彼らの姿に僕は、もはや、これは無理だなと悟るしかなかった。

 

 どうして、こうも上手くいかないのか、そして、彼女の余裕ある姿を見るに、首を突っ込んできたところを見れば、こうした厄介事に関して丸く収めるくらいの実力があるくらいある程度の察しはつくはずだ、頭に血が上っている彼らはどうかはわからないが、少なくとも僕はそうだろうとは思った。

 

 生憎、僕が制止する前に言葉の暴力を彼女に浴びせたのは彼らだ。

 

 そして、僕もなるべくパワードスーツを現在、着ている以上、彼女のような王都の一般市民にこの姿を見せることは非常にリスクが高い。

 

 僕は深いため息を吐くと、パワードスーツのまま現れた彼女の前に背を向けるとチンピラ達をジッと睨みつけた。

 

 

「悪いが、僕はフェミニストなものでね、女性に対して暴言は良くないな、君達」

「お前ッ!」

「彼を連れて早く立ち去った方がいい、先程も言ったけど僕は君達とこれ以上争う気は無いんだ」

 

 

 僕はチンピラ達に再度忠告するように告げた。

 

 争う気はない、だが、仕掛けてくるというのなら応戦はするし、彼女を守る為なら相手を無力化するのには力を惜しまないつもりだ。

 

 見た限り、正義感が強そうな女の子だ。

 

 彼女は勇敢な心を持っている、下手に刺激しないように冷静に彼らにそう伝えた。

 

 奇しくも彼らも警備隊にはバレたくない、そして、僕もバレたくないという思惑が妙に一致している。

 

 

「さっきの話だ、思い出して欲しい、僕はちゃんと保証はすると言った。選択するのは君達だ」

「…くっ…! だけどそいつは保証するとは限らないだろうがっ!」

「…まぁ、そうなるとは思っていたけどねッ!」

 

 

 その瞬間、僕は身につけていたパワードスーツを脱ぎ捨てると素早くナイフを持っているチンピラの懐に潜り込むと顎に向かって掌底をお見舞いし、そのまま足払い、流れるように彼の意識を絶った。

 

 これ以上、時間を引き伸ばしても仕方ないと僕は判断する事にした。

 

 なら取るべき行動は彼らの不意を上手くついて無力化することだろう。

 

 現れた女の子に彼等が危害を加えないとも限らない、少なくとも、僕は現時点でそう判断した。

 

 残りの一人はいきなり不意をついてきた僕に腰が引けていた様なので、右頰に向けて思い切りの良いフックをガツンと1発お見舞いするだけで済んだ。

 

 僕は深いため息を吐くと、無力化したチンピラ達を見渡し、拳をプラプラと振る。

 

 

「…貴方、強いのね」

「どうだろうね、運が良かっただけさ」

 

 

 そう言って、驚いた様な表情でこちらを見てくる女の子に僕は肩を竦めて苦笑いを浮かべる。

 

 助けに来てくれたのは良いが、おかげでこうならざる得なくなったと皮肉りたいところだが、女性に対してそれは流石に言えないだろう。

 

 さて、それはとりあえず置いておくとしよう、まずはこのパワードスーツをどうにかしなくてはいけない。

 

 とその前に彼女達が何者かを聞いた方が良いだろう。

 

 

「さて、お嬢さん、お名前を拝見したいんだが…」

「私はエミリア、こちらはパックよ」

「はじめましてだな! いやー見事だったな! さっきは!」

「…喋る猫とは驚いた」

 

 

 僕はいきなり彼女の側から現れた喋る猫に目を丸くする。

 

 現実ではあり得ない様な事が目の前で起きるとこうも度肝が抜かされるとは思いもよらなかったが、ギタイを知る身としてはそういう事もあるかと納得してしまう自分がいた。

 

 

「猫とは失礼な!こう見えても大精霊なんだぞ!」

「あー…そうなのか、それはすまなかったな」

「良いよ! 許そう! 君のイケメンな顔に免じて!」

 

 

 そう言って、パックと名乗る大妖精の猫は僕の肩をポンポンと叩いてくる。

 

 喋る猫に大妖精、これだけ聞けば、やはり、僕がやって来たこの場所は違う場所なのだと改めて思った。

 

 その証拠に僕が再びパワードスーツを着るところを目の当たりにすると興味津々な眼差しを向けてきている。

 

 

「それは…一体…」

「…ちょっとした…、鎧でね、僕の国の物なんだが、隠し場所を探していて」

「そうだったんですか…」

「へぇ、変わった鎧だね」

「あぁ、べらぼーに画期的な鎧なんだ、だから何というか非常に危ないんだよ、こんなところに置いて置くのは…ね?」

 

 

 僕はあわよくば彼女達に隠し場所を提供してもらえないかと苦笑いを浮かべながら、そう告げる。

 

 何にも間違ってはいない、僕がこうしてパワードスーツをこの街で脱ぎ捨てていかないのはこのスーツの仕様がわからない輩に悪用され、この街が火の海になるのがわかりきっているからだ。

 

 だからこそ、このスーツは隠さないといけない、できれば協力者がいればなおのこと良いだろう。

 

 エミリアと名乗る少女はしばらく考え込んだ後、顔を顰め、残念そうに僕にこう告げてきた。

 

 

「ごめんなさい、力になりたいのはやまやまなんだけど、私、実は今、大事なものを探していて…」

「大事な物…?」

「えぇ、徽章なんだけど、貴方知らないかしら?」

「…残念ながら見てないな」

「そう…」

 

 

 彼女は僕の返答に少しばかり気落ちしたように元気のない返事を返してくる。

 

 しかし、この街でようやく得られるかもしれない協力者、そして、互いに困っている。

 

 ならば、やりようはいくらでもあるものだ。僕は彼女にある提案を持ちかける事にした。

 

 

「そうだ、ならこうしよう、君が僕に協力してくれたなら、僕がその徽章を探す事に関して協力しようじゃないか、ギブアンドテイクだ。どうだろう?」

「貴方が…?」

「そうだ、見た限り、君はここに来た時に息を切らしていたね? …大方、それを盗まれたといったところじゃないか、あくまでも僕の仮説だが」

 

 

 僕は首を傾げながら彼女に自分が立てた予想を述べてみる。

 

 大事なもので、それも、徽章となれば無くすとは考え辛い、そして、彼女が微かに息を切らしていた事と焦っていた様子から何者かに奪われたのではないかと僕は思った。

 

 先程まで僕が路地裏で追い剥ぎに合うような治安の街だ。そんな奴がいても何ら不思議ではない、

 

 そして、この予想は大体、当たっているだろうと僕は思っていた。

 

 エミリアはしばらく考えた後、深い溜息を吐くと僕に手を差し伸ばしてくる。

 

 

「…わかったわ、当たりよ、それじゃ交渉成立ね」

「あぁ、よかった、助かるよ」

 

 

 僕は差し伸べられた彼女の手を握り握手を交わす。

 

 どうやら、やはり僕の予想は当たっていたようだった。たまたまだったが、このように協力者を得られたのは非常にありがたい。

 

 それから握手を交わした彼女は僕にこう問いかけてくる。

 

 

「そう言えば、貴方の名前、聞いてなかったわね?」

「あぁ、僕の名前は……」

 

 

 とここで、僕は名前を言う前に少しだけ考えた。

 

 軍の所属である僕の本名を彼女に告げるかどうかという話だ。まだ、信用できるとは限らないし、あくまでも臨時の協力者に過ぎない。

 

 ここは慎重に行くべきだろうと考えた僕は彼女に偽名を名乗る事にした。こちらの方が後々、面倒ごとも少なくて済むかもしれないと考えた結果だった。

 

 

「僕はイーサンだ。イーサン・ハント」

「ハントね…わかったわ、よろしくハント」

「あぁ、よろしく」

 

 

 僕の本名、ウィリアム・ケイジという名前を彼女に教えないのはなんだか気が引けるが、この国とは別の軍の所属である以上はこちらの方がリスクもないだろう。

 

 それに、こちらの名前も割としっくりくる。

 

 不可能を可能にできそうなナイスガイな名前だと僕は個人的にそう感じていた。

 

 盗まれた徽章を探すのにはもってこいだろう。

 

 

 こうして、僕はこの街でようやく協力者を得ることができた。

 

 あとはパワードスーツを上手く隠して、エミリアの徽章を探し出して手に入れるだけだ。

 

 困難なミッションではない、協力者がいるだけでも目的を達成するには充分だ。

 

 少なくともこの時の僕はそう思っていた。

 

 

 そう、僕が僕を最初に殺したあの殺人鬼がいることを失念さえしなければきっとそうだったに違いない。


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