ゼロから始めるオール・ユー・ニード・イズ・キル 作:パトラッシュS
前回、エミリアという少女に出会った。
僕としては軍に所属しているため、本名を明かさない方が賢明かと思いそうした訳なんだが、普段から言われ慣れてない名前を名乗るのはどうにも違和感を感じてしまう。
さて、話を戻そう。
このエミリアという少女はパックという大精霊と契約したハーフエルフだそうだ。
ファンタジーの小説を君達は読んだことはあるかな? まあ、そういう事だ。
確かに銀色の長い髪に紫紺の瞳を持つ美貌の少女なんてそうそうお目にかかることなんてないだろう。
少なくとも僕は見たことがなかった。
死に戻りをすること自体も珍しい経験だとは思うがね。
「ねぇ、イーサン、探すあてはあるのかしら?」
「まあ、それなりにはね、それにしてもこうしてパワードスーツを隠せる小屋が町外れにあったとは本当に助かったよ」
「そんなゴツいの着てちゃ確かに目立って仕方ないよね」
そう言って、パックはパワードスーツを脱いで手を掛けている僕に告げる。
そんなパックの言葉に僕はパワードスーツに手を置いたまま肩を竦めて苦笑いを浮かべた。
もっともな正論だ。いつかはこのパワードスーツが必要になるときが来るだろうがそれは今じゃない。
ひとまず、パワードスーツを脱いだ僕は気を取り直してエミリアにこんな提案を持ちかけてみる。
「そうだな、それじゃまずは……貧民街から聞き込みをしてみようか」
「あら、それはどうしてかしら? 徽章が奪って逃げた犯人を見かけたのは街中よ?」
「君が見たという犯人、お金がありそうに見えたかい?」
「……あっ……」
「そういう事だ。大体、盗みを働く人間というのは貧しい暮らしを強いられている人間が多いかなと思ってね、読みが当たってると良いが」
僕はエミリアの溢した言葉に笑みを浮かべて頷く、まあ、これもあくまでも憶測にしか過ぎないが、あてもなく探すよりは効率的にも良いと考えた。
富が豊かな人間が盗む可能性も無くはないが、この場合だと、徽章の価値に気がついていない人間というのが妥当だろう、というのが僕の予想。
まあ、当てずっぽうまではいかないが、あくまで予想と憶測でしかないので確信とまでは当然ながら言い切れない。
おそらく、エミリアが大事そうにしていた徽章がそれなりに値がつくと考えての犯行だろうと僕は考えた。
「まあ、パワードスーツを隠すために丁度、町外れまで来た甲斐があって貧民街も近いし効率的にも良いだろう、時間は惜しい」
手掛かりという手掛かりが手元にない以上は足しかない。
こうしてエミリアと共に僕は貧困街へと向かった。
僕がタイムリープをしているという事実は彼女達には伝えてはいない、いや、この場合は伝えれないという風に言っておいた方が良いだろう。
そもそも、僕が経験していた今までのタイムリープとこの世界に来てからのタイムリープの仕方が異なっていたのだ。
まるで、タイムリープの仕様のレールが二本走っているそんな風に感じる。
何故ならば、タイムリープをする度に謎の黒い手によって心臓を握り潰されそうな激痛に襲われるのだ。
これまでのタイムリープではそんなことは今の今までなかった。
更に付け加えるなら、そのタイムリープが交互にくるという事だろう。
違和感のあるタイムリープと慣れ親しんだタイムリープが交互にくるのだ。
それで、今、エミリアと僕が話しているがこれが何回めだと思う?
そう、6回目だ、6回目の会話だ。
検証のために6回も死ぬはめになった。
同じ展開に持ち込むのは多少苦労はしたがね、そのおかげでわかった事もある。
1番はタイムリープを他人に話せないという事だろう、話すと話した対象者が死亡してしまう。
エミリアが現にそれで死んでしまったのでね、同じ轍は踏めないというわけだ。
さて、それから僕達はパワードスーツを隠せる倉庫を見つけ、密かにそこにパワードスーツを隠した。
なんでも、倉庫の管理者はエミリアの知り合いだそうで、それなら安心ととりあえず預ける事にした。
パワードスーツを抜いだ僕は首を鳴らして身体の状態を確認する。
「やはり、自分の身体が1番だ」
「あら、でも貴方、あのスーツを着ていた方が安全だってさっき……」
「確かに安全だが、あれを着たままで食卓に腰を据えて僕がご飯を食べる姿を想像できるかい?」
そう言いながら、笑みを浮かべてエミリアに問いかける。
エミリアはその僕の言葉に納得したように頷いてくれた。
そういうことだ、どう見ても、僕が何かの弾みで食卓に並んだ皿を破壊する姿しか思い浮かばないよ。
「さて、……と、じゃあ、聞き込みをするとしようか」
そうして、身軽になった僕はエミリアと共に貧困街で聞き込みを行なっていった。
時にはその……、まあ、多少、手荒な聞き方もしたりしたがね、それはご愛嬌というやつだ。
時間はなるべく惜しいし、犯人がエミリアの徽章を売ってしまえば手遅れになる。
それに僕には気がかりがあった。
さっき6回死んだと話をしたね? なんでかわかるかい?
それはね、エルザという暗殺者に度々、エンカウントした結果だ。
彼女を多分、20回以上は殺したと思うんだが、不思議な事に手ごたえが全くなく、逆に返り討ちにあってしまってね。
死なない人間も居るんだなと驚いたものさ、いや、既に人間という枠では無いのかもしれないがね。
なんにしろ、僕が気になったのは彼女と遭遇するのはエミリアの徽章を探し回っている最中が非常に多いという事だ。
「……なるほど、それじゃその店で物の売買がよく行われているわけだね?」
「そうね」
「ありがとう、助かった、これは礼だ」
そう言って、僕は女性に貧困街で襲われた際に返り討ちにした奴らからぶんどったお金を手渡す。
どうやらロム爺、本名はバルガ・クロムウェルという年寄りが店を開いており、そこで物の売買が頻繁に行われているという情報を得ることができた。
結構な手間は掛かったが、まあ、これは仕方ないだろう。
問題は、そこにエミリアの徽章があるかどうかだ。
それと、……徽章をもとめているならばあの暗殺者は必ず、あの場所に現れる筈。
「……さて、どう立ち回るか考えておかないとな」
僕は懐に射撃武器を潜ませ、静かに店へと向かい足を進める。
本来ならエミリアにこのことを伝えておいた方が良いのだろうけどね、彼女を危険な目に晒したくは無い。
店の扉に手をかけた僕は片手に射撃武器を構える。
扉の間から中を確認するとそこには小柄な金髪赤眼の少女と店の店主らしい老人が話しているのが見えた。
そして、少女の手には徽章がある。ビンゴだ。
おそらく、あれがエミリアが言っていた徽章だろう。
僕は警戒したまま、扉をゆっくりと開けて一気に中に踏み込むことにした。
「動くな! 手を上げろ!」
「なっ!?」
「なんだお前!!」
僕は声を上げる二人に射撃武器を構えたまま声を上げる。
そして、すかさず身構えようとした小柄な金髪赤眼の少女の足元に向かって容赦なく射撃武器を発砲し、牽制した。
いや、発砲したと言っても当ててはいない、撃ち抜いたのはあくまで床である。警戒射撃というやつだよ、安心して欲しい。
「動くなと僕は言った、なんで今こういう風になっているか、君達自身が理解してるんじゃないか?」
「ぐっ!?」
そう言って、店主の爺さんと小柄な金髪赤眼の少女は表情を歪める。
まあ、そうだろうな、彼女から前もって持ち込む約束か何かをしていたんだろう。あくまで予想だが、これは的を得ている筈だ。
銃を構えていた僕はおどけた様子で肩を竦めると射撃武器を仕舞う。
「……とまあ、冗談はさて置くとしようか、盗品だろう? その徽章、無理矢理返せとは言わない、君達にも生活があるだろう。だから取り引きがしたいんだが良いかい?」
「なんだと?」
「実はその徽章の本来の持ち主と取り引きをしていてね、とはいえ、僕も君達と争うのは本意ではないんだよ」
そう告げる僕はゆっくりと近くにあった椅子に腰を下ろす。
そして、これから、その徽章を持っている二人に降りかかるであろうことをゆっくりと語り始めた。
「……その徽章を持っていると殺される、僕はそう警告も兼ねて、わざわざ買いに来てあげたんだ。……まあ、君達が殺されても良いというのであれば僕はこのまま帰るけどね」
「そんな話、いきなり店に忍び込んできたわけのわからないてめーに言われてハイそうですかと信用できるかよっ!」
「僕がたとえ名乗っても中には入れなかっただろう? だからそうしたまで……だ」
僕は小柄な金髪赤眼の少女になんの悪びれもないようにそう告げた。
それにある程度、僕が言った事は間違いではない筈だ。
エルザという暗殺者の女が狙っている徽章、そして、彼女の残忍な性格と考え方から想像すれば、所持者である二人は邪魔なだけだ。
なら、排除されるのは必然となる。
では、このままエルザという暗殺者に彼女達が易々と殺されるのを黙って見逃してしまうのかと問われれば答えは否である。
だからこそ、彼女達に協力をしてもらう必要があった。
「暗殺者はおそらく、もうしばらくすればこの場所に来るだろう、その前に手を打ちたい」
「手ぇ? ……お前なぁ……」
「金はこれで足りるだろう? あと、こいつもつけてやる」
「これは一体……」
「デカブツを一撃で吹き飛ばせる手榴弾だよ」
そう言って僕が手渡したのはギタイを吹き飛ばす時に使った手榴弾である。
ピンを抜いて投げればすかさずドカン、対ギタイ用に強化されているため、その威力は折り紙付きだ。
なんて物騒な物を渡すんだと店主の爺さんは慌てていたが、納得した様に徽章を僕に渡してくれた。
そして、それからしばらくして店に遅れて見慣れた少女が入ってくる。
「あ! イーサン!」
「やあ、君の徽章、見つけてやったぞ」
僕は徽章をエミリアに投げ渡すとすかさずサムズアップする。
さて、それから、問題はここからなんだが、徽章を今、エミリアに返したとして、エルザがこの店に来ないとは限らない。
いや、絶対に来る筈だ。
「さて、取り引き成立だが、ちなみに暗殺者ってのは……教えてあげよう、なんと今回の君の依頼主だ」
「はぁ!?」
「……『腸狩り』 エルザ・グランヒルテ、名前は聞いたことがあるだろう? 指名手配犯から依頼を受けるなんて君も難儀だな」
僕はそう皮肉まじりに告げると静かに肩を竦めた。
さて、いよいよ彼女を迎え撃つにまで至る事ができたのだが、問題は今の戦力で彼女に勝てるかどうかというところだろう。
こればかりは今回やってみないとわからないが、向こうは凄腕の殺し屋だ。
こちらは僕と女の子二人に爺さん一人、あと、大精霊が一匹。
勝負的に考えれば数では上だが、まあ、戦闘のプロが僕しかいないという時点で察しがつくと思う。
これは、かなり厳しい戦いになると、なら早くこの場から逃げれば良い……と考えるが結局は脅威自体は去ってはおらず、小柄な金髪赤眼の少女とこの店の店主は殺される事だろう。
「僕が渡したその手榴弾、早速使うことになるかもね」
「何? 何故そんな事までわかる」
「勘さ、ちなみによく当たるんだ」
僕は店主の言葉に軽くウインクをしながら答える。
強力な相手には強力な武器を使う、当たり前の話だ。
起動スーツで返り討ちにするという考えなくもなかったんだが、あれはまあ、周りを巻き込んでしまう可能性もあるし、屋内戦では不利だ。
「これでやるしかないか」
僕は笑みを浮かべたまま告げる。
果たして、僕たちは無事にエルザを撃退する事ができるのだろうか、何か一つ、大事なピースが足りていない様な気はするがきっと気のせいに違いない。
そして、死神の足はゆっくりと確実に僕に迫り来るのだった。