泡沫の記録   作:執筆使い

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※二話目の修正。最後の方をかなり変えて、少し付け加えました。紛らわしい真似をしてすいません。





炎上汚染都市冬木
記録1【散歩道】


 目を覚ますと、私は炎の中にいた。

 

 この場所は異常事態に包まれていると、生物としての本能で感じた私は飛び起きてその場から離れようとすぐさま走り出した。辛うじて火の通ってない細い道を無理やり掻き分けながらどんどん進んでいくこと数分。息が上がり始めたところでこの地獄からは走ったところで抜け出せないのだと漸く気付いた。

 焦る気持ちを無理矢理抑えて、私は現状を把握しようとした。幸いなことにメモ帳が胸ポケットの中に入っており、それと一緒にボールペンが入っていた。自分は何か、記者の様な仕事に就いていたのだろうか? 他ならない自分の事に対して疑問符を浮かべたのは、自分に対する異常があったのだと嫌でも実感させられる。そう、先程…否、最初目覚めた時から自覚したのだがどうやら自分は所謂記憶喪失らしい。どうも自分が何者で、どうして此処にいるのかがわからないのだ。最初はこの状況による極限までの焦りによる一時的な忘却なのかと思ったが、いつまでたっても頭の中から出て来そうにないそれに対して私はそう結論付けた。震える手を無理矢理動かして、周囲の景色と状況を元に文を書き連ねる。

 

「落ち着け、落ち着け。書けば何かわかるかもしれないんだ」

 

 少し斜めになっている電柱を見つける。上から眺めればわかるかもしれない。もしかしたら自分と同じような人(生存者という意味合いであるが)が居るかもしれない。先程走っていてもしやと思ったのだが、どうやら運動神経の良い身体らしい。難なく登り上からこの地獄を見下ろす。

 

「建物が全て倒壊している…ただの火災かと思ったが、大規模な地震でもあったのか? それに人影一つ無い。避難を済ませた後なのか或いは…」

 

 嫌、最悪の想定をするのは早計だ。自分以外の全ての人間が死んでいるなんて、最悪なことは考えたくない。きっと、誰か一人は生きている筈だと自分に言い聞かせ、私は炎が止むまで何処かへ待機しようと計画立てる。1番理想的なのは少し離れた場所に見えた学校の様な建物だ。どうやら遠目で見る限り、そこまで崩れてもなければ火がついてもいなかった。暫くの間は凌げるだろう。それにどう言うわけか、この炎がこれ以上燃え広がる気配が無い。つまり火災の被害が増える事は無いと私は結論付けた。

 現状と、今後のある程度の目安を、頭の中と手に持っていたメモ帳に写した私は視線を下に移しゆっくりと慎重に降りる。幾ら身体能力が高くとも万が一があるし、純粋な高度への多少の恐怖があったのでゆっくりと降りる。そして右足からそっと地面に着地し、向かうべき方向へと体を向けた。

 

「良し、行くか。出来れば道中他の生存者に会えればいいんだが…」

 

 手書きの略図を頼りに、私は校舎へと歩く。時折周囲を見渡しながら、何か使える道具が落ちていないか、もしくは食料となるものがある建物がないか探すが、その殆どが瓦礫の下だ。中には相当でかく立派であって、尚且つ殆ど無傷だった屋敷があった。だがどういうわけか、()()()()()()()()()()()に近づけそうになかったので、寄り道の為に遠回りしていくのもどうかと思い、素通りすることにした。

 

「しかしあれほどの屋敷…さぞかし立派で堂々とした人が住んでたのだろう」

 

 尚、その屋敷についての感想を呟いたのだが、何故か頭が全力で否定して居るような感覚に襲われた。まるで空白の様な場所から無理矢理出て来たような感覚…ひょっとして、記憶を失う以前の私は、あの館の主人を知っていたのだろうか? 幾ら考えてもわからなかったのでメモにその事を書きつつその事については後回しにする事とした。

 

 

 

 

 そして歩き続けて数分、漸く校舎前に着いた私が抱いたのは一つの達成感ではなく、この状況に対する()()()()()であった。

 

「そういえば、これだけ周りが燃えているのに暑さを余り感じない。息苦しさすらもだ」

 

 思えば最初からである。まずあんな所で寝転んでいれば、気絶時間にもよるが余程でない限り炎が広がることによって自分は服ごと燃える筈だ。なのに自分の周囲には炎などなく、服も身体も無傷だった。それにこの状況。幾ら記憶喪失だからといっても、都市部を覆う様な大火災の中で熱による汗が一つも掻かないのは変だというのはわかる。それに煙は出ているし、何より空気中の酸素を大量に消費して燃えているのに一切の息苦しさを感じない。先程は大火災という異常事態と自らの記憶喪失に戸惑っていたので気付かなかったが、よくよく考えてみるとおかしい。

 試しに頬を抓る。痛い、どうやら夢ではないらしい。では、と勿体ないがメモのページを一枚切り取って炎の方へと飛ばす。すぐに燃えた、どうやら本物の炎の様だ。流石に周囲に酸素があるかどうかを判断する事は出来ないが、どう考えてもこの状況は可笑しい──

 

 

 

 

 

 

 ──そう疑問符を浮かべ思考に身を委ねようとしたその時だった。咄嗟にその場をしゃがんだのは何かしらの第六感が働いたからであろう。現に、上半身があった場所を鋭い刃物の様な物体が数本通過したのだ。少し前を跳びながら後ろを振り返る。視界には誰も映らない。だが、確かに誰かが自分を殺す為に黒い刃物を投げつけたのだと確信を持っていた。

 

「誰だ!」

 

 叫ぶ。そして警戒をする。返事が返ってくるとは思わないので、足元の何本かを拾いながら構える。戦いではなく、逃げの構えだ。姿を見せない相手を誘き出す為には校舎内に逃げ込むしかないと考えた上での構え。しかし予想に反して、それ以上の苦無での攻撃をせず、自分の叫びに対する返答を、()()()()()言った。

 

「クク…苦悶ヲ溢スカ? ニンゲン」

 

 死を感じた。まるで、地獄からやってきた死神の声を無理矢理現実で再現したかの様だ。凍える様な冷たさは恐怖によるもの。普通の人だったら一歩も動けない程、異形じみた声。だが私は生きる為、足に思い切り力を入れて走った。後ろから濃密な殺気が物凄い速さで近付いているが振り返る事なく走って行く。校内に入り、階段を駆け上がる。

 

「ハァッ! ハアッ!!」

 

 緊張によっていつも以上に疲れを感じてしまっているのか息が上がってしまう。向かう先は屋上。それなりに高い校舎だから落とせば死ぬだろうし、遮蔽物も余りないから向こうも奇襲できない筈だという物凄く安直な考え。だが今はこれしか思いつかなかった。武器となりそうな刃物や火がある家庭科室や、薬品が置いてある理科室などの場所は私の記憶にはなく、わかっていたのは階段と屋上があるという事ぐらいだったから。2階、3階、と上がっていく。

 

「もう少──ッ!?」

 

 3階から上の階段を登ろうとした時、足に激痛が走った。見ると、黒い苦無が刺さっている。どうやら追いつかれた様だ。階段を上るのを諦めすぐさま廊下の方へ、片足を引きずりながらある程度進み、そして振り返る。

 

「こうなったら一か八か、コイツで刺して3階から突き落とす」

 

「ヤット追イツイタ」

 

 黒いローブ、やせ細った様な左腕と足、そして包帯で巻かれた右腕。仮面つけている為細かい表情は読めないが、ヤツは笑っているのだろう。私は苦無を手に持ち構える。本数は3本、攻撃のチャンスは3回。向こうはどうやら相当慢心をしているらしい。手負いだからというのが大前提であるのだろう。だからこそ私はすぐに右手を振って2本の苦無を飛ばした。

 一本目、相手の顔面めがけて普通に真っ直ぐ飛ばしたもの。ヤツは難なくこれを左手に別の苦無を持ち弾く。だが、そのすぐ後ろに二本目がある事は、向こうも予想していなかった様だ。その当時は知らなかった名前だが、隠し弾(ブラインド)と呼ばれる技術である。少し驚いたヤツは視線を完全に二本目に写し、首を微かに傾げる事で躱す──

 

「何ッ!?」

 

 再三の驚きの声を上げたのはヤツ。恐らく、いきなり至近距離に必死の形相で私が苦無を振りかぶっている様に写っているのだろう。一本目の苦無が弾かれたと同時に思い切り跳んだ。足を怪我しているにも関わらず。我ながら相当な無茶をしたものだと今にして思う。

 

「貰った!!」

 

 狙いは肩。多少の罪悪感はあったが、もう後戻り出来ない。このまま私の苦無は肩に刺さり、その隙に窓から地面へ突き落として、ヤツの息を止めるのだろう──

 

 

 ──そんな甘い考えは、腹にきた衝撃と共に消えた。何が起こったのかわからなかった。一瞬、息が出来なくなりそのすぐ後酸っぱいものが腹から喉を通って口の外へ出る。何が起こった? どうして吹き飛ばされた? 無理矢理思考して、そして私は理解する。

 

「成る程...見た目通りのバケモノか、ゲホッ、ゴホッ!?」

 

 細くて力のない様な左拳が腹に向かって突き刺さっただけ。ただそれだけなのに数メートルは吹き飛ばされた。こんなヤツ、普通の人間に勝てるわけが無いと、私は漸くながら感覚で理解をした。ヤツはゆっくりと一歩ずつ近付いて来る。一歩進む毎に、自分の心には後悔と情けなさが浮かび上がる。

 

「チッ...ソコマデ強クナイヨウダガ、オカシナ呪イヲ持ッテイルヨウダ。念ニハ念ヲ入レルトシヨウ」

 

 ある程度近付き、そんな事を呟いたヤツは包帯を解いて、右腕を露わにした。歪で長い、ただそれだけの筈な右腕は、それ以上の恐怖と殺意を感じさせる。嗚呼、さしずめ死神の鎌と言ったところだろうか。今思うと、この時の私は諦めの色が入っていた。動けなかったのは、足の痛みだけではなかったのだろう。

 

 

 

「妄想──」

 

 死、そのものが近づき、震えすら止まるほどに恐怖を感じた。記憶喪失の私には走馬灯すら流れて来ず、ただ周囲がゆっくりと動いている事しか見ることが出来ない。

 

「(何も解らず、ここで終わるのか──)l

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Berkano(ベルカナ)

 

「ナッ!? コレハ、キャスターノ…」

 

 地面を突き破り、ヤツを鷲掴む巨大な右腕。それと共に現れた青の男。まるで英雄記の絵本から現れた様な出で立ちをした彼は、私の方を向きただ一言だけ。

 

「命拾いしたな、坊主」

 

 その一言だけで、安心に包まれた。おそるおそる、私は声の主の顔に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 ──その日、私は運命の始まりに出会った。

 

 永く短き物語の始まりに、私は立っていた──

 

 

 

 

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