「嫌よ!」
突き刺さる言葉だ。
「話を聞く限り、偶然サーヴァントに遭遇しただけの一般人...それに記憶喪失なんて得体が知れなさすぎるわ!!」
ごもっともだ。
「それにあろう事か...その、会ってすぐに席を外したと思ったら...ああもう兎に角! 私はこんな非常識な人と同行するのは反対です!!」
席を外した云々に関しては...私自身申し訳無いとは思っているが、その怒りは後ろで腹を抱えて笑っているキャスターにぶつけて欲しい。というか笑うな大英雄。他人事みたく振舞ってるが、こうなった原因の一端である彼がアレなので怒りが込み上げてくる。と思った所で、冷静さを欠いている事に気付いた私は取り敢えずはらわたでグツグツ煮えているそれを鎮めて、か弱い嬢ちゃんもといカルデアの所長──オルガマリー・アニムスフィアの言い分を聞いた。
成る程、どうも話と彼女の心理状態を確認する限り、向こうも相当切羽詰まった状況らしい。その上爆破テロ(一瞬、この街の火災の件かと思ったが、どうやら別件らしい)での事も相まって疑心暗鬼に陥っているらしい。その様子は何というか...責任を負い過ぎている風にも見えた。自分の部下や大切な大勢が死、もしくは重傷を負っているらしいのだ。真っ当であれば、その心中は穏やかでは無いはずだ。しかしだからこそ、冷静を外面だけでも装うべきなのだが...それを言うのは今のところ部外者である私には無理だ。下手に指摘すると逆上しかねない。
仕方がない。そう思った私は言い分を理解して、了承した意を彼女に示した後、その場を離れようとする。他の生存者と行動できないのは名残惜しいが、こうも拒絶されては仕方ないと判断した為だ。お墨付きをしたキャスターや、何故か尊敬の眼差しで私を見つめていたマシュと立香には悪いと思ってはいる。なので一言彼等に別れの挨拶と謝罪をと考えた所で、所長がちょっと待ってと引き止めた。
「あの、どうしましたか? あなた方に迷惑がかかるのもいけないし、これ以上私が長居する必要はないのですが…」
これは本心からの、裏表ない言葉だ。立場では向こうが上なので敬語で、ちょっと先程の見苦しいものの影響で弱々しい喋り方になってしまったが、所長にはっきりと言った。それを聞いた彼女はうっ...っと少し気まずそうな顔をした後、
「っぐ…ああもう、わかりました! 貴方の同行を認めます!! ええ認めますとも!!」
と、先程とは真逆の言葉を言った。どう言う事だ? こちらとしては有難いのだが彼女が何故前言を撤回したのかがわからない。弱々しく、敬語で、はっきりと意見を言っただけだと言うのに...これ以上考えても仕方ないと思った私は思考を切り替え、すぐさま感謝の言葉を彼女らに述べた。その際キャスターと立香にお主も悪よのぉと言われたのだが、訳がわからない。
まぁ兎も角、こういった経緯を経て私はカルデアの者達と行動をする事になった。私が新たに加わった事と、残るサーヴァントがキャスター含めて残り三体のみとなった事、そして敵が居ない事なのでこれからの方針と作戦をおさらいしながら立てていく事になった。第一に、彼等の目的だが…キャスターが校舎で言っていた聖杯とやらの回収と、特異点の修正らしい。その為にも残るアーチャーとセイバーを倒さなければならないのだとか。アーチャーとセイバー…字面通りだとすれば遠距離と近距離にそれぞれ特化した英霊という事だ。連携されたら厄介なことこの上ないがキャスター曰く
「いや、そういうのはしねぇな。どーもセイバーは籠城決め込んでいるし、アーチャーの野郎はそいつを守る騎士の如く立ちはだかっているだけ。今までの様子見であいつらが同時に連携した所はねぇな」
慢心なのか、或いは英雄らしい騎士道精神なのか、キャスターの述べている事が本当であれば勝算はある程度高まる。まともに戦えるのが、未だ戦闘経験が少ない(というより皆無に近い)マシュと彼だけで、両者同時には捌ききるのは難しいだろうと思ったからだ。と、ここでカルデアのマスターこと立香から質問が上がった。
「クー・フーリンさん「タメ口でいいぜ、坊主」クー・フーリン、セイバーとアーチャーについて詳しく知ってたりするのか? 例えば名前とか…」
それは私自身聞きたかったことだ。どうも英霊というのは過去の偉人や英雄を現世に召喚しているためか、生前の弱点や情報が現代の世に伝えられている通りになる傾向があるとの事。例えば、生前毒殺された英雄がサーヴァントとして召喚された場合、毒による攻撃に滅法弱いという具合にだ。逸話上の弱点などといった条件さえ揃ってしまえば、神秘を持ち合わせていない一般人にやられてしまう場合だってあるらしい。故に通常の聖杯戦争では、英霊の名前や情報は他の陣営に漏れない様に細心の注意を払うマスターが殆どだとか。そういう意味では出来るだけ多くの情報を得たいというのはある。
だが問題は、目の前の男が快く喋ってくれるかだ。別に裏切り云々を警戒している訳ではなく寧ろその逆、英雄である故に戦いに対する誇りや精神性に拘る可能性があるからだ。正々堂々戦わず、英霊の弱点を重点的に攻めるというのは場合によっては騎士道精神等に反するとみなされる事もある。ましてや相手はケルトの大英雄クー・フーリン。性格からして真っ向勝負を好みそうであるが…
「...アーチャーの野郎はそんなに知らねぇが、セイバーだったら知ってるぜ」
私は、驚きの顔を表に出していた。思わずその場で、何故あっさりと喋るのか、裏があるのではないのかと。失礼だと思われるのも御構い無しに聞いてしまうほどにだ。助けてもらった恩人に対して疑いの目を向けるのは最悪と考える人もいるだろうが、私はどうしても知りたかった。目の前の英雄の本当の姿を。
彼は笑みを浮かべながら答える。勇士である自分は確かに私の言う様に、正々堂々生死を分つ争いをどちらかといえば好む。だが、だからと言って敵の情報を予め知った上で弱点のみを突く戦いに対して、自分は卑怯だとは思わないと。そういう戦い方をする人間も自分らの時代には居たし、自分の死因がまさにそれだった。別に恨んではいない。ただ、自分にその戦い方を強要させるのと、戦いの最中に要らぬ横槍を入れられるのだけは我慢出来ないのでそれはやめてくれと。そう言った。
私は少し見直した(最も、人間ゲイボルグに関して根に持ってるのでアレであるが)。英雄といっても色々なタイプがいるのだと。目の前の漢は“良い人”なのだと結論付けた。
「でだ、セイバーの事だが──」
私はここでポケットに入れっぱなしだったメモ帳の事に気付き、ペンと共に取り出して書き留める。どうやら自分は筆が早い方らしい。周囲の人(特にマシュと立香)が凄く感心そうな目で私の筆記を見ている。特に立香の方はまるで自分が嵌っている漫画に出てくる、とあるキャラクターみたいだと、私の筆の速さに対して感想を述べていた。
とまぁ、横道に逸れてしまったが、本題に入るとしよう。ケルトの大英雄の口から出た者の名前。余りに有名なそれは、一般的な常識のある程度すら抜け落ちているであろう私ですら知っている程…つまり相当な知名度と力を有している。成る程、【彼】相手であるなら、キャスターとはいえクー・フーリンが他者へ協力を仰ぐのも無理はない。
【アーサー王】
聖剣エクスカリバーを持つ世界で最も有名な王の内の1人。円卓の長である彼は最高の騎士でありながら、最後は裏切りと反乱によってその生涯を終えた。裏切りと反乱によって生涯を終えたと聞けば、呆気ないと思うだろう。だが実際にはある事情から、来るはずの援軍が来ず、反乱に加わった円卓の騎士ら含めた者達を相手に実質一人で戦い抜いたのだ。それ程の騎士であり、王である英雄を相手にするには…
「確実に可能性があるとすれば、クラレントを持つであろう英雄──モードレッドを喚ぶ事だが…」
私の呟きに対して、所長は首を振る。カルデアの安定してない今、下手に召喚したところでお目当ての英霊が来るかは博打に近いし、何より叛逆の騎士として名高い【彼】が、敵がアーサー王といえど自分らの言う事を聞くとは限らないからだ。故にこの案は却下された。唯一の案が却下され、それ以外に弱点らしい弱点のない騎士王相手にどう攻めるべきか話し合いが難航する。
ああでもないこうでもない、そんな話し合いを終わらせたのは、この場で詳しく逸話を知っている所長や私ではなく、何となしに知っている所謂一般人の立香による一言であった。
「あの、思ったんですけど、確かアーサー王ってエクスカリバーが最大の武器…所謂宝具って言うものなんですよね?」
「ええそうよ! だから何!? その聖剣を持つ騎士王が厄介だからこうして話し合っているんでしょう?!」
「じゃあ、何かしら騎士王の隙を作って、その隙にエクスカリバーを奪うか、破壊するなりして、使えなくすれば良いんじゃないのでは──」
弱点がないのであれば、最大の強みを使えなくすれば良い。素人考えに近い彼の意見は、まさに鶴の一声だった。
流石に聖剣そのものを破壊したり、奪い取ることは不可能だろうが、要は使えない状況を作れば良いのだ。私は立香にお礼を言いながらすぐさまメモで、何個かの案を書く。最初は難儀を示した所長も、ある程度思案したところで作戦に対して賛成の意を示してくれた様だ。目線を横に逸らしながらも立香にお礼を言う。ふと、彼女はある事に気付いた。
「…あれ? そういえば、マシュとキャスターはどうしたのかし──」
振り返ると、そこには激闘を繰り広げている二人。後で聞いたところ少しでも自分らが話し合っている間、少しでも強くなろうと大先輩であるキャスターに軽い組手をお願いしたらしい。
軽い組手といえど、ストイックのケがあるマシュと生粋のケルト気質であるキャスターだ。ましてや英霊(の力を宿している身)、いつの間にか激闘と化している。戦いに勝ちやすくなる為、決戦前に無駄に体力を消耗すると言う余りに本末転倒な光景に、私を含めた三人の叫び声が炎の街に響く。
「「「なんでさ!?(なんでよ!?)」」」
また、全くの余談ではあるが後のアーサー王との決戦で叫んだ気合いや啖呵よりも、この時出たセリフの方が良く響いた事をここに記す。