泡沫の記録   作:執筆使い

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正◼️の味方〔オルタ〕

 洞窟の入り口で立ちはだかる弓兵と相対して──

 

 

 

 

 

 一騎打ちとしたのは良い。何せ相手は良く見知った相手であるし、下手に足止めされて向こうの思惑通りになるよりか、セイバーの方を暫くマスターとシールダーに任せる方が良いと判断した。だが、だがしかしだ。少々予想外だったと、相対する腐れ縁に対して内心毒を吐く。彼がそう驚いたのは弓兵が弓以外の武器を使った事に対するものだ。

 

「随分と、変わり果てたな。セイバーを守る騎士様よぉ!」

 

 別に、弓兵が弓を扱わない事は別段珍しくもない。宝具を湯水の如く飛ばす者、剣を複製する者、自分が相対していないだけで他にも邪道に近いアーチャーなどいくらでもいよう。だが、そういう前提があって、ましてや目の前の英霊がその邪道に当て嵌ると知っていながら彼が驚いたのはその両手に持つ武器の予想外さ故だ。

 

「ふん」

 

 火薬の音と共にそれはキャスターの霊核──心臓目掛けて飛び出す。だが飛び出したものは目視できる範囲で放たれた故、予めスキルとして備えている矢避けの加護が発動。それは心臓を刺さりはしなかった。しかし同時に接近してきたアーチャーを遠くへ吹き飛ばす程万能なものでもない。弓兵は両手に持つ武器をくっつけて一つの両刃刀として斬りかかろうとしている。

 

「甘ぇ!!」

 

 しかしながら、そこはケルトが誇る大英雄。杖を槍の様に巧みに操り両刃刀を受け止める。お返しと言わんばかりにルーンの呪文を詠唱するのと同時にアーチャーはすぐさま離れた。

 

「ansuz!」

 

 火球が3つ。たかが3つと侮ってはいけない。影の国の女王によって叩き込まれたルーンは対魔力D程度易々と突き破るだろう。当たりどころが悪ければ神秘の薄い弓兵であれば致命傷となる。だから一発目と二発目は避けた。三発目は──

 

「ちっ...」

 

 弓兵を中心に人一人覆う程の小規模の爆発が起こる。かわしきれないタイミングと位置であった為、弓兵は咄嗟に両刃刀──干将・莫耶を再び2つに分離させて盾にした。自分へのダメージは防げたが、盾にしたものは爆破と共に破壊された。何も知らない普通の人間であれば、弓兵の舌打ちは自分の武器が減った事によるものだと錯覚するだろう。だが、彼の武器は幾らでも換えがきく。いつの間にか彼の両手には新たな干将・莫耶が──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──否、それを改造したであろう拳銃が二丁持たされていた。

 

「宝具を弄るどころか、正真正銘の道具として扱うとは...本当、性根が腐ってやがるな」

 

「性根か...生憎、今の()にはそんなものなどない。遠い昔に捨て置いたものだ、()()()()()

 

 そのセリフを聞いたキャスターは、詳しくはわからなかったが理解をした。目の前の男は自分が戦った相手とは似ている様で違う英霊なのだと。皮肉なセリフではなく、皮肉そのものを体現している黒く染まった体は彼の今を表している。

 クーフーリンは知らない事であるが、この英霊も彼と幾たびも激突したアーチャー【エミヤ シロウ】であって、そして厳密に言えば全く異なる存在である。鉄の心を持ち、どこかで崩れ落ちたIFの姿。セイバーに敗北し、黒く染まった本来のアーチャーはそのもしもの姿に成り果てていた。

 

「我が骨子は捻じれ狂う──」

 

 

 拳銃に魔術を施す。より禍々しく、より大きく、それは平行世界にてオーバーエッジと呼ばれていたアーチャーの魔術の1つ。当然干将・莫耶を元に改造したこの拳銃に同じものを施せるのは自明の理。故にその変形は可能であった。

 

「っ! テメェ!!」

 

 猟銃のサイズにまでなったそれの銃口から覗かせているものを見てキャスターはすぐさま防御態勢に入る。アサシンを殺した時に発生させたサイズの木の柱を何本も、何重にも重ねていった。

 

 ケルトの大英雄クーフーリンにはこんな話がある。彼の叔父であり、育ての親であり剣の師でもある、フェルグス・マック・ロイという男がアルスター最大の戦争にてその武勇を振るい一時は敵国の王であるコンホヴォルをあと一息で討ち果たすまでに迫った。だがその敵国側にクーフーリンがいたが為本気を出すことができなかった。そうしたことがあってか敵同士の二人はケルトにて絶対に破られない誓いとされるゲッシュを立てた。

 フェルグスとの戦いで、一度は負ける。そんな誓いを立てた為か、彼が最も愛用していた宝具をアルスター所縁の者が扱い立ちはだかった場合クーフーリンはその者に一度は敗れなければならない。

 

 英霊エミヤはアルスター所縁の者ではないので複製されたその宝具を放とうがキャスターに誓いが適用されない。にも関わらず彼が咄嗟に動いたのは半ば反射に近いものだった。例えるなら、絶対に安全な柵を隔てているとはいえ猛獣がいきなり吠えたら人間は咄嗟にその場を離れたり身構えたりするのと同じそれ。木の幹を何重にも束ねた上で、それが突破された場合を想定し防壁のルーンを盾の如く展開する。

 対するアーチャーも自身が巻き込まれないように出来うる限り離れたのちに高く跳び狙いを定める。そこまでしたのちに、その弓、いや銃弾、元を考えるのならば一つの長剣が放たれようと人差し指が動いた。

 

「──偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 その光景は、知る人がいればあの時と同じと言うだろう。構図が真逆で、場所は教会でなく洞窟、放たれるのは槍ではなく剣、というどうしようもない違いが3つもあるが、それでもこの戦いは()()()()対アーチャーだ。

 洞穴を背に、投影した宝具が放たれる。それをまず阻むのはルーンで出現させた木の幹。一本一本が太く束なったそれはまるで巨人の二の腕みたいにがっしりと行く手を阻み、宝具の勢いを殺している。空間すらねじ切る螺旋剣は、堕ちた影響故か貫通力が本来よりもだいぶ低く、しかしながら元が元なので木々の巨人の二の腕を貫くには充分な威力を誇っていた。次に立ちはだかるのは防壁のルーンが3つ。

 

 

 

 1枚目

 ──容易く突き破られた。

 

 

 

 2枚目

 ──暫しの間拮抗。だがやはりというべきか、亀裂が入った瞬間にガラスのように割れて貫通した。

 

 

 

 そして3枚目

 ──ぶつかり合った瞬間キャスターは直接魔力を送り勢いを押しとどめる。

 

 

 

 

 神秘の濃い時代に生きた大英雄のルーン魔術は伊達ではない。本来の担い手が放った訳ではないにしろ、真名開放されたAランク相当の宝具を止めた。嫌、正確にいうならばまだ完全に防いだわけではなく最後の防壁と拮抗している状態なのだが、勢いが落ちているのと空間をねじ切るほどの魔力が残っていないのでこのままいけばアーチャーの奥の手の1つを防げたことになる。

 それに対してアーチャーは次弾を装填するわけでもなく木々に空いた風穴越しにその光景を見たのち、勝負が決まったと言わんばかりに洞穴の方へと前進を振り向き口を開く。

 

「壊れた幻想」

 

 たった一言の言葉。聖杯に喚ばれる英雄であれば誰しもが使える技。だがこの男以外決して使わないであろうその詠唱は、拮抗してた宝具を光り輝やかせると同時に、

 

「な──」

 

 キャスターもろとも、決して小さくない爆発を巻き起こした。

 

 

 

 爆炎が晴れるのを待つことなく、弓兵は先に向かった四人を始末しに洞穴の中へ歩みを進める。あれ程の威力を至近距離で喰らったのだ。さしものキャスターもくたばったか、仮に立てる状態だったとしても無事じゃすまない程のダメージを負っている筈。少なくとも此方に攻撃してくる要素は見当たらないと、黒く濁ってしまった目はそう判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焼き尽くせ、木々の巨人──」

 

 彼の失敗は大英雄を舐めていたこと。結論から言えばキャスターはほぼ無傷だった。木々の壁を何重にも出現させて視界を阻んだ際に、彼は予め変わり身を用意していた。Aランクのルーンで作り上げた人形は精巧であり、アーチャーでさえ見抜けなかった。故に、その人形を粉々にしたのを見て仕留めたと思い込んでいたアーチャーは今、先程突き破ったものと同等の木々の腕に掴まれている。

 

「ぐっ!?」

 

 そしてもう1つ、彼が犯した間違いは宝具を爆破させたこと。別にそれ自体が戦術的に間違っているわけではない。寧ろ合理的に判断すればあれも最善の内に入るだろう。だが、冷静に考えて欲しい。自分の家族或いは知人の形見もしくは大切な物が他人に使われてたとする。そこまでは良い。だがそれを本来とはかけ離れた使い方をするどころか、目の前で爆破されたらどんな心境に陥るか?

 

「ウィッカーマン!!」

 

 程度の差はあれど、爆破させた相手に対してブチ切れる筈だ。ましてや、キャスターとして現界して少しは知的であるものケルトの大英雄の本質は獣のそれ。表面上こそ冷静なのかもしれないが、内心は激情に塗れていた。仮に彼が魔神バロールであれば既に死に絶えている。それ程の視線が捕まった男に向けられているのだから。

 アーチャーは振りほどこうともがくが巨人の腕には何の意味もなさない。過去も未来も、嘲笑う鉄心も防弾加工も、人身御供として飲み込まれる運命からは逃れられない。

 

「キャス...ター...!!」

 

 せめてものと、運が良く捕まってない左手に持つ拳銃の照準を合わせて彼は力を入れる。磨耗してしまったが故、先を急ごうとしたあまり、らしくない慢心と油断で握り潰されようとしている。エーテルの体から流れた血が、骨の軋む音が、自分の終わりを無慈悲にも告げていた。だが、それでも彼は後悔どころか諦めてすらいない。引き金に込める力は一切緩んではいない。何故なのかはわからない。どうしてなのかは、本人にはわからない。黒く染まった英霊は、かつてエミヤシロウだったものに成り果てている。記憶も、夢も、理想も、信念も、磨耗した彼には、自分の内にあるナニカの正体がわからない。

 

「善悪問わず土に還りな──アーチャー」

 

 まるで、自分を戒めるかのように。辞世の句を詠むかのように。アーチャーは、その言葉を詠唱として綴る。

 

 

 

 

 彼の身体は◼️で出来ていた

 

 ──生きていてくれて、本当に良かった。

 

 

 

 

 血潮は鉄で、心はガラス

 

 ──先輩、もし私が悪い人になったら──

 

 

 

 幾たびの戦場を超えて腐敗

 

 ──今のお前は衛宮切嗣だ。それが勝てない筈がない。

 

 

 

 ただの一度の敗走と

 

 ──うふふっ、楽しいわぁ。堕ちるところまで堕ちて、あとは腐るだけですね。

 

 

 

 掛け値無しの後悔と

 

 ──..........あんたと、その息子を、オレは──

 

 

 

 彼の者は常に独り剣の丘をすり減らす

 

 ──いいじゃないか、正義の味方。なんでか、妙に泣きたくなる。

 

 

 

 故に、その生涯に意味などなく....

 

 

 

 

 

 ──問おう、貴方が私の◼️◼️◼️◼️か?

 

 その身体はきっと、◼️を追いかけている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々の指と、銃の引き金が同時に引かれて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──彼等の戦いに勝敗がついた。

 

 

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