文字数が少ないのはご愛嬌。
初配信、心配だったものの、すぐに来場者の数が3となる。
人が来るのを待つのも考慮していたので一安心である。
1つの『わこつ』というコメントが本当に嬉しくなる。
「えっと、今日から配信を始めました。ノームと申します。今回は雑談という形をとっていますが、これからはゲームや謎解きなんかもしていきたいですね」
名前は適当に土の妖精から頂いた。
無難な挨拶だが女声が受け入れられるかもわからないので、ふざける訳にもいかない。
この世界では大和撫子のような女性をイメージしている人が多いので、取り敢えずは敬語で話す。
些細な心配事は他にいくつもあるが、既に配信は始まっていると割りきって雑談を続ける。
配信はアーカイブとしてネットに残ることを考えると、初めてだからという理由で無言の時間があって良いはずがない。
幸いなことに、今のところ雑談に対する反応が良く非常に話しやすい。
視聴者が有能、お陰で話が詰まることもなくリズム良く進められている……気がする。
あ、視聴者が5人に増えた。
『綺麗な声してますね!』『女声うまい』『音ちょっと小さいかも』
「綺麗な声と言って貰えると思ってなかったので本当に嬉しいです。──それと私、女ですからね!アドバイスもありがとうございますっ」
……男が女声を出してると思われたようなので、即否定してしまったが、大丈夫だろうか。
ちょっと微妙な空気を感じる。いや、配信なので実際そんな空気ないんだろうが。
少しの間があった後にコメントが来る。
『マ?』『ママ?』『女生主初めて見た希ガス』『たしか海外勢にいたゾ』『釣りだろ』
お、5人ともが反応した。
「……まず男性だと思われてたんですね。それと子供は産んでないのでバリーさんのママではないです。ごめんね。……えーっと、チャルさんはどうすれば信じてくれるんでしょう?」
ちなみにバリーさん、チャルさんというのはコメントをくれた人の名前だ。
名前を呼ばれる方が特別感があって良いのではないか、次も見てくれるのでは?という期待を込めている。
効果のほどは分からないが、前世の自分ならたぶん嬉しかったと思う。
体売らなくていいなら、媚はいつでも売ってやる。
そんな私の心の中など露知らず、コメントがいくつか流れる。
『感動』『やばいな』『高いボカロの歌でも歌って、ってボカロわかる?』
「ちゃんとボカロもわかりますよーっ!一番の王道ので良いなら歌いますよ」
ちゃんとオケの準備もしてある。
この世界のボーカロイドの曲も有名所は押さえているし、配信で歌うのを見越して練習もしてきた。
歌うのは恋愛曲、この一曲を上手く歌えるかに私の未来が懸かっていると言っても過言じゃない気がする。
「じゃあいきますね……。恋花火っ」
一人カラオケの時のような無理矢理のビブラートをしないことだけを意識していた。
そして、次に気づいたときには曲は終わっていた。
ちゃんと声は出ていただろうか、恐る恐るコメントを見ると──
『888888』『女性の歌うボカロが聞けると思わなかった』『ママーっ!』『ほーん、ええやん』
現在の視聴者も12人まで増えていた。
二桁に乗れたというのが感慨深い。
コメントの惜しみ無い称賛に嬉しさが込み上げると同時に、恥ずかしさも増してきた。
あかんニヤける。
「い、以上で今日の配信終わりですっ。ご来場ありがとうございました。以上ニョ、……ノームでしたっ!」
『噛んだ』『かわいい』『ノーム名前覚えたからなあ』
──これ以上はコメントを見ても恥ずかしくなるだけだ!
配信を切り誤ってマイクが入ってないか等の事故がないかを確認する。
女の自分が身バレや住所バレしようものならば、童貞が家に乗り込んできてもおかしくはない。
拗らせた童貞が徒党を組んでいるような世界なのだ。
確認を終えてようやく一息つく。
配信時間は30分ほどだが、一生分緊張した。
だがこれから慣れないといけないのだ、覚悟は決めたはずだ新嶋碧。
気を取り直して、今の配信のチェックだ。
見逃したコメントがないかの確認、本日の反省のためにアーカイブを見なければいけない、いけないのだが自分を見返すのが恥ずかしい。
「自分の噛んだところだけカットとかしちゃダメかな……」
覚悟はすぐに揺らいだ。
来場者数14人の初配信、ここから配信業のみで生きていけるというレベルに達することができるのだろうか。
前途多難だが、ここまで来たからには行くところまで行ってやる。
「絶対に体は売らないぞ……!」
掲示板回を書きたい。