時空の歪みが発生してます。
結局徹夜でやらないと終わらない現実。
「あの、っ寝たいんですけど」
「おっアタシとか?……うそうそ!でも一緒にゲームしてえんだよー!」
「ゲームしたいのは私もですけど。なら配信しなくて良いと思いますよ?」
「折角なら皆の反応とか見たいじゃん!絶対盛り上がるしさぁ」
頼む、と頭も下げられると弱い。
女友達とゲームできる機会なんてほとんどないし、今日1日助けてくれたチャルさんのお願いだ。
上手な人から教わりたいし。
断るなんて選択肢はない、頑張れ私。
――うーん、でも眠さで視界がチカチカする。
長時間外を出歩いたのも久し振りだし、しかもその間ずっと緊張しきりで疲れた。
気が抜けて失言しないようにしないと。
というより、なんでこの人は超絶会議後に元気に配信できる体力があるんだろう。
「……もし困ったときは助けてくださいね?」
「くうっ、かしこまっ!じゃあお風呂の用意でも先にしとくなー!」
チャルさんだけに仕事をさせるのは悪いし、私もお皿でも洗うかな。
「……こんばんわー、ノームです。今日は超絶会議、本当にありがとうございました」
「昼に続いてアタシもいるぞーっ!まだまだチャルノムを楽しんでいけー?」
『やってんねぇ!』『ヘテロヘテロ』『ちょっと眠そう』『11万人にトイレを知られた女』『初見』『カレー美味しかったよ』『超絶会議でハマった』『ノムチャルダルルォ!?』『カップルチャンネルにしろ』『ドゥルルルルルル三└(┐卍^o^)卍』『トイレを流すな』『チャルさん声遠い』
「お!声小さいってマ!?くっついてやるよ!」
「――耳元で叫ばないでくださいっ!近づくなら自分のマイクにお願いします!」
頭がキンキンするだけでなく、息で耳がくすぐったい。
それにしてもいつもよりも更に人が多くて、コメント欄が速い。
チャルさんは何でそんな中で自分の声のコメントだけを拾えるんだ。
動体視力の差だろうか。
見たところ、流れていくコメントの中に『初見』の文字が多い気がする。
超絶会議から来てくれたんだろうか。
感想会といきたいが、オフでチャルさんとゲームができるのは今くらいしかない。
雑談は後だ。
「今日はチャルさんがやりたがっていた『Die of Daylight』をしていきますよー」
「って言っても、アタシやったことないんだけどな!」
「――えっ、嘘でしょ?」
一緒にやりたがるものだから、てっきり慣れているものだと思っていた。
立ち回りとかチャルさんに教えてもらうつもりだったのに。
冗談だろ、と顔を見るが――チャルさんは苦笑いしてるだけ。
帰ってきてすぐにゲームしたいと言い出さなかったのはインストールしてたからだったのか。
私もそんなにやりこんでないし、急に不安になってきた。
「あ、鬼ごっこだってのは知ってるぞ!発電機直すために逃げ回れば良いんだろ?」
「正解です。とりあえず協力ができる生存者でやりましょうか」
「む、信じてないなあ。後は――スキルチェックとかも何となくならわかるぞ」
「それは色んな場面で必須なのでちゃんと理解してくださいっ。タイミングよく押すだけですけど、できないと詰みです」
失敗すると発電機の修理ゲージが減ってしまうし、殺人鬼に位置バレしてしまう。
ほぼデメリットしかないので、理解してほしい。
幸い、身ぶり手振りを使って説明できる。
……これがオフの利点なのかもしれない。
ノー民を呼ぶ前に部屋を立てて、チャルさんを招待しておく。
――よしっ来た。
後はパスワードをつけて、公開にしてっと。
「――はいっ!ノー民さん御待たせしました。ではパスワード発表しますね……って一人入ってる!?早くないですか!?」
「そりゃいつも同じ番号ならバレるやろ……。さあ、農民達の記憶力が試されるぞ!」
あ、番号を発表せずに埋まった。
募集したのが捕まえる殺人鬼が1人、生存者は2人と枠が少ないのもあって本当に一瞬だった。
パスワードなんてその場限りで皆忘れるものだと思っていたし、初見で入りたかった人に申し訳ないな……。
「塩レモンさん、対戦よろしくお願いします。呑兵衛さんと橘さんは一緒に頑張りましょう!」
『はっや』『【定期】パスワード596306』『民度試される』『農民なら常識だよなぁ!』『瞬足やね』『(コーナーで差をつけろ)』『ダディーャナザァン!』『塩レモンニキって絵師やん』『チャルネキの叫び期待しとるで』『モレル使うな』『定期ニキ助かる』
ステージはおそらく森。
軽く辺りを見回してもキラーはいないし、心音も平常なので発電機を直しておく。
スキルチェックは――赤いっ!?
ボン!と大きな音を立てて発電機が爆発。
眠気で少し注意散漫になっていたかも。
すぐに心音が聞こえ始めたので、鬼は近づいてきているようだ。
逃げなきゃ。
「ノーム、ミスってんじゃん!草一つ贈呈」
「いらないですー。パークが破滅だと思わなかったんです。私追われてるので今のうちに発電機お願いしますっ」
「橘さんが1つ直してくれそうだから後4つ、頑張れノーム!いけるいける」
「ひぃっ!」
後ろから音聞こえる!怖い怖い怖い!
っ取り敢えず捕まっても助けやすい所にいこう。
それから発電機からもできるだけ離れて――ぐぇっ。
抵抗むなしくも捕まり、そのまま吊るされる。
「……チャルさん捕まったので助けてくださーい」
「仕方ねえなあっ!助けられそうなタイミングだけ教えてよ?」
殺人鬼は私を吊るすと、他の逃走者を探しに行く――と思いきやUターン。
罠を置いても、移動していかない。
「キャンパーじゃないですか!いやぁ……」
「んと、たぶん捕まえた相手から離れない奴のことだよな?」
「その通りです!早く助けてもらえれば2回までは大丈夫なんですが……」
長時間吊るされていると、そのまま死んで終わりになる。
それだけは何とか避けたい。
主に撮れ高的な意味で。
「がおおお!こっち来いやぁぁ!!」
『ノーム絶対殺すマン』『えっっど』『まあ農民だしな』『塩レモン名前覚えたからなぁ』『喘げ』『もっと命乞いしろ』『今来たけどピンチやんけ』『チャルネキ迫真の発電機爆破』『うるせぇ!』『モレルだし残当』『ノームを苛めるな』『恐ろしいねぇ』『さすが番犬』
チャルさんが必死にヘイトを稼ごうと発電機を爆破させている。
……でも実際に机叩いても意味ないですよ。
他の二人も私を救助しようと必死に動いてくれている。
けども、殺人鬼は動いてくれない。
「しゃらくせぇ!アタシはいくね!」
状況が変わらないと判断したのか、机を叩いていたチャルさんが動いた。
鬼に向かって突っ込んでいく。
一撃受けても気にせず、一直線に私の方へ。
いわゆる無理救助といわれるものだ。
大抵救助された後に、また吊られるのがオチなのだが。
勢いの良さに鬼もビックリしたのか、咄嗟にチャルさんの方を追いかけた。
おお、逃げれる!でもチャルさんが危ない!
「オルァ!アタシ初戦でつよつよじゃーん!」
「――チャルさん、そっち地下です!」
「え、それマジ!?出口ねえじゃん!」
地下は入り口が1ヶ所しかなく、救助が非常に難しいのだ。
相手がキャンパーともなると、ほぼ不可能に近い。
「グゥ゛エ゛!ノーム助けてェ!……どっかいってよバカっ!」
「ひどい声っ、試みはしてますよ!」
だが地形が不利過ぎて近づくことすらできないのだ。
もう相手も油断はしないだろうし、あそこに行かれたのが運の尽きと言っても良い。
他にあそこから脱出できる方法といえば……。
「VCつけて鬼に命乞いとかですかね……」
「任せろ、得意技だわ!――スイヤセェン、許してください足でも舐めます!涎でビチャビチャにしますから!お助けっ!」
「冗談なのでプライドを持って下さい!後そんなにスペースキーを叩くと壊れますよ!?抑えてチャルさん!」
隣からドラミングしてるかのような音が聞こえる。
チャルさんのパソコン、きっとすぐに壊れるんだろうな……。
『叫びが強すぎる』『汚い』『嫌がらせじゃねぇか!』『地下は近くないってか』『ケツドラムするな』『途中までは良かった』『チャルネキゴリラ説』『土下座しろ』『涎助かる』『恥じらいをもて』『呑兵衛ニキイッター!』
ん?
本当だ、呑兵衛さんがチャルさんを助けにいってる。
カバーしたいので慌てて一緒に地下へと入る。
殺人鬼は呑兵衛さんを追いかけているので、今のうちにチャルさんを救出する。
――その瞬間、地面から鬼が飛び出してきた。
「ひゃう!……ァ痛い!何で急に現れるんですかぁ」
「アイツ瞬間移動してんじゃん!それにアタシもまだ捕まったままなんですけどぉー!」
案の定一撃を受けて、私もチャルさんも呑兵衛さんも地面に倒れ伏した。
3人なら何とかなると思ったんだけどなあ……。
思い返せば、私が最初に捕まった時に鬼は罠を置いていたじゃないか……。
たまたま踏まなかったのもあって考えてなかった。
後はせめて残った橘さんが逃げられることを祈るしかない。
「死ぬときは一緒だぞノーム。ほら、二人きりだ」
「いや、隣に呑兵衛さんと鬼がいますけど?」
そして相変わらずのスペースキー連打。
折角の良さそうな台詞が台無しだ。
チャルさんの全力の連打も無意味に終わり、爆発四散。
……汚い花火だ。
『ハグは罠持ちだぞ』『ノームが死んだ!この人でなし!』『3人に勝てるわけないだろ!』『罠は、強いんだぜ✌』『橘ニキハッチ待機早すぎて草』『いちゃつくな』『もっといちゃつけ』『呑兵衛ニキも混ざれ』『ハッチ逃げに躊躇がない』『ノムマイクにも連打音入ってて草』『百合営業』『オンドゥルラギッタンディスカ!?』『ぶちとば!』『GGお疲れ』
最後の生き残りだった橘さんが、脱出ハッチから無事に帰還。
しかし、3人も倒したなら鬼の勝ちと言っていいだろう。
今の戦いで足を引っ張ったので、次は挽回したい。
次戦を待ってくれている農民達が多そうなので、もう少しやりたい。
睡魔に耐えろノーム、私は配信者。
「――っ次、私が鬼やりたいです!チャルさんと農民3人が逃走者でお願いします」
「お、じゃあプロ農民達が集まれよー!ノームに追いかけられるチャンスだぞ!」
殺人鬼は動き回らないといけないので、眠くはならないはず。
取り敢えず私は初心者なので、使う殺人鬼は一番シンプルなやつを選ぶ。
足が早くて鬼ごっこに強いらしい。
本当はジェイソンみたいなのとか使ってみたいが、難しそうなので却下。
「おー、負け組君いるじゃん!後は悪魔マンと†ゆうた†さんね、ヨロシクー!」
「悪魔マンさん、MAD作ってくれた人ですかね?今日は悪魔の力は使わないで下さいね」
これで間違っていたら申し訳ないな。
よしっ、ステージは鬼が有利な建物ステージ。
逃走者側が草や茂みに隠れられないため、見つけるのが楽なはず。
二人くらいは捕まえたいところだ。
「さっきからチラチラと映りに来るのはチャルさんですか?」
「ほぃ?や、違うと思うわ」
「……それも一人じゃないんですよね」
チャルさんが主導して煽りに来てるのかと思ってた、勝手に決めつけてごめんね。
心の中で謝罪しつつ、相手を追いかける。
袋小路に追い込んで一人、捕まえる。
「よしっ、……悪魔マンさんを捕まえました。今度はあそこでチョロチョロしてる奴を退治してやりたいです!」
「チャルもそう思います。じゃねえ、救助してえけど。でも来てるしな……」
既に2つ発電機を直されたが、チャルさん以外は1回ずつ吊れたので良いペースだろう。
映りたがりは容赦なく吊るしてるし、そろそろ余裕もないはず。
こっから気合い入れてきたい。
オフコラボだからこそわかることもある。
チャルさんの指の動きが止まった。
そして、近くにいると言っていたからには間違いない。
「見つけましたっ、ロッカーですね!」
「ぎゃにゃぁあああ!!助けてェ!一生のお願い、お願いします!!」
「うるさっ」
チャルさんの劈くような雄叫びに、耳を塞ごうとキーボードから手を離す。
「しゃああ!逃げろー!」
「物理攻撃は卑怯じゃないですか!?」
叫ぶことで怯ませるとか、あなたはどこのモンスターですか。
でもまだ距離は離れてないので追い付けるはず!
『†ゆうた†映りたがりだな』『名前呼んでほしいんだぞ』『たった一つの出番を……』『うるせぇ!』『鼓膜縫い直せ』『TSUYOSHIもそう思います』『ミュートになった?』『音割れチャルネキ』『超音波かな?』『絶対☆裏切りヌルヌル』『眼科いけ』『犬が吠えた』『うーん、イャンクック!w』
「――ふう。凄く眠いので、私は終わります。本当にありがとうございました!凄く沢山来ていただいて……」
「アタシはもうちょいするつもりだから、このままソロ配信になるぞ!あ、ノームお風呂沸いてたぞ」
「了解です。ということでチャルさんの放送に行って下さいね~」
まだ耳が痛い、というか当分このままな気がする。
結局チャルさんには逃げられたものの、他三人を捕まえることができて満足だ。
序盤に農民に舐めプレイされるほどだったが、後半からは形にはなってたと思う。
後、チャルさんに見捨てられた負け組さんが可哀想だった、南無南無。
「あー、じゃあ折角沸かしたなら入りますかね……」
チャルさんが頑張ってお風呂を洗ってくれたみたいだし。
今日はずっと外にいたのに加えて、チャルさんに汗臭いとか思われたくない。
――お風呂あったかい、このまま寝そうになる。
今日は色々あったな……。
まさに一日を走り抜けた気がする。
ドドドドド――、まさしくこんな感じの音で。
「はい油断したなノーム!!」
「きゃあぁぁ!っチャルさんそれ、まさか配信してないですよね!?」
「画面切ってるし音声だけだからへーきへーき!ささっ、……お背中流ししますよ!」
「十分アウトです!――それに、恥ずかしいならやらないでください!帰れ!」
せめて堂々来い!いや、それもダメだけど。
変に視線逸らして入って来られる方が余計に恥ずかしいわ!
ポケモン買いました。
今回のDBDほど説明を入れずに書くかもしれません。