冬も終盤になり──この時期となると、受験生は本番が近づいてきて焦り続けている時期だろうか。
応援メッセージがほしい等のお願いも来ている。
最初の10件くらい返したところで、ふと疑問が湧いてきたのだ。
ただ応援するだけで十分なのだろうか?
配信者、リスナーと共に高めあっていくべきなのではないか?
「そう思って、──私も受験生の応援をするために、1つ企画を持ってきましたっ!」
『十分定期』『ノーム(脳年齢37歳)だからなぁ』『応援で止まっとけ』『止まるんじゃねぇぞ…』『現実を見せるな』『いま配信に来てる時点で負けだゾ』『ハァ…ハァ…敗北者…?』『頑張れ♡頑張れ♡って言え』『バブゥ!』『(単位)ないです』『桃鉄で日本地図覚えだしそう』『じゃあオレはhoiで世界地図覚えるね』『ホイ卒なので帰ります』『保健教えろください』『もう1年遊べるドン!』
予想以上に制止の声が多くてびっくりする。
だがこっちはやる気満々なんだから、気にせず続行だ、続行っ!
「今回はちゃんとドリルも取り寄せたんですから!」
先日、脳を鍛えるトレーニングに敗北を喫し、脳年齢37歳のレッテルを貼られた。
このままではいけないと思います。だからこそ、このままではいけないと思う。
やはり使わない知識は疎かになっていく、その危機感から教材を購入。
この『類人猿でも理解る漢字クイズ』によってインテリ系配信者の名を取り戻すんだ。
「『理解る』で『わかる』って読むあたりに意識の高さを感じませんか?」
『僕はそう思いませんけど』『1=1』『セクシーポエムやめろ』『IQ200やん』『インテリア系?(難聴)』『ただの厨二病定期』『†わかるよ†』『ワイトもそう思い…ませんでした』『うんち漢字ドリルにしろ』『ノームさんじゅうななさい』『類人猿、が見えないんやろなぁ』『それ当て字やぞ』『わかるわ。』『ほんとかなぁ?』
さっき届いたばかりの本なので、包装を剥がした後にまず、目次を確認してみる。
んと、──『野猿レベル』『成熟した野猿レベル』『動物園の猿レベル』『ヒトレベル』『パン君レベル』の難易度5段階……?
進化順かと思ったが、人はパン君にはならない。
「んゃ、というかパン君はチンパンジーでは……?」
心配になってページを捲ると、『山』『枝』といった至って簡単な漢字が並んでいる。
最後のページには『橄欖』……ヤバい全く読めない。
──でも、とりあえず漢字ドリルではありそうだ。
『これにはバブルス君もにっこり』『ドリルすな』『名前のクセがすごい』『じゃあワイはもっこり』『進化論を疑え』『もしかして空じゃなくて地が動いてる?』『コペルニクスニキおっすおっす』『動揺を隠しきれてないぞ』『ヒト≦パン君なのか…』『パン君狂暴化してて、すっごい痛かったゾ』『成仏しろ定期』
困惑しているのは私だけじゃないみたいで良かった。
というか普通にチンパンジーレベルではダメだったのだろうか。
でもこんな時でも──私は配信者、固まるんじゃない。
機転を利かせろノーム!
「……ーッ、正直、成熟した野猿レベルはかなり気になりますね……。いや、やはり唯一の良心枠、ヒトで行きますか。初手チンパンジーはおそらく厳しそうですね」
一番最初が『山』という1年生レベルから始まってることから、後半からスタートするのが正解と見た。
農民に受験で使える漢字を紹介して、私が皆を合格に導くっ!
『いや簡単に順応するな』『ママ置いてかないで』『これが悟り…?』『尼ってやつやで』『ツッコミ放棄』『初手チンパンジーや!』『ちょうど切らしてた』『うんちドリルの方がマシで草』『お前が買ったんやぞ』『お前っていうな』『与田監督!?』
まず最初の漢字は──植物の『ばら』ときたか。
確かに難しい漢字、これがヒトレベル。
「ですが厨二学を履修済みの私の敵ではありませんね!」
『薔薇』、字面が格好良い漢字の代表格だ。
特にこの『薇』という漢字、実は字典のミスで2つ存在するとかしないとか。
皆も学生の頃に、黒板に書いて自慢したことがあるだろう。
『ないです』『ありますねぇ!』『コメ欄2分してて草』『薔薇書けるのか…』『百合にしろ』『もう、ほにゅ?って感じ』『バラン?』『綺麗な字+114点』『厨二学は闇』『ヨチヨチかわいいねぇ』『はい通報』『詳しいのガチ感あるわ』『お前の中に"勇"を見た』『絶対受験には出ない』『もしかして賢いのでは?』
納得いってないノー民も多そうだが、書けている以上私の勝ちだ。
ちゃんと解けてるよ!たまには褒めてけっ。
テンポよく進めていくと、問題作成者の意図が見えてくる。
今出た問題はバナナ、漢字で書くと『甘蕉』だが──そう、植物系統の漢字が多い。
「『林檎』に『茄子』に、……『匍匐』で終わり!さぁ存分に褒めて頂いて構わないですよっ!なんで書けてるか、明日まで考えといてください」
『甘藍』とか分からない漢字もあったが、20問中15問正解は十分だろう!
キャベツの別称なんて全く知らなかった。
『キャベツ枕しろ』『やるやん!』『(ぶどう)ほふく』『ワイは膝でいいよ』『自然派ママなれないねぇ!』『それ最後《ほふく》や』『ありがと茄子!』『もっと罵れ』『進○ゼミで習った』『これは世界のホンダ』『明日まで、手取りナニ取り教えてもらって良いですか?』『普通に凄い』『漢字ドリルで手のひらドリルやね(激ウマギャグ)』『サムすぎてサムライになったわね…』
……ほんとだ、最後の漢字『葡萄』じゃなくて『匍匐』って書いてる。
まあっ、それでも7割正解なら頑張っている判定では?
ノー民の珍しい称賛の声が気持ちいいし。
できれば毎配信、こんな風に言われたいものだ。
「さあ調子にのってパン君もやりますかっ。私だけだと心細いので、ノー民達もIQ高めて……ね?」
といっても、最初に確認したときに見た『橄欖』とかは全く読めないので、コメント欄にも助けを求めておく。
『勿論ですわ』『出たわね。』『絶対入試に使わないぞ』『扶助了解』『バブちゃん立って準備できた』『pacifier外した』『ただのおしゃぶりやんけ!』『心細いならチャル(脳年齢41歳)呼ぼう』『チャルさっきおったぞ』『怖じ気付いちゃった?』『仕方ないね』『サンキュービリー』『フォエバービリー』
「──やってやろうじゃねぇか!!」
「ひゃうっ!……チャルさん!急にグループ通話に入ってこないでくださいっ!」
抜けていなかった私も悪いけどっ!
音量調整なしのチャルさんの絶叫、ある種のテロではないだろうか。
時々ノー民の鼓膜が心配になる。
「すまん……コって付けかけたわ」
「今日は帰ってもらって良いですか?」
──全くもう。
だからすまんって、と謝るその言葉には笑いが混じっていて、反省の意思はなさそうだ。
『はいBAN』『鼓膜もBAN』『本人登場』『ノームのチャンネルェ…』『何も聞こえくなったゾ』『チャルネキ、船から降りろ』『今日だけなのてぇてぇ』『言ってるんだよなぁ』『余計に質悪くて草』『これは許されない』『キレノームもすこだぁ』『汚すな』『低評価ポチッ!w』
「というかチャルさん、漢字できるんですか?あの『パン君レベル』ですよ?」
「……?ようは猿もどきだろ?まぁ任せろって!」
猿じゃない、なんて訂正はいらないか。
これほどの余裕に理由があるのか、それとも蛮勇か。
……おそらく後者と見た。
「へえーっ!──じゃあ早速チャルさんに解答してもらいましょうっ!この『万寿果』の読み方ですっ」
漢字から予想するに果物か、それに近いもの。
でも、寿命が延びそうな果物なんてあったか……?
チャルさんもまだ思い付いていないようで、ぐぎぎと唸り声が聞こえる。
「普通は『まんじゅか』とかなんだよ!でもそれだとは思えねぇんだよなァ!ばん……、まん──コトブキって読んで良い?」
「ばかっ!もう一回やったら本気で怒りますよ?」
「あっハイ、すいませんでした」
『あなたをセクハラで訴えます!良いですね!』『これは百合なので無罪』『閉廷!』『罵倒、頂きました』『ビビってて草』『使え』『使えない』『母強し』『答え的には父なんだよなぁ』『やりきれよ、持ちネタだろ』『それをノームに言わせろ』『無能かぁ?』『はー、つっかえ!』『チッ』『チュッ』
ほら、チャルさんがふざけるからノー民もふざけ始める!
真面目に考えている人のコメントが、流れが速すぎて全く見えない。
さっきまで皆分からないから大人しかったのに!
「ぎょぁ!──わからんし!爺頼んだ!」
「……パパイアですね。『まんじゅか』と呼んでも一応正解みたいですよ」
「はーいっ!アタシの勝ちじゃん!ノームのイキり失敗しちゃったねぇ!あ、ここでUC流しておいて!」
「絶対当てずっぽう!ズルいズルいっ!」
執事さんはチャルさんに知識を与えないでっ!
それに直前に下ネタ振られたら、正解しても素直に褒められないから!
『~仁~流しとくわ』『準レギュの爺すき』『娘!爺くれ!』『!ーゥ逆』『その為の、右手』『イヤイヤノームすこ』『腹パンしたい』『YOU LOSE!チャルの勝ち!』『パン君≦チャル』『鹹草生える』『読めねぇわ』
「今度はノームの番だぞ!ほらっ『土精』の意味だって!これはほらっ──!」
「むむっ、土の精ですか……」
さっきまでの流れを汲むなら、植物──それも野菜や果物関連と見て良いだろう。
漢字としては簡単で
そして勿論、植物関連で思い当たるものはない。
しかし、この私の名前──《
ヒトからパン君レベルに上がったことで、錬金術を身に付けた可能性があるのでは?
チャルさんが何かを言いかけたのも、思い当たる節があったからに違いない。
「
「それやっぱそらそうよな!!解答は82ページ……、──ははっ、『人参』の異名だって!イキってにんじんちゃん……!ぶははっ!」
「えっ、……はぁ、やだっ。──そんなに笑わなくても良いじゃないですかっ!」
ぶひゃひゃひゃ、と笑い続けるチャルさんの声が配信に響き渡る。
そして、それが中々治まらない。
『ノム虐すこ』『正直ワイも思った』『パン君の勝ち!』『イヤイヤ期の人参!』『バカのシンクロナイズドスイミングやめろ』『今はアーティスティックスイミングやぞ』『ノームは人参だった……?』『人参ほしいぺこ~』『今日のオカズやね』『ガン萎えで草』『これは浪人』
ノー民からも笑い者。
中途半端に自信があったせいでイキったのが失敗だった。
「ぃあぁ~。もう解ける問題がある気がしません……っ。私は所詮人参ですよ……」
並ぶ問題は読みなら『蒲公英』『躑躅』『鹹草』。
書きなら『やし』『わらび』『あろえ』と続いている。
普通のメンタルでも分かる気がしないし、今の状態だと尚更無理……!
「ほらっ、来て1問でいう発言じゃないけどさ、諦めよ?二人で応援ボイス配信にしよう!──な?」
「……そうしますか。もう、何でもやりますよ」
チャルさんの優しさが胸に染みる。
……私の心に傷をつけたのもチャルさんだけど。
「ん?今なんて?」
いつも更新が遅くて申し訳ないですっ!