ハイスクールD×D デビルマン──漆黒の狂戦士アモンの章 作:テクノジョン
猛獣の如き鋭い鉤爪が、デーモン共を引き裂いた。
肉体を切り裂かれる激痛に身悶え、鮮血をまき散らしながら絶命していくデーモン共の群れ、群れ、群れ。
死ね、死ね、死ね、死ぬのだっ。
デーモン共よっ!!
切り落とされたデーモン共の首が、手足が、臓物が、辺りに夥しいまでの血と肉片の雨を降らせた。
デーモンの肋骨を砕き、明がその心臓を抉り取る。
紅の鮮血に染め上げられていく荒野の大地よ。
明がその腕を振り回すほどに、デーモン共の怒号、悲鳴、叫びが飛び交った。
ああ、不動明よっ、人類のために戦った偉大なる戦士よっ!
明は殺戮に浸り、殺戮に悦び、殺戮によって全てを忘れ去った。
人間だった頃の記憶は、既に忘却の彼方へと追いやった。
今では狂気の淵を彷徨っているだけだ。
もはや明は、自分の名前すら朧げにしか思い出せずにいた。
そこにいるのは、かつての心優しき少年不動明ではなかった。
そうだ。
殺戮の宴に酔いしれる明のその姿は、太古の時代にデーモン族から最強の勇者として恐れられ、畏怖された地獄の狂戦士アモンそのものだ。
残忍無残たるその光景よ。残酷無残たるその魂よ。
だが、一体誰が明を責められるというのだろうか。
人類のために戦ったこの偉大なる戦士は、人類によって恋人を無残にも殺されたのだ。
その人類も既に滅びの道を歩んだ。
そこに慰めはない。癒しもない。
あるのは圧倒的な破壊と暴力の渦だけだ。
牙を剥いた明が、デーモンの喉笛に食らいつく。
牙の隙間から流れ込むデーモンの血を啜り、明はその肉を貪った。
そして一体残らずデーモンを殺し終えると、明はただ、静かに涙を流した。
何故、自分が涙を流すのか、その理由も明は覚えてはいない。
思い出そうとすると、こめかみの辺りがズキズキと疼くのだ。
明は涙と鮮血に濡れた頬を拭った。
そして再び、獲物となるデーモンを探すために歩み始める。
かつてのサタンとの戦いに敗れ、明の魂は煉獄の第三層に位置する修羅界へと囚われた。
アーマゲドンによって人類が滅び去った地球──生き残った生命体はデーモンとデビルマンのみ。
その後、二十年にも及んだデーモンとデビルマンとの激しい戦争。
不意に足を止め、明は暗黒に包まれた空を見上げた。
そしてあらん限りの咆哮を発した。
すると何かに怯えるかのごとく、暗黒の雲が、大地が、修羅地獄全体が震えだしたではないか。
明は雄叫びをあげ続けた。天も地も砕け散れといわんばかりに。
その刹那、暗黒の空間に亀裂が走ると、明の目前に一条の光が差し込んだ。
そして明は吸い込まれるかのように光の溢れ出す亀裂の中へと消えた。
BGM「D.V.M.N - Devilman Crybaby OST」
「ねえ、遊ぼうよォ」
右耳にシルバーのピアスを着けた女が明を誘う。
鼻につくような甘ったるい声色を使って。
明は女を一瞥した。
女の毛穴から滲み出る香水と汗の混ざった体臭、その中から微かに漂う血臭。
数秒ほどの間を空けてから、明は口を開いた。
「お前、血の匂いがするな。この匂いは人間の血の匂いだ。お前、人間を食ったな」
途端に女が表情を変えた。
躊躇うことなく明が、女の首を鷲掴み、背後にあるビルの壁へと押し付ける。
途端に女の肉体が膨張し、爬虫類がごとき異形の存在へと変貌した。
「こ、殺してやるぅッッ!」
怪物へと姿を変えた女がもがく。
「……俺の力の一部となれ」
異形の存在と化した女が、明の腕から吸い込まれていく。
そして悲鳴を発する暇もなく、女は跡形もなく消え去った。
シンと静まり返った路地裏、壁に明は背を向けると、何事もなかったかのように表通りへと歩いて行った。
ただ、ひと雫の涙を流して。
あれから明の魂は、次元の狭間を渡り、平行宇宙を旅立った。
どこまでも続く虚無の世界、どれほどの時が経っただろうか。
何千年なのか、何万年なのか。
明の魂は摩耗しきっていた。
あらゆる感情が霧散し、憔悴した明は五感も麻痺し、もはや何も感じることも考えることも出来なくなっていた。
だが、幾多のもの次元を彷徨っている内に明は、ある世界から懐かしき魂の存在を感じ取った。
それは黙示録によって滅んだ地球とは異なるもうひとつの地球からだった。
忘れ去りつつあった記憶、そして感情、明の中であらゆる思い出と感覚が交錯した。
(……美樹……美樹……ッ)
かつて愛した少女の名前が、明の胸裏深くから蘇った。
同時に明は覚醒し、己を取り戻した。
そして明は地球へと降り立つと、光状の粒子となり、美樹の魂を求めて受肉した。
地獄の勇者アモンが再生誕したのだ。
この町に。
リアス・グレモリーは、駒王町で多発している異変に頭を抱えていた。
駒王町に潜伏しているはずのはぐれ悪魔や堕天使が次々に行方をくらませているのだ。
そうかと思えば、各所で無造作に挽き潰されたはぐれ悪魔や堕天使の亡骸が、何体も発見されている。
この町で何が起こっているのかさっぱりわからない。
いや、ひとつだけ分かることがある。
それはこの町に何か恐ろしく厄介な存在が現れたということだ。
ここは旧校舎の一室に設けられたオカルト研究部の部室だ。
ヴェルベットのソファーに腰を落ち着かせ、目頭を揉みながら考え込むリアス。
その姿はどこか疲労感がにじみ出ていた。
疲れが溜まっているのだろう。その端正な横顔は、どこか血の気が失せている。
「そんなに悩むと体に触りますよ」
と、リアスの眷属である木場祐斗が己の主に声をかける。
「ええ、わかってるわ……でも本当に最近、頭が痛くなることばかりで立て続けに起こってるわね……」
心底疲れたと言わんばかりにため息を漏らしてみせるリアス。
「そのことなんですが、部長、部長は最近出没する巨人の話をご存知ですか?」
「巨人?」
リアスが聞き返す。
「ええ、なんでもナタのようなナイフを持った大男が、はぐれ悪魔や堕天使を狩っているのを目撃したという者がいるようで」
「それは悪魔なの?」
「いえ、どうやら人間という話ですが」
「それなら少し眉唾ね。いくら神器でも人間がはぐれ悪魔や堕天使を相手に早々勝てるとも思えないけど」
「ですが万が一ということもあります」
「……もう少し情報が欲しいわね。いいわ、祐斗、調べてちょうだい」
何百、何千万もの小粒の雨が暗雲から降り注いだ。それだけだ。
明は閉鎖された廃工場の門を飛び越えると、気配を探った。夕闇が迫っている。
悪魔の動き出す時間帯だ。そして、明にとっては、悪魔どもを狩り出す時間でもあった。
水の湿気に混ざった血臭がする。鼻腔をくすぐる乾いた血の匂い。
錆びたドラム缶の転がった先にある扉に視線を向ける。
「そこにいるんだろう。デーモンよ」
明は唸るような低い声で扉の向こうにいる者へと問いかけた。
だが、返事は帰ってこない。
明は古くなった倉庫の扉に手をかけ、再び問いかけた。
吹きすさむ風、徐々に強くなっていく雨足。
明は扉に掛かった南京錠を引きちぎると、倉庫の中へと足を踏み入れた。