ハイスクールD×D デビルマン──漆黒の狂戦士アモンの章 作:テクノジョン
途端に湿気を含んだ腐った血肉の匂いが押し寄せる。
はぐれ悪魔に喰われた犠牲者たちの残り香か。
そこには明らかに無念の気配が漂っていた。
明は無造作に気配のする方向へと進んだ。
そして、積み上げられた木箱の前で立ち止まる。
「いい加減に姿を見せたらどうだ」
途端に音を立てて崩れ落ちてくる木箱、明は避けることもしなかった。
明の前に姿を見せた半人半獣の悪魔、バイザー。
女の上半身と馬の下半身を持つその姿は、ケンタウロスを彷彿とさせた。
「私を始末しに来たのか、いいだろう。返り討ちにしてくれるわっ、ヒャハハ……」
バイザーが、全ての言葉を紡ぎ終える前に明の右腕が、この悪魔の胸板を貫いていた。
血潮でぬめつく右腕を引き抜き、返す刀でバイザーの首筋に手刀を振るう。
跳ね上がる首、一拍子置いてから血煙が噴出した。
床に転がったバイザーの首を拾い上げ、明はその横顔を覗いた。
「こ、ここはどこ……わ、私は一体……」
狂気に満ちていたバイザーの瞳の奥に宿り始める理性の光、死の間際にこの悪魔は正気を取り戻したのだ。
「わ、私……凄く……苦しい……ことを……されて……それから悪魔に無理やり、転生させられて……」
血を垂らす唇からたどたどしい言葉を発するバイザー、明は無言でその言葉に耳を傾けた。
「……ねえ、あなた……なんで泣いてるの……わたしのために泣いてくれているの……?」
言葉を言い終えたバイザーの双眸から、命の灯火の光が消えた。
明はバイザーの首を抱きすくめると、涙を流し続けた。
「安らかに眠れ。次はもっと平和で幸福な場所に転生するんだ……」
その時だった。
倉庫内に駆け込んでくる複数の足音が響いたのは。
だが、明は微動だにすることなく、バイザーの首を抱き抱えたままその場に留まった。
バイザーの首を抱いたまま、明は何を思っていたのだろうか。
かつて、デーモンの軍団を倒すために共に戦ったデビルマンの仲間達のことか。
デーモンとなっても理性を失うことなく、人類のために戦い、その命を散らしていった戦士たちよ。
明は涙を流し続けた。
人も悪魔も涙を流す。
人も悪魔も涙を流すのは、心が哀しいからだ。
BGM「Devilman The Birth OST: Anthem - Show Must Go On!」
「な、バイザーが……ッ」
最初にリアス達の視界に飛び込んできたのは、バイザーの亡骸だった。
次に見たものは、そのバイザーの生首を抱えた少年の姿だ。
両腕を血で赤黒く染めたその少年──何者なのか。
様々な疑問を抱いたリアスは、相手に向かって誰何した。
「私はリアス・グレモリー、魔王サーゼクス・ルシファーの妹よ。貴方は何者なの、誰かの配下ならば主の名を名乗りなさい」
だが、リアスの問いに対し、明は何も答えない。
無言を保ったままだ。
リアスは何も答えようとしない目の前の少年に対し、苛立ちを覚えると再び誰何した。
「私はこの町を管理者なのよっ、勝手な真似は許さないわっ」
明はリアスを一瞥すると、呟くように言った。
「失せろ」と。
その一言にリアスは色めき立った。明の放ったその言葉と態度にプライドを酷く傷つけられたせいだ。
自らの領土内を好き勝手荒らし回った挙句の魔王の妹である自分に対する不遜な態度、
決して許されるものではない。
何よりこのまま放っておいては、自らの配下に示しが付かない。
だが、リアスが動く前に木場が行動していた。
俊敏な動きで明に接近すると、木場がその剣を振り下ろす。
ナイトの特性を持つ木場は、その身のこなしと素早さに重きが置かれている。
だが、木場の剣は明に届くことはなかった。
その刃は、あと一寸足らずという間合いで、止められたのだ。
明に斬りかかった木場が、寸前で自らが振るった剣を止めたのか。
いや、それは違う。
木場の表情には、明らかに焦りが生じていた。
木場の動きを凶刃ごと止めたのは、明の超能力によるものだ。
幾多もの激しい戦いを繰り広げるほどにデビルマンの能力は、強化、増幅されていく。
故に今の明にとって、木場自身を金縛りにすることなど、何の造作もなかった。
「失せないならこっちから消えてやる」
右腕の脇にバイザーを抱え直し、明はその場を立ち去ろうとした。
だが、そうはさせまいとリアスが朱乃と子猫に目配せする。
「二人共気をつけてっ、只者じゃないわよっ」
ふたりの配下に注意を喚起するリアス。
「はいっ」
「わかりましたわっ」
最初に子猫が、明を吹き飛ばそうとタックルを仕掛けた。
だが、明は片腕で子猫を振り払って逆に吹き飛ばした。
壁に激突する子猫、澱んだ空気が振動した。
「まだやるか?」