神殺しと真祖 作:快晴
第一話 神殺し
□絃神島
太平洋上に浮かぶ人工島。
この島にはある都市伝説が存在する。
世界最強の吸血鬼、第四真祖がこの街のどこかにいるという噂話が。
第四真祖とは、
――――曰く、不死にして不滅
――――曰く、厄災の化身たる十二の眷獣を従え、殺戮と破壊を尽くす
まだまだあるが嘘か本当かは分からない、所詮噂話だが一部の者たちは知っている。
第四真祖は存在し、噂に真実が混ざっていることを。
そして、その一部者たちの間で話題になっているのが、この街に世界最強の人類である
その世界最強の人類はカンピオーネと呼ばれ、現在
全員が真祖に匹敵するとされるまつろわぬ神を
そう
例を挙げると、
――――町を壊滅させた
――――姿を見た者の目を潰し、声を聴いた者の耳を削いだ
――――三日三晩覚めぬ悪夢を見させ、精神を壊した
などといったものの他に、
――――夜中に無許可で花火を打ち上げた
――――ある町の住人に間違った文化を教えて、変な方向に成長させた(その後その町は大いに活性化した)
しょぼいものや頭が痛くなるものまであったりする。
これらを止められる例外があるとすれば真祖、真祖クラスの実力者、もしくは他のカンピオーネだけであろう。
………最後の二つは面白がって誰も止めないかもしれない、実力者は変人・奇人が多いため、むしろ推奨する可能性が高い。
そうなれば、真祖にさえ一目置かれているとある機関の長が更に頭か胃を痛めることは確実だ。
世界最強の吸血鬼『第四真祖』、真祖を超える世界最強の人類『カンピオーネ』がこの人口島で衝突した場合………
――――――
噂の第四真祖はもう一人と一緒にコンビニへ向かっていた。
白いパーカーのフードを被り、年齢が十五、十六に見える少年が第四真祖。
私立彩海学園高等部の一年生、見た目通り、高校生である。
一緒にコンビニへ行くのは十四、十五あたりの少年で、私立彩海学園中等部の三年生。
こちらも見た目相応の中学生だ。
長ズボンに半袖とまあ、普通の格好をしていて、いかにも日本人といった黒髪黒目。
目的地であるコンビニに着くと、限定アイスを三つを高校生が買い、中学生は墨汁を四本も買っていた。
一体何をすれば夜中に四本もの墨汁を必要とするのか。
書道部でも個人でそんなに墨汁を一度に買わないだろう、いやもしかしたら、ありえるかもしれない。
流石に四本は多いため、定員も同行していた高校生も、えっ、という視線を向けているが中学生は無視、全く気にしていない様子。
ありがとうございました、という店員の声を背中越しに聞きながら自動ドアをくぐり、住宅街へ続く道を歩く。
そして二人とも帰宅したが、途中で高校生が女性に興奮して鼻血を垂らし、中学生がやれやれ、といった感じでティッシュを渡していたのは蛇足だろう。
――――――
とある神社で獅子王機関の長老である"三聖"と見習いの
そして、今しがた見習いである剣巫の少女に第四真祖の監視の任を言い渡されたところである。
普通であるならばそこで話は終わっているが、今は
獅子王機関の長老である"三聖"が本気で警戒している、と言えばそれが分かるだろうか?
"三聖"の中には、真祖にさえ一目置かれている反則的な能力を持つ者がいるが、それでもだ。
さっきよりも鋭敏な空気、一般人なら緊張で汗が止まらないであろう。
見習いとはとはいえ鍛えられた剣巫もこれから言われる言葉を待ち構える。
呼吸、心臓の音が耳をすませば聞こえてしまうほどの静けさが空間を満たす。
「あなたが任務で行く絃神島に
「…………………………………………えっ?」
若い女であろう"三聖"が放った言葉に剣巫の少女は長い沈黙の末に疑問の声を上げた。
なんとか絞り出したその声には、驚き、困惑、疑問、そして圧倒的にその中に占めていたのは恐怖。
それに対して"三聖"は何も言わない、否言えない。
自分たちもカンピオーネに少なくない恐怖を抱いているのだから、しかし、それを目の前にいる剣巫の少女に感じさせないようする。
組織の長のプライドもあるが、獅子王機関の"三聖"は目の前にいる少女にとっては上司であり、圧倒的な実力者なのだ、堂々として少しでも恐怖を取り除かなければならない。
少しして少女は落ち着いたらしく、
「みっともない姿をお見せしました」
そう謝罪したが、"三聖"たちは気にしておらず、
「いえ、仕方ありません。当然の反応です姫柊雪菜」
「そうだな。カンピオーネをよく知っている反応だ」
「その程度で留めたのは、その年にしては優秀かの」
むしろ、称賛された。
それに対し、姫柊雪菜と呼ばれた少女は安堵していた。
さっきまでの空気はいくらか柔らかくなったが、女の“三聖”の言った言葉で再び戻される。
「カンピオーネについてはどれくらい知っていますか?」
「異名、持っている権能、つい最近一人増えたこと、あとは……………悪行」
最後の悪行に関して、"三聖"から緊張と疲れた雰囲気を雪菜は感じたが疲れた雰囲気は気のせいだと思った。
「『狼王』『羅濠教主』『夫人』『
雪菜はすらすらと異名を述べるが、最初の『狼王』で声がこわばった。
無理もない、『狼王』はまつろわぬ神招来の儀式を行うため、獅子王機関の巫女にも参加を強制。
結果として、儀式は成功して参加した巫女は全員が無事に帰ってきたが、その恐怖は残っている。
………因みに誰も最後の異名がおかしいとは思っていない。
「『狼王』の件は今でも忘れられません」
「『正体不明』が来なかったと思うとゾッとするのう」
「そして、
たしかに、と男の"三聖"の言葉に女の"三聖"と性別・年齢も分からない"三聖"も賛同した。
「あの写真?」
雪菜だけは知らないようだ。
「後で縁堂に見せて貰いなさい」
女の"三聖"に言われて、雪菜は一旦写真のことを頭の隅に置いた。
「さて、話を戻しますが
『狼王』はまだ生きているそうですが今は並行世界に
『羅濠教主』も並行世界を旅をしていてこの世界にはいないようで
『夫人』は基本的に並行世界にいるそうですが、最近この世界で誰かと共に行動しているのを確認
『
『ロサンゼルスの守護聖人』はロサンゼルスを中心とした北アメリカ大陸に
『剣の王』は今はイタリアにいるそうで
『色好みの大魔王』は今は日本本土にいますが、すぐに並行世界へ行くでしょう
うすうす予感していたでしょうが、絃神島に居を構えてる可能性があるカンピオーネは………………
『正体不明』、最も謎に満ちたカンピオーネです」
――――『正体不明』
約六年前にイギリスにて三体ものまつろわぬ神を殺したのが最初とされている。
あまりにも短い戦闘時間だったため、神同士で争い、相打ちとなって消滅したと考えていたが、その翌日に
戦闘痕跡からカンピオーネと断定、しかしながら、それまでの五人のカンピオーネとは違うことからイギリスでの一件で新たにカンピオーネが誕生したと考えられた。
だが、調査の結果は何の成果も無し。
このことから、正体を隠す権能を持っている予想。
実は存在しないのでは?と議論されたことも一度や二度でもないが、再び
その後、欧州、インドで神殺しを成している。
今に至るまで性別、年齢などのいずれかを知る者がいるということも聞かない。
故に『正体不明』
そして、幅広く問題を多く引き起こす頭痛の種。
三日三晩覚めぬ悪夢を見させ、精神を壊した、といういかにも「魔王」らしいもの、無許可で花火を打ち上げた、ある町の住人に間違った文化を教えて、変な方向に成長させた(その後その町は大いに活性化した)というしょうもないものまで、本当に幅広く問題を多く引き起こす。
有名なのは『狼王』が行ったまつろわぬ神招来の儀式に突撃して、その場のいた全ての巫女の命を救い、ある写真を撮ったことだろう。
『正体不明』が異名なのに短期間で一番多くの問題を引き起こすが、後始末はしっかりしているのでカンピオーネとしては安心できる……………胃痛と頭痛以外は。
そして、最後の王との戦いが終わり、この世界にいる三人のカンピオーネの中で今最も動向が注目されている。
「一般的にまつろわぬ神とカンピオーネについては秘匿されています。理由は分かりますね」
「はい。聖域条約ですね」
「その通り。とは言え半数以上が基本この世界にはいません。それに真祖を超えるとはいっても殺す、消滅させるのは彼らでもかなり厳しいですが」
それでも可能性はありますし、真祖よりも強大な力を持っていることには変わりありません、と女の"三聖"は言う。
「仮に、『正体不明』の正体を知った場合、可能性にたどり着いた場合はどのようにすればよいでしょうか?」
「絶対にこちらに知らせる、感づかれるようなことはしないでください」
ハッキリと言う女の"三聖"はなぜか慌てている気がした。
「なぜでしょうか」
「『正体不明』が……………………
「正体をどこかの組織が知ったら、口止めはもちろんとして、その組織の全員が同性にしかモテなくしてやるか。既婚者も対象として」
…と呟いたそうで」
流石にそれは個人としても勘弁してほしいので、と女の"三聖"
「たしかにそれは勘弁してほしいのう」
「全くだ」
他の"三聖"も同じく勘弁してほしいようだ。
雪菜も女の子だ、結婚を考えなかったことはないとは言えない。
はっ、と雪菜は気づいた。
「私だけ知ったら、どうなるのでしょうか?」
「「「………………」」」
沈黙。
「まあ、『正体不明』が必ずいるとは限りません」
「カンピオーネが知られるようなことを犯す訳はないだろう」
「健闘を祈る」
"三聖"たちは早口でそう言うと消えてしまった。
雪菜は不意に上を見て、
「頭痛薬と胃痛薬はないでしょうか」
誰もいない虚空に雪菜は言う。
「どうしましょう、紗矢華さん」
難易度が上がった第四真祖の監視、雪菜は本気で元ルームメイトに助けを求めたくなった。
「ん?」
とある
評価が良かったら続く