リーリエ、カムバック!   作:融合好き

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作者は星5宝具5がいるレベルのFGO重課金者です。よってこの作品は基本的にFGOのイベントやシナリオによってかなり更新頻度が変わります。ご容赦を。まあ、こんな思いつきで癖のあり過ぎる駄文を読んでいただける読者様には申し訳ありませんが。


いんがおうほう すべては じぶんに はねかえる ものよ

 

 

『──基本的に、ポケモンの力量(レベル)とは、そのポケモンとトレーナーの信頼関係によって上下する』

 

二人の人間には広すぎるバトルフィールド。アローラの頂点を決定する戦いの舞台に、決戦のイメージとはあまりにかけ離れた冷たい声が響き渡る。

 

立ち尽くす者に、へたり込む者。私は後者で、惨めな敗北者。更にその優劣は明白であり、私はただ、どうにか土俵に立てただけ。彼女と戦うレベルにまで到達し得ない未熟者。

 

『でも、信頼とは、母数が多ければそれだけ薄まるもの。当然、それは人によるとしても、六匹全てに平等に愛情を注ぐなんて普通はできない』

 

そんな私を見下しながら、彼女は静かに言葉を紡ぐ。嘲りとは違う、私への忠告でもない、まるで誰かに言い聞かせているような発言。だけど、底知れぬ絶望感に全身を支配された私には、その言葉の意味はわからないままで、溢れる涙を拭うこともできず、そのまま呆然と彼女を見つめる。

 

『ポケモンをフルに扱うということはそういうこと。これについては才能よりも、人としての性質が重要になる。あくまで自然に。当然のようにそうできる人じゃないと、ポケモンも付いてきてくれない。だから、どれだけ深くポケモンとの信頼を築き上げられる人でも、だからこそ一匹しかポケモンを扱えない、なんてこともある』

 

貴女にはきっと、それができない。他ならぬ貴女の母親のように、ある種壊れた愛情を持ち得ない。あるいは貴女の恋人のように、並々ならぬ雰囲気でポケモンを従わせることも、ククイのようにヒトとしての魅力で力を借り受けるなんてことも不可能でしょう。

 

突き放すような言葉。辛辣と表現するには込めるべき感情が不足し過ぎている何かが、『あくむ』のようにじっくりと、私の心を侵食する。

 

私の何が駄目だったのか。私はどうして負けたのか。戦術や戦略、戦法といった要素ともまた違う、私が抱える根本的な問題点が、私がポケモンたちに背負わせてしまった私の至らなさ(・・・・・・)の証明が、一切の容赦もなく精神を抉り取る。

 

『バトルに使うポケモンと、愛玩動物としてのポケモンは違う。貴女はもっと、その辺りを割り切るべきだった。

 

──万人に分け隔てなく接する。理想としてはよく聞く言葉でも、実際に行動に移せる人間はそうはいない。貴女はその例外じゃなかった。そうしてるつもりでも、そうなってはいなかった。貴女の敗因はきっとそこよ。

 

たかだか6匹。そう言うトレーナーだって沢山いた。でも、そうね。たったひとりの伴侶すら満足に愛せず、離婚という制度を確立させた人間が、ちゃんと出来ると豪語するなんて、私からするとそんなのちゃんちゃらおかしいわね。

 

まして波動が相反する相手なんて──いや、これは今話すことでもないか』

 

『わ、わたしは………』

 

何かを言おうと努力しても、言葉を出すことさえ出来ない。否定できる要素がない。反論できるはずがない。だって私は負けたのだ。何一つ為さず、何一つ彼女を脅かすことなく。赤子の手を捻るかの如き呆気なさで、無様に大地を舐めている。

 

『なら、貴女は………』

 

『…………ん?』

 

無意識に、唇が動いていた。それが私の苦し紛れの反論だったのか、あるいは別の何かだったのか、それは今の私にもわからない。ただ。たった一人。私にとってどうしても引っかかる言葉があって、我慢できずに言葉が漏れてしまったのだ。

 

『私と、彼………あの人。ヨウさんと私。何が──』

 

『──何が違うのか、かしら。なるほど? 私は確かに、それを知っている。だけど、これは私の私見、要は勝手な推測だから、あんまり役立たないと思うけど』

 

『それでも、です。おしえてください』

 

縋るように懇願する。無視される、嘘を言われる可能性については、どういうわけか考えもしなかった。彼女のあまりに遠慮ない物言いと冷徹な態度が、私如きに嘘はつかないだろうと強引に信じ込ませていたから、だろうか。

 

そして実際、彼女は躊躇も遠慮も容赦も慈悲も全く見せず、えらくざっくりとナイフを突き立てるように大胆に、私の精神に『ダメおし』する。

 

『うーん。まあ、いいかしら別に。あまり問題はなさそうだし。

 

じゃあまず一つ、ぶっちゃけ貴女に特段優れたポケモンバトルの才能は無いわ。そして貴女はそれをいまいち割り切れてない、というかヨウ君を基準に考えているわね。やめなさい。正直に言ってあの子は化け物とか怪物とかそんな例外だから、まずそれだけは認めましょう』

 

『ヨウさんを基準に──』

 

私がトレーナーという肩書きで真っ先に思い浮かべるのは彼、ヨウさんだ。いつでも私を守ってくれたあの背中。彼に憧憬を抱かなかった、目標にしなかった、彼のことを模範的なトレーナーに設定しなかったと言えば嘘になる。

 

しかしそれこそが間違いであったと彼女は言う。私では彼に倣うことさえ無理だと、不相応だと躊躇いもなく。

 

『次。戦術が拙い。実は私と貴女のオープンレベルはどっこいだけど、これだけ差が出たということはやっぱり貴女に原因がある。もっと頑張りましょう』

 

『あう……』

 

これについては反論の余地もない。もっと何か手心を、と叫びたくなるような酷評だが、事実私の拙いバトルでいたずらにポケモンさんを傷つけてしまった以上、私はこの件についての言葉を持たない。

 

だんだんと先ほどとは方向性の異なる悲しみに支配されていく心に、彼女はやはり遠慮もなくはっきりと告げる。

 

『次は、そうね。これは他の要素にも当てはまるけど、結局はこれかしら。

 

経験が浅い。そして貴女には、それを覆すだけの努力も足りない。まずはそこね。ポケモンバトルは才能が全て、とは言わないけれど、重大なファクターを占めている。愛しの彼の一年と、貴女の一年は等号で結ばれない。まずはそこを自覚して、それでも勝てるような組み合わせを貴女なりに見つけましょう。

 

まあ、一年やそこらでそのレベルなら十分だと言えるけど、並み居る優秀なトレーナーたちにようやく追いついた程度で頂点に挑むのは、やっぱり無謀だとしか表現できないわね』

 

『うぅぅ……』

 

それは私も、薄々は察していた。今の私の実力は運良く四天王に勝てるかどうかで、とてもじゃないがあの時のヨウさんには敵わない。

 

だけど、私にはそれで良かった。私の成長を、私の努力を、私の頑張りを彼に証明する。私はそのためにトレーナーとなって、彼の前に立つことだけを目標としていたのだから。

 

その夢が、たった一人の異分子の影響で、いとも容易く崩れ落ちる砂上の楼閣である自覚もないままに。

 

(…………ヨウさん)

 

『………はぁ。そんな幸せそうな顔をされちゃ、私もあまり楽しくないじゃない。とりあえず貴女は、いいから一度ヨウ君に会って来なさい。今の貴女なら彼との差も肌で感じるでしょうし、何よりそんな欲求不満じゃ勝てるものにも勝てないわよ』

 

『よ、欲求不満って、そんな──』

 

『いいから、敗者は素直に従いなさい。あと最後に、そうね。気負い過ぎよ。緊張し過ぎ、と言い換えてもいいわね。というか何その無駄に気合いの入った格好。そんなデートに行くような格好でリーグに挑むとか馬鹿なの?

 

色恋云々は否定しないし、正直勝手にしてって感じだけど、立場的に付き合わされる私は堪ったものではないわね』

 

『…………ごめんなさい』

 

微妙に生暖かい視線付きで告げられたその言葉は、明らかに先ほどまでとは声色がまるで違う、呆れを多分に含んだものだった。

 

明け透けで、強引で、良くも悪くも遠慮のない人。その時に私が抱いた印象はその程度。方向性の違いはあれど、不思議とヨウさんと同格以上に思える独特の雰囲気を纏う女性。

 

そして、この時に曲がりなりにも貴重な助言を受けた繋がりから、後にエーテル財団の名簿で彼女の名前を見た時に話を伺い、度肝を抜かれると同時に絶対に『リベンジ』をすると誓ったのは、また別の話である。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

ボールを掴んで投げようとした手が、直前になってピタリと止まる。

 

(…………待った)

 

なんとなく嫌な予感がする。直感だよりの根拠ない確信だが、こういう時の予感はだいたい当たるもの。嫌なことだけ察するありがたくもない虫の知らせ、誰にでもそういう第六感はあると思う。

 

(…………ほしぐも)

 

手に持ったボールと、マツリカさんを見比べる。飄々として楽しそうで、ゼンリョクで僕に挑むその姿。もはや当初の目的なんて忘れてて、それ故に恐ろしい気配が拭えない彼女。天真爛漫な態度なのに表情が無なのも不安を煽る。

 

(…………………)

 

マオについても、いつまでたってもドロドロとした淀みが抜けていない。当初よりも収まっているとはいえ、こうなった人はみんな肝心な時に予想し得ない行動をする。つまり、僕にはどうしようもない。

 

(違う。違う。違う。違う…………)

 

腰のボールにいくつか触れて、直感のまま選択肢を絞る。なるべく彼女の思惑を外せるポケモン。彼女のペースを乱せるポケモン。そして、マオの淀みを纏めて流せるような、そんなインパクトのあるポケモンを。

 

ほしぐもではダメだった。彼女はおそらく、その選択を予想している。ここで安易に彼女の思うまま振る舞えば、後々面倒になる布石を打たれる。具体的にはやどりぎとか。だって彼女は、あの人と同じ目をしているんだから!

 

「………よし、これだ」

 

「およ? 随分と悩みましたね。というか器用ですね。明らかに悩んでいるのに、それでもミミッキュちゃんをキチンと立ち回らせてるところとか。………それも、2体1で」

 

「多人数相手に戦う機会そのものは多かったもので。その割には、シングルと違ってあまり力量が伸びないのが悩みドコロではありますが」

 

「ダブルでもチャンピオンだったら、私達に勝ち目がないんだけど……」

 

「それは僕の管轄外だから、無理矢理でも勝たせてもらうよ、マオ」

 

主にスカル団とかエーテル財団とか。人を集めてボコるは有効な戦術なだけに、気づけばそちらの対処ばかりを学んでしまった。そもそも僕はあれこれ考えるのが苦手な分、その時間を作り出す工夫くらいは会得している。

 

多人数相手の戦いのコツは、如何に空白を生み出せるか。一人と二人。ポケモンの数は同じでも、司令塔が一つ欠けるだけでかなりの不利になる。息を合わせることだって、結局は互いに気を遣うだけだ。物理的に手が足りなくなる僕に比べると、やれることだって多いだろう。

 

それが決して簡単とは口が裂けても言えないし、だからといって、僕が負ける理由にはならないが。

 

奇策ではなく確かな意思と共に、僕は普段使うホルダーではなく、バッグにある大切な物ポケットからとあるボールを取り出して、天空高く放り投げる。

 

「…………変わったボール、だね」

 

「そう──ですね……って、あれは、まさか──!」

 

疑念と驚愕の声を背景に、僕は意識を集中させる。

 

彼らが持つ、異様なオーラ。人を破滅に魅了するどくに呑まれないよう、僕の心をしっかりと保つ。………念のため、タンバの薬も用意してある。

 

それにこれは、ある意味ではいい機会でもある。いずれ再び訪れることになる彼らの故郷──その力を、その生態を、その独特の雰囲気を、学ぶのに。

 

「じゃあ、よろしく。──ウツロイド」

 

『じぇるるるっぷ……!』

 

狡猾で、何を考えているかはわからないけど、なんだかんだで従順で、僕にまで懐くようになってしまったウツロイドに激励の言葉をかける。

 

まだまだ理想とするあの人ほどの連携はできないだろうけど──不思議と、ルザミーネさんの時に感じた嫌な感じは、今はまったく感じられなかった。

 

 

 

(まあ、問題が起こるとすれば、むしろ僕の方かな。──多分、行けると思うんだけど。………あまり呑まれ過ぎないようにしよう)

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

(………恐ろしい。いえ、凄まじい才能ですね、本当に)

 

何度も繰り返した思考を、飽きもせずに反芻する。

 

眼下で繰り広げられる非常識。問題の彼が当然のように成し遂げる偉業。にわかには信じがたい、冗談のような光景。しかし彼が幾度となく我々に見せつけていた、彼にとっての必然。

 

(………ですが)

 

彼ならば、と考えてしまうのは、私も彼に毒されてしまっているのか。我ながら随分とまあ単純な思考回路をしていると自嘲するも、一度浮かんだ考えは打ち消せない。

 

(ですが、これは、それにしても──)

 

私の至らぬ想像では、彼の実力のその多くは、彼と彼が持つポケモン達の確かな地力、信頼関係による連携で構成されているものだと考えていた。

 

しかし、今目の前で繰り広げられている光景は、他でもないその彼が、明白に捕まえたばかりだと分かるウルトラビーストを用いてアローラのキャプテン達と互角以上に戦う姿。

 

(流石にいつものメンバーにはやや劣りますが──それでも七割。驚異的な倍率です。ウルトラビースト自体の力量(レベル)もあるとはいえ、ここまで引き上げることができるとは)

 

加えて、見た限りではあるが、彼はビースト特有のオーラも使い熟しているように思える。『ビーストブースト』と彼が呼んでいるビースト固有の力。ただでさえ尖った能力を更に助長する歪な生態、特性。

 

使えば使うだけ扱い辛くなる。ネガティブなイメージだけが先行していることは否めないが、この評価は決して間違いではない。

 

(…………そして)

 

何よりも恐ろしいのは、あのポケモンが明白に、それだけの信頼を寄せるほど彼に懐いているという事実。

 

エーテル財団が筆頭として研究していたウツロイド。その生態を見るにあのポケモンは明らかに善よりのポケモンだとは言い難い。善には善、悪には悪と、良くも悪くも感情に敏感なポケモンが懐く対象とは、自ずとそちらより(・・・・・)のポケモンであるのが普通なのだ。なのに。

 

「『ギアチェンジ』、か………」

 

「──クチナシさん?」

 

「おっと、悪いな。まあ、気にすんな。独り言だ」

 

「…………」

 

飄々とそう言い放つクチナシさんだが、このタイミングで呟いたその言葉に無視を決め込むのは流石に無理がある。

 

おそらく、彼が呟いた言葉こそ、私の抱いた疑問への回答。彼があのポケモンを十二分に扱えることへの答え。そして、私が未だたどり着いていない、トレーナーとしての到達点の一つである。

 

無駄と察しつつも諦めきれず、私に出来うる限りの粘着質な視線を携え、しばらくクチナシさんを見つめるもやはり糠に釘、暖簾に腕押しといった有様。やがて小さくため息を吐き、せめて何かヒントだけでも、と視線を彼へと戻そうとしたその時、私のそんな様子を見かねたハンサムさんが、慌てたようにこう告げた。

 

「………『ギアチェンジ』は、ポケモンのわざに倣って名付けられた技法の一つだ。

 

扱うポケモンに合わせ、思考の性質を切り替える。フェアリーなら善。あくなら悪と、そのポケモンごとに好みの性質が存在する。トレーナー以前に生き物としてどうあっても付き纏う摂理。それでもなお、相反する属性のポケモン達を過不足なく扱おうと考えたトレーナーが生み出した技術。

 

言うだけなら簡単だが、これが非常に難しい。そも同じポケモンでも趣味嗜好は異なり、また共に過ごしたポケモンの影響でその性質は刻一刻と変化する。

 

一定以上の力を持つトレーナーに統一タイプの使い手が多いのは、そうでなくては立ち行かない、戦う土俵にすら上がれないからという説もある。私のトレーナーとしての腕は未熟も未熟で、私はそれを実感したことはないが………」

 

「俺やあっちの二人、特にマツリカの姉ちゃんは顕著な例だな。随分と前に、俺は迷子になったピンプクを拾ったことがあったんだが、これがまあ見事に懐かない懐かない。

 

それでも放っとくわけにはいかねぇからと四苦八苦してりゃあ、今度は俺のポケモンが不機嫌になると来た」

 

あれは参ったぜ──とほんの少しだけ険しくなった表情を浮かべて、それでも声色には変化なく、飄々とした態度は崩さずクチナシさんは言う。

 

如何にも「どうでもいい」といった雰囲気を醸し出しているが、そんなはずはないだろう。なにせ自分の実力に直結する話だ。それに、本当にどうでもいいのなら、私の追及に惚けたりはしない。

 

「でも、私は──」

 

「………慣れ、だろうな。彼ほどのレベルは厳しくても、ブリーダーの中には十匹単位で様々な性質のポケモンを扱える者がいると聞く。

 

または、そうだな──私がシンオウ地方を訪ねた際、その片隅に多種多様なレンタルポケモン達を扱う『バトルファクトリー』と呼ばれる施設があった。ブリーダーに限らずとも、そういった経験があるか無しかの有無はやはり大きい。

 

──っと、あちらもゼンリョクか。互いに攻めあぐねていたようだが、これで戦況が動くか」

 

「──バトル、ファクトリー………?」

 

 

その、単語は。

 

その施設の名前は、確かに、私が、どこかで──

 

 

「っ………!」

 

 

瞬間、頭をハンマーで殴られたような凄まじい激痛が走る。

 

どこかで聞いたことのある症状とピタリ一致するその痛みに、思わず脳の異常を疑うも、流石にそういうわけではなさそうだ。

 

なら、これは──否、原因は明らかだ。そこから目を逸らしているようだと、何の解決にもならない。

 

(──バトルファクトリー)

 

今はとにかく、後で詳しく調べる必要がある。なにせ記憶喪失のこの私が心当たりが無いのに琴線に触れたような言葉だ。まず間違いなく、私という存在に関わるヒントになる。

 

最も、単純にかつての私が、そのバトル施設とやらに入り浸っていただけ、という可能性も否定はできないけれど──

 

「あれだけやってようやく倒れたか。まあ、流石のあんちゃんでも、本来はくさタイプ主体の嬢ちゃん相手にみずタイプ複合じゃ厳しいか。それでもかなり粘ってたが」

 

「………あのポケモンは、いわ・どくタイプ複合です。確かに見た目はドククラゲに似てはいますが、全くの別物かと」

 

「…………………そんなトコまで予測できねぇんだな、あのバケモンどもは」

 

(倒された……あのポケモンが?)

 

タイミングが良かったのか悪かったのか。どうやら私が彼らから視線を逸らさずにはいられなかった僅かな間に、大きく戦況が動いたらしい。それを私が見られなかったことを嘆くか、そのおかげで私の異変を悟られなかったことに安堵すればいいのか、その判断は非常に難しいが、いずれにしろ惜しいことには変わりない。

 

私がまだ気づいていない何か。彼が当然のように、私が無意識に為していた何かを、この目で改めて確認できたかもしれないのに。

 

話題の彼が、ボールにウツロイドを収めながら何らかの指示を出す。命令の先にいるのは、最初からひっそりとサポート役をこなしていたゴーストポケモン、ミミッキュ。

 

「…………?」

 

そのポケモンが一瞬だけ光り輝いたかと思えば、フィールドや各ポケモンにはなんの影響も見られずに、彼は何事も無かったかのように、新たなポケモンをバトルフィールドに現界させた。

 

(…………あれは、一体?)

 

当然、内心だけで紡がれた私の疑問に、答える声など今度こそ本当に存在しなかった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

フィールドの両端から迫り来る攻撃を躱す。『はなふぶき』に『マジカルシャイン』。どちらも広範囲へ広がる高い命中精度を誇るわざだが、それ故に迎撃の手段は少なくない。

 

それでも、ミミッキュ以外ならかなり厳しかったが、結果が良ければ全て良し、である。

 

(………残り2体。攻撃に隙がないキュワワーが厄介だったけど、相性差でどうにか乗り切れた。厳しく見えて、戦況はこっちが圧倒、かな。負担も許容範囲内。どうやら彼女達の連携もそこまでではないみたいだし、このままならなんとかなるだろう)

 

初手の攻防こそ目まぐるしかったが、終わってみれば何ということはない。そもそも総合力では明らかにこちらが上なのだ。奇策で戦略を誤魔化しさえすれば、ただでさえ覆しづらい地力の差がモロに響いてくる。

 

(それでも、油断はできないけどね………もしも片方が、特にマオの位置にあの人がいたら、今頃どうなっていたのやら)

 

まず間違いなく、切り札の出し惜しみなんて出来なかっただろう。戦力差だって、残りのポケモンの数がそのまま入れ替わっていてもおかしくない。

 

僕が知るあの人の最大の欠点・弱点とはその最大才能倍率(オープンレベル)の低さだ。それを多少なりとも補える、あるいは彼女がサポート乃至火力担当へ忠実に徹すると考えるとそれだけで寒気がする。

 

(うっ、心的外傷(トラウマ)が──僕、本当に良く勝てたよな)

 

普通に考えれば、あの色々と桁外れのウルトラビーストを除いたら、逆に負ける方がおかしいレベル差だったわけだけど、さて。

 

「うーわー、すっごいですねぇ、チャンピオン。参考までに、さっきは何をしたか聞いても?」

 

「…………あれは『みがわり』です」

 

「えっ、嘘っ!? いつの間にっ!?」

 

「割と最初から……具体的には、最初のゼンリョクわざの時にどさくさで生み出して、それからは壊れる度にタイミングよく交換してた。じゃないと流石に、あんな耐久力はミミッキュには無いよ」

 

「た、確かに……でも、ヨウのことだから、てっきり小細工抜きにしてあれだけ硬いのかと……」

 

「でーもー、それを今バラしたってことは、そっちのミミッキュはもう既に『みがわり』になってるか、またはもっと面倒な状態だってことですよね?」

 

「………さてね」

 

──鋭い。何一つ確証なんてないはずなのに、笑顔のまま言い当てられた。

 

何気無く言ってる辺り、本当に怖い。僕はこう見えて……というか、どう見てもポーカーフェイスは超一流なんだけど。マツリカさんは何を判断してそう言えるのだろうか。わからない。

 

飄々と語る彼女とは真逆に、何を返していいかわからない僕は答えを誤魔化して、今度こそホルダーに嵌め込まれたボールを一つ手に取り、中から一匹のポケモンを呼び覚ます。

 

現れたのは、我が最強の相棒、ガオガエン。あくタイプだからフェアリーに弱い……と思いきや、ほのお複合であるからしてくさにもフェアリーにも優位に立つことができる。

 

何より、僕はこの相棒のことを信頼している。この僕が、リーリエが信じる最強のトレーナーのパートナーたるポケモンが、まさかこんな場面で負けるはずがない。自惚れと言えばそれまでだが、僕はそう確信しているのだ。

 

「そのガオガエン、見るの久しぶりだけど、相変わらず凄い迫力だね……」

 

「ほほぅ、これが噂の。今のうちに軽く『スケッチ』を、いや、それどころじゃないかな」

 

「…………まあ、公式戦じゃありませんし、その間互いに何もしないと確約してくれるなら、僕は多少は構いませんが。マオもいますし、流石に今は後にしましょう」

 

「ですね。では早速、いきますよー。プクリン……そうですね、『きあいだま』、いきましょうか」

 

「アマージョ、『とびひざげり』!」

 

改めて気合いを入れ直すと同時に、明らかにガオガエンを狙った一撃が一斉に迫る。

 

これがほしぐもやミミッキュ、ラランテス辺りなら回避を推奨するのだが、僕のガオガエンはそういう小細工にとことん向いていない。

 

たかだか『ねごと』をさせるだけでもあれだけ難窮したのだ。ミミッキュやウツロイドのようにセコセコ動き回る指示を出せば、機嫌を曲げて言うことを聞かなくなるだろう。

 

(…………よし)

 

思考をカチリと切り替える。イメージするのは当然リーリエ。彼女がルザミーネさんを熱く厳しく叱りつけるあの姿。

 

滾る情熱と激情に身を任せ、その全霊を以て外敵を打ち破る。我が最強のポケモンが得意とする、強靭にして絶対の一撃。

 

「ガオガエン、『フレアドライブ』!」

 

『ウゥ──ォォォオォォォオオオオオ!!!』

 

若干ながら出遅れた指示と、気が逸っていたガオガエンの行動が上手く噛み合い、その最強のわざが彼女たちのポケモンへと解き放たれる。

 

豪炎、衝撃、闘気がそれぞれ入り混じり、想像を絶するような爆発力を生み出す。『ひのこ』混じりの土煙が晴れた頃に現れたのは、全身傷だらけでも『ゆうかん』に吠え猛るガオガエンと、ボロボロになって倒れ臥すアマージョ。予想通りの光景だが、当然まだまだ油断はできない。何故なら──

 

「うわー………危ない危ない。念には念を入れておいてよかったよ。

 

──じゃあ、ごめんね? プクリン、今のうちに『だましうち』しちゃいましょう」

 

「──させませんよ。ミミッキュ、もう少し前に進んで(・・・・・・・)

 

「…………へ?」

 

やはりと言うか何と言うか。ちゃっかりガオガエンを闇討ちしようとしていたプクリンに割り込むよう、庇う(・・)ようにミミッキュを移動させる。

 

『だましうち』。敵の虚をつく形、対象が無防備であればあるほど、威力が爆発的に増大するというジャイアントキリングにはもってこいのわざは、当然、何をしたわけでもなくただ対象が変化しただけでミミッキュへとそのままの威力を以て襲い掛かり、これまでのダメージもあってミミッキュは一気に『ひんし』状態へと陥る。

 

しかし。

 

「………え? あれ。あれあれれ?」

 

まるで引き摺られるように、ミミッキュと同様に倒れ臥すプクリン。無論、種も仕掛けもある小細工による現象だが、これにてチェックメイトだ。

 

現状、最も不確定要素だったのはマツリカさんが出し惜しみしていたゼンリョクわざの存在。たった一つで駆け引きにも逆転の布石にも活用できる鬼札。そのためのミミッキュだったわけだけど……まあ、この展開も、想定していた範囲内ではある。

 

「まさか、『みちづれ』? あんなに使いづらいわざを……」

 

「『だましうち』なんかよりはよほど楽だけどね。それより、僕の勝ちってことでいいのかな」

 

「そうだね! 流石はヨウ! 私なんて、手も足も出なかったよ!………あれ、何で戦うことになったんだっけ」

 

「マオちゃん……」

 

僕の勝利宣言と、それに対するマオの回答に、呆れ顔のマツリカさんの言葉が妙に響く。

 

それはどうしてか、フィールドにいる屍鬼累々の面子の中盛大に咆哮するガオガエンの声にも負けないくらい、虚しくこの場を支配するのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

バリバリ、という擬音がはっきり聞こえる自分の耳に声を失う。

 

ただ無差別に『ほうでん』しているだけの状態。それだけで激しく周囲に『かみなり』を落とし続けているような怪物に、目が飛び出るような衝撃を受ける。

 

滞留する『せいでんき』が、動き回る度にチカチカと周囲を照らす。金属も何もないような深い森の中でこれだけの電力量。もしもこのポケモンが街中に、エーテルパラダイスのような金属製の施設に迷い込んでいたらを考えると寒気がする。

 

「もう少しかな……?」

 

『デンショック!!』

 

ピリピリと帯電する植物を鬱陶しそうに掻き分けながら、それでも割と余裕そうにボールを何度も当てながらヨウはそのポケモンへと近づいていく。割と突っ込みどころ満載の光景であるが、彼曰く、これが彼の日常の捕獲風景であるそうな。

 

(……なんだろう、これ──)

 

こんなにも近くにいるヨウの姿が、どうしようもなく遠くに見える。

 

それはそう、それこそあのウルトラビーストと呼ばれている怪物たちのように、世界の壁を越えて現れたような、そんな別の次元に。

 

(見つけたら、あとはそう手間はかからない──そうは言ってたけど……)

 

確かに彼は、その旨を伝えていた。当然のごとくはっきりと、彼なりの根拠を基にして断言した。

 

そうは見えないのは自分だけ。彼は、ヨウは、このアローラの頂点に立つトレーナーは、私の常識の範疇にはいない。わかっていたはずだった。わかっていたつもりだった。

 

『ああ、彼女は僕の知人です。今回はシェードジャングル攻略に伴う協力者として──』

 

その言葉がショックで、私は彼に反論した。だが、違う。彼はいつもどこまでも素直で、優しくて、残酷で、だからこそ強かった。私がただ知らなかっただけだ。ただ歩み寄っていなかっただけ。ただ私が、彼の足跡の大きさに見惚れて、近くにいた気になっていただけで、彼は既に、私なんかを気にする領域の遥か先を歩んでいた。

 

(悔しいな──)

 

その単語が脳裏に浮かんだのと同時、件の彼がポケモンの捕獲に成功する。時間にしてたった数分の神業。しかしそれも、彼にとってはもはやそれが当たり前だったのだ。

 

(──追いつきたい)

 

自然と、そう思った。いつしか一足飛びに無視された私を、どうにかして見返してやりたいと強く思った。だけど、そのためにはどうすればいいのか、私には何もわからない。思いつかない。想像さえもできない。

 

彼について、私が知る限りを頭の中に連ねていく。名前はヨウ。カントー出身のポケモントレーナーで、旅立ちからたった一年でチャンピオンにまで上り詰めた誰もが認める天才児。

 

ライチさんも、カキも、スイレンも。マツリカさんやクチナシさん、他のキャプテンだって。一度でも彼と戦えば、それで納得したような表情を浮かべた。

 

かく言う私もその一人だ。彼ならきっと、私達の誰よりも遠く、世界一のトレーナーになるだろうと信じて。それで実際に、彼は誰もが認めるチャンピオンとして君臨した。

 

強靭にして最強無敵。かつ無敗の──

 

(…………無敗?)

 

我が事ながら思考の一つに引っ掛かりを感じて、その単語を抜き出して改めて思考する。

 

無敗。彼を賞賛するつもりで連ねた言葉だが、そうではない。彼は誰もが認めるトレーナーだが、完全に無敗だったかと言うと否だ。

 

そう、このアローラでたった一人。アーカラ最大の問題児にして異端児、かつ最強のトレーナーであるメガやすの彼女(・・・・・・・)が、よりによって致命的な場面で突然、件の彼を討ち果たしたではないか。

 

かつて事件の全容を知りたいと、野次馬根性丸出しでライチさんに話を聞きに行った思い出が蘇る。あの時は、いや、今までも彼女については、はっきり言うと敬遠していたんだけど……。

 

(この人に勝つ……それは一体、どうやって──)

 

興味が湧いた。それも、物凄く。

 

チャンピオンを降りた後のその人の行方を私は知らない。それ以前に、私とその人は赤の他人以下、直接会話を交わしたことさえない。だけど、確かな繋がりはある。この島のしまクイーンであるライチさん。その人の友人だという彼女に話を聞けば、あるいは──

 

「──いずれ、必ず」

 

小さく呟いたその言葉は、誰にも届くことはなく虚空へと消えていく。

 

そんな私を、彼は当然ながら意に介すこともなく、地に落ちたモンスターボールを拾い上げながら、ここではない、どこか遠くへと想いを馳せるのだった。












冷静に考えるとプレイヤーって化け物ですよねって話。これでもかなり制限してるけど、それでもやっぱり主人公だからなんか足りない気もするなぁ。

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