「……ああ、くそったれ」
額に滲む汗を袖口で拭う。不思議なことに、違和感は覚えない。口では悪態こそ吐いているものの、それは己への戒めとしての意味が強く、かつてのように周囲へ当たり散らしているわけではない。
だが同時に、快いとも表現できない。当たり前だ。今になってお行儀良く鍛錬に臨むなど、それ自体がこそばゆくて気色悪い。はっきり言って不愉快極まる。ガラでもないと自覚している。
でも、それでも足を止めることができないのはどういうことなのか。その答えは俺自身、あの頃からずっと、何もはっきりしないままだ。
(…………ああ、くそったれ)
今度は口に出すことはせずに、内心だけで悪態を吐く。わかりきっていたことだが、何一つとして不快感が拭えない。だがそれを悪くないなどと感じる自分が確かにいて、結局は結論を出すこともできず、無駄な感情がもやもやと燻るだけだ。
「うむ、精が出るな、グズマよ」
「…………おっさん」
そうこうしてると、いつの間にやら側に来ていたハラのおっさんが恰幅の良い身体を揺らしながら声をかけてくる。
その表情は、どういうわけか満面の笑顔。このおっさんが笑顔を普段から貼り付けてるのは今に始まったことではないが、ここ最近は殊更に酷く感じる。
全く、一体何が面白いというのか。前途洋々なガキどもでもなく、謹厳実直な若者でもない。人生の大半を棒に振って、自分からキャプテンになれる可能性を切り捨てた挙句、こんなところで腐っている俺なんかを見て、何が楽しいのか。わからないことばかりだ。
「………何か用かよ」
「もう一度、師匠と呼んではくれぬのですかな?」
「……またその話か。ねぇよ、くだらねぇ。俺がそんなことを言うようなタマかよ」
ハラさんの口から出た戯言を、キツ目の口調でばっさりと切り捨てる。
だいたい、今更どのツラ下げてそんなことができるというのか。確かに俺は、このおっさんの世話になっていた時期もあったが、年月で言えばそれほどではないはずなのに、もはや遠い過去のように思える。
『…………貴女は、島巡りに価値はないと?』
ぼんやりと、昔のことを思い出す。誰と交わしたのかも忘れてしまった、朧げな記憶。
あの頃の俺は、自分で言うのも恥ずかしいほど『良い子』として振舞っていたように思う。お優しい両親に煽てられ、立派なお師匠様には期待され、同年代では負け無しだった栄光の記憶。
そんな俺が、これから先にいくつも立ち塞がる高く険しい無窮の壁をまだまだ知らず、当たり散らすことさえしないでただ不満を振りまいていたころの、ちょっとしたやりとり。
「これ、グズマよ。人と話す時は、きちんと相手の方を見るべきですぞ」
「………」
随分と久しぶりに受けた気がする、叱咤のようでまるでなっちゃいない甘い言葉。スカル団に入りたてのしたっぱの方が、よほど口汚く人を窘められると確信するほどのどうしようもなさ。懐かしい記憶。
その
誰との会話か、どのような会話か、何のために行われたものか。確かに脳裏に刻んだはずの記憶は、いつしか俺が過去と共にブチ壊してしまった。しかし、それでも失ったわけでは無い。封印しただけだ。故に、稀にこうして、まるで壊れたレコードを再生するように、ノイズ混じりの記憶が思い浮かんでくる。
『………へっ? わ、私の?』
『はい。考えてはみたのですが、どうにも僕にはよくわからなくて、ですね。宜しければ参考までに、貴女の理想のトレーナー、というのを教えて頂けると』
『あ、あー、そうよね。そういうことよね。──「貴女の理想のタイプを教えてほしい」なんて言うから、何事かと………』
『………?』
『でも、そうね。あくまで私にとって、というのなら。それは──』
「………なあ、ハラのおっさん」
少しだけ考えて、どうしても
かつて彼と袂を分かってから初めて行われた俺からの呼びかけ。乱暴な口調で紡がれたそれは、常に丁寧な口調を心掛けているしまキングさまに比べると聞くに堪えない雑音だろうに、それでもおっさんは嫌な顔一つせずに告げる。
「む? 何ですかな?」
「いや………」
会話の始めからまるで揺るがないそのニヤケ面がどうにも癇に障って、思わず言葉を引っ込める。が、それでは当然話が進まない。気後れするのは俺の心情が理由、そして話が弾まない理由もそれと同義だ。気の迷いだろうが何だろうが、俺から話しかけた以上、最低限の礼儀としてここは無理にでも話すべきだろう。
「………なあ、島巡りなんかして、何になるんだろうな」
「………………それは」
意外にも。
俺が彼と決別したあの日、怒鳴り散らし当たり散らし『やつあたり』で捲し立てたその言葉。語気の違いだけで、あの頃と内容がほぼ違わぬはずのその疑問に、彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
(ああ……?)
予想外の反応に固まる。思えば、あの時も「それは自分で見つけることだ」などと答えそのものをはぐらかされたが、あれはあれで含蓄もあったし、当時を思えば納得出来るものだった。
俺の見た所、このおっさんは非常に物事を弁えている。仮にその質問に回答があったとして、あの頃の俺にそれを言うようでは「俺のためにならない」などと講釈垂れるだろうし、事実、俺が理解しようとしていなかっただけで、遠回しに似たような旨の発言はされている。
だが、今はもう状況が違う。今更になってカプに認められた──答えを得た後の俺ならば、わざわざそれをひた隠しにする理由などないはずだ。俺がまだ自覚していないだけで、確かに俺の中ではっきりとわかる「何か」が、今もこの胸の内で燻り続け、この身を焦がしているのだから。
でも、どうして。あれだけ偉大で、頼れる男で、誰もが尊敬する人物で、立派な大人の代表例みたいなアンタが、どうしてこんな何気ない一言に、
『──島巡りに、意味なんてないわ』
その光景に、頭のどこか自身が叩き潰した記憶の奥深く、名前も顔も思い出せない誰かの言葉が、重く深くのし掛かったような気がした。
「……グズマよ。わたしはきっと、ずっと勘違いをしていたのだ」
「勘違い……?」
「そうだ。それは──」
重苦しい発言。いつもの口調を完全に廃し、この後に及んで『師匠』としての立場から語られる言葉。そんな似合わない前置きから紡がれたその中身と、それに合わせて深々と下げられた頭に驚愕する。
ふざけるな。そう叫びたかった。あれだけ偉ぶって、訳知り顔で思わせぶりにヘラヘラと俺らを見下していたお前、見守ってくれたアンタが、見捨てないでいてくれた師匠が、よりにもよってそう告げるのかと。
だが同時に、どこか納得してしまった。彼が俺を突き放した、否、引き止めることができなかった理由と、俺らのような落ちこぼれが徒党を組んでスカル団なんて反社会的な組織を形成してなお、それを静観し続けた理由も。
不意に、誰かの言葉が脳裏によぎる。──そうだ。俺らがどれほど思い悩み、苦しんで、どんなに頑張って、島キングを目指しても。そうなれなくて、嘆いても、それを声高に主張しても意味はない。何故ならば。
『──そうじゃないと、だって。
結局のところ、ぜーんぶ
念入りに
☆☆☆
「貴女の敗因は、主に3つ」
まるで言葉で殴るような、怜悧で暴力的な音が響く。
その声音は、あくまで傲岸且つ不敵。私を真正面から射抜く眼差しは氷海の様に冷たく、蒼玉の双眸は感情の揺らぎを欠片も思わせない。
馴染みの服装とは不釣り合いな登山用ブーツで草木を妙にしっかりした足取りで踏みしめながら、彼女は徐々に近づきつつ告げる。
「一つ。リサーチ不足。
ポケモンバトルにおいて、情報とは思った以上に重要よ。まあ、突発的に始まった戦いだし、私は見ての通りだから仕方ない部分があるにせよ、せめて私が何者かくらいは勝負の前に調べておくべきだったわね。
まあ、これはポケモンバトルの醍醐味であるから、敗因としては挙げても、批判は絶対にしないけど」
「……」
異様なまでの説得力のある言葉に、返す単語を見失う。
本来なら私は、その言葉に対して反論するなり悪態を吐くなりするべきなのに、それさえも予測されて冷静に対処されそうで、その一挙一動が恐ろしい。
強い、ではなく、ただ怖い。何をしても通用しないヨウさんとはまた違う、何をしても当然のように対処される、きっと何をしても無駄なのだ、という漫然とした不安が過ぎる。
ゴーストタイプにノーマルわざで挑むような、そもそもの根底からして土俵に立てていない、そんな恐怖が。
「二つ目。正直過ぎる。
具体的には、仮にも敵である私の提案に何の疑問も持たずに従うのはやめましょう。とりあえず反論する。理由を語らせる。不安があれば妥協点を探す。言葉遊びでも、相手に警戒をさせれば効果はある。でないと、文字通り、足を掬われるわよ」
「あ…………」
今度こそ、言葉を完全に失う。かつては気にすることがなかったから、そんなこと、すっかり意識の外だった。言われてみれば、場所を変える際、妙に時間をかけてフィールドを選んでいたと思っていたけど、あれはつまり、そういうことだったのか。
気にするまでもないと思っていた。変わった舞台を用意するんだな、とは思っても、彼女の気質や性格から
だが、違った。おそらくは最初の一撃。あの時点から、私の不利は決まっていた。勿論、彼女自身の技術もあるのでしょうが──
「祟りが去った今も、17番道路の近辺は『しめりけ』が強くてね。加えてアリアドスが獲物を捉えようとそこらに『くものす』を張っているから粘つくのよ。──スーツ姿で、革靴を履いてるような人にとっては、特にね」
「あ──」
なるほど、と納得してしまった。
だから、足を掬われると。表現としてではなく、単純に動きづらいから。でも、まだ、それだけでは──
「そして3つ目。これこそが重要。
──何を
そうして勝者は勝鬨を上げて、それを糧に敗者は成長する。トレーナーって、そういうものでしょう?」
「っ──」
トーンはそのまま、声質に明確な怒気を滲ませて、射抜くように告げられる。
突如として増大した重圧に押し潰されないように気を張って、身体に鞭を打ちながら彼女の顔を正面から見返す。両者の視線が宙にて衝突し、停滞。彼女は数秒ほど無表情で見つめ、やがて面倒そうに視線を逸らす。そんな彼女を咎めるように我々へ語りかけたのは、本当に意外な人物だった。
「──それを見越して、わざわざポケモンの数をやんわりと指定した人物の言葉とは思えませんね。相変わらず、というには随分と心境の変化があったようですが、そういうトコロは変わりのないようで。どうせ内心では好都合だと考えているのでしょう?」
「あら、ザオボーさん。お久しぶりね、元気にしていたかしら。正直、私の依頼なんて無視しても良かったのだけど。無視されると思っていたのだけど。特に最近はエーテル財団が慌ただしいみたいだし、忙しいんでしょう?」
「騒動の原因であるアナタがよくも吠えますねぇ。そんなことばかりしているから、いざという時に疑われるというのに。ですがまあ、忙しいのは本当です。アナタがワタシの代わりに出張るなら、戦力としての都合は元より心配もありませんし、以後はお言葉に甘えるとしましょうか」
特徴的な制服を身に纏うその人物が、これまた特徴的なメガネを指で押し上げながら、嫌味な口調でそう語る。
彼こそは、エーテル財団からの協力者である青年。サイキッカーのザオボー。エーテル財団所属でありながらも、あくまで善意の協力者として初期からウルトラビースト捕獲に対し尽力してきた、私としても大変お世話になった実力者。
ただ、私は彼と必要以上の会話をしていなかった。どうにも彼のような人物は苦手というか、ヨウさんの協力者という立場からして深く関わるべきでないと判断していたのだ。我々が公共の機関であるからには、民間人とあまり、いや、チャンピオンとはいえ、ヨウさんを巻き込んでしまっている以上、これは単に私の怠慢である。
「代表が、いえ、元代表がアナタを探していました。どうやら、あの事故についての詳細を伺いたいようで。それと、それ以前の実験中に行方不明として処理されたはずのアナタが、どうして事故の後にあの場にいたのかも──」
「待って。事故の方はともかく、なんでそっちをザオボーさんが知ってるの?」
「貴女の協力者が洗いざらい話しました。彼は随分とそのことを悔やんでいましたよ?」
「……やっぱりお金って怖いわね。どうやったのかは知りたくもないけど、時間さえもゴリ押しで解決するなんて、流石は世界有数の財閥。でも、それでも」
「いくら顔が同じとはいえ、素人の偽造工作に騙されるほど財団の者も無能ではありませんよ」
「まあ……そうよね。ちょうどメガやすのアレがあった時は、運命だって確信したんだけど」
バツの悪そうな顔で苦笑する。表情こそ揺るぎないが、雰囲気と声質の違いから否応にも理解できる。
このような雰囲気を出せるのか、と驚く反面、それさえもできずにいた自分に失望する。切り札を出し惜しみしたのは事実、それで敗北したのは当然のことだ。なのに図星を突かれて割り切れないでいる私は、最低の人間なのかもしれない。
「それで、どこまで?」
「アナタの”遺言“に従って研究の方向性を『誘う』モノにしたこと。同時に確立したはずの侵入技術を『ふういん』したこと。アナタを探すためにも研究そのものはやめなかったこと………まあ、色々です。尤も、当の本人はこの有様だったようですが」
「いや、あれもまた事故だし、あの時は流石に死ぬかと思ったわよ? 本当に。ある意味は納得したし、おかげで色々と得るモノはあったから後悔はしてないけど。
でも、そうなのね。やっぱり本当にいい人ね、モーンさんは。困ったものだわ」
「──」
何一つとして理解できない二人の会話と、置いてきぼりにされた私。私のことを単なる路傍のトレーナーとして扱っているからこその態度。あの戦いで、その程度だと切り捨てられた私。
全てを出し切ることが出来ればもしや──なんと愚かしい。その選択肢を過去のものとしたのは私だ。これでは興味も何もあった話ではない。あれだけしっかりと決意したのに、最後の最後に意思を翻すなんて。
「──貴女も。トレーナーとしてはとにかく、人としては好感を持てるわ。優しい人なのね、きっと。数ヶ月、あれだけ痛めつけても頑なに伝説のレッテルに頼らなかったヨウ君と同じ。
私にはそういうの、なんというか向いていないから。ほんの少しだけ羨ましいわ」
「…………え?」
「この島の人達もそう。みんな甘くて、優しくて、だけどとっても残酷で。こんな箱庭を天上の地とばかりに褒め称えて、心の底から愛している。
私は捻くれているから──そういうのを、見ていられなかった。歪だと、気持ち悪いとさえ思った。捻くれた見方なんかしないで、素直に喜んでいられたら、きっと私は幸せだったのに」
「………アナタがそれを言いますか。本当に、変わりましたね」
「茶化さないの。………わかっているわよ。似合わないってことくらい」
呆然としている私に、反応など一切期待していない一方的な言葉を最後に投げ捨てて、彼女はボールホルダーから二つのボールを取り出す。
一つは店売りのハイパーボール、何の変哲も無い一般的な高級品。もう一つ見覚えのないモンスターボール、普通のボールよりもふた回りは大きい、灰色の重量感のあるデザインのアートボール。
つかつかと迫ってきた彼女が、私の手を取り、そのうちの一つ、特殊なボールを手のひらに包み込むよう確と握らせて告げる。
「これ、預けとく。結局ヨウ君は受け取ってくれなかったから、そっちで適当に処分しておくといいわ。本当に
「ナポリ?」
「そ。変な名前でしょう? どっかの虫取り少年にも馬鹿にされたわ。未練だけど、どうにもね」
「いえ、その……」
「ああ、いいのいいの別に。無理して褒めようとしないでも。奇抜なセンスなのは自覚してる。
「北海道……?」
浮かんだ疑問は、彼女が新たに呼び出したポケモンによって遮られる。
イシツブテやノズパスのような岩で構成された身体。しかし無理やり人型に固めたような体躯はおおよそ生物的ではなく、機械のような印象を受けるポケモン。
このようなポケモンは、見覚えがない。少なくとも一般に知られているポケモンとは雰囲気からして一線を画しているし、珍しいポケモンなのだろう。
でも、何故だろう。私はこのポケモンを知っている。記憶になくても、知識として確かに刻まれている。ただ、何故かを考えると頭が痛くなる、割れるように。
「さて、ヨウ君。色々あったけど、まあ悪くない一日だったわ。勝負には勝ったし。で、私はこれでお暇するけど、人手が必要ならまた呼んで頂戴。
しばらくは、具体的には十日ほどどこかのポケモンセンターにいますので、宜しければどうぞ。いつも貴方に安らぎを。ポケモンセンターでございます」
「ちょっと切り替えが不気味なのでいきなりはやめてください。あと具体的に言ってくれないとどこにいるのか判断ができません」
「失敬な。そこが私達の良いところでしょう? いつもどこでも我々一人、常にポケモンセンターの象徴であれ。みんな等しくジョーイさん。
──って、あら。リラさん、大丈夫? 顔色が悪いけど」
「そ、そうでしょうか?」
その瞬間。
まるで不意打ちのようなタイミングの良さで、私の隙を伺っていたのかと邪推したいほど唐突に、的確に私の意識が持っていかれそうになったその時点を見極めたように目敏く、彼女が私のことを気にかける。
彼女とて、言動こそエキセントリックでも、伊達にあの一族に属しているわけではないのだろう。こと誰かの痛みに関しては、この場の誰よりも敏感なのだ。
「んー、私のせいかしら。いえ、タイミング的にレジロック? でも……ああ、なるほど。そういうこと。
うーん。ぶっちゃけ雌雄を決した以上、別に教えても構わないのよね。だけど、動機からしてそれだと
「ウルトラボールを10個で──」
「…………。…………だから、それはやめなさい。いや本当にやめてお願いだから。何よ。言わないわよ? だって私は……。私、は…………。
私は…………。…………。ええい、そんな泣きそうな目をしない! 元はと言えば貴女が………ああもう!」
語気に反して一切崩れない表情を携えたまま、意外なほどの跳躍力でレジロックの肩へ器用に着地した彼女が、やや沈み始めている太陽を背にして宣言する。
「この際だからはっきりさせましょう。まず前提として、私は貴女を知っている。そしてきっと、貴女と接した限りではこの情報に間違いはないと思う。
ただ、情報源については話せない。証明もできない。そんな不確かな情報を話したくない意識もきちんとあるし、万が一誤りだったら、という危惧もある。
だけど、それでも貴女がどうしてもと言うのであれば、あくまで参考として、与太話としてそれを話すのも吝かではない。でも、私は人格的に捻くれているから、このまま私だけがそのことを忍ばせておいて、精神面で優位に立ちたい気持ちがある。むしろ話さない理由の大半がそれよ」
観念したように、言い訳のように、自らに言い聞かせるように。歪んではいても彼女なりに誠実に、いつもの無表情に僅かながらの苦悩を貼り付けて彼女は言い放つ。
ある意味ではヨウさんすら凌駕する超然とした雰囲気を纏う彼女が、その心情を赤裸々に語る。それが突飛で理解し難い動機であるほど、その感情は、彼女独自の信念として心に響く。
「今日はこれで帰るわ。だから次。次の機会、その時にでも、どんな方法でもいいから私を存分に『おだてる』こと。
そうしたら。もしかしたら。口が滑るとか気の迷いとかそういうフィーリングで、誰かさんの経歴をうっかり漏らしてしまうかもしれないわね!」
返事をする間もなく、それだけを言い遺した彼女はレジロックの肩に乗ったまま天高く飛翔していく。
唐突に現れて。独特の空気で場を散々乱してから悠々と立ち去るその姿。出会ってから数時間も立っていないというのに、その存在感を世界に刻むようにして周囲に見せつけた女性。
(──そういえば、お名前も、まだ………)
天を仰ぐと、そこには夕焼けが広がっている。最後に見えた赤い顔は、果たしてどちらのものだったのか。それはこの先、いつしかわかることだろう。
「というか、あのポケモン、飛ぶんですね……」
「『そらをとぶ』っつうよりはロケットか何かを発射したような飛び方だったがな。わざとして適用されずとも、ああいった真似ができるポケモンは割と存在する。あのポケモンも、そのうちの一匹ってことだろう」
「おや、アナタ方は知りませんでしたか。彼女はいつも、移動にはあのポケモンを使用していますよ」
「………そういえばあの人、他に人を乗せて飛べそうなポケモンを持っていませんでしたね」
「おおぅ、なんと驚きのバランス感覚……」
「…………あの人が、あの……」
ただ、最後に。
背後から紡がれた多種多様な文言。雑談に等しいそれらの言葉。その中で、最後に呟かれた何気ないはずの一言が、どうにも強烈に印象に残った。
☆☆☆
「はぁ……」
モーテルのベッドに倒れこむ。疲れる一日だった。作業量としてはシェードジャングル攻略時には遠く及ばないまでも、色々と気苦労の多い一日だった。
主な原因である彼女の指摘もある。僕があのメンバーの中で最も捕獲に優れているとはいえ、やはり一人では厳しい部分もある。
リーリエがこの世にいる限り、リーリエのためなら僕は頑張れる。その言葉に偽りはない。しかし、だからといって肉体的な疲労が消えるわけではないのもまた、人間としての真理なのだ。
(今日は、よく眠れそうだ……)
柔らかな布団が心地よい。とあるポケモンの羽毛を利用した羽毛布団だそうだが、具体的なポケモンの名前は聞いていない。興味だってあんまりない。僕が気にかける事項はと言えば、やっぱりリーリエのことばかりだ。
想いが募る、とはよく言ったものだと思う。いくら抑えてもみるみる膨れ上がるこの感情は、まさしく激情と表現しても過言ではない。僕の持つ唯一無二の大切にして動力源。それこそがこの想い。僕を最強まで押し上げて、今も僕を彼女が誇る人間足らしめるその根本だ。
才能があるからと、それに胡座を掻けば神童は凡人に変わる。それは他よりもおそらく並外れた才能を保有する僕でも例外ではない。それが極まった結果こそが、マリエ庭園における彼の実力だったのだと、どこかの不遜な誰かさんは言っていた。いつにも増して表情の抜けた顔で。
(……やっぱり、そういうことなのかな)
彼のことを語る彼女は、どこか鏡の中の自分と被るところがある。彼女と同じ扱いを受けるのは大変に遺憾だけど、機を逃した、という一点に限れば、僕と彼女はきっと同じなんだろう。
彼女は自らをカプに相応しくないと告げていた。だが、最近の彼女を見ていると絶対にそうなのだとは言い切れない。彼女は歪んでいるけれど、それでも彼女は彼女なりの嗜好が、大事に思える何かがある。僕が島巡りの最中に見出した特別も、もしもそれがカプに浅ましい感情だと嗤われてしまえば、僕は今頃エーテル財団にでも所属して、リーリエを側で支えながらウルトラビーストを利用してこの島を──
「…………ん?」
ガバッと、反射的に身体を起こす。危険な思想云々以前に、とてもじゃないけど流してはいけないものが思考に過ぎった気がする。
今のは当然、仮定の話だ。だが、確かな真実味があった。それがたとえか細い万が一にもあり得ない那由他の果ての世界の話でも、あり得てもおかしくないことこそが大問題なのだ。
『キャプテンになれなかった者同士、新しいものが欲しくなるよなぁ?』
『僕はキャプテンになれなかったではなく、ならなかったんだ。夢のためにね』
(…………)
マリエ庭園での二人の会話を思い出す。対照的だと思っていた二人、しかし今になって考えると、彼ら二人が嘆いていたものは、実は全く同じものだったのではないだろうか。
彼ら二人に限った話じゃない。スカル団の人たちを始めとして、この島に何か新しいものを求める人は意外なほど多かった。アローラの風。そう喩えられる島を蹂躙する嵐をこそ、無意識下にでもアローラの人は求めていた。
僕にはわからない。いつしかこの島の住民が持っていたらしい、この島に囚われるような感覚を僕は知らない。それまでを機械のように生きてきた僕は、むしろこの島に来て、全てから解放された気分でいたからだ。
僕は蹂躙する側の人間だ。それはおそらく間違いない。別に否定したいとも思わない。そしてだからこそ、される側の気持ちがわからない。
僕にとって、最強であるのはあまりに容易かった。
でも、彼女にとって、最強であるにはどれほどの苦労が必要だったのだろう。分からない。僕には何も分からない。
彼女だけじゃない。彼女よりも才能らしきもの、オープンレベルが上の人は、島巡りの中でも無数にいた。だけど、その中でキャプテンなりに選ばれるのはごくわずか。だけどこの島では、みんなが挙ってそれを素晴らしいものだと信じている。
なら、その素晴らしいものに選ばれなかった人間は、その先どうすればいいのだろう。それこそが、きっと博士の原動力。そして、彼がこの島に憤ったその理由だ。
(そして、それでも結局は──)
なんとも報われない話だ。才能が実力の大多数を占めるポケモントレーナーにとって、その才能が認められないのはどのような気持ちなのか。他人事でいられるのは運が良かったから。とはいえ何も感じないわけではない。
もしもリーリエが認められなかったら。そしてそのことをリーリエが嘆いたら。
僕はその時、一体何をするのだろうか。先に挙げた極論が冗談とは思えないくらい、僕には何も分からないのだ。
寝間着姿のままモーテルの部屋を出る。やや肌寒いが、リーグに比べれば大したことない。今日は満月どころか半月三日月新月ですらない七割くらいの微妙な月だけど、それでも無駄に昂ぶった気を鎮める慰労にはなるだろう。
「…………ん?」
奇しくも先ほどと同一の声(音?)が漏れる。どちらも気づいたことによる発声だから意図としては間違いではない。
「リラさん? どうしたんですか、こんな夜更けに」
「……ヨウさん? いえ、少し……」
誰もいないモーテル備え付けのフィールドに立ち竦む女性。奇異な光景のはずなのに、不思議と違和感はない。それだけの空気を彼女が醸し出しているからだろうか。彼女の心情を察するとわからないでもないけど、でもやっぱりよく分からない。
分からないことは聞く。状況的にも普通だし、そう酷いことにはならないだろう。最悪、僕の彼女に対する印象が少し悪くなる程度だ。リーリエ絡みじゃないことは明白だし、その程度なんて事はない。
「……少し、考え事を」
「あの人の言葉に惑わされていれば、いつまでも悩む羽目になりますよ?」
深妙な顔で続けられたので、いっそばっさりと切り捨てる。ちなみにこれは体験談だ。彼女の言葉は良くも悪くも凄まじい質を誇るが、だからこそいつまでも付き合っては他のことが疎かになる。
僕も彼女に聞きたいことは山ほどある。そしてなんとも恐ろしいことに、彼女は僕に対しては必要な情報であるなら基本的に回答を拒否しない。それが僕が彼女を打ち負かしたことに起因するのかはさておき、だからと言って回答を得てスッキリするかと言うとまた違う。
例えば彼女は、リーリエが僕のことをどう思っているのか尋ねた場合、それはもう怖いくらいの精度の答えとその証拠をあっさりと携えてくるだろう。そんなことをされてはどんな答えが出てくるにしろ僕の心臓が持たない。つまりはそういうことだ。
そのような旨を回答すると、リラさんは苦笑して、
「ヨウさんは──」
「………?」
「ヨウさんは、ウルトラビーストについて、何か考えたことはありますか?」
「え?」
彼女が切り出した言葉。それは予想外のものでもあり、状況を除けば妥当と表現できるものでもある。ウルトラビースト。僕らが現在日々捕獲に取り組んでいる異次元の迷い子。それについて、僕がどう思っているのか。
「それは……ええと、特に何も」
「──え?」
予想外の回答だったのだろう。リラさんの目がやや見開く。
「正直なところ、迷惑とは思います。ですが、それはあくまでアローラが荒らされていることへの憤りであって、ウルトラビーストそのものを恨む気持ちはありません。
特別なポケモン、異次元から来たポケモンといっても、僕自身が特殊である自覚はあるので、特別云々で思うところはないんです」
「──」
「まあ、特殊なボールを使わないと捕まえづらいって言うのは、捕まえる立場からすると面倒ですけど……そのボールを見れば分かるように、絶対に無理なわけではないですし、僕からすると、って感じですかね。ほしぐも、いえ、ソルガレオもどうやらそうらしいので、興味を持ったことはありますが、それだけです」
「それは──」
リラさんが手のひらで所在なさげに彷徨わせていたボールを見つめながら告げる。
彼女が去った後、あの草むらはちょっとした騒ぎになった。無理もない。あの後で知ったことだが、リラさん属する国際警察において最大の脅威として扱われていたウルトラビーストが人知れず捕獲されていたと知れば驚きもする。
加えて、どうやらあのウルトラビーストとリラさん達とは並々ならぬ因縁があるらしい。僕はそこまで深く考えず、既に同じポケモンを持ってるからと、彼女が持つなら同じことだと、人のポケモンを対価もなく貰うわけにはいかないと。捕獲にかかった費用や労苦を知ってるのも助長していたのだろう。とにかく僕は、そのことを内々の話として、特段報告なりをしていなかった。面倒だったのも理由の一つであるのは否定しない。
そのポケモンが、巡り巡ってリラさんのモノとなった。動揺するのも無理はない。交換条件(?)の件もある。その時がいつなのかはともかく、リラさんからすると気が気でないはずだ。
「私は、違います」
「リラさん?」
「私は、このポケモンを見て、そして何よりこのポケモンを見た私を見た尊敬する人達の姿を見て、貴方とはまるで違う感情を抱きました。上手く表現することはできませんが、怖くなったんです」
「怖い?」
「はい。ヨウさんには話していませんでしたが、私には、昔の記憶がありません」
それはなんとなく予想が付いていた。リラさんはちょくちょくそれらしいやりとりをあの人としていたし、あの人が以前に売ろうとしていた情報とはそれに関することなのだろう。
いっそその時のやりとりを全て暴露しようかとも考えたが、それは流石に台無しかと思い直して続きを促す。
「覚えているのは、リラという名前と、そのポケモン。トレーナーであったこと。ホウエン出身であること。どこかで塔を守っていた経験があること」
「塔?」
「はい………それについても、心当たりができました。私は、フロンティアブレーンと呼ばれる存在であったようです」
煮え切らない返事だ。記憶がないのなら当然かもしれないけど、とてもじゃないが心当たりがあるような人の言葉に思えない。
そして何となく話の全容が掴めてきた。ウルトラビースト、記憶と来れば、思い当たる人物が身近にいる。
ウルトラホールには記憶の混濁を引き起こす作用がある。あのウルトラビーストは国際警察との因縁がある。リラさんの以前の記憶は存在せず、リラさんと当時の国際警察、クチナシさんとは何かしらの繋がりがある。いくら人の感情に疎くても、だからこそ勝手な推論を立てるのは苦手じゃない。
何より、あの人が確信を持って告げている。これまでの経験からして、この場合彼女の持つ情報に誤りはない。そして、その彼女がせめてもの情けと振り撒いた情報の断片こそが、今のリラさんを悩ませているのだ。
(………下手に改心した影響で、余計に面倒なことに──)
彼女の心境の変化は喜ばしいが、今に限れば厄介なことこの上ない。どうせ取り繕うのなら、リーリエのお母さん並みの慈愛を見せてくれれば面倒も無かったのに。
「ですが、この世界にそのような肩書きはあっても、そこに私の存在はなかった。
ヨウさんに今も捕獲に尽力して頂いてるウルトラビースト。それらと私は、根本は同じ。異界よりやってきた異邦人。だから私は、ほんの少し怖くなったんです。朧げとはいえ、自分の居場所であったはずのその場所に私が存在しないことを知って、異物として扱われることが、拒絶されることが怖くなった」
「…………」
「ずっと漫然とした恐怖がありました。今はどうしてか、私の手の内に収まったこのウルトラビーストが、かつてのように私を襲って、それで私はいなくなるのだと、変な表現ではありますが、この世界から弾かれてしまうのだと、そういう不安があったのです」
そしてそれは、今も消えていない。彼らと根本を同じとする自分は、彼ら同様この世界には馴染まない。
自分が異物なのは百も承知。でも自分は、お世話になった人達にまだまだ恩を返し切れていない。だからこそ怖い。いつかその時が訪れたら、私はただ、彼らに迷惑を──」
「──迷惑なんてことはありませんよ」
「………ヨウさん?」
失礼を承知で話を遮る。感情から出た言葉だが、それ故にこれは僕の本音でもある。
確かにリラさんは彼らに迷惑をかけたのだろう。しかしそれはあくまでリラさんの主観であって、彼らは迷惑だと思ったことはないはずだ。それくらいは理屈ではなく、ただただ彼らの目を見れば分かる。リラさんは彼らがリラさんを冷めた目で見つめていると勘違いしているようだけど、真実はきっと逆なのだ。
疑問の声を敢えて無視し、リラさんが立つフィールドの正反対に位置するよう移動し、そのままボールを取り出して目を合わせる。
「…………さて、と」
「ええと──」
「トレーナーとしての大原則。あの時以来ですが、やりましょう、リラさん」
有無を言わさぬ力強い口調で告げる。本音を言うと面倒だが、放っておいて厄介なことになるよりかはなんぼかマシだ。
それに、僕だってトレーナーの一人、それもこの島の頂点に立つ存在だ。あまり興味がないから表立って言わないだけで、僕だってあの場面で遠慮をした彼女に思うところはある。
普段から薄々と察していたが、リラさんはあまりにも優しすぎる。慎みはリラさんの長所、人としての美徳だが、同時に短所にもなり得ることを、相手の気持ち如何によっては失礼に当たることを叩き込んだ方がいい。そういう気持ちがあってもなくても、リラさんの内で酷い扱いを受けている恩師のために、是非。
(あの二人に限って、迷惑なんて、そんなはずはない。いや、あの二人だけじゃない。誰にとっても、きっと)
根拠は他でもない僕自身だ。客観的に見てリーリエの付き人、酷い言い方なら彼女のポケモン乃至奴隷のような扱いを受けていた僕は、彼女に対してどのような感情を抱いていたか。
僕ほど極端な例じゃなくても、彼ら二人を見れば分かる。ハンサムさんもクチナシさんも、根っこのところは善人だ。ウルトラホールの影響で記憶も故郷も失った少女の世話など、役職的にむしろ誇りに思っていてもおかしくない。
そして、もう一つの懸念。これについての回答は非常に簡単なことだ。何故なら──
「リラさんは、『アローラの風』という言葉を聞いたことはありますか?」
「………いえ」
「アローラの風習は、有り体に言って停滞しています。いつまでも古臭い習わしに従ってキャプテンなり島キングなりを定めるこのシステムを、悪習だと表現する人さえ存在する。
そこまでとは行かなくても、不満を抱えている人はそう珍しくない。その筆頭がスカル団。カプに選ばれず、何処にも居場所がなく滞ってしまった人達」
「…………」
「アローラの風とは、嵐の揶揄です。“いずれとてつもない何かが膨大なエネルギーと共に全てを変えてくれるだろう”という、前向きに後ろ向きな考え方。
世界に不満を持ちながらも、それを変えることが出来なかった人が、変えることさえ恐れた人達が、譫言のように呟いた言葉が、元々の語源と言われています」
いつかはアローラの風が吹く。過ぎ去ったその後は優しい世界が待っている。言葉の響きが気に入って、調べてみればこの始末。
それが悪いというわけじゃない。諺の語源なんて、教訓や反省から来るものが大半だ。そして、そんな起源を持つ言葉が定着している事実こそが、アローラ全体における望みを表している。
「アローラは、常に変化を求めている。潜在的に望まれている。黴の生えたこの風習を、徹底的に破壊できる人物こそが理想。
そしてきっと、僕や貴女はその類です。だから、貴女がこの世界にやって来た事を迷惑に思う人なんて、ここアローラには存在しませんよ」
「──」
いつか、僕の知る最強のトレーナーは語った。そうできる人が、自身にとっての理想のトレーナーであると。
故にこそ、彼女は博士を尊敬している。自分の意思で、この島の根底を覆してみせた人物として。そしてそれは、この僕も同じ気持ちだ。
変化のない人生は、人の心を容易く鈍化させる。僕が過去の自分を疎んでいるからこそ、彼女の言葉は見過ごせない。
彼女が迷惑など、あるはずがないのだ。たとえ最悪の事態があり得たとしても、僕は彼女がここにいることを嬉しく思う。
「それでもまだ、不安があるのなら。いくらだって胸を貸します。だって僕は、アローラのチャンピオンですから」
「あ──」
その言葉に、彼女は俯いて良く見えなかった綺麗な顔を綻ばせて、上気した頬を晒しながら僕を見つめ返す。
必然的に、視線が合う。その瞬間に狙いを定め、僕は意地の悪い笑みを浮かべながら手の平に潜ませていたボールをフィールドに投げ込んだ。
「任せた、ラランテス!」
呼び出したのは、あの時と同じ、はなかまポケモンのラランテス。無論偶然ではない、意図的なものだ。あの頃の彼女が腕試しだったと言うのなら、あの頃と同じ、このポケモンこそが相応しい。
その意図を汲んだのか、対する彼女は遠慮がちに、それでもしっかりとした意思を持ってあの頃の先鋒、フーディンを呼び出す。かなり強引な申し込みだったが、どうやら勝負には乗ってくれるみたいだ。
「では、ルールはあの時と同じ──」
「──いえ。使用するポケモンは、3匹でお願いします」
力強く告げられたその言葉に、一瞬、呆気に取られるも、すぐにその理由を察して、気を引き締めて了承する。
本当に、良くも悪くも影響力の強い人だ。あの人には、そんな自覚はないんだろうけど。
それと、彼女にしてみれば、せっかくの決意に水を差すようで恐縮だが──
「フーディン、『サイコキネ──」
「纏めて『ソーラーブレード』。初動が遅れてもいい。全部切り裂いて」
『──しゃぁららぁぁああぁあ!!!!』
──どれほど決意に塗れてようと、僕の方が、圧倒的に強い。
フーディンの思念が、生命の息吹に飲み込まれ、霧散し、圧倒される。それはまさしく自然の摂理。賢者がどれほどの知恵を絞ろうと、大自然には敵わないことを体現せしめた決定的な一撃。
「………では、次のポケモンをお願いします」
「っ………」
一気に現実へと引き摺り落とされた彼女が、気絶したフーディンを自らのボールへと戻す。
そんな光景を眺めながら僕は、あの人が理想としたトレーナーのように、リーリエが羨望した肩書きのように、僕が成し得る最強のトレーナーとして、その責務を全うすることを誓うのだった。
なんか無駄に長くなった。アローラの闇が無駄に深すぎるのが悪い。
あとリラさんがなんか妙に書きやすいんだけど、書いてるうちに変態にならないか心配です。
また、レジロックが飛んでるのはポケスペ仕様だからです。