リーリエ、カムバック!   作:融合好き

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三章クリアしてぐっさん引いたはいいけどスキルマキツ過ぎて草。一時間周回し続けて炉心一つ落ちるかどうかってやばない…?

あと地味に杭がキツイ。ふじのんで全部食われたのに。というか杭は一騎辺りの消費量が激し過ぎる。

あ、三章は面白かったです。


ここは つりの めいしょ

 

 

自分が世間一般の基準から大概逸脱している自覚はある。

 

だってそうだろう。たかが一年、されど一年。たったそれだけの期間で一人前として認められた。それだけならまだ言い訳が利いても、尊敬していた彼らを差し置いてこの島の頂点に据えられるなど、よほどの人物にしか成し得ないことだ。

 

僕自身、時々自分の才能を恐ろしく思うことがある。当然のように持ち上げられて、当たり前のように驕り、必然的に味を占めて、また増長し、いつしか自分を見失う。そうならずに済んだのは、側に彼女がいたおかげだ。

 

でも、だからこそ、僕は自分の才能を評価する。自分が薄いこの僕が、それでも自分を見失うほどの才能。そんなものを誇らずして、僕は何を誇ればいいのか。彼女が憧れ賞賛したこの力を、僕は誰より肯定する。誰に対しても遠慮なく振る舞う。

 

遠慮とは隣人を気遣うためのものであって、敵に対してするものじゃない。胸を貸す、という言葉に嘘はないが、手を抜くことは心情に反するのだ。

 

(『ライコウ』って呼ばれていたかな………雷光? 見て感じて接した限りはでんきタイプ。傾向は高速特殊型──それもびっくりするほど正統派。疾さは十分火力は十二分、そしてレベルは最上級。

 

でも、それでも。僕の方にまだ分がある)

 

対面の敵、迅雷の獣が放ったやばそうなわざ(シグナルビーム)をラランテスの鎌で多少強引に跳ね返し、返す刀で『しんくうは』を放つ。わざとして覚えているわけじゃないから、あくまで擬似的なものだ。牽制にもならない。

 

反射の仰角については殆ど勘だが、この手の感覚任せで僕がミスをしたことはない。僕のポケモン達もそれは重々承知しているのか、みんな素直かつ忠実で助かるばかりだ。

 

「次は……ちょっと左前方、20度ちょっとの所に『はなふぶき』」

 

正式なわざでもなし、威力や命中精度は期待していない。当然、あっさり躱されたので行動を読んで範囲攻撃。そうして少し足止めをして、そこを壁に見立てて『かわらわり』。我ながら異様なセンスと行動の割に最終的にはゴリ押ししているのがらしく(・・・)てなんとも言えないが、これが案外彼女のような人物には良く効く。

 

なんだかんだと、レベルは正義だ。一朝一夕では覆せず、はっきりと差が出るバトルにおける重要なファクター。戦争の基本は力量差、物量差で圧倒すること。ならば最近オープンレベルが9割近くまで到達した僕は、それを前面に押し出すことこそ利口な戦い方であろう。

 

(まあ、あんまり『利口』と表現したくはないけどね。結局はゴリ押しだし)

 

仮に同じ条件の下、同じレベルのレンタルポケモンで挑んだところでそうそう負けない自信はあるが、実現しない可能性については考えない。分からないことを考えても、ただでさえ鬱屈した思考がややこしくなるだけなのだ。

 

(……でも、彼女は)

 

加えて、考えたくない、というのもある。僕は観察眼もそれなりにある。ある程度の時間さえあれば、マオの時のように見るだけで大雑把な実力を測れたりもする。

 

だから分かる。彼女は自分のポケモンを見ていない。視界に入っていないわけじゃないが、戦闘中は常に別のものを見つめている。

 

今も細部まで突き刺さる視線。正直に言って不快極まりない。つまりはそれだけ警戒されている、評価されているということでも、僕からすれば面倒なだけだ。

 

特に僕は、彼女とは逆に相手のことを基本見ない。だからあの人のバトルスタイルと違って参考にさえなりはしない。そういう意味では、彼女と戦う利点は経験値以外には何もないように感じる。そういう問題ではないことも重々承知しているが。

 

そう、問題なのは彼女がそのバトルスタイルを得るまでに重ねた研鑽。僕とは違う、あの人とも微妙に違う、ましてグラジオやハウなどにも当て嵌まらない、あまりに対人に特化し過ぎているその戦闘を見ると、条件を互角にした際に、どこかで足元を掬われそうで恐ろしいのだ。

 

(まあ、でも)

 

「ラランテス、そこで『タネばくだん』。方向は正面と右斜めに一つずつ」

 

『しぃゃらああアァァアア!!』

 

モーテルのフィールドを自分の庭のように縦横無尽に駆け抜ける獣の動きを牽制するよう二つの爆弾を設置する。

 

本来なら直接相手にぶつけるわざ。それも威力や攻撃範囲こそ広いものの、範囲外故に多量にばら撒けないためこっちも命中精度にはあまり期待できない。しかし、こういった扱いにセンスがいる、才能のみを必要とするムラのあるわざは、むしろ僕の得意分野だ。

 

ライコウの前肢に意識を集中する。これまでに観察した結果に違わぬ瞬発力を誇る足。その動きの予兆をなんとなく予想し、それらしく見極め、ざっくりと妨害する。

 

言葉で表現すると途端にチープ、どころか馬鹿にしているとしか思えない対応。しかし、僕に理解できればそれで問題はない。リーリエに付き従っていた時でも同じ。これは、僕の戦いだ。

 

リラさんの口が動くのが見えた気がする。視界には入っている。けれど意識は向けない。どうせなんとなくやりたいことは見えてくる。なら、対人に特化した彼女の動きは、時にフェイントなどを交えてくる彼女の指示などは、見るだけ僕の勘が鈍るだけだ。

 

(………)

 

ライコウの耳が僅かに震える。帯電する体躯を持つポケモンの毛が逆立ったり時に重量を無視して弾かれるよう動くのは珍しくもないが、僕は違和感を覚えた。根拠としてはそれで十分。

 

なんか対処される気がするから、それを前提にそれっぽく指示をする。どうやって対処するのかは考えない。時間の無駄だ。それなら、結果的にどんな形で対処するかを考える。

 

(………あ)

 

不意に。

 

『タネばくだん』を放った二箇所の中間、意識せずとも何故か僕が残してしまった僅かな安全地帯に先行放電(ストリーマー)が疾る。

 

それを視認し、そういえばあのポケモンの火力、電気量は雷に相当するものだったと今更ながらに思い出し、その場所が落下点(・・・)だと当たりをつけた僕は、ラランテスが持つ最後の適用わざ。一般のトレーナーにしてみればまた扱いが難しいそのわざを、まるで地面に仕掛けた地雷の起爆スイッチを押すような気軽さで、しかしそれに、僕の持てる確かなゼンリョクを以て告げた。

 

「ラランテス、『しぜんのちから』!」

 

──ポケモンのわざは、大きく分けて二つに分類される。

 

即ち、自らが放つか、どこかから持って来るか。僕が指示した『しぜんのちから』は後者に分類され、その中でもかなり特殊なわざ、扱いに困るわざとして知られている。

 

そもそもからして自然とは、人工物を含めたこの世のあらゆる物質に該当する。とても自然のものとは思えない精密機械でさえ、ポケモンからすると自然にできるもの。

 

この世には、ポケモンと呼ばれる不思議な生き物があらゆるところに棲んでいる。故に、たとえ鬱蒼と生い茂る木々を切り倒して燃やして溶かして加工して出来たテーブルでも、彼らにとっては等しくあってもおかしくないもの(・・・・・・・・・・・・)なのだ。

 

(それが分かっていない人ばかりだから、人の常識を当て嵌めるから、このわざを理解していない人は多い)

 

しかし、それくらいはなんとなくで文字通り適当に扱えないと、この手のわざに対する対抗手段がなくなってしまうのもまた事実だ。

 

ラランテスが自身の鎌を大地に突き刺すと、それを震源としてフィールドが震撼する。

 

地面を均し、最低限の整備だけが整えられた地面。偉大なる大地の性質をそのままに、その力を借りて敵を蹂躙する。

 

僕はそれを、わざとは定義していない。何故ならこの現象はあくまで言葉通り自然の力を借り受けただけで、わざとして成立する範囲は借り受ける段階までで、それ以降は何が起きるのか把握しきれないからだ。

 

でも、敢えてその現象に名前をつけるとするならば、どんな因果か、非常に似通ったわざがこの世界には存在する。特に名前の捻りもない、大いなる『だいちのちから』。奇しくもこの状況を打開するに足る、あのポケモンの苦手とするじめんタイプのわざである。

 

「ライコウ………!」

 

「ふぅ……」

 

声に紛れるよう小さく息を吐き、すぐに整えてようやく彼女を見る。

 

感触は悪くない。だんだんと意識がリーリエから勝負の方へ向いてきてオープンレベルも高まっているし、人としての相性もかなり良い方だと言える。実際、僕が普通に圧倒しているし、その評価は正しいのだろう。

 

ただし、それでも彼女の戦意が萎える様子は無い。むしろその逆、滾る闘志がぼんやり視認できるほど。いや流石の僕もそれを現実のものとして捉えてるわけじゃないけど。

 

だけど、せっかくやる気に満ちているところ悪いが、立場的にも心情的にも、これだけは言っておかなければならないことがある。

 

「明言こそしていませんでしたが。一応、胸を貸す、という名目で挑ませていただきましたので、とりあえず一つ。

 

貴女のスタイルを否定するつもりはありませんが、はっきり言って貴女は僕とは致命的に相性が悪いですね。ですが、それは逆に貴女が仮想敵とするあの人とは相性がかなり良いと思います。僕があの人に対抗、乃至圧倒できるのは覆せない地力の差があるからであって、僕は人を観るのが苦手なので」

 

「………それは、どういう?」

 

「えーと、ですね。これは彼女に限らず、ベテラントレーナーの人達に共通することなんですけれど、彼女達を支えるのはいわゆる『年季』です。

 

とにかく無駄がない、と言えばいいんでしょうか。これは僕個人の捉え方ですが、動作が洗練されてくるとポケモンとトレーナー間での意思疎通の過程がいくつか省略されてきます。具体的には指示と行動の間にある『受諾』『選択』『動作』などに関する思考が省かれて、裏打ちされた経験が先に出るようになるんです」

 

「経験?」

 

「はい」

 

返事をしつつも、彼女にだってその傾向は感じられた。特に咄嗟の判断による指示出しでは顕著に表れて、それまでの比較的拙い動作とのギャップから戸惑ったのも一度や二度では済まない。技術によって得た不自然な動作(・・・・・・・)。それが奇抜であればあるほど、僕はそれを苦手とする。

 

しかし、それも彼女の記憶がないというのが事実なら納得できる部分もある。記憶を失ってなお控えめな性格の彼女が『腕の立つ』と自称するレベルなら、相当な鍛錬を積み立てて来たのだろう。それは、僕にどれほどの才能があったとしても、今の僕には絶対に覆せない差だ。

 

「それがごっそり削がれたであろう今の貴女にこれを言うのは非常に酷なんですが、貴女はきっと、それさえ取り戻せたのなら、あの人にも勝てる……と、思います」

 

「それは、その、本当ですか?」

 

「少なくとも、貴女が僕レベルに地力を上げるか、僕のやり方を模倣するよりかは可能性があるはずです。

 

僕と彼女はやり方は対極、それ故に相克の関係にあります。ですので、どちらも得意で苦手なのです」

 

ただ、今語ったことは本当だが、この話はこれだけでは済まない。

 

これではまるで、あの人が僕と真逆。つまり、才能がまるでないように聞こえてしまうかもしれないが、それは違う。彼女には間違いなく才能がある。それも、極めて特殊で、本人が認めるほどだいぶ極端で捻くれたものが。

 

でも、このことは僕が彼女から得た数少ない勝利報酬の一つだ。お世話になっているとはいえ、それをリラさんに語る筋合いはない。僕が如何にトレーナーとしてだいぶアレでも、最低限のマナーくらいは持っているのだ。

 

(あとはまあ、もう一つ気になったことがあるけど………まあいいか、面倒だし)

 

「ですが、可能性があっても、実現できなければ意味がない。あの人は『おだてる』だけでいい、って言ってましたし、僕も正直それで済むのならそれでいいかな、なんて考えてはいたんですけど、あの様子を見る限り、貴女はそれじゃあ満足しない、できない。ですよね?」

 

「…………はい」

 

「最終的な判断はお任せしますが──いえ、やっぱり何も言いません。これについては、僕が口を出すべきではないでしょう。

 

ですが最後に。初めて戦った時にも感じていたことですけど、直っていないみたいですのでこれだけ。

 

宣言します。次のポケモンが現れて5秒、そのタイミングで大技を放ちます。どうにか対処してください」

 

「──え?」

 

「やり方は問いません。わざを妨害するも良し。迎え撃つのも良し。躱すのも良し。逸らすでも守るでも何でも構いません。では」

 

「え、え。その、ちょっと──」

 

戸惑う彼女を無視し、手首に嵌められたリング近くに手を添えて力を込めていく。薄々と気付いてはいたが、今日の彼女は妙に感情的というか、自然な感じと呼べばいいのか、普段と比べて気を張っていない分、動揺が目に見えて分かりやすい。

 

記憶もなく、着の身着のまま知らない土地に投げ出されて、なおかつ自分を異邦人だと決めつけて常に周囲に怯えている。それがおそらく彼女の素。でも、普段はそれを隠すために見栄を張る。……付け込めば圧勝できそうだが、それは互いに望んでいないから除外で。

 

(とはいえ、それが読めたところで戦闘に影響はない。ただ、僕が彼女に対して多少の親しみが湧いただけで、結果が変わるかは彼女次第だ)

 

正直、期待はあまりしていない。直ってないと発言したものの、それを指摘した覚えもないし、前戦ってから一月も経っていない。彼女も彼女で、記憶が無いまっさらの状態からここまで持ち直したのなら、今の彼女なりのバトルスタイルを確立しているはず。一朝一夕で改善しろと言う方が間違っている。

 

だから、できなくても失望はしない。ただ、そうであるなら何も変わらないというだけだ。

 

「──お願いします、ラティオス──!」

 

やがてしばらくして、本当に地味に時間を掛けつつしかも微妙に躊躇いながら彼女が呼び出したのは、先ほど呼び出したライコウと呼ばれた名前のポケモンと同様に見覚えも聞き覚えもなく、そもそも僕があまり他邦のポケモンに詳しくないと言っても、それでも注視するほどの存在感を持つポケモン。

 

(エスパーと………ひこうかな、それかドラゴン辺り? 見た感じ硬そうだし………いや、耐えてくれなきゃこっちが困るからいいんだけど、まさか奥の手が素で耐えられそうなポケモンとは──待てよ)

 

雑に考え、即座に思考を止める。今にして思えば、そもそもの前提からして違っていた。

 

僕はこう見えて気分屋だ。今こそリーリエという絶対の礎の下動いているものの、いつもは割と気の赴くまま行動しているし、今だってなんとなく戦っていて、それっぽい思いつきで挑んでいる。

 

彼女が積み立てた鍛錬とは違う、実戦に基づいた直感頼みの『へんげんじざい』。それ故、対策も気分次第。相性なんて有って無きが如く。有利不利などその場で決める。ただ、この場合は──

 

(………今は深夜。これなら、ここでも──)

 

視線を対象に『ロックオン』し、一瞬だけラランテスとアイコンタクト、その意思を伝え、実現のために力を込める。

 

両手を突き出し、そのまま右下に。左手を左上へと掲げ、その状態で両手を肘から折り曲げ『Z』の字を形成する。

 

「え──」

 

リラさんの表情が怪訝なそれに変わる。当然か。くさ単体のラランテスに持たせるものとして、このポーズはあまりに不適格だ。

 

この島の出身でない彼女はZわざを使えない。必然、Zわざについての知識が希薄となる。それでも、このわざをZわざにした場合の扱いには相当のセンスがないと不可能だろうが、その点僕は問題ない。多分。きっと。

 

「3、2。…………ラランテス」

 

『じゃらぁぁあああ!!!』

 

時間を見計らい、段々と口調が荒くなってる『やんちゃ』なラランテスへ力を注ぎ込む。

 

いつものことながら、女の子なんだからもう少しお淑やかにできないものか、なんてどうでもいいことをこんなタイミングでちょっとだけ心配になる僕なのであった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

(──来る)

 

肌がひりつくような感覚。闇夜に浮かぶ十日夜の光が、突如として消えたような錯覚に陥る、それほどの狭窄感。否が応でも目を離すことができず、まるで視界そのものが彼に囚われてしまったように。

 

彼が纏う超常的なオーラ。人を惹きつける雰囲気。見てわかる、肌に感じるほどの異様な才能。それが余す事なくこちらに向けられている。そのことが、私には何よりも恐ろしい。

 

しかし同時に、どうしてか望ましい。理由は分からない。この感覚には覚えがある。これは、おそらく──

 

(これはきっと、私の記憶の──)

 

──才能。

 

私が彼に惹かれた理由。憧憬を抱いた理由。チャンピオンとしての立場以上に、個人として敬意を払う理由。

 

そうだ。かつて私はそれを求めていた。彼が垣間見たかつての私──記憶を失う以前の私は、いつも満たされない気持ちを抱いていた。

 

今はそうじゃない。なんとなくわかる。欠けた器に、収まりきらないほど膨大な才能が注がれて溢れ出る感覚。だからこそ、今更になって、私は記憶を取り戻したいと願うようになったのだから。

 

(迎撃する? ──いえ、それができるなら苦労はしない。ただでさえ『ソーラーブレード』程度(・・)に梃子摺っているのに、それ以上は可能性すら望めない。なら………)

 

幸いにも、ヒントは彼自身から与えられた。残酷なまでに示された才能の差。その上で期待されている事実が、僅かな可能性を指し示した。

 

故に私は、その期待に応えよう。私が持てる才能を。私が無くした経験に換えて、その究極を、私の理想を体現しているあの彼を見返そう。

 

私はリラ。ただひとりのポケモントレーナー。空っぽの玉座で見栄を張る、異世界における実力者(タイクーン)

 

そうだ。私は、その名前に恥じぬよう、自分にできるゼンリョクで、

 

「ラランテス、『むげんあんやへのいざない』!」

 

「──ラティオス、『まもる』!!」

 

(──確実に、凌ぐ!)

 

指示は同時に。動作は互角に。しかし結果は対極に。

 

エスパータイプを保有するポケモンは、特有のオーラを纏うためにある程度のセンスがあればそれを『みやぶる』ことは容易だ。従って、彼がゴーストわざで攻めて来たこと自体に驚きはないが、明らかに適用範囲内、しかもあのポーズからどうやって繰り出したのかは興味がある。

 

可能性としては先ほど使用した『しぜんのちから』。思えば、先ほど街中で使用したはずなのに現出したわざが『トライアタック』ではなかった。『しぜんのちから』が『ねこのて』や『さきどり』同様、相当扱いが難しいわざの一つだと知ってはいるものの、使い熟すとこうまで読めないとは。

 

くさタイプのわざならあわよくば、という楽観は消滅した。彼が繰り出した『大技』は、『まもる』によって軽減してなお、私如きを斃すにあまりある。

 

(だったら──!)

 

この期に及んで甘えた考えを、否、出し惜しみしようとした躊躇いをゼンリョクで引き剥がし、握り潰すほどの力で掲げて持てる才能全てを注ぐ。

 

私の才能など、かつてどこかに置き忘れた出涸らしだ。だけど今は、そんなかつての私さえ霞むような才能がすぐ近くにある。

 

才能とは互いに高め合うもの。切磋琢磨し、競い合い、より高次元へと昇華されゆく。この短時間で果たしてどこまで彼に引き摺られたか、この攻防でその影響を最低限、最大限のカタチにして見せる!

 

「あ、あ──ぁぁあぁぁああああ!!」

 

『フォォオ──!!』

 

サイキッカーである私の思念を、エスパータイプを保有するラティオスの元へ直に届ける。交信の際、出力差から頭痛がするも、怯むわけには断じていかない。

 

ただでさえ不利なのはこちらだ。多少のかなりの相当な覚悟がなくては立ち向かうことすら叶わない。慣れ親しんだはずのメガシンカも、こうまで早急にやるとなれば無茶になる。

 

しかし、無茶も通せば道理と化す。異様な疲労感と引き換えに共鳴するメガストーンがラティオスの身体を覆い尽くす。我が意思に応えんと、己が形状を最適なカタチに変えていく。

 

(っ、ですが──!)

 

結果として生じたのは、押し返す程の余力は無いが、辛うじて凌ぎ続ける事は不可能ではない――そんな拮抗状態。

 

だが、この危うい均衡も、いつまで保つのか。全力で力を放出して攻撃をレジストしながらも、脳裏には一抹の不安が過ぎる。眼前を埋め尽くす闇色の波動は尽きる気配が無く、もはや視界全体が暗黒に塗り潰されている状態だ。

 

私たちの力を合わせる事で今はどうにか対抗出来ているものの、我々が生身である以上、保有する力は当然の如く有限。この調子で放出を続けていれば、遠くない未来に限界まで消費し尽してしまう。深淵を思わせる才能の外観と同様、その保有量が底無しの無尽蔵であれば――遅かれ早かれ呑み込まれるという未来は変わらない。

 

果てしなく続く殺気の攻勢を前に、胸に抱いた危惧が現実味を帯び始めた、その時――唐突に、あるいは当然に、彼にとってはおそらく必然に。その追撃(・・)は訪れた。

 

『シャァォラァアアア!!』

 

「っ──!?!」

 

『フォ──!』

 

(な──)

 

そんな馬鹿な──視界に映った信じがたい光景に、場違いにもそんな感想が浮かぶ。

 

放出系のわざの殆どは、そのわざを放出し終えるまで動けない。いくらZわざだからと、その前提が変わることはない。でも、目の前の黒き球体は未だ蠢き、私の視界を染め上げているのに、どうしてラランテスがラティオスの側にいる──!

 

「その疑問は尤も。ですが、そう難しいことではありません。このわざの元になった『シャドーボール』は、しぜんのちからで呼び覚ましたもの。故に、本体(・・)がたとえどうなろうと、わざそのものには何の影響もないのです。

 

──ラランテス、『つじぎり』!」

 

『しぁャァァア!!』

 

(ま、──)

 

「ラティオス──」

 

まずい、このままでは間違いなくやられる。タネが割れたのもこの際どうでもいい。どうにかしないと。どうにか、どうにか……ああ、これなら!

 

ほぼ反射的に指示を出す。失った経験からだろうか、上記の思考が過ぎる前に、どういうことか呼び掛けは叶っていた。なら、私は、その足掻きを実行に移すのみ!

 

「──ゼンリョクで、『ラスターパージ』!」

 

『フォォォオ!!!』

 

対策と呼ぶにも烏滸がましい、全方位への無差別放出。どうせ読み合いでは負けるからとある種の諦めに近い感情と、彼なら生半可な攻撃は潜り抜けるだろうという根拠のない信頼が合わさった結果生まれたやけっぱち(・・・・・)

 

それが良かったのか、悪かったのか──とにかく、結果として。三つ巴のエネルギーが交錯したフィールドには、文字通り目を覆うほどの衝撃と、凄まじい『ばくおんぱ』が響き渡った。

 

「くぅ………」

 

「む………!」

 

繁雑するフィールドとは真逆に、戦況には静寂が満ちる。当然だろう。なにせこの爆音と砂煙だ。指示を出すどころの話ですらなく、しばし視界や呼吸すら制限する必要がある。

 

そのまま互いに沈黙を保ちつつフィールドを見守り続け──視界が晴れたその先には、クレーターのごときフィールドと、その中央に折り重なる互いのポケモンたち。

 

「…………」

 

「…………。………ぷっ」

 

無言で顔を見合わせ、彼が浮かべるバツの悪そうな顔を見て、あはははは、と快活に笑う。

 

流石に少しはしゃぎ過ぎた。夜中にやるような騒ぎじゃないし、いくらなんでも無茶をし過ぎだ。夢中と言えば聞こえはいいが、現状は単なる暴走、歯止めがきかなくなっただけの話。

 

表情こそ乏しいものの、伊達にここ数ヶ月苦楽を共にしたわけではない。ここまでするつもりではなかった──ありありと読み取れるようになったそれがおかしくて、何より嬉しくて。

 

たった一つ。たったの一匹。ほんの僅かなカケラなれども──彼の本気の一端に、互角以上を見せることができた。それで十分だ。

 

「………なんでしょう。褒めるのも色々とおかしいですし、悔しがるのもなんか違う気がします。こんな時、僕はどうすれば──」

 

「ふふふ………そうですね、それは後で考えるとして、まずはポケモンセンターにでも──」

 

「嫌です。こんな時間からあの人と出会いたくありません。あの人は色々と便利なのでよく話すんですけど、それでもあの人に対する苦手意識が消えたわけでもないので」

 

「苦手意識……ですか? あの、今更ですが、チャンピオンはあの女性とどのような関係で?」

 

「ほんの数日……いえ、一日でも早く貴女がアローラに来ていたら、僕の立場に収まっていたかもしれない人です」

 

「え? それは──」

 

「ああ、でも確かウルトラホールに携わった人物が必要なんでしたっけ。なら、どちらにせよ呼ばれていたのかもしれませんね。尤も、ウルトラホールについてなら、あの人以上に詳しい人なんてリーリエのお父さんくらいしか思いつきませんが」

 

続けられた言葉の真意はさておいて、彼の言葉が正しければつまり彼女はここアローラの元チャンピオンということになる。なるほど、道理で──って、え?

 

「え? ここアローラ初のチャンピオンに君臨したのは、ヨウさんのはずでは……?」

 

「ですから、そういうことです」

 

「…………冗談、ですよね?」

 

無礼を承知で聞き直す。とてもじゃないが信じられない。

 

アローラリーグ誕生の経緯とチャンピオンに輝いた少年の存在は知っている。アローラは本土においても有名な観光地で、大々的な事件としてニュース等に取り上げられていた。

 

だから、彼のことは島に来る前から知っていた。そして実際に出会って度肝を抜かれた。同時に納得をした。この少年なら、ここアローラに限らずとも、どの地方でもチャンピオン足り得るポテンシャルを秘めていると。

 

この素晴らしい御人は、きっと誰に対しても強大で偉大にあり続けると。

 

「──貴女に限った話じゃないですけど、みんな僕を何だと思ってるんです?」

 

「それは、その……天才とか……」

 

「異端でも異常者でも、いっそ化け物でも怪物でも、今は遠慮せず好きなように呼んで構いませんよ?」

 

「い、いえ──!」

 

「………まあ、そのお気持ちも理解できます。僕自身、己を最強だと信じて疑いませんでしたし」

 

そんな発言と共に乏しい表情を僅かに歪ませて遠くを見た彼は、その後直ぐにこちらへ振り返って「いえ」と呟き、

 

「それを信じていたのは、僕では──」

 

その言葉が私に届く直前に、騒ぎを聞きつけたであろうハンサムさんがいつもの調子でフィールドへ駆けつけ、空気が良い意味で弛緩する。

 

気づけば峠もとうに超えていた。ただでさえ疲労困憊の今、明日以降の仕事にも響くので、強引にでも区切りがついたのは有り難い。

 

でも──

 

(最後の言葉は、どういう──)

 

表情の乏しい彼が、はっきりとわかるほど優しい顔で、思い耽っていたその姿。

 

明白に、私とは無関係なのだとだけ分かるその呟きが、一切の衝撃もその他の感情も吹き飛ばして、どうにも胸の奥底で痼り続けるのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

(──私は、何をしているんでしょうか)

 

 

幾度と無く過ぎった疑問が、力無く脳を通過する。

 

最近、物思いに耽ることが多くなった。不自然に思われないように垂らした釣り糸も、既に獲物については想定さえもしていない。

 

あれだけ好きだった海釣り。偉大なる大海原の潮風を存分に受けても、最近は何も感じなくなってしまった。否、楽しいとは感じているのだ。ただそれが、それ以上の衝撃にいつも塗りつぶされて、どうにも味気なく思えてくるだけで。

 

 

(──かれこれ一年。みんな、心配しているのかな……)

 

 

不意に過ぎったのは、コニコにいるみんなのこと。愛すべき妹達、愛しい両親、大好きな親友。尊敬するお姉さん。彼女たちの顔が過ぎっては消えて、しかしそれ以上の衝撃に打ち砕かれる。

 

それを誤魔化すために釣り糸を垂れて、かれこれ既に一年は経つ。幸い、この一年に私の肩書き(キャプテンとしての私)が行動の支障になることはなかったが、それも今後はどうなるか。

 

 

(──………?)

 

 

そうこうしていると、突如、無為な時間をぶち壊して、垂らした釣り糸とは無関係な場所から、とあるポケモンが飛び出してくる。そして、驚く。

 

 

(──あれは、カイリュー?)

 

 

現れたのはなんと、ドラゴンタイプの代表格とも呼べる知名度と実力を誇るポケモン、カイリュー。ここポニの険路にも野生の個体が存在している事実は知っていたが、まさか本当に出会うことができるとは。

 

 

(──でも、あれ?)

 

 

反射的にボールを掴んで身構えるも、直ぐに様子がおかかしいことに気づく。

 

襲われたにしては状況がおかしい。そもそもカイリューは比較的温厚な性格として有名なポケモンだ。人間に匹敵する知能と、比較にもならない圧倒的な暴力を有し、それでもなおヒトと正しく歩み寄ろうとする偉大なる海の化身。

 

そうだ。おかしいのはそこだ。そんなポケモンがどうしてこんな人前に姿を現して、あまつさえ、どうしてまるで圧倒的な暴力で吹き飛ばされたような体勢で岩に凭れ掛かり、そんな無様を晒している──!

 

「どうしたんだ、オイ。てめぇ、まだまだ俺は、ちっとも壊れちゃいねぇぞ!」

 

その直後、鳴き声さえ発せないカイリューと、息を飲む私の空気感を破壊するような、暴力的な言葉が響き渡る。

 

非常に見覚えのある人物だった。ともすれば私達からするとチャンピオンである彼よりも有名な、しかしここ一年の間にすっかり息を潜めた人物。

 

島に見捨てられたアウトロー集団、スカル団の頭領であるグズマ。そんな彼が、どういうことかかつてのような衝動を露わにして、でも何故かこんな人目につかない場所で当たり散らしている。

 

「ん? テメェは確か……まあいい。ソコソコ腕の立つトレーナーが二人。それがこんなトコで、こうして目が合ったんだ。

 

──ちょっとだけ、俺の憂さ晴らしに付き合ってくれや。なあ、キャプテンさんよ」

 

海の化身を殴り倒した暴力の化身が、凶悪な顔で私に吠える。

 

しかし。私は、どうしてかその顔はまるで──そう。まるでこの場所に生息しているグランブルのように、あるいは子どもの癇癪のように、どうにも虚しく耳に届くのだった。







さて、息抜きはそろそろ控えて周回地獄に戻るか………。

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