「とりあえず、話は伺いましたが………なるほど」
「ああ? 何かわかったってのかよ。テメェがよ」
「いえ、逆です。何もわからない、ということがわかりました」
「………なんだそりゃ」
大柄な青年が、その言葉にがっくりと肩を落とす。
やや不謹慎ではあるものの、対戦時にはあれほどの猛威を奮っていた彼が、私の言葉一つで翻弄されるというのは実に気分がいい。特に最近はそれが通用しない相手に惨敗してこんなところで燻っていたのもある。ともすれば、普通に敗北した事実さえも覆せそうな勢いだ。
(しかし、普通に難しいお話でしたね……)
意外、と言っては失礼だが、スカル団の創立にそんな事情があったとは想像もしていなかった。浅慮だった、とは違う。これは単に私が彼ら彼女らのことを侮っていただけだろう。
実際、思い返せば気づいていた人はいるはずなのだ。彼が例に挙げたハラさんを代表に、かなりの急ピッチで島を根底から塗り替えたククイ博士。町を占有されたにもかかわらず何故か不干渉を貫いたクチナシさんと、疑問に思うべきこと、考えるべきことはいくつもあったのに。
世に蔓延るトレーナーの数と、キャプテンの座に収まる人間の数は多少では済まない差がある。才能がそのまま資格に直結しない、というのも難しい要素だ。ライチさんが頻りに最強のトレーナーとして名を挙げていた虫使いの頂点たる彼。そんな彼でさえカプのきまぐれによってその座を弾かれるのであれば、何をどう頑張れば
(………結局のところ、そういうことですよね。この人がこうまで拗らせたのは)
優しい人、だったのだろう。今でこそ見る影もないが、幼い頃はさぞかし親に好かれる『良い子』であったことがありありと想像できる。彼に限った話ではない。かつてスカル団と呼ばれた組織にいる人たちのいくらかは、こういう事情ややりきれない思いを抱えて過ごしていたのかもしれない。
私はどうだったろうか。否、考えるまでもない。私は恵まれていた。運が良かった。羨まれる立場にあった。それだけのこと。とはいえ否定される謂れもない。
だから、私には彼の苦悩は理解できない。彼がどんな思いでスカル団を統べていたのかも同様に。慰めや同情は彼自身が拒むだろう。彼自身、あるいは客観的にも彼の行動は決して良い行いであるとは呼べないのだから。
(『良い子』ではダメだった。だからこそ、彼はそんな自分を疎んだ。その結果得られたのが落ちこぼれのレッテルと、スカル団という現実。いやはや、実に面倒なお話です。もっとどうしようもない理由であれば、私も存分に弄ることができるのに)
そもそも私は賢者でも何でもない。しまクイーンの中でも特に聡明なライチさん辺りならともかく、私ではどう足掻いても彼が納得する答えを出すことは不可能だろう。
(…………でも)
どうしてか、
おかしな話だ。年齢も状況もスケールも関係性すら異なる人間同士でありながら、こんなところで共通点が生まれる。それこそ人間らしいと表現すればいいのか。『あまのじゃく』な私にとっては、実に難儀なことだ。
「結局のところ、貴方はどうしたいんですか?」
「………ああ?」
「まさか解散したスカル団を改めて、なんてことはないでしょうし、話を聞いてるとどうにも目的が見えてきません。
順当に考えるなら、貴方はハラさんに、いえ、周囲の大人たち全員に対して八つ当たりなり報復なりを挑んでもおかしくないというのに、貴方はそうはしなかった。
キャプテンである私を羨んでいるわけでもない。最初はそれを疑いましたが、貴方のバトルを見ればすぐ、そうでないことくらいはわかります。
そう、貴方はまるで、まるで全てを諦めたようにも」
慌てて口を抑える。失言だった。いくらなんでも、この発言は失礼極まりない。
彼が私なんかより遥かに苦悩していることは、こうして断片的に語られた話だけで痛いほど伝わってきた。確かに理解はできないのだろう。私とは立場から違いすぎて、共感することは不可能に近いのだから。
しかし、だからといって彼を小馬鹿にすることは人として最低の部類に入る。単に発言だけならそういう意図は見えないかもしれない。でも、今の私は一瞬でも間違いなく彼を『愚者』として認識してしまった。早く謝らないと。
「ご、ごめんなさ──」
「いや、いい。俺様も、分かってはいるんだ。でなけりゃ、こんな辺鄙なトコまで来たりはしねぇ。
諦めたってよりは、馬鹿馬鹿しくなった、ってのが正しいな。──誰よりも認められたかったヤツに、あんな顔で謝られたらよ」
「………っ」
予想だにしなかった発言を、本当に無感情でボソリと呟かれて絶句する。
同時に実感する。これは私が思うより遥かに闇が深い事態だと。茶化すなんてとんでもない。対応を誤れば、スカル団が復活することにもなりかねない。あるいは単純に彼が破滅するのが先か。いずれにしても、ここで見過ごすのは後味が悪過ぎる。
「──そうです!」
スイの時を思い返して、続く言葉を遮るように宣言する。あの時はおやつの取り分がどうだのといったくだらない諍いだったが、基本は同じ。ダメだったら新たな手を考えればいいだけのこと。案ずるより産むが易し、とにかく行動あるのみだ。
「私の友達に、そういう悩みとは無縁な……失礼。えー、その、そう、とっても素直で快活な人がいるんです。三人寄れば文殊の知恵とも言いますし、ひとまず色々と話を広げましょう。
それでもダメなら、私の一番尊敬する女性。まだ足りないのならこの島で最も信頼できる人、貴方の事情はこの島の根幹に関わること。きっと既に誰かが懸念しているか、そうでなくても協力してくれるはずです。
ああ、安心してください。ご存知の通り、私はこう見えてキャプテンですので、人脈だけなら大したものですよ?」
「……だろうな。だが、テメェにそこまでする義理はねぇだろ」
拗ねたようにボソリと呟く。先ほどのネガティブな発言よりも更に力ない漏れ出た言葉。見え隠れする自身を卑下する接続語。
“どうせ俺なんかに“、そういった意図がありありと、ひしひしと伝わってくる。だから私はそれを「いえいえ」と否定して、いつものように、当たり前のように、当然のように告げる。
「悩める若人を導くのは、キャプテンとしての役目ですから」
「──………!」
目を見開いて、しかしそれも一瞬、すぐに不機嫌そうなそれまでの顔に『とんぼがえり』し、だけどそれきり反論の無くなった彼を随伴して今は懐かしきコニコに舵を切る。
──解決策として示したその先に、次なる若人が待ち受けているとは知らずに。
☆☆☆
「めんっっっっどうくさいわねぇ………」
「言わないでください。僕だって、あんなのと戦うのは気が滅入るので………」
初めて出会った時のような険しい顔を珍しく露わにしながら、見ているだけで気力が削がれるため息と共に彼女が呟く。
ただでさえ慣れないことをしているのだ。彼女に対する苦手意識はなるべく早く治すように努力してはいるものの、荒療治をすればだいたいが解決するなどとほざいている人は死ねばいいと思う。違う、そうじゃない。これは仕方のないことなのだ。そう、きっと。
そんな不毛かつ意味不明な思考を僕が繰り広げていると、そもそもこの状況に陥ることになった要因に対し、彼女が抑揚の小さい声で問い質す。
「そもそも、いくら対象が二匹だからって、あれだけの図体があればヨウ君なら余裕じゃないのかしら」
「それは何といいますか、二匹が近くにいると感覚が狂うんですよね。どうしてももう一匹を目で追ってしまって……」
「……そんなところだけゲームに倣わなくても、じゃなくて。なら逆に、私だけってのはどうだったのかしら」
「その案は満場一致で否決されたじゃないですか。リラさんなんて猛反対してましたし、僕も反対です」
「あの子が反対した理由は利己的なものでしょう? でもヨウ君が実質一人で捕獲を行なっているのに、私が一人ではできないと思われていることは屈辱ね。とはいえ事実厳しそうだし、捕獲にはこだわりもないから別にいいけど」
飄々と呟きながらも据わった目でこちらをジッと見つめる視線にたじろぐ。バトルの時にも時々あったが、言動と行動を一致させないのは本当にやめて欲しい。対応に困る。
それ以前に、あのお馴染みのスマイルがこうして歪んでいるのを見るとそれだけでなんか怖い。それが彼女のものとなれば特に。まあ、一番恐ろしいのは、そんな異常事態に段々と慣れてきてしまっている僕自身にだが。
「私以外は? ほら、ハンサムさんとか」
「それは……って、ハンサムさんですか? リラさんやクチナシさんではなくて?」
「ええ。あの人、オープンレベルは30いかない程度だけど、かなり強いわよ?
流石に太刀打ちはできないでしょうけど、ヨウ君みたいなタイプなら“一杯食わされる“くらいは行くんじゃないかしら」
「へぇ。…………なんでそんなこと知ってるんです? あの人、僕らの前でポケモンを取り出してさえいませんよね?」
「いや、ほら。貴方がヴェラ火山公園で張り込みをしていた時、一度だけウチのセンターに来たことがあって。その時にざっくりステータスを盗み見たわ。
ヨウ君に勝るとも劣らないなかなかに洗練された能力。いくつもの修羅場を乗り越えなければああはならないわ。………そういえばヨウ君はどうやってポケモンを鍛えているの? 一年やそこらでチャンピオンクラスってことは、やっぱり私には想像も及ばない特殊な特訓を」
「え? いえ、特にそういう特別なそれは。ただ普通にバトルして気分高まればそれで………」
素直に答えると、彼女の顔が更に険しくなる。今度は理解できる憤りではあるのだが、僕に責任があるわけでもないんだけど。
それよりも、捕獲に取り掛かる前からこんなに空気を悪くして大丈夫なんだろうか。僕も彼女も戦闘中は意識を切り替えられる人間だから、心配はあまりしていないけど。
(でも、ハンサムさんが。……正直、面白い人くらいの印象だったんだけど)
人を見るのは苦手だ。リーリエとグラジオとルザミーネさんとの関連性を見抜けなかったり、ルザミーネさんの異常性に気づかない程度には。
それはつまり、見る目がないということ。実際、リーリエがルザミーネさんのような異常性を内に秘めていた場合、今頃この島がどうなっていたのかは考えたくもない。
「それで、具体的にはどういう? 結局ボールを当てにくいって言うのなら、私がいてもいなくても同じじゃないの?」
「それなんですけど、いっそ捕獲は任せてしまおうかと。一旦打破するのも考えたんですが、それだと
「ああ、『ひんし』の縮むアレ………って、私に? まあ、それくらいは別に構わないけど。でも私、捕獲ははっきり言って大したことはないわよ? せいぜいがそこらのエリートトレーナーと同格程度。ポケモンドクターの資格に捕獲技能は必要ないからね」
「それで十分です。あの二匹は、僕がなんとかしますので、その隙に──」
言いかけたところで口の中に何かを投げ込まれ、言いかけた言葉と共にそれを飲み下す。
これは……なんだろう。一瞬マラサダかと思ったけど、味や食感が別物だ。少なくとも僕は食べたことがないものであるのは間違いない。これは、
「『もりのヨウカン』よ。シンオウ地方にあるハクタイシティってとこの名物。
──さっきは謙遜したけど、それを鵜呑みに見縊ってもらうのもそれはそれで癪なのよね。ほら、どうかしら。ジャストミートだったでしょう?」
「食べ物で遊ばないでください。………美味しい」
「私、これ好きなのよね。なんというか、暗闇から現実に引き戻される感覚がするというか、逆に意識が遠くなるというか、魂が活性化するというか。製造にゴーストポケモンを使っているそうだし、霊的な何かが宿っているのかしら」
「いえ、そこまではわかりませんけど………」
面食らったが、要するに余計な心配は無用だとアピールしているつもりらしい。よく見ると、さっきまでの険しい表情が幾分か和らいでいるようにも見える。
それでもいつものような冷徹なモノにならないあたり、彼女も彼女で緊張しているのだろうか。思えば、僕に最初に挑む時もこんな顔をしていた気がするし、彼女なりの葛藤があるのだろうか。わからない。人を見るのは苦手だ。ここ最近では殊更に。
「っと、着いたわね。いつ以来かしら、メレメレの花園なんて」
「僕は何度か来ましたが………その時には、こんなピリピリした雰囲気はありませんでしたね」
肌で感じるウルトラビースト特有のオーラ。封鎖されて人の気配が感じられない花園が、別世界のようにも思える。
どころか、中央に居座る二匹のウルトラビースト達を除いて、ポケモンの気配すら殆ど感じられない。逃げたのか、隠れているのか。いずれにしろ、僕らにとっては都合がいい。
「うわ、こっち向いたわよヨウ君。知ってはいたけど、実際に見ると流石のインパクトね。
──さて、戯言はここまで。まずは事前確認から」
「作戦名は特になし。場所はここ、メレメレの花園。目的は中央に居座るあの二匹のウルトラビースト、コードネーム:EXPANSIONことマッシブーンの捕獲。そしてその方法は──」
「タッグバトルによる各個束縛による同時捕獲。捕獲担当は私。あとはまあその場の雰囲気で臨機応変に。いわゆる高度な柔軟性を、ってやつね。
では早速、出番よ、アナ」
「来い、ガオガエン!」
あのウルトラビーストの行動原理は、事前に『筋肉自慢がしたいだけ』ということは知っていたので、なるべくこちらに釣られそうなポケモンを呼び出す。対する彼女はと言うと例の嫌がらせをする魂胆が明け透けのあのポケモン。これが初手の選出にトレーナーの性格が多分に反映されるという顕著な例である。
(多足歩行のポケモンは方向転換が不規則だから苦手なんだけど、あのポケモンは見るからに『マッスグマ』型だから搦め手は任せよう)
「ガオガエン、『フレアドライブ』!」
先手必勝。とりあえず威嚇し合っている二匹の間を分割するようにダイナミックエントリー。すると突然、何故か直前までいがみ合っていたはずのマッシブーンが何の脈絡もなく示し合わせたように結託して同時に襲いかかってきたので『ローキック』を指示して片方を転ばせ、もう片方の胴体を『DDラリアット』で突き上げ、戦闘の妨げにならない程度に吹き飛ばす。
「ちょっ………そんなことが出来るなら、やりようによっては一人でどうにかなったんじゃないの……!?」
真横からそのような悪態が聞こえてきたが、無視する。実際、リーリエと袂を分かってから今までは一人で行動していたわけだし、ダブルバトルに対する適性も人並み以上はあると自負している。
──しかし、確実ではない。99%の確率で捕獲できても、その1%にリーリエが絡む可能性がある以上、僕の心情などどうでもいい。幸い、彼女のことは苦手であっても嫌いではない。むしろ好感を持ってるくらいだ。背中を預けることに対して異論はない。
すぐさま視線を戻して集中し、もう一匹のウルトラビーストの動きを推察する。両手を組み合わせて振りかぶる動き。プロレスにおけるダブルスレッジハンマーの予備動作だろうか。となると、
(『アームハンマー』? いや……なんでもいいか)
「『ねこだまし』!」
ぱぁん、と小気味いい音と共に空気が振動する。結局あれきり定着しなかった『ねごと』の代わりに覚えさせた一発芸だが、こちらは彼の気性にも合っていたのか割と簡単に使えるようになった。クセはあるけど、それこそ僕には問題にもならない。
『バルッ……!?』
両腕を振りかぶった体勢のまま僅かに怯んだマッシブーンの口吻部を『ばかぢから』で強引に突き上げる。
マッシブーンの口吻部はダイヤよりも硬い。丈夫と言えば聞こえはいいが、頭部と比較しても長大なそこは、つまりはそれだけ重要な部位だということ。僕のガオガエンの馬鹿力でへし折れないだけ大したものだが、頭部と繋がっているのだ。振動だけでも相当なダメージになる。
そんな部位を強引に突き上げたりなんかすれば、当然体勢やらその他諸々が崩れる。特にマッシブーンは上半身が筋肉によって肥大化しているかくとうポケモンだ。多足歩行による重心の安定化も、体勢を崩せば見る影もない。
「いや、ホント強かになったわね、ヨウ君。私の所為っぽいのが癪だけど。──よっと」
そして、これほどあからさまな隙を、如何にもう一匹の対処に手間取っていたとして、僕をあれだけ執拗に苦しめたあの人が、たかだかウルトラビースト如きを相手にした程度で見過ごすはずはないのだ。
「うーん。素晴らしい捕獲率ね。流石は専用のモンスターボール。エンドケイブでちまちま高ぁいボールを消費していたのが悲しくなってくるわ」
踏み荒らされた花園に転げ落ちた異質なボールを拾い上げながら彼女は言う。なんでもないかのように告げているが、エンドケイブはこのアローラでも有数の危険区域として挙げられる死の洞窟だ。相変わらず一言一言が心臓に悪い女性である。
「もう片方は……」
「ボールに入れて放置してる。冷静に考えれば、250センチもある巨人にボールを当てるのなんて造作もないわね。一発で仕留められたのは単に運だけど、期待値はそれなりにあったからまあ分が悪い賭けでもなかったわ」
「は、はぁ……」
な、なるほど……? いや、確かに期待値云々を持ち出せば初手の犠牲に見合うだけの見返りは用意できていたのかもしれないが、ぶっつけ本番、しかも使い慣れてないボールでそれを決行するなんてどんな度胸をしてるんだこの人……?
彼女に問えば、そうでもなければ、という旨の言葉が返ってくるだろうが、それこそ間違っていると僕は思う。オープンレベルなんか気にしてない風を装って、その実オープンレベルに一番コンプレックスを抱いているのは彼女だ。なまじ見る目があるだけ自分の才能の限界を悟っているから、それ以上を目指せないというのに。
(とはいえ、彼女はだからこそ強い面もある。そもそも僕に言われて素直に従う人でもなし、そっとしておくのが吉かな)
この思考が的外れである可能性もある。僕は彼女とは違って人を見るのは苦手なのだ。結局は理解できていないわけで、いずれにしろ僕に何かを言う資格はない。
「でも、終わってみれば呆気ないのね。思えば、今までのも時間にしたら瞬殺だったみたいだし、こんなものかしら?」
「ウルトラビーストは共通して何かをさせると面倒なので、何もできない内に仕留めるのが最適です。今回は二匹もいたので、普段以上に気を使ったのは間違いありませんが」
「気を使った……あれで? いや、あれは押し付けたとかそんなのでしょう。私が言えた義理じゃないけどね」
どの口が言うか。
本当にどんな精神をしているのか、彼女は遠慮会釈も臆面もなくしれっとそんなことを告げ、しかしそれ以上は決して追求せずに大地に転がったボールを拾い上げる。
(………というか、自覚あったんだ。いや絶対に全部自覚してやってるとは思ってたけど、それを茶化すような人にも見えなかったんだけどな)
幾度となく挑み続け、尚も無言で立ち尽くす彼女の姿にある種の憧憬を抱いていた数ヶ月。立場と共に激動した僕らの関係は、あの頃のように単純なものではなくなってしまった。
軽口を叩く彼女。それを邪険に扱う僕。時に彼女へ教えを請いて、その回答に圧倒される。
大したものではないとはいえ、自身が攻められる要因となり得る発言をしたのは、それだけ彼女が、僕に気を許してくれているのだろうか。わからない。
自己の分析は苦手だ。複雑な感情となれば尚更に。幸いなのは、僕自身がそういう感情をリーリエ以外に抱けないという事実だけだろうか。とはいえ、彼女への感情を友誼と言うとまた違う気がするけど。
加えて、はっきり言って別段それが嬉しいわけでもない。でもまあ、それは同時に嫌だとも思っていない。結論、よくわからない。
「まあ、本当に面倒なのはこれからよね、きっと」
(また不穏な発言を…………まあ、いいや、なんでも。考えてもキリがない)
なんとなく煮え切らない感情のまま、微妙な気分を抱きつつも彼女への配慮もそこそこに花園の外へと歩み出す。
その直前、ふと振り返って視界に収めた荒れ果てた花園の一角を見て、どうしてか凄まじい悪寒が走ったのは、単なる気のせいだと信じたい僕であった。
まあ、すぐに他でもない彼女から否定されてしまうんだけど。
☆☆☆
「………はい?」
その言葉が理解できず、つい間の抜けた声を漏らす。
当然ながら、言葉そのものが聞こえなかったわけではない。ただ耳を疑うような内容と、それをさらりと言い放った彼女の過ちを、自身の聞き違いを望むような発言に、呆気にとられてしまったからだ。
動揺する私を庇うように、共に話を聞いていたヨウさんが返答する。
「…………正気ですか?」
「果てしなく失礼だけど、まあ、その発言も尤もよね。でも、その上で、私は改めて問いましょう。
さっきのような婉曲した表現ではなく、決して誤解を与えないような表現で。他でもない国際警察のエージェントたる貴女に、民間人として協力を依頼しましょう」
「…………」
さっきの話を聞いていたからだろう。もしかしたら、という期待を込めて、彼は、私は一旦その口を閉ざす。
猛烈に嫌な予感がする。そも文脈からして
それ以前に、この島に生まれて、この島で育って、この島で生きている彼女のような人が、どうしてそのような思想を得るに至ったのか。所詮は外様の者でしかない私にはわからない
「──近いうちに、カプと呼ばれる
ちょっと短いけどここまで。ようやく本題に入れそう。
ちなみに、ヨウ君は天才なので、そんなヨウ君を容赦なく扱き下ろすオリシュさんはオンリーワンの存在であり、実際、割と頼れるので彼もそんな彼女に無意識のうちに甘えてしまっています。彼の思考はつまりそういう照れ隠し的な何かです。
ただ、この、なんだろう……姉弟? っぽい謎の関係が恋愛に発展することは絶対にないのでご容赦を。