帰ってきたヒトラーは鎮守府に着任しました。   作:たむがや

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10:ミッドウェーの想い

 ノックが聞こえた。誰も入ってこない。

 また、ノックが聞こえた。だが、誰も入ってこない。

 再度、ノックが聞こえた。しかし、誰も入ってこない。

「あのー、総統?返事を待ってるんじゃない?」

あ、礼儀正しい艦娘もいるのだな。ノックとともに入ってくるよう教育されているとさえ思っていたのに。

「〈入ってこい。〉」

「失礼します。一航戦の赤城です」

「同じく一航戦の加賀です」

入ってきたのは少し特殊な和装の女性が2人。美しく整った軍式敬礼をこちらに向けている。

「〈志願の理由は?〉」

「はい、私たちは提督の演説に大変感動しまして。誇りや戦時の想いが胸の奥から湧きだしました。この想いを大切に、あなたについて行こうと思った次第です」

「〈なるほど〉」

両者真剣な眼差しを私に向けている。熱意、憎悪、決意、苦難、忠義、、、様々な想いが混在するその眼差しは感情の混沌と同時に何も感じられない消失感に似た仮面を2人に見た。

「〈赤城と加賀か・・・〉」

赤城、聞いたことがある。待てよ?

「〈赤城、イソロク・ヤマモトを知っているか?〉」

「イソロク・・・?あ!山本五十六ですね。私の元艦長です」

「〈赤城、思い出した!ミッドウェー海戦で沈んだ空母か!〉」

「え!はい、まぁ」

一気に彼女達の顔が暗くなったがそれに構っている余裕は心に存在しなかった。

「〈赤城か!大変世話になったのを覚えているよ!そうか、君があの赤城か。〉」

私の興奮が止むことは無かった。

「〈ミッドウェー海戦、日本海軍も米軍もバカをやらかしたと思ったよ。あれほど有益な艦を沈めるなんてな。〉」

ふと赤城の顔を見るとベルリンを最期まで守り続けた軍人達のそれである。それは敵に対する憎悪からくるものだ。

「〈赤城、それに加賀。〉」

2人は唾を飲む。

「米軍は、アメリカは憎いか?」

2人は顔を見合わせた後、加賀が俯き赤城が苦笑いを浮かべ口を開いた。

「過去のことだから気にしていない、と言えば嘘になるでしょう。あそこで負けなければもしかしたらなんて、結果論でしかないですが」

「〈なるほど、な。〉」

私は一息置いて、聞いた。

「〈アメリカに仕返しがしたいなら、アメリカ攻撃部隊でも作ろうか?〉」

「「え?」」

「〈だから、アメリカ攻撃部隊をと。〉」

「深海棲艦ではなく、アメリカ?」

「〈そうとも。ひとまず在日米軍基地を一掃する。その後、アメリカ本土を攻撃だ。どうだ?〉」

「いえ!私怨でそのような部隊をつくるなんてそんな」

「〈安心しろ。私怨では無い。大帝国の創造にはアメリカ排斥、これは必須である。〉」

「提督は何をしようとなさっているのですか?」

「〈夢だよ。私は夢を追っているのだ。私の求めるのは世界なのでね。〉」

「はぁ」

「〈君達の憎悪は消さないで欲しい。憎悪とは己の力になる。憎悪とは勇気に、憎悪とは根気に、憎悪とは意志に。憎悪を上手く育てるのだぞ。〉」

「「わ、わかりました」」

 

 2人の退出後、レーベレヒトが私に問いた。

「さっきの言葉は加賀さんに?」

「〈なぜだ?〉」

「いや、加賀さんが無表情だから、憎しみにのまれるな、みたいな?」

「〈いや、赤城だ。〉」

「赤城さんは平気そうだけど」

「〈憎い相手のことを笑って話せるか?〉」

「それは、もう憎くないってことじゃ?」

「〈自身を殺した相手だぞ?仮に許せたとしたら、それは脳の無い化物だ。だが、赤城にも感情はあるのだろ?あのような輩は周りに迷惑をかけぬようにと笑って己の憎悪を隠すものだ。だが、隠し続ければいつか漏れ出すだろう。そうなった時に思いもよらぬ力がでる。だが、その力を制御できるかはわからん。だから、少しずつ抜き取らねばならない。そして、それこそがアメリカ攻撃部隊編成の意図のひとつだ。〉」

「そうかもしれないですね」

 

 私は椅子に座り直して次の艦娘を待った。




山本五十六:海軍軍人。連合艦隊司令長官。
ミッドウェー海戦:1942年6月に行われた日米の海戦。米国の勝利に終わる。
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