ノックと同時に入ってきたのはショートカットの少女、明るく元気良く「川内参上!提督、よろしくね!」と叫ぶ。叫んだ。ここ別に叫ぶほど広い部屋じゃない。要するにうるさい。その後に「ね、姉さん!失礼ですよ!あの、姉がすみません。あ、私は軽巡洋艦の神通です。どうか、よろしくお願い致します」と丁寧な挨拶が。そして、「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ〜!」とこれまたぶっ飛んだ挨拶が。神通が頭を抱えている。私は困惑の中でレーベレヒトに「こいつらはなんなんだ」と尋ねる。返ってきたのは川内型の姉妹だということ。正直に言って姉妹だとは到底信じられなかった。
「〈えーと、君達の志願の理由は?〉」
「夜戦!提督の演説から夜戦の匂いがしたんだよー」
「那珂ちゃんはねー、えーとねー、なんだったっけ?」
「すいません、姉と妹がいい加減なことを。私はこの2人が心配で心配で」
「えー、神通が一番ノリノリだったじゃん!」
「そ、そんなことありませんから!」
なんなんだこの3人・・・。川内は夜戦がしたいと、那珂は忘れたと、神通は2人が心配だからと。私はこの事態に対処すべく、それほど苦渋では無い決断をくだした。
「〈ちょっと1人ずつでいいか?川内、那珂、神通の順番で。〉」
こうして部屋は川内と私とレーベレヒトの3人のみとなった。
「〈川内君、君は夜戦が好きなのかね?〉」
「うん!」
「〈夜戦・・・夜戦だな。どこが好きなのだ?〉」
「〈夜戦なんだよ・・・戦闘の全てを決めるの夜戦なんだよ!もう、夜戦が癒しなんだよ!〉」
何言ってるんだこいつ・・・
「〈夜はいいよねー夜はさ。ワクワクするよね!〉」
「や、夜戦が好きなことはもう十分伝わった」
「そう?」
「〈他になにか無いのか?〉」
「特には、ないかな!」
結局、夜戦好きな明るい少女だということしかわからなかった。
次は那珂だ。これまた不思議な娘だ。
「〈那珂君、君はなぜ志願を?〉」
「えーとねぇ、もっとー、活躍したいなって!」
おっと、笑顔の奥は全く笑ってない。目に至っては死んでるな。
「〈わかった。活躍の場は用意しようじゃないか。〉」
これで終えようかと思ったが、私はひとつ気になることを思い出した。
「〈あと、あれだ。艦隊のアイドルとはなんだ。〉」
アイドルとは偶像、崇拝対象、憧れの的などとの意味。確か、英米の若者言葉では若い人気者だったか。だとしても艦隊のアイドルというモノが理解できない。那珂が艦隊のそれだとは思えんし。
「・・・艦隊のアイドルとはなにかって、なんだろ?」
なんなんだ。こいつは一体なんなんだ。今回の対話で何かを掴むのはやめよう。不毛な挑戦であった。
「〈すまないな、正直、君はわからん。〉」
「そ、そっかー」
「〈そうだ。〉」
少し残念そうにする那珂だが、すぐに笑顔を浮かべ、「わかった!じゃあ、神通ちゃん待ってるから」と言って、ぺこりと愛らしくお辞儀をして、退出した。
なるほど、どんな時も愛想を振りまく。困難に立ち向かう時に光となるか。正しくアイドルということかもしれんな。
最後は神通。川内曰く、一番ノリノリであったという彼女。ただの次女では無いようだ。
「よろしくお願いします」
「〈あぁ、よろしく。それで、君はなぜ志願を?〉」
「姉と妹が心配だったので」
「〈川内は君が一番乗り気だったといっていたが?〉」
「そ、それは姉さんが冗談を」
わかりやすいなぁ。口をパクパクし始めた。しかし、何を隠すことがあるのだろうか?
「〈本当にか?〉」
「え!ほ、本当です」
「〈本当か?〉」
「ふぇ!ほ、ほ、あの、えっと、す、すみません!」
「〈それで、本当の理由は?〉」
「そ、それは提督の演説を聞いた時、私は身が震え、熱くなりました。あれほど身体が火照ったのは初めてです。深海棲艦と戦っている時よりも戦っている気がしました。って私、変なことを」
「〈変ではないさ。私もその気持ちは大変理解できる。〉」
ふと、脳裏に過ぎるのはリヒャルト・ワーグナーのオペラ音楽。彼の奏でる音楽は私の流れるアーリアの血に語りかけ、身体に眠る闘争を呼び起こすのだ。
「〈闘争の根幹がきっとそこにあるのだ。〉」
「そう、ですか」
理解出来なかったようで、フクロウのように首を傾げている。だが、今はそれでいい。何時か、何時でも、何時となく気付くことになるだろう。それでいいのだ。
「〈君の活躍に期待しているよ。〉」
「はい!」
綺麗な軍式敬礼を私に向けた神通はくるりと背を向け、そのまま部屋を後にした。
リヒャルト・ワーグナー:ドイツの作曲家、指揮者。