ノックがした。少しの間静寂が続くので私がどうぞと一言告げると「Guten tag!」と言って青みがかった髪の女性が入ってきた。
「Hallo, Ich bin Aoba.」
私が驚いたのは、日本人にしてはしっかりとしたドイツ語の発音だ。
「〈日本語で構わんよ。何故かは分からんが、艦娘には意思が通じるようだ。〉」
「そうなんですか!驚きですねぇ」
「〈それで、青葉。君の志願理由は?〉」
「私はその、ゲッベルスに憧れていてですね」
「〈ゲッベルスとは国民啓蒙・宣伝省のヨーゼフ・ゲッベルスか?〉」
「あ、はい!そうです」
「〈ということはプロパガンダに興味があると。〉」
「そうです!」
なるほど。プロパガンダに精通している者は大変心強い。しかも、ゲッベルスに憧れているとなれば、それに近いモノもできるだろう。
「〈素晴らしい。是非とも我々の広報に力を尽くしてくれ。それと、わからないことがあれば教えよう。私はゲッベルスから直接演説を学んだ男の一人なのだからな。〉」
「はい!」
これで終わりかと思ったが、そうはいかないようだ。
「ところでですね?」
「〈なんだ?〉」
「新聞、作っていいですか?」
「〈新聞?〉」
「はい、新聞です!」
「〈構わんが、私の目を必ず通してから公開しろ。それが条件だ。〉」
「わかりました!・・・それでですね?第一作として司令官、いえ、総統の現代社会における見解を特集したいのですが・・・よろしいですか?」
「〈ほう。いいだろう。〉」
「それと、質問をいくつか」
「〈今か?〉」
「大丈夫です!私が最後の志願者ですから」
「〈ならいいが。〉」
熱心だと私は感心する。流暢なドイツ語といい、勉学に励み、プロパガンダを極めんとしている事は己の為にも私の為にもなる。
「それではまず1つ目です。南北問題についてどう思いますか?」
「〈南北問題・・・?〉」
「えーっと、北半球と南半球で大きな経済的格差が存在することです」
「〈必然だろうな。〉」
「ほう」
「〈劣等民族は優等民族による支配下でのみ繁栄することが出来るのだ。それこそが理想の社会、理想の世界。それこそが神の望みなのだ。〉」
「優等民族と劣等民族の違いとは」
「〈進展、発展を望む種族が優等民族となる。アルプス人種、北方人種、東欧人種、ディナール人種、地中海人種。それに私の認めた大和民族だ。停滞、退化から逃れられない種族が劣等民族だ。ロマ、有色人種だ。そして害悪人種がこの世界には存在する。ユダヤ人だ。奴らは帰属する国家は無く、だからといって国家に混ざろうともしない。それどころか奴らは寄生虫の如く我々優等民族から金も誇りも奪いさる。許される存在ではないのだよ。〉」
「では次の質問です・・・
それからも青葉の質問は経済格差、環境問題、核、難民問題と続き、とうとう最後の質問も終わっていた。
「総統、協力ありがとうございました!」
「〈ふむ。素晴らしい新聞が出来上がることを期待しているよ。〉」
「きょーしゅくです!」
そう言い残して去っていった。青葉がいなくなると代わりになんとも言えない喪失感が襲ってくる。ため息をつき、椅子に深々と座る。先々のことを考えていると足の芯から動かなくなっていった。時計を見ると夜の11:00。それからの記憶は曖昧であるが、ひとつ言えることはぐっすりと眠りについていたことだ。
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取材をし終わり、退室した後、人目のつかないところである人物に電話をかける。
「もしもし〜」
『もしもし〜、青葉か?』
「はい、青葉です」
『あれ?きょーしゅくです、は?』
「いや、なんで村田に恐縮しなきゃなんないんですか」
『えー、僕一応上官なんだけどなぁ。まぁ、それは置いといて、呉に新しく来た提督はどうだ?』
「そうとう頭イってますね。総統だけに」
『つまんねー。で、佐世保に帰りたいとは思うか?』
「いやぁ、こんな楽しいことになってるのに帰るなんてもったいないですよ!」
『そうかそうか。ならいいんだよ。引き続き内情調査頼むよ』
「りょーかいです」
そうして青葉と佐世保の司令官との通話が終わる。
「ふぅ、はやく新聞つくらなくちゃ!」
そう言って青葉は自室に戻って言った。
オーケストラ:スパイの隠語。