帰ってきたヒトラーは鎮守府に着任しました。   作:たむがや

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14:拠点包囲

 なかなかに個性の強い艦娘が続々と司令室へ来て、それ以外は皆鎮守府を後にした。

 残った艦娘は合計16名。戦艦のビスマルク。空母の赤城、加賀。巡洋艦のプリンツ・オイゲン、夕張、天龍、龍田、川内、神通、那珂、青葉。駆逐艦のレーベレヒト・マース、マックス・シュルツ、雪風、夕立。

 艦娘は揃ったが、はて、何をすべきか。私がほんのりと明るくなっていく空のもとで今後について考えていると、その思考を遮断するように外から騒音が聞こえた。

「〈君達、包囲されている!降参して出てきなさい!〉」

何度も何度も繰り返しドイツ語と日本語で繰り返されるそれは、我々にとってただただウザったい羽虫の音でしか無かった。そして、耳元で飛ぶ羽虫の運命というのも決まっているものだ。

 

 『〈──戦える艦娘に告ぐ。命令はひとつだ。直ちに敵を撃滅せよ!〉』

 

私は司令室から施設内に放送した。

艦娘達はドイツ艦を先頭に包囲網へ突進した。広大な施設をぐるりと囲む陸上自衛隊は装甲車両の後ろからちまちまと銃撃を繰り返す。艦娘達はその銃弾を艤装で弾くか、そのまま受けるかでほとんど効いていない。その光景を私は司令室の椅子に腰掛け、窓から眺めていた。陸上戦闘は苦手なようで動きは鈍いが、敵よりも1個体の力が強い。私は艦娘達の勝利だろうと確信していた。戦艦は持ち前の火力と耐久で前進し装甲車を空に飛ばす。空母は艦載機を発艦させ敵を追いかけまわす。巡洋艦や駆逐艦も砲を敵に向け突進していく。ちなみに青葉は私の隣で写真を撮っている。まぁ、プロパガンダに使える写真を撮れと言ったのは私だからかまわないのだが。

「〈なんだ!?〉」

突然、揺れた。司令室から見えない位置で反撃をくらったらしい。この揺れは小火器ではなく砲撃によるもの。敵もやっと本気を出したということか。艦娘達は装甲車両をいくつか破壊していたが、その都度援軍がやってきて戦車が補充される。正直言って、やりにくい。艦娘の持久力がどの程度なのかが問題となる。それと、この鎮守府の持久力も心配である。

「あ!このままじゃ負けちゃいますねぇ」

「〈どういうことだ?内容によってはタダでは済まさんぞ。〉」

私は敗北主義に陥ろうとする青葉のこめかみに拳銃を突きつけた。しかし、青葉は動じることなく語り続ける。

「だってそうじゃないですか。赤城さん達の艦載機が他の艦載機に落とされてる。援軍に艦娘が来ちゃいましたね」

「〈それがどうしたのだ。〉」

「青葉は言いました。このままじゃ負けちゃいますと。同等の兵器、それが向こうにもある。その上、数もある」

「〈ならば我々はそれ以上の兵器を用意しなくてはならん。〉」

「だけど、それには時間がかかる」

「〈ならば、奪い取るのみ!〉」

私は説得により総統の地位を確立した男だ。ナポレオンと私に不可能はないのだ!

私は館内外全てのスピーカーに繋ぎ、マイクと向かい合った。

『〈──我々は今、敵に囲まれている。これは紛いもない事実だ。〉』

一瞬、両陣営の動きが止まる。私の言葉が通じる者はドイツ語の分かる者と艦娘だけだ。私の熱意は艦娘に届く。同じ時、別の場所で戦った同志である。

『〈だが、包囲されるまでになぜこれ程時間がかかるのか。私はここで一晩寝られたぞ?これこそ奴らのまとめ役である政府の怠慢の証拠であり、政府の主軸にある民主主義の限界なのではないのか?

みんなで話し合って、みんなでひとつの結論をだして、みんなで思い通りの世界をつくる。

そんなものはまやかし、幻想だ。

だからこそ、第一次世界大戦の後にファシスト党が国家社会主義ドイツ労働者党がソヴィエト連邦共産党が、独裁政権を確立した。それ以前にも、ナポレオン、ジャコバン派、クロムウェル、帝政ローマとまだまだ多くあげられる。

大衆は気付くのだ。民主主義の短所に、民主主義の限界に、民主主義の妄想に!

強靭な国家とは強大な指導者の下でのみ作られる。国内外の敵を排除し、国民を守ることができる屈強な指導者が必要なのだ!〉』

ここからが勝負となるだろう。私の、我々の自信と強さを演説の音楽にのせて大々的に表現するのだ。

『〈だが、諸君らは安心だ。諸君らの指導者は、あの無能で鈍足な政治家達では無いのだから。

奴らには敗北しかないのだ!無能な指揮官は有能な軍人を無駄死にさせる!民主主義は判断を遅らせる!そんな奴らに我々が負けると?笑止千万!寝言は寝て言え!

我々は屈強たる意志に基づき敵を殲滅するのだ!そんな腐った連中の下ではどんな者でも腐るに決まっている。腐った果実を踏み潰すことなど赤子でさえもできる。

諸君らがひとつ攻撃を加える度に、敵は強大な指導者を求め白旗を振るか、矮小な指導者に安住し無残に死ぬかの選択肢に一歩一歩近づくだろう。そして、馬鹿な奴らは後者を選び、動かぬ肉塊となるのだ。

さぁ、我々の存続をかけた闘争を再開せよ!

勝利萬歳!〉』

ドイツ語で放たれる咆哮は自衛隊を越え、艦娘に届く。雄叫びをあげて我がグルッペンは本能のままに突撃する。美しい闘争の完成である。

 均衡状態が続く中、敵艦娘のひとりが陸自を砲撃した。困惑する戦場では、一部艦娘が背中合わせにまとまりながら味方を攻撃し始めた。

「艦隊、この長門に続け!」

大声でそう叫ぶ女性は、司令室にいる私を見るや否や軍式敬礼をした。それにNS式敬礼で返す。青葉曰く、こちらにつくことにした艦娘は戦艦の長門、空母の龍驤、巡洋艦の摩耶、駆逐艦の長波らしい。私は彼女らに会うため、司令室を青葉とともに出た。

 銃弾飛び交う戦地で私は長門らに右手をあげた。同胞艦娘は皆、私に危険だから下がれと言うが、WW1に比べればまだ甘いだろう。私は長門のもとへ行き、意志を確かめる。

「〈君達は私の下で働きたいのか、それとも油断させて殺したいのか。どちらだ?〉」

「答えは決まっている。あなたの下で戦いたい」

「〈そうか、ならば私の護衛をしろ。向こうの頭に用がある。〉」

「え!?」

「〈不満か?〉」

「いや、別に深い意味は無いのですが、なぜすぐに信用ができるのかと」

私は疑問だった。私は付き従うと決めた艦娘を信用していた。当たり前かもしれないが、別の地で同じ時、同じ思いで戦った同胞だ。そんな同胞が簡単に裏切るとも思えない。

「〈気にするな。後で時間があるときだ。〉」

私はそう告げ、先を急いだ。5人の護衛の中で私は次の手を考える。保守的民主主義は厄災やテロへの対策が最も遅れるのは必然。ならば、こちらから攻め立てるしかない。鎮守府は彼女達に任せ、私はクソのようないたちごっこに終止符を打とうではないか。




ファシスト党:ムッソリーニ率いるイタリアの独裁政党
ソヴィエト連邦共産党:ソヴィエト連邦の独裁政党
ナポレオン:フランスの独裁者
ジャコバン派:フランスの独裁団体
クロムウェル:フランスの独裁者
帝政ローマ:独裁国家
グルッペン:グループ。団体。隊。
NS:国家社会主義ドイツ労働者党の略
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