私は艦娘の保護のもと白色のテントへ進む。鎮守府を取り囲む自衛隊の攻撃が私に当たることは無く、それどころか道を開けているようにも見える。テントにつくと自衛隊がこちらに銃を向けてくる。まぁ、当たり前ではある。それどころか、艦娘の前で逃げることなく上官を保護する精神は褒められるべきものだ。私は拳銃を自衛隊のひとりに投げ渡し、両手を上げた。艦娘に散開命令をだす。すると、自衛隊が一気に去り、テントに入れと言わんばかりの状況となった。
テントに入れば左右に軍服を着た男が4人と正面にスーツ姿の初老の男が1人、地図ののった円卓を囲んで座っていた。スーツの男はやや気だるそうに机に付いていた肘を浮かして、反対に背を背もたれに付けた。そして、腕を組んでゆっくりと口を開き、流暢なドイツ語で私に語りかけた。
「〈君がヒトラーかね?〉」
「〈いかにも〉」
「〈私としてはな、この事案を何とか穏便に済ませたいと思っていてね〉」
「〈ほう。それでは私からお願いが。私としては私の施設強襲の清算と、この施設の統帥権を頂きたい。それ以外は何も望まぬ。〉」
「〈面白いことを言うのだな。まぁ、私は認可しようではないか。しかし、君が先に言ったように民主主義というものはそう簡単には決断を下せないのでね。〉」
皮肉の効いた言葉は私の苛立ちを誘うが、我慢すべきと理性が叫ぶ。何とか苛立ちを抑えていると、スーツの男は軍服の男達に日本語で話し始める。その反応は様々で、細めのカイゼル髭をはやす丸メガネの男は薄気味悪い笑みを浮かべ、痩せ気味で目の下にくっきりとクマを浮かべた男は口を抑えながら俯き、スターリンから若さと目の太さを引いたような男は困ったように顔を両手で覆い、他の3人の白い軍服と違い、唯一深緑を着たガタイのいいハゲ男は顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。そして、理解の出来ない言語で諭して喚いての口論を始めた。
「滝沢大臣!正気でありますか!?大量虐殺のテロリストですぞ!」
「私は正気だぞ。彼をこの呉鎮守府に拘束して、事態の収拾を図る。只でさえ風当たりの強い防衛省としては隠蔽したい事実なのでね。それに、大量虐殺には艦娘が関与している。そう簡単に罰せられる問題でも無い」
「な、なんと!憲兵隊も前任も!我が陸自隊員も殺されているのでありますぞ!」
「なんだ、そんな事か・・・」
「なんだとはなんでありますか、東條元帥」
「深海棲艦による基地攻撃により多数死亡。勇敢にも人間である身で立ち向かった村上と憲兵隊。これ正に武士道!永久に彼らの名は語り継がれるであろう!──大本営発表」
「人命をなんだと思っておられるのか!」
「僕も賛成ですよ、閣下」
「そうかそうか!村田君も賛成かぁ」
「何故こんな狂った案に賛成できるのか!」
「いや、村上はつまらない男なので」
「そ、そんな理由でか?」
「あぁ、悪いか?山口一等陸佐殿?」
「辻君はどうするのかね?」
「それは勿論、大臣殿そして元帥閣下と同意見でございます」
「そうか、うむ。深海棲艦対策本部としてはこの案に賛成である」
「り、陸上自衛隊としては反対である」
「4対1か。では、もう一度問おう。彼に少佐の地位と呉鎮守府総帥権を与える。反対の者は?」
スーツの男の言葉で喚き散らしていたハゲ男は俯き大人しく震えている。なにかが決したようだ。
「〈ヒトラー君。おめでとう。特例で今日から呉鎮守府に少佐として務めてもらう。日本語を学ぶこと、許可無しに外出しないこと。これが条件だ。いいな?〉」
「〈ありがとうございます。〉」
これでいい。まだ大人しくだ。我慢を続ければいつか神は私に微笑む。それまで待つのだ。
「あぁ、そうだ。〈紹介しておこう。君の上官、又は同僚だ。私が軍の総括組織である防衛省の滝沢だ。それで、丸メガネの男が東條裕仁、所属は大本営、鎮守府の上位組織だ。階級は元帥。で、不健康そうな男が村田幸輝、所属はここから西方面にある佐世保鎮守府の司令官。階級は大将。して、白髪の男が辻廉也、ここより東南にある舞鶴鎮守府の司令官。階級は中将だ。深緑の服の男はまぁ、気にしなくて良い。〉」
「〈了解しました、首相。では鎮守府攻撃を停止して頂きたいのですが。〉」
「〈あぁ、勿論だ。〉山口一等陸佐、攻撃中止命令を」
スーツの男、もとい滝沢防衛相の指示により、ハゲ男は黒い箱に話しかける。すると外からの銃声と砲撃音が半減する。
「〈私は艦隊に指示を出す為戻ります。今後ともよろしくお願い致します。〉」
私はそう言い残しテントを後にした。
外で待っていた長門らと合流し、緊張の続く戦線へと歩む。そして、攻撃中止命令をだし、鎮守府へ戻った。「〈私がここの正式な新司令官である!〉」と高らかに叫びながら。
さぁ、ここからが本番だ。世界よ、今に見ていろ。
深海棲艦対策本部:防衛省管轄の深海棲艦対策組織