遅くなったのには理由があるんですよ。今回はヒーローが来るんですが、あれです、ヒーローは遅れてやってくるとかけてるんですね・・・・・・・・・嘘です、今考えました。
今後は更新をなるべく、できる限り善処したいと思っているので許してください。
僕は横須賀鎮守府に勤務する、坂井俊作中佐だ。訳あって今、呉鎮守府に鳳翔とともに訪れている。
その訳とは、突如現れたドイツ人から艦娘達を救うことである。その男はヒトラーと名乗り、艦娘達を洗脳し、無惨に憲兵や村上提督を殺したテロリストだ。艦娘を人質に防衛省の偉い方々を脅し呉鎮守府の統帥権を奪い取り、悪行の限りを尽くしているに違いない。可哀想な彼女達を一刻も早く安全に救い出したい。そんな思いでここに乗り込まんとしているのだ。
正門から堂々と、刺激しないように、敵意を見せないように突入する。門番となるはずの憲兵はおらず、その代わりに天龍と龍田がいた。なぜ逃げないのだろうと、多少不思議には思ったが、他の人質となった艦娘を放っては置けない優しさからの行為だと納得し、はやく救わねばと決意を新たにした。
「あら?誰かと思ったら坂井提督じゃないですか〜」
「お、ホントだな!鳳翔さんも一緒じゃないか!なんか用か?」
「いや、そちらに新しく着任した提督に挨拶をしようと思ってだな」
すると、龍田は僕の耳元まで口を近づけるとねっとりとした声で忠告した。
「ふふふ、そういうことにしてあげる。それと、嘘をつく時はちゃんと視線をそらさずに、ね?」
その瞬間、悪寒が走った。この忠告は私が救出しにきたと分かってアドバイスしたとは思えない。それはまるで、二度と抜けられない罠に誘い込むウツボカズラの甘い匂いだ。僕は龍田を思わず睨みつけた。どこに向けるべきかわからない怒りが湧き起こっていた。だが、すぐに矛先は一点を指した。あの男だ。あのドイツ人だ。許されない。許してはいけない。
「それで、僕達は入っていいのかな?」
人差し指を顎に当て、少し考えてから龍田は「いいんじゃな~い♪うふふ」と満面の笑みで答えた。
僕は鳳翔の腕を引きながら歩みを速める。天龍曰く、司令室に行けば会えるらしい。焦りが募る。すれ違う全ての艦娘がこの現状に平気な顔をしているのだ。ほんのり血なまぐさい廊下を急ぐ。何を話そうか、どう動こうかと次手を考えているといつの間にか司令室の前まで来ていた。扉の隙間からクラシック音楽が漏れだしていた。ひとつ息を飲み、扉をノックする。すると中から、ドイツ語が聞こえた。鳳翔曰く、「入ってこい」らしい。
「失礼します」
「〈ん?・・・まさか、来客だとは、〉」
男は机の上に常備された内線で誰かに指示をだす。その後、音楽を流し続ける蓄音機を止めた。
「〈すまないな、日本語は話せなくて。そちらの女性には通じているのかな?〉」
「あ、はい!」
鳳翔が慌てて応える。
「〈おぉ、それはよかった。して、なんの様ですか?〉」
そこには独裁者を思わせる格好をしただけの近所のおじさんがいた。
「挨拶をと思いまして。あ、鳳翔さん伝えてくれ」
「〈そうかそうか。これは御足労でしたな。ここではなんだ。応接間へ行こう〉」
そう言って男は椅子から腰をあげ、右手で扉を指し、応接間へと誘った。
応接間への道のりで、時折艦娘とすれ違うと、艦娘は皆、右手をあげ「ハイルマインフューラー」と挨拶のようなものをした。だが、僕達にはほとんど挨拶はしてくれない。きっとこれは男の洗脳によるものだ。そうだとも。裏の顔だ。化けの皮を剥がして艦娘を救わねば。何度も心の中で反芻する。
「〈どうぞ〉」
男は応接間の扉を開き、僕達を部屋に入れた。どこに罠があるかわからない。それは物理的なものかもしれないし、精神的なものかもしれない。わからない恐怖が僕を襲う。そんな僕を鳳翔は心配そうに見つめていた。小声で大丈夫だ、と答える。
「〈まだ伺っていないのですが、所属は?〉」
「あぁ、横須賀です」
「〈そうですか、そうですか〉」
そんな時、扉を誰かがノックした。だが、男の返事を待たずにその扉は開かれた。
「おまたせっぽい!」
「〈夕立、飲み物を持ってきてくれたか〉」
夕立が僕と鳳翔の前に緑茶を置いた。そして、男の前にはコーヒーが置かれた。その後夕立は颯爽と去っていった。
「〈ささ、飲んで構いませんよ?〉」
毒でも入ってるんじゃないか。彼だけコーヒーというのも気になる。ここにいるだけで人間不信にでもなりそうだ。鳳翔も戸惑っている。やはり、敵に出されたものを飲むべきではない。すぐに話題をふって場を濁そうと試みた。
「えー、あれだ。どうしてヒトラーと名乗っているんですか?」
「〈どうしてって・・・私がヒトラーだからだ。それ以上でもそれ以下でもない。私は何故かはわからんがこの地に蘇ったのだから、仕方ないであろう〉」
「そう、そうですよね」
確かに、艦娘や深海棲艦といった存在を考慮すれば、ありえない話ではない。しかし、だからといって事実であるとも言えない。それこそ、原因は分からないが自分のことを艦娘だと思い込んでしまう悲しい事例が出てきているように、思い込んでいるだけかもしれない。そんなことより、次の話題だ。はやく次の話題を。何とかして信頼を勝ち得なければ。
「えー、あ、それで、なぜここの司令官になろうと?」
「〈わからぬな。運命としか思えないものだ。偶然この地に蘇り、偶然この地で同志と巡り会い、偶然この地が私の復活の党旗をあげる舞台となった。ただそれだけだ〉」
鳳翔から通訳を聞くがさっぱりである。偶然?運命?そんな妄想の為に多くの人の命が・・・。やはり彼は悪である。怒りが込み上がる。今すぐ怒鳴り散らしたい程だ。この悪党は滅びるべき存在である。それはきっと誰が見てもそう思うであろう。
「〈先程から震えているようだが、暖房でもつけようか?ドイツではこれくらいの寒さ、平気なのだが・・・といっても既に暦は11月か。どうする?そうだ、ブランケットでも持ってこさせ・・・〉」
「黙れ!」
鳳翔の通訳が「どうします?」で止まった。とうとう叫んでしまった。悪党は押し黙っている。鳳翔も押し黙っている。嘘くさい優しさはゴメンだ。
「さぁ、鳳翔。伝えてくれ!おい、悪党!はやく化けの皮を剥がすんだな!僕にはそんな見え透いた演技はお見通しなんだよ!」
ビクつきながら鳳翔は悪党に伝える。顔を真っ赤に染めた悪党の右手はコーヒーカップと一緒に震えている。悪党は口元近くの右手を思いっきり机に叩きつけ、勢いそのまま立ち上がった。コーヒーカップはいくつもの破片に別れ、茶色いシミが辺りに広がっていった。なんと暴力的な悪党だろうか。やはり、僕の見立ては正しかったのだ。
「〈貴様!その態度、無礼だとは思わんのか!〉」
その叫び声と同時に待ってましたと言わんばかりに素早く夕立、レーベ、マックス、プリンツ・オイゲン、そしてビスマルクが入室し僕と鳳翔を囲む。
「お、おい!皆、目を覚ますんだ!」
「何を言ってるの!わたし達は正気よ!貴方こそ正気なの!?」
「ビ、ビスマルク、お前達はあの悪党に騙されているんだ!信じてくれ!」
「僕達は騙されてなんていないよ!」
「レーベの言う通りね」
「おい、目を覚ませ!僕の目を見るんだ!なぁ、なぁ、なあ!」
同時に砲が僕の顔に向けられる。
「なんだってんだよ。助けに来てやったのに・・・」
「〈艤装をさげろ〉」
一斉に砲が下を向く。助かった。だが、ここで屈してはならない。そう思い、僕は護衛用に忍ばせていた拳銃を取り出そうとした。
「は?ない?」
取り乱す僕を嘲笑う悪党。
「な、何がおかしい!」
「〈レーベ、訳してくれ。君が探しているものはこれか?と〉」
コーヒーで汚れた机に置かれたのは一丁の拳銃。僕のだ。
「どこで、それを・・・」
「〈龍田が抜き取ってくれたようだ。そして、わざわざ裏口から走って私に届けてくれたよ、天龍が〉」
「は?」
まさか、あいつ最初からわかって。クソっ。洗脳とはこれ程に強力なものなのか!許されない!僕は小声で鳳翔に帰れと伝えた。
「おい、悪党。鳳翔は関係ない。帰らせてもいいな?」
「〈・・・かまわん。夕立、連れていってやれ〉」
どのような指示があったかはわからないが、夕立は鳳翔の手を引いて外へ出ていこうとする。もしかして、収容所に入れられるのでは?
「ま、待て!どこへ連れていくつもりだ!」
悪党共は皆顔を見合わせる。きっと確認を取っているに違いない。それか、僕が勘づいたことに驚いているのかもしれない。
「ほ、鳳翔を見送らせろ」
「〈文句が多いな。連れていってやれ。だが、男は逃がすなよ?〉」
「ついてきてもいいっぽい」
僕は男を一度睨みつけてから鳳翔の後を追った。
不安しかなかった。ここにいる艦娘は皆、洗脳され我を見失っている。見ていていたたまれない。
「な、なぁ、夕立?本当にあの悪党がいいのか?」
「少し静かにするっぽい」
「なぁ、教えてくれよ。どこがいいんだ?」
「静かにするっぽい」
「なぁ、なんでそんなに冷たくなっちまったんだ?大本営で訓練してた時はもっと元気で明るい子だったじゃないか」
「黙るっぽい」
「なぁ、やっぱりあいつに洗脳されて・・・」
「黙れ!」
「なんなんだよ」
なんなんだ、おかしいじゃないか。心優しい艦娘達は洗脳され、奴の道具と成り下がっている。せっかく心配しているのに、それに応じないなんてきっと酷い洗脳を受けたに違いない。
それからはずっと無言だった。黙々と歩いていると、いつの間にか正門だ。
「じゃあな、鳳翔。僕はまだここでやり残したことがあるから戻るよ」
「お気をつけて」
鳳翔は優しく僕に微笑んだ。愛をひしひしと感じる。ここの艦娘にも愛を思い出して貰いたいものだ。
僕は夕立と共に応接間に戻った。そこには悪党の姿しかなかった。汚れた机は未だ拭かれていない。不衛生だ。やはり、悪党。このことからもその性格の悪さ、怠惰、怠慢が窺える。
「〈さて、話をしようか。率直に問う、何が望みだ〉」
間に夕立がはいる。
「僕の望みはここに囚われた艦娘の解放だ」
「〈それがなんの為になる?〉」
「艦娘の幸せに繋がる。艦娘の自由に繋がるんだ!」
「〈貴様の言っていることがわからん〉」
「確かにファシストの悪党にはわからんかもな」
「〈それは艦娘の望みか?〉」
「は?」
当たり前だ。艦娘は洗脳からの解放を望んでいる。そうに違いないのだ。
「艦娘は皆自由になりたいと思っている」
「〈それは貴様の下でか?〉」
「誰の下でもない!」
悪党は鼻で笑った。侮辱だ。防衛大学校を修学し、海上自衛隊海将補まで登りつめたこの僕の崇高な正義をこの悪党は侮辱した。これは許されることではない。
「何がおかしい悪党!全ての人間には人権が保証されている。その人権にはどんな人間にも自由があるということを含んでいる。それは、日本国憲法にも世界人権宣言にも記載されている!」
「〈ならば私の考えを貴様が制することも人権侵害だな。それにだ。その人権は、その自由は憲法だとか国だとか国連だとかの下で保証されているのだろ?ならば、貴様の言うような誰の下でもない自由は誰が保証するのか〉」
「それは」
おかしい。いつもの僕じゃない。洗脳されかかっている。気を確かに持て。大丈夫だ。僕なら問題ない。
「〈ここの艦娘の自由は私が保証している〉」
「黙れ!不確かな保証じゃないか!」
「〈ならば今の世界に確かな保証はあるのか?〉」
「だからこその民主主義なんじゃないか!お前はそれを否定するようだが、民主主義のおかげで今全ての人の権利が守られているんだよ。民主主義は強者も弱者も関係なしに参加して、皆にとって幸せな結末をもたらさんとする素晴らしいシステムなんだ。それを否定すること自体間違っている!」
「〈民主主義は大資本家の民意しか反映されない。違うか?大資本家は自分の利益だけを求める。だが、王政では王が絶対だ。富を独占しようとした資本家は革命を起こし、偽りの平等と自由をうたった民主主義を立ち上げた。労働者や失業者の民意は反映させない〉」
「今の民主主義は違う!」
「〈あぁ、青葉から聞いたよ。大資本家が支配するメディアに踊らされた教養のない有権者が増えたとね。まぁ、私のような独裁者にとっては好都合なのだがね〉」
「だ、黙れ!メディアは偏見なく報道することを心がけているはずだ!あと話を逸らすな!僕は艦娘の自由について話しているんだ!」
「〈ならば艦娘が私に付き従うこともまた、艦娘の自由だ。貴様が介入する余地はない〉」
おかしい、間違っている。悪党の言うことが正論であるはずがない。はやく穴を、ほころびを見つけろ。僕は正義の正義の正義の、、、
「違う、違う、違う!お前の言ってることは矛盾だらけで、それで、それで、それで、それで・・・」
「〈夕立、担いで彼を放り出してこい。もう今日は疲れた〉」
「了解っぽい!」
「待て、話はまだ終わって、おい、離せ夕立!離せ!」
必死に抵抗するが、艦娘の腕力には太刀打ちできず、ズルズルと引きずられていく。惨めだった。とてもとても惨めだった。