私は不信感を持っていた。私を慕う者、私に縋る者、私へ託す者。彼ら彼女らは本当に私の意志を継いでいるのか、本当に私の強大な理想を理解出来ているのだろうか。私は今一度再確認しなければならないのだ。考えれば考えるほど不審に襲われる。いや、私に不安な事など何も無い。否、否、否──。
気づけば私は立ち上がり、手に持っていたコーヒーが半分ほど入ったはずのガラス製コップを床に叩きつけ粉々にしていた。
私はため息をひとつつき、原因不明の頭痛に頭を抱えながら、椅子に座り直した。私はレーベを呼び出し、演説の準備を行うよう求めた。ビデオカメラと演説台を用意させ、開始時間を15:00からだと伝達させたのだ。レーベは突然の事に驚いていたが、すぐに部屋を出て準備に取り掛かった。
私は昼少し前に、食堂で神通の作った日本食を食べた。憲兵や工廠員がいなくなってしまったため、艦娘がローテーションを組んで食堂で食事を作っている。味はほとんど感じなかった。緊張のせいではない。興奮だ。憤りからくる興奮だ。私はこの思いを胸にしっかりしまい込み、昼食を平らげた。
15:04、私は今か今かと立ち並ぶ艦娘達の前に立った。拍手が鳴り響く。どこからともなく口笛も聞こえる。聴衆は計17名+3台。私はカメラの機械音が聞こえるまで、腕を組み、じっと辺りを睨んだ。ゆっくりと聴衆は静まり、小さなモーター音が私の耳に届くまでに至った。私は腕を下ろし、語りを始めた。
「Ich…Nein.私は新たに生を受け、ここに立ち、ここで話すに至るまで、私の中の理想は膨らんでいった。
だが、私の理想には諸君らの協力が不可欠であることは確かだ。諸君らは神の子だ。人類を統制する力を持っている。諸君らには力がある。
しかし、その力は力なきものによって、奴隷道徳や偏った良心という悪法で縛られ、搾取されている。私はそれを私の望む形で解放したいのだ」
私は深く息を吸い込んだ。
「かつて、私を夢想家だという者が世にいた。
私は答えた。あなたは愚かだと。
その夢想家がいなければ、どうなっていたことかと。私は常にドイツを信じていた。
かつて、私を夢想家だという者が世にいた。
私は常に帝国の復活を信じていた。
かつて、私を馬鹿だという者が世にいた。
私は常に我々の力が戻る事を信じていた。
かつて、私を狂人だという者がいた!
私は常に貧困が無くなることを信じていた!
それはユートピアだという者がいた!
誰が正しかったのか。私か、彼らか!
私が正しかった!」
私は腕をちぎれんばかりに振り、声を荒らげた。
「今もそうだ。
私を戦争屋だという者がいる!
だが、戦争無くして何が平和なのか!
私を悪党だという者がいる!
だが、私を信じる者がいる。そうして、私は今ここにいるのだ!私を信じる者が今もこうしているのだ!
私を狂人だという者が今もいる!
彼らに私は大きな声で応えよう。黙っていろ、凡人よ!私は凡人から見れば狂人かもしれない。だが、だからこそ、私にしか出来ないことがあるのだ!
そして、私はここに立ち、ここで感じる!遠くの同胞の嘆きを、国内の同胞の興奮を!
もう一度世界に問おう。
誰が正しかったのか。私か、彼らか!
私は正しかった!今も昔も、未来も、私は正しいのだ!」
私は興奮を軽く抑えて語りを続ける。
「私は彼らが不可能だと嘲笑った、ユートピアを再建する。
誰からも指図を受けない。私と諸君らだけのユートピアだ。
ヴァルハラから舞い戻った我々は人知を超えた存在だ。だからこそ、我々にしか、凡人では無い我々にしか、私の指導でしか完遂できないユートピアを築こうではないか。
諸君らは私の名の下でしか、私への忠誠の下でしか、そのユートピアを見ることはできないであろう。ともに築こうではないか。私の理想を、諸君らの国家を!」
私は息を深く吸い込み、両腕を力の限り広げ、叫ぶ。
「それが完成した時、我々は真の自由を目にすることが出来るのだ!我々は真の幸福を手にすることが出来るのだ!」
私は拳を強く握りしめる。
「私は私を中心にまわる巨大な共同体を望んでいる。それこそが最も効率的な理想への道であり、最も長く続くもの、まさしく、千年帝国であると私は信じている」
私は左手を腹部に当て、右手を前方に上げる。
「私を信じ、私へ託し、私に付き従う者達よ!
ともに勝利を信じ、歩もうではないか!
勝利万歳!勝利万歳!ジーク・ハイル!」
万歳三唱とジーク・ハイルの掛け声がこだまする。
私は聴衆に応えるように、何度も何度も繰り返し叫んだ。「勝利万歳!勝利万歳!ジーク・ハイル!」「勝利万歳!勝利万歳!ジーク・ハイル!」「勝利万歳!勝利万歳!ジーク・ハイル!」
私は一体となった興奮の渦の中、左足を上げ、床に叩きつけた。
「私は諸君らのより一層の奮闘とより誠実な忠誠を期待している。以上だ」
私はそう言い残し、皆に背を向けた。背中越しに感じる熱気はとてもとても心地いいものだった。