見事にたった水柱にギャラリーは喚声を上げていた。モニター用艦載機の観察から真珠戦隊の性格の解析、そしてそれを戦術に落とし込む。演習用の戦術であり、ここでしか出せない味ではあるものの、その発想とそれを実行する能力は評価に値するものであった。
瑪瑙戦隊は真珠戦隊に追い打ちをかけようとすぐそばまで迫っていた。それなのに、先程の怒りはどこへやらと、神通は落ち着いた様子であった。
「夕立ちゃん、天龍さん・・・突撃」
神通は呆気にとられるふたりに早くしろとギロりと目配せする。夕立はニヤリと笑い突撃する。天龍はもうどうにでもなれというように雄叫びをあげそれに続く。それを見送った司令は加賀に向かって命令をだす。
「艦載機発艦、お願いします。もちろん爆撃機を」
加賀は少し悩んで、ええ、と一言返事をする。そして、矢を放った。
「おい、神通」
「なんですか?姉さん」
「後であの子たちに恨まれるよ?」
「ふふ、大丈夫ですよ姉さん。姉さんは恨まれたりしませんから」
「はー、そういうこと言って・・・。はいはい良いですよ旗艦殿」
「もう、茶化さないでください!演習中ですよ!」
一方、前線では龍田の思慮が行動に支障をきたしていた。
「天龍ちゃんと夕立ちゃんが突っ込んで来るわね・・・。でもどうしてこんな無謀な突撃を?バカだから?天龍ちゃんだから?うーん・・・」
「龍田!青葉敵影ガッツリ見ちゃってますよ!指示出して!」
「わかってるわ・・・。周辺からの敵影警戒しつつ、青葉さん、那珂ちゃん、砲撃よーい・・・撃て!」
水柱がたつ。それを避けるように蛇行して進む天龍と夕立。
「うぉっ危ねぇ!」
「ぽいぽい!」
「任せて。長波ちゃん、雪風ちゃんも一緒に、砲撃よーい・・・撃て!」
龍田、長波、雪風の各砲門は火を噴く。天龍と夕立目掛けとぶ弾は、標的を避け水柱に変わる。
「当たらないわね〜」
「なぁ龍田?1回止まらへん?」
「何言ってるの〜?」
「このままだと白兵戦になる。あのふたりは分が悪いんとちゃう?」
「弱気ねぇ。まぁ、今更遅いと思うけどね〜」
すでに天龍と夕立は白兵戦に備えつつ、雄叫びを上げて迫ってきていた。
「各員白兵戦の準備、迎え撃つわよ〜」
その時であった。突如長波が叫ぶ。
「上空、敵機多数接近中!!!」
龍田は困惑した。白兵戦の最中で爆撃すれば敵味方関係無く損害がでる。その困惑を振り捨て、判断する。味方を攻撃するわけが無いと。
「上空敵機は陽動かしらぁ。警戒しつつ、白兵戦に専念してね〜。龍驤さんは一応戦闘機飛ばして何機か落としといてね〜」
「よし、発進!」
龍驤の戦闘機の小集団は加賀の攻撃隊の大軍を軽く牽制する。そして、とうとう彼女らは目と鼻の先である。
彼女らが接敵したその時、急に攻撃隊が速度を上げて散開した。その光景に私は畏怖と感動を覚える。上空から爆弾の雨が降ったのだ。
「こりゃマズいでぇ!」
「無差別爆撃・・・?て、天龍ちゃん!」
「なっ!?」
咄嗟に龍田は天龍を突き飛ばし、大きく被弾する。確実に中破である。天龍は訳が分からず硬直している。そして私は妹の甘さに大きく落胆した。
そんなことを他所に6名の艦娘も混乱の中に呑まれていく。
ふと、夕立が笑う。
「素敵なパーティできるっぽい!」
彼女は血で艤装を染めながら、黒煙と紅炎の中で踊る。混乱を通常と真っ先に認識し、戦闘を再開した彼女はその中で最も美しく、最も強かった。
その姿に感心していると、夕立が突然口から血を垂らし硬直した。腹から刃先が赤く輝いている。先程私を落胆させた龍田だった。彼女は先程までとは違い、怒り狂った目をしていた。
「死にたい船はどこかしら・・・」
龍田は薙刀を抜き、神通のもとへひとり急行する。他の面々は天龍や爆撃機の対処に追われてそれどころでは無い。
「神通、ひとり突っ込んでくるよ?すっごい飛ばしてる。あれは完全にキレてるね」
「了解しました、姉さん。迎えうつ準備を」
神通たちと龍田が接敵する。何発もの弾丸が龍田を貫くが、当の本人はお構い無しに薙刀を向け突撃する。そしてとうとうその刃は神通の横っ腹を切り裂き、龍田の胴体と共に海面に打ち付けられた。
その瞬間、観覧者の全員が息を呑む。
すると、隣のレーベが私に助言した。これはもう演習どころじゃないと。
私はその言葉に納得し、マイクにむかう。
「演習終了!演習終了!
真珠戦隊、損害、大破、巡洋艦1駆逐艦1、中破、巡洋艦1、小破、空母1。
瑪瑙戦隊、損害、大破、巡洋艦2、中破、空母1駆逐艦1、小破、駆逐艦1。
今演習は、真珠戦隊の勝利!
・・・すぐに負傷者をドックへ」
初めて話した時はそこそこ煽ったが、龍田を怒らせることだけは絶対に止めよう。私は胸にそう誓った。