この鎮守府で誰が最も私を慕っているかと問えば、ドイツ艦を除き、必ずレーベレヒト・マースと返ってくるだろう。レーベは私と一番初めにあった艦娘であり、一番初めに同胞となった友人である。
また、彼女は私の求めている素晴らしい女性像に極めて近いと言えるだろう。
美しくのびる白銀の短髪は、透き通る白い肌の丸くふくよかな輪郭を丁寧に捉えていた。宝石の様な丸く煌めく青い瞳が、ふっくらと慎ましく膨らんだ薄紅色の唇が私を魅了する。華奢な身体からスラリとのびる脚はさながら堂々たる、神秘的な、それでもって美しい乳白色のギリシアの大理石の柱である。
私をとても慕っており、敬愛している。気配りができ、頭がまわり、女性にしては思慮深い。日差しのような暖かさ、聖母のような優しさを備えている。その上、艦娘として、軍人として至極優秀で、強くたくましい。
「・・・結婚したい」
私はため息とともに本音を吐露してしまう。
「結婚ですか?」
それに今日の秘書艦であるレーベが反応する。恥ずかしい。よりにもよって本人にきかれてしまうとは!
私はそれに慌てて応える。
「ん、ああ、結婚だ」
「エヴァさんとです?」
「え、あ、うん。そうだな。そうかもしれない」
そんな事ない、君とだよ。なんて臭いセリフを軽く吐いてみたいとも思うが、私の羞恥心はそれを許してはくれない。
「やっぱりそうなんだ」
そう言うと、少し残念そうに俯いた。可愛い。もしかして、脈アリなのではとも思うが、そんなわけが無い。確認する度胸も無い。少し凍りついた時間だけが過ぎていく。
「総統、仕事終わったよ」
「あぁ、私もあと少しで終わるよ」
再び沈黙。緊張が続いた。カリカリとペンの動く音と、カタカタとキーボードが叩かれる音のみが響く。
「よし、終わった」
日は傾いているとはいうものの、晩飯にするにはまだ高い。私は深く椅子に座り直した。
その時の私に勇気などというものがあったとは思えない。だが、出てしまったのだろう。そうとしか捉えようがないのだ。
「なぁ、レーベよ」
「どうしたの?」
「結婚ってどう思う?したい相手とかいるのか?」
「結婚かぁ。まだ先の話に感じるな」
「そうかそうか」
「結婚したい相手はいるよ」
「そ、そうかそうか」
思わず落胆してしまう。やはり年頃の娘、好きな男がいてもおかしくないのか。
「どんな相手なのだ?」
「えー、いくら総統でも、それを言うのは恥ずかしいよ」
乾いた笑いを返すしか私にはできなかった。どんどん自分自身が情けなく思えてきた。辛い。クビツェクに慰めて貰いたい。けど、クビツェクはもう居ない。え?辛すぎるのだが。嗚呼、惨めだ。
それでも私は聞かずにはいられなかった。私の愛する人が好きな男がどんな奴なのか。知ってどうするかなど、分かりきったことよ。脅すか殺す。
「教えてくれよ」
「えー、じゃあちょっとだけ」
愛らしく、少しばかり頬を赤らめて俯く。
「礼儀正しくて」
「ほうほう」
「タバコは吸わなくて」
「ふむ」
「リーダーシップがあるの」
「ん?」
私の心にひとつの傲慢な疑念が浮かぶ。
「それって、もしかして・・・」
「総統閣下、晩御飯が用意できました」
マックスによって、ノックとともに伝えられたその文言により、私の疑念は長く眠ることとなった。
レーベは私の袖を嬉しそうに引っ張る。
「行こう、総統!」
私の想いを知らぬまま、無邪気に、無垢に、そういった。