私は那珂と似た少女と対峙していた。
「君かね、私を殺しに来たのは」
「モノワカリガイイナ」
「殺させはしないがな?」
「ナッ。ナメテイルノカ?」
「あぁ、舐めているとも」
「キサマ!」
「短絡的で感情論者な頭でっかちだと認識しているが、違うのかね?」
一発の破裂音が響いた。だがそれは広島中を響くサイレンと悲鳴の音にすぐかき消されることとなるだろう。私の腹には焼けるような鈍痛が響いている。ちなみにレニャは後ろで他の深海棲艦たちとクスクス笑っている。
「そういうところが短絡的なのだよ。人の話を聞く気が無い。これでは戦争には勝てても勝負には負けてしまうぞ?」
「ナニガイイタイ?!」
「まずは私の話を聞け」
私は謎を紐解いた探偵のような口調で語った。
「今回の同盟が不満なのだろ?」
「ソウダトモ!」
「どこが不満なのだ」
「人間トノ仲良シゴッコナド認メラレルカ!」
「あー、そのことなのだがな?私含めこの同盟には人間はひとりも介入していない」
「ア?」
「知らなかったか?私も人間では無いのだよ。少し私の話をしよう」
私は深く息を吸い込んだ。
「私はオーストリアのドイツ国境付近で産まれた。学生の頃、私は画家になりたいと思っていた。その時から歴史や政治にある程度の興味を持っていたことは確かだが、たんなる子供の教育の範疇でしかなく、やはり私は画家になりたかったのだと思う。産まれたときは普通の人間だった。だが、私は戦争を経て、政治に目覚めた。共産主義にかぶれたこともあったが、国家主義に思想は落ち着いた。私の政治活動のはじめは小さな小さなビアホールであった。私の演説はその場の全員を魅了した。私はそのビアホールよりも小さなドイツ労働者党という政党に所属し、政治活動を始めたのだ」
「ナンノ話ダ!」
「まぁ、落ち着いて聞きたまえ。私の政治活動は苦難の連続であったが、それでも私は最終的にドイツの総統という地位についた。そして、増殖する害を排除し、世界に冠たるドイツ目指して大戦争も始めた。だが、私に転機が訪れた。きっと神からの思し召しであろう。戦争の最中、私はこの地で目覚めたのだ」
「ダカラドウシタ?」
「私はこの地で目覚めた時、すでに身体は君達と同じモノになっていたようだ」
「ダトシテモ敵ダトイウコトニハカワリナイ!」
「そこなのだよ。私は君達の敵じゃあ無い」
「ナニヲイッテイル!」
「私は君達の敵じゃ無い。ましてや君達が人類の敵だとも考えてはいない。そう、私こそが人類の敵なのだよ。
私は世界を我が物にしたいのだ。これはたんなるワガママと蹴られても仕方がないだろう。しかし、私は私のユートピアを信じているのだ。平和な世界。裕福な世界。自由な世界。私は私のユートピアを信じているのだ。私は私の夢を信じているのだ」
一瞬の沈黙が流れる。
「君達はどうだ?何を信じてる?何を信じて戦っている?」
「我々ハ、私ハ…」
私は声を張り上げる。
「私を信じろ!
私こそ世界を発展させる教育者である!私に服從せよ!必ず良き未来を与えてやる!
私こそ善悪を裁く裁判官である!私こそ絶対的価値基準であり、価値観が私である。すべての事柄が私の意志で決定されるのだ!
私こそ戦争を指揮する指揮官である!私こそ屈強で秀才、そして即決、必ず勝利へ導く軍神である!
私こそ万人を導く指導者である!思慮は不要である。私を信仰し、言葉を心に留めよ。それだけで良いのだ。
私こそ汝らを導く指導者である!私を認め、私に傾倒し、私を感じるのだ。私こそが諸君らの求める答えそのものである!
私こそ君を導く指導者である!私に服從せよ!それこそが自由と勝利への道である!
私は誰だ!私は私だ!私こそがヒトラーである!私こそがアドルフ・ヒトラー総統である!」
「ナント傲慢ナ…」
「傲慢ではない、事実だよ」
「ハハ」
彼女は振り返り、呟いた。
「コノ内ノ何隻カハキサマノ演説ニヤラレテシマッタヨウダ。ダガ、私ハ認メナイゾ」
「なら演説を続けてやろう」
「マダ続ケルツモリカ?」
「あぁ」
私はあとひと押しだと確信していた。私はゆっくりと前に出て、彼女の手を握った。彼女は慌てふためいている。私は彼女の目をじっと見つめた。
「落ち着きたまえ。私はここにいる。安心したまえ。私はここにいる。私を信じたまえ。私はここにいる。大丈夫だ。私は君を裏切らない。あとはすべて任せたまえ。私は天才なのだ。なんでもできる。私の辞書に不可能という文字は無いのだ。私を信じたまえ。私はここにいる」
「ダ、ダカラナンダ!」
「私の傘下に、いや…君はこの大艦隊の長官なのかな?」
「イヤ、違ウゾ」
なんだ、違うのか。そう私は落胆した。
「マダコノ何倍ハイルゾ。ソレノ参謀ノ一員ダ」
「なんと…!?」
「デ、ナンダ?」
「私の傘下に入らないか?」
「フン、断ル。ダガ、ミドコロハアル。今回ハ見逃シテヤル。感謝シロ」
「そうか」
「総員、興ガ醒メタ、帰ルゾ」
そう言って、彼女たちは帰っていった。