翌日、あの大艦隊が帰投したことが世界中で報道されていた。報道は歓喜と称賛の声で溢れていた。そのニュースでは自衛隊や艦娘の活躍について多く語られていた。功労者として、崩壊した呉鎮守府が大々的に報道されたことは言うまでもない。
私は考えた。今こそ、躍進のチャンスでは無いか、と。私は怪我の完治を確認した後、イヤフォンをつけた青葉をメディアの群れに付き放った。私の声をメディアに発信するのだ。
メディアの群れは艦娘だ艦娘だとザワついた。艦娘がカメラの前に出ることが珍しいことは知っている。すぐに質問攻めにあっていた。大本営の基本方針は秘匿主義である。生憎、私は大衆迎合主義が基本方針だ。
「お、あなたは?」
「呉鎮守府所属の青葉です。今から緊急記者会見を行います。私の言葉はこの呉鎮守府の長たる司令官のモノだと考えてください。私はこのイヤフォンから聞こえる司令官の声をただ、代弁するだけです」
「秘密だらけの司令官と巷では言われているその司令官ですが、何か情報をいただけないでしょうか」
「イニシャルがHとだけお伝えします」
「なぜ指揮官は姿を見せないのでしょうか」
「それは、大本営の方針だそうです」
「今回の勝利についてお聞かせください」
「今回は完全なる大敗北です。歴史的に見ればミッドウェーに並ぶものとなるでしょう」
「その敗北と考える理由をお聞かせください」
「犠牲を出しすぎました。ただそれだけです」
「それは自衛隊に非があったことを認めるわけですね?」
「自衛隊員には非はありません。自衛隊幹部、大本営、そして政府、ひいては国民に非があったと考えています」
「その非とはなんでしょう?」
「これが戦争であるという意識の無さ、そして、必ず勝てるという慢心、さらには、戦力逐次投入、早期避難等の判断の遅さ、ですかね」
「それは、艦娘や自衛隊が行うべき義務ではないのですか?」
そうだそうだとすぐに合意の怒号が飛ぶ。
「いいえ。これはメディアが行うべき責務です。つまり、メディアの失態です」
この言葉にあたりは騒然とした。この時代、この国でメディアに歯向かえる人間はそういない。しかし、この鎮守府は歯向かう、いや、牙を向けることを毅然とした態度で行う。
「それは責任転嫁と言えるのでは無いでしょうか!」
「流石、責任転嫁のプロフェッショナル集団です」
「何が言いたいのでしょうか!」
「メディアとは本来、国民を啓蒙し、政府を監視する機関だと認識しています。しかし、テレビをつければ低俗なドラマ、下品なジョーク、愚かしいニュース。これでは国民の心は自衛隊から、政府から、戦争から離れていくでしょう」
「責任転嫁ということにお答え頂きたい」
青葉は私の言葉を淡々と続ける。
「国民の手本たるべきメディアがこのような体たらくでは国が滅んでも仕方がないということです。それなのに、ノコノコと現れたと思えば勝利の歓喜のみを報道をしようとする。無理だとわかれば粗探し。報道の技術は日々進化しているというのに、もしかしてこれでは大日本帝国時代のほうが働いていたのでは無いですか?」
「戦争を賛美するのですか?」
「いえ」
「しかしなら…」
「戦争なのです。すでに我々は戦争をしているのです。平和ボケをそろそろ自覚する時なのです」
「我々日本国民は平和のために戦っているのだと考えていますが、そのことについてお聞かせ願いたい」
「日本国民がいかに平和の使徒だろうと敵はお構いなしに攻めてくるのですよ。平和のために戦争をしているのです」
私は青葉にゆっくりと後退するように指示をだす。その指示に合わせてゆっくりと後退する。それに群れはジリジリと距離を詰めてくる。
「H司令官の私見で構いません。現在の戦況と今後の予測をお聞かせください」
「現在の戦況は、深海棲艦が攻めてこないという希望的観測による安寧でしかなかったことがハッキリとわかったと思います。つまり、人類は始めから窮地に立たされているのです」
「それでは…」
「勝利するのは我々です」
おぉと歓声がわいた。その様子に青葉は思わず苦笑してしまう。
「我々が勝利します。必ず」
青葉は力強く私の言葉を復唱した。
「テレビの前の深海棲艦に怯える人々に一言ください!」
「我々が勝利します」
そう言って、青葉は群れに敬礼し、くるりとまわり、鎮守府の門をくぐった。群れの先頭はぐっと腕を前に出し、さらなる報道の自由を主張せんと乗り出した。が、それを他の艦娘が抑え込み、門は閉じられた。