僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood 作:マーベルチョコ
一軒家のリビングで髪の色が血のように紅い親子が一緒に古びた皮用紙の分厚い本を見ていた。
「これはわかるかい?」
父親は本に書いてある言葉を指す。
「わかるよ!111しき くろいつべるにくとらんちぇでしょ!」
「少し発音が違うが合ってはいる」
「だってむずかしいし……」
子供は少し拗ねたような表情をすると父親は子供の頭を撫でる。
「いつか言えるようになるさ」
父親は優しい表情で撫でるが、真剣な顔になって子供に話しかける。
「この数々の技は本来人に使ってはいけない技なんだ」
「でも父さんはつかってるじゃん」
「あれは人に使っても大丈夫なように抑えているんだ。本来コレは『人以外』に使うものだからね」
「ヒトいがい?」
「いずれ分かる」
父親は本の最後のページを開く。
「だが力を抑えたとしても使ってはいけない技がいくつかある。これはその一つ」
父親は子供に見せると子供はまじまじとそのページを見る。
まるでその一瞬で覚えようとしているかのように。
「しかし、もし大切な人を守ろうとした時は自分の心に従えばいい。私も……そうした」
父親は懐かしむようにリビングに飾ってあった自分と赤ん坊を抱いて幸せそうに笑う女性との写真を見る。
「そのわざのなまえは?」
「その技の名は………」
○
血界から作戦を伝えられた全員は配置につき準備をする。
準備が終わったのと同時に脳無は氷から抜け出し、真っ直ぐに血界と耳郎に向かって四つん這いで走ってくる。
「頼むぞ轟!」
「フッ……!」
最初は氷塊を投げられ足を怪我した轟が切島に支えられながら、斜めから最大限の氷を脳無に向かって放つ。
脳無は迫ってくる氷を殴り、引っ掻き、壊していく。
「いくよ……!」
そして耳郎が大音量のスピーカーで脳無を動きを麻痺させるが、さっきの二の舞いにならないように音波をかわしながら移動し、直撃を避けている。
耳郎の後ろには片腕が青く腫れ上がっている爆豪と緑谷、峰田、さらにその後ろには血界、蛙水と気絶している相澤が待機している。
「大丈夫なのかよこの作戦……」
「今は少しでも可能性がある方に賭けるしかないよ。かっちゃん準備は?」
「うるせェ!もうできとるわ!!」
不安そうにしている峰田に緑谷がフォローし、爆豪に確認するが爆豪は他人の作戦に使われるのが嫌なのかイライラしていた。
「でも驚きだよ。かっちゃんが血界くんの作戦になってくれるなんて……」
「ハンッ!今はあの化け物をブッ殺すのが先だろうが。そのあとあのツリ目野郎もブッ殺す!」
「ハハ……かっちゃんらしい」
緑谷は乾いた笑いを出すが、爆豪自身もあの化け物に単身で勝つのは無理だとわかっていたのだ。
それが彼自身苛立ちの要因の一つである。
「血界ちゃん……うまく行くかしら?」
「うまく行くかじゃない……上手くやるしかないんだ」
「それでも失敗したら血界ちゃんが真っ先に死んじゃうわ!」
蛙水が普段あまり表情が変わらないのに今は不安だと分かるほど眉を潜めている。
「俺だって死ぬのは怖い……だけどそれ以上に怖いのは耳郎や梅雨ちゃんや緑谷たちや俺の大切な人が死ぬのを見ることなんだ。俺は大切な人を守るためなら何だってできる。だから必ず成功させる…………大丈夫!俺を信じてくれ」
血界の曇りのない目を見て蛙水は少し不安が和らぐ。
「ええ、わかったわ。血界ちゃんを信じるわ………だけどなんでもって言ったけど死なないでね。私も耳郎ちゃんも、もちろん緑谷ちゃんたちも悲しむわ」
「ははっ、爆豪もか?」
「それは……どうかしら?」
少し冗談を言えるくらいまで不安が消えた蛙水を見て、血界も安心する。
「わかった、死なないよ。だから耳郎のこと頼む」
「ええ」
真剣な表情で頼む血界に蛙水も気を引き締める。
それと同時に氷が砕ける音が響く。
「始めるか」
血界は拳を顔の前に持ってきて左手でナックルガードを持つ右腕を支える。
「憎しみ給え……」
脳無が辺りに氷の破片を撒き散らし轟の邪魔をするが切島が氷塊を砕く。
しかしその隙に脳無は耳郎に近づいていく。
「させねぇ!!」
轟は今日一番のスピードで氷を放ち、脳無の足を捕らえる。
「許し給え……」
血界の全身から拳に血が集まっていく。
脳無は凍った足を自ら破壊し、片足で耳郎に近づく。
「梅雨ちゃん!」
「ケロォッ!!」
耳郎が蛙水を呼び、蛙水は舌を伸ばし耳郎に巻きつけ渾身の力で自分のところに引っ張る。
「諦め給え……」
耳郎は蛙水に抱き受け止められ、その後ろに立っていた爆豪が籠手付いている腕を脳無に向け、ピンを抜き溜めに溜めた最大火力を脳無に浴びせる。
「人界を守るがために行う……」
片足がなくなった脳無は態勢を崩れながら爆発を受け態勢が崩れこける。
「うらああぁぁぁぁッ!!!喰らいやがれェ!!!」
すぐさま峰田が自分の個性である『もぎもぎ』である粘着性の髪を頭から血が出るまで脳無に向かって投げる。
「我が蛮行を……!」
血界の詠唱が終わるのと同時にナックルガードは一つの星のように紅い輝きを放つ。
緑谷は爆豪と峰田を抱え、後ろに走る。
それと交代するかのように血界は前に出て、拳を振りかぶる。
脳無が攻撃しようと動こうとするが、峰田のもぎもぎが体のあっちこっちにくっついて四つん這いの状態で動けない。
「これで……!っ!?」
血界が終わりだと言おうとした瞬間、横から脳無の刃のついた血の触手が迫ってきていた。
なくなった足から生えてきたのだ
(まずっ……!)
回避するのが間に合わない、当たると思った瞬間触手は元の液体状に戻った。
「!?」
驚く脳無が目にしたのは横になり苦しそうにしながらもこちらを睨む相澤の姿だった。
「いけぇっ!」
「頼む!」
「やっちまえぇ!」
「血界くん!」
「ぶちかませ!」
「血界ちゃん!」
「血界!」
全員が血界に声をかけ、血界は拳を脳無の額にぶつける。
「ブレングリード流血闘術……!!!」
ナックルガードから血が脳無に打ち込まれる。
999式 久遠封縛獄
脳無の体から血が溢れ出て体を覆っていき、体を十字架に磔にするように拘束されその体を圧縮されていく。
「GLUAAAAAA!!?」
「汝を……封縛する!」
凄まじい衝撃とともに脳無は圧縮され、手のひらサイズの十字架になり地面に落ちた。
一瞬の静寂が広まるが、峰田が次第に震え出し歓喜の声を上げた。
「やったあああぁぁぁぁッ!!!倒したぞぉぉぉ!!!」
その言葉に全員がやりきった顔になる。
全員が安心した顔になり、互いを労わりあう。
爆豪は相変わらず、ツンケンしていたが……。
耳郎も脳無を封縛した後、棒立ちになっている血界に近づく。
「何やってんのさ。今日一番の功績者でしょ」
耳郎が血界の肩を軽く叩くと体がフラつき倒れてしまった。
「え……ちょっ…血界!?」
倒れた血界に慌てた耳郎は側にしゃがみこみ、容態を見る。
気絶しているようだが、顔が死人のように青くなっている。
「耳郎ちゃん!どうしたの?」
「わからない!肩を軽く叩いたら倒れちゃって……!」
慌てる耳郎と倒れた血界に集まる面々が心配そうに血界を見る中、爆豪と轟はまだ警戒を解いてなかった。
2人の目の先には苛立ちを爆発させている死柄木の姿があった。
「なんで倒されたんだよ!!ただの餓鬼どもだろうが!!まだオールマイトにすら会ってないんだぞ!!」
「あの技はまさか……!!」
死柄木は首を激しく掻きその苛立ちを露わにし、黒霧はさっきの血界の技を見て何かを思い出した様子だ。
「どうする?今なら逃げられるぞ」
「ハッ!逃げたきゃお前らでけでも逃げてろ雑魚が。俺はアイツらをブッ殺す!!」
怪我をしている2人だがその闘志はまだ消えておらず、いつでも戦えるようだ。
「黒霧ィッ!あの餓鬼どもを殺すぞ!!」
「はい!あの少年は生かしておいては我々の計画に邪魔です!」
黒霧が一気に広がり血界たちを囲い、逃げ場がないようにする。
「!!」
すると血界から一番近い黒霧から死柄木の半身だけが飛び出し、血界に触れようとする。
突然のことに反応が遅れてしまい、誰も血界を守れない。
死柄木が触れそうになったその瞬間……
「SMASH!!!!!」
その声とともに凄まじい風が巻き起こり、黒霧を押し戻し死柄木も吹き飛ばされてしまう。
「お、お……」
「オールマイトォォッ!!!」
その風を巻き起こしたのは平和の象徴、オールマイト。
彼は怒りの表情で死柄木たちを睨む。
「遅くなってすまない。皆んな!!」
オールマイトは傷ついた生徒たち、倒れている血界と相澤を見て更に怒りが溢れ出る。
「よくもやってくれたなヴィランども……!!覚悟しろ!!!」
オールマイトが死柄木たちを睨むとそれだけで死柄木は後ずさりしてしまう。
「おおっ……!?これがNo.1ヒーローの……」
「何という気迫……!」
「黒霧逃げるぞ……今回は想定外のことが起きすぎた。武器もねぇのにラスボスと戦うなんて自殺行為だ」
黒霧は死柄木を包み込むように広がる。
「逃げるのか!?」
「ああ、逃げるよオールマイト。今度はもっと強い武器を持ってくるよ。…………それと赤髪の餓鬼……!お前は忘れないからな……!」
死柄木は倒れている血界に向かって睨むが耳郎がそれから守るように血界を庇う。
やがて死柄木と黒霧は消えていった。
○
その後、尾白となんとか外に出れた飯田は先生方を連れて、ヴィランの残党を倒し、生徒たちの安全を確保した。
「なんてこった……これだけ派手に侵入されて逃げられちまうとは……」
「完全に虚をつかれたね……それより今は生徒らの安否さ」
校長の根津が先生たちに指示を出す。
やがて警察と救急が来て重傷の相澤、13号、血界は運ばれていったが
その時皆は不安そうな顔をしていた。
USJにいたヴィランは全て捕まり、とりあえずは事態は収まった。
その後、オールマイトは指を骨折したがリカバリーガールによって治療してもらった緑谷を応接室に呼んだ。
「失礼します」
「来たか。今日は大変だったな」
オールマイトはトゥルーフォームの状態で緑谷を労わる。
「いえ……あの血界君たちは?」
「轟少年、爆豪少年はリカバリーガールに治療してもらってもう安心だ。相澤君は顔に後遺症が残るそうだが今までと変わらず活動ができるらしい。13号君も相澤君ほどでもないが2人とも入院している。ラインヘルツ少年だが……」
オールマイトが言いにくそうにしているが正直に話す。
「全身の骨が骨折またはヒビが入っていて、複数箇所の裂傷も激しい。そして極め付けは全身の血が失血死寸前までなかったらしい。すぐに集中治療室に運ばれたよ」
「そんな……!」
「もし回復したとしてもこれから普通の生活を送れるかどうか……」
オールマイトが悲痛な顔でそう告げる。
緑谷も悲痛な顔になって俯く。
重い空気の中応接室に誰かが入ってきた。
「オールマイト、ここにいたのか。なんだか重い空気だが……」
「塚内くん!来てくれたのか」
「お、オールマイト!いいんですか!?姿が!!」
「ああ!大丈夫さ!彼は警察の中で最も仲が良い友人の塚内直正くんだ。もちろん私のことも知っている」
塚内は緑谷を見つけると話しかけた。
「ちょうどよかった。生徒に事情を聞きたかったんだ。君は……」
「緑谷です。緑谷出久」
「緑谷くん。これについて少し教えて欲しくてね」
塚内は懐から写真を一枚取り出し、緑谷に見せる。
それは血界が脳無を封じ込めた十字架が写されていた。
「これは……血界くんが技を使って脳無を封じ込めた物です。確か技名は……え、えーびひ?」
「久遠棺封縛獄(エーヴィヒカイトゲフェングニス)」
緑谷が思い出そうとするとオールマイトが横から答える。
「あ、それです。あれ?なんでオールマイトが……」
「やはりか……名前を見てまさかと思ったが彼の血縁者か」
「息子だよ。昔赤ん坊のラインヘルツ少年を抱っこしたことがある」
塚内とオールマイトが2人で話を進めていくが緑谷が待ったをかける。
「まっ、待ってください!オールマイトと塚内さんは血界くんのことを知っているんですか!?」
「ああ。彼の父親は元プロヒーロー……昔私と共に仕事もしたことがある友人だった」
オールマイトは懐かしむようにそう言った。
○
どこかの暗いバーに黒霧の渦が広がり、そこから死柄木が現れる。
2人はほぼ無傷だが兵隊を失い、最大の戦力だった脳無を失った。
事実上の敗北だった。
死柄木は黒霧から出ると椅子を蹴飛ばし、苛つきをぶつけた。
『どうやら失敗に終わったようだね』
テレビから音声だけが流れ、闇のそこから聞こえてくる邪悪な声が聞こえる。
「先生……なんだあの脳無は?途中で暴走しやがって……予定が全部オジャンだ。オールマイトとすら戦えなかった」
『暴走?どう暴走したんじゃ?』
テレビからもう1人、少し年老いた声が流れる。
「赤髪の餓鬼の血を舐めた途端姿が変わりやがった」
「意思みたいなものもあるように見えました。まるで殺しを楽しんでいるかのような」
それを聞いた先生と呼ばれた人物は突然笑い声を上げた。
『ハハハッ!そうか!暴走したのか!!』
「何が可笑しい……?」
死柄木はテレビの声に苛立ち、睨む。
『いや、すまない弔……失敗したことに笑ったのではなく、暴走したことに嬉しくてね』
「同じことだろうが……!!不良品なんて使わせやがって……」
『弔、今回の失敗は決して無駄じゃなかった。次は精鋭を集めよう!時間をかけて!死柄木弔!次こそは君という恐怖を世に知らしめよう!!』
テレビの回線はそれだけを言うと切れてしまった。
そのテレビの回線先では声の主である男が身体中にチューブを繋げている異様な姿だが楽しそうに笑っていた。
「クククッ……あの脳無が暴走したか……それは良いことを聞いた。彼に知らせないとな」
「嬉しそうじゃな」
「そりゃそうさドクター!久しぶりに友人に朗報を知らせることができるんだからね!」
男は口を三日月のように歪め嗤う。
「さぁオールマイト……『闇』が動き出すぞ」