僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood 作:マーベルチョコ
血界との出会い。
それは路地裏で僅かに血の匂いが醸し出している殺伐とした場所でだった。
耳郎は黙っていても仕方がないので話しかけてみることにした。
「名前さ、どっちで呼べばいい?」
「血界でいい」
「血界ね、オッケー。ウチのことは好きに呼んでくれていいから」
この時耳郎は人を殴り倒すような奴だが不思議と血界からは恐怖心を感じなかった。
その時、倒れていた学生の1人がゆっくりと立ち上がり持っていた鉄パイプを気づいていない血界に振り下ろした。
「ウォリャァァッ!!」
「危ない!」
「チッ!」
血界は避けずに耳郎を庇って、腕で鉄パイプを受け止めた。
「ラァッ!」
「グヘッ!?」
血界は相手の鼻っ面な目掛けて殴り倒し、それと同時に遠くからサイレンの音が響いてきた。
「やべっ!警察だ!行くぞ!!」
「えっ、ちょっと!」
血界は耳郎の手を取って逃げ出した。
2人は少し離れた公園に着き、やっと一息ついた。
「ふぅ…、なんとかバレずに済んだな」
「ハァ…ハァ…早すぎだって…!」
血界の速さに耳郎は手を引っ張られていても、着いて行くのに精一杯だった。
そして漸く血界に手を握られていることに耳郎は気づいた。
「ちょ、ちょっと!離してよ!」
「おっ、悪い」
血界は何ともないようだが、耳郎は少し恥ずかしそうにしていた。
まだ中学生になったばかりで色恋の感情はこれから育っていくが、それでも男子と手を繋ぐのは恥ずかしいらしい。
その時、耳郎は血界の手が傷ついていることに気づいた。
「手、怪我してるじゃん!」
「あ、本当だ。まぁこんくらいならいつか止まるよ」
「そんなこと言ってないで!ほら!」
耳郎は血界の手を取って、水で傷を流し持っていたハンカチで覆った。
「これでよし」
「ありがとうな、ハンカチ洗って返すよ」
「いいよ。気にしなくて」
2人は遅刻確定だが、とりあえず学校に行くことにした。
「じゃあ血界はここに2年前に引っ越してきたんだ」
「ああ、叔父さんの家で暮らしてるんだ」
2人は学校に着き、それぞれのクラスに別れた。
「じゃあな」
「うん、今日はありがと」
耳郎が教室に入ると友人たちが慌てて駆け寄ってきた。
「キョウカ!大丈夫だった!?」
「何もされてない!?」
「ちょ、ちょっと何?どうしたの?」
「だって、『あの』ラインヘルツと一緒だったじゃん!」
友人のその言葉が気になり、問いただす。
「『あの』?ねぇ、それってどういうこと?」
「知らないの?ラインヘルツってこの学校じゃ有名な不良だよ」
「何人も病院送りしたり、先生も殴ったって聞いたし」
「そうなんだ……」
それを聞いた耳郎はさっきの血界の目を思い出し、何故かそんなことをするような奴には思えなかった。
その後も血界の噂を聞いて回ったが、どれも暴力沙汰なものばかりで、皆口々に血界のことを危険な奴だと言うが、耳郎はどうしても皆言うような人間には思えなかった。
○
その日の放課後、耳郎が下校している前を同じ学校の男子生徒が慌てた様子で走り抜けた。
気になり通ってきた道を覗くと血界が不良たちに囲まれていた。
(また!?今朝喧嘩したばっかりなのに!?)
とりあえず身を隠し、気づかれないように様子を伺う。
「どーしてくれんだよ。アイツが俺たちに金を恵んでくれるってのによー」
「人の善意を無下にしちゃいけないだろー?」
血界を囲っている不良はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
血界は苛立っているようで目つきが鋭くなっている。
「恵んでもらう?中学生に金を恵んでもらうとか情けねぇな」
「あぁっ!?」
不良たちは一気に怒りを露わにする。
すると不良の1人が持っていたバットを血界に振り下ろした。
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「うぐっ!?」
殴られた血界はフラつくが踏みとどまり、殴った相手に振り向く。
「1発は1発だよな?」
頭から血を流しながらも、拳を握る。
勢い良く打ち出された拳は真っ直ぐに不良にぶつかり、壁に叩きつけられた。
殴られた不良は鼻から血を流し、気絶していた。
「テメェッ!!」
不良たちは突然のことに驚きながらも血界に殴りかかろうとするがその時、パトカーのサイレンが鳴り響いた。
「ヤベッ!警察だ!」
「逃げるぞ!」
不良たちは慌てて逃げ出し、血界を置いて行った。
「サイレンの音聞いたら犬みたいに逃げ出すとか、ダサいよね」
「耳郎……」
そう言いながら出て来たのはスマホを持った耳郎だった。
スマホからパトカーのサイレンを鳴らしたようだ。
2人は公園に移動し、血を流す血界の治療をすることにした。
「本当は病院に行った方がいいんだけどね」
「病院に行ったらおじさんにバレちまう。それだけは勘弁だ」
「そう、とりあえず血を拭おうよ。……今ハンカチないから手のハンカチ貸して」
「ああ、ほらよ」
血界がハンカチを解き、渡すときに手の甲が見えたがそこには傷が一切なかった。
「今朝、傷ができたのにもう治ってる。アンタの個性?」
「なのかもな。俺も詳しいことはわからないんだ。多分頭の傷ももう治ってるはずだ」
「さっきのが?そんなわけ……」
無いと言おうとしたが頭を覗くと確かに傷は無かった。
とりあえず耳郎は顔に付いている血を拭ってあげた。
その作業をしながら耳郎は何故喧嘩をしていたのか聞くことにした。
「なんで喧嘩してたの?」
「喧嘩なんかしてねえよ。アイツらがカツアゲしてたから止めただけだ」
それを聞いて耳郎は感心した。
正義感を持って行動できる者なんて中々いないが暴力に手を出したのはいけなかった。
「凄いじゃん。でも殴ったのはマズイでしょ」
「なんかイライラして殴っちまったんだよ」
「イライラしたって……」
「先に殴ってきたのはあっちだ」
「アンタ学校でなんて言われてるか知ってる?『真紅の鬼』って言われてるよ」
「なんだ?そのクソダサいの」
「学校の中でも外でも暴れ回ってるヤバイ奴だって」
それを聞いた血界は気まずそうにする。
「このままじゃ学校で孤立するよ」
「いいよ、別に。友達もそんなにいねぇし」
そう呟く血界はどこか寂しそうに見えた。
そんな彼を見放すことなんて耳郎はできなかった。
「じゃあウチが手伝ってあげるよ。血界の変なアダ名を消すの」
「ハァ?いらねぇよ、そんなの」
「いいじゃん。今朝のお礼だよ」
「ハンカチで充分だ」
「ウチはそれじゃ足りないの」
血界がどれだけ断ろうが耳郎は譲る気が無いらしく、とうとう血界が折れた。
「わかった!……じゃあ好きにしろ」
「うん、好きにさせてもらう」
耳郎は笑みを浮かべて血界を見る。
「ウチが血界を救ってあげるよ」
「なんだそりゃ」
血界は可笑しそうに笑うが、どこか嬉しそうだった。
こうして血界の汚名返上の活動が始まった。
○
翌日から血界たちは一緒に登下校をし、狙われやすいのを防ごうとしたが、
「なんでこうなるの……」
呆れた表情で呟く耳郎たちの前には不良たちが待ち構えていた。
「ガキコラァッ!!!昨日のお返しだァッ!!」
そう叫ぶ不良たちは昨日血界に倒された者たちだった。
「しぶてーなぁ、お前らに構ってるほど暇じゃねぇんだよ」
「なんだとォッ!?女の前だからってカッコつけてんじゃねェゾ!」
「そんなんじゃねーって……」
困ったように血界は頭を掻いた。
「それかあれか?女の前でボコされるのが恥ずかしいかぁ?」
「あぁ?なんだと……?」
血界は不良たちを睨みつけ、拳を握る。
不良たちはそれぞれ持っていたバットや木の棒を構える。
血界もそれに合わせて拳を構えるが、耳郎が止めた。
「ストップ!喧嘩しちゃいけないって!血界は苛立ちを抑えて……!」
「だけどよ…!」
血界を止めた耳郎は不良たちにスマホを見せる。
「アンタたちも!喧嘩しても意味ないでしょ!」
「うるせー!まな板女!ガキは黙ってろ!」
「まな……!?」
耳郎は不良の罵倒に衝撃を受けて、自分の胸辺りを触って悲しそうな顔になる。
「おい、耳郎?」
血界は耳郎に話しかけるが、耳郎は答えない。
すると今度は怒りの表情でスマホを掲げる。
「アンタたち!さっき警察に通報したから!もうすぐ来るよ!」
「テメ!勝手なことを!」
「ホラ!どうするの!?このままじゃアンタたちブタ箱行きだよ!」
「お、落ち着けって」
今度は血界が耳郎を抑えようとして、そこに自転車に乗った警察官が現れた。
「お前たちここで何してる!」
「ヤベッ!逃げるぞ!」
「こら!待ちなさい!」
警察官が追い掛けるが散り散りになって追い掛けるのは無理だった。
警官は一端こっちに戻ってきて、血界を見ると訝しげな表情になる。
「君たちが通報したのかい?」
「はい、アイツらに因縁をつけられて」
「君が何かしたってことは?」
警官は血界を睨みつける。
「は?」
「ちょっと、いきなり何ですか?」
突然訳のわからないことを質問され、不機嫌になる血界と怪訝な表情になる。
「君、この前補導されていたよね?君が喧嘩をふっかけてそれが問題になったんじゃないのか?」
「何だと…!」
「血界!落ち着いて!」
血界は怒りで警官に詰め寄ろうとするが、耳郎が体を押して止める。
しかし、耳郎も怒りを感じて警官に不信な目を向けた。
○
結局、他の警官からは疑いを持たれなかったのですぐに解放されたがあの警官どころか他の警官も血界に疑いの目を向けていた。
学校への道を進んでいるが血界は怒りが収まらず、電柱を蹴る。
「チクショウ!何なんだよアイツ!」
「アレは酷いね……完全にこっちが悪いって決めつけてたじゃん」
「こんなことやっても無駄だって!周りの奴らも俺が危険な奴だって思って近づきやしねぇよ!」
自暴自棄になる血界だが、耳郎は落ち着くように話しかける。
「そんなこと言わない。ここから変わっていけばいいじゃん」
「はぁ……ホントお節介だな。お前……」
呆れたようにため息を吐く血界だが、自分のために動こうとしてくれる耳郎に少し嬉しくなる。
「じゃあ、まずは学校から印象を変えるよ」
「学校ってどうするんだよ?」
「最初は挨拶から!通り過ぎる人たちに笑顔で挨拶して」
それを聞いた血界は不安になる。
あまり人相が良くない血界が挨拶しても効果はあるのだろうか。
「大丈夫かそれ?」
「大丈夫だって!……多分」
最後の言葉に不安を覚えるがとにかくやってみるしかなかった。
すると前に耳郎の友人たちが前を歩いていた。
「それじゃあ、やるよ」
「腹括るか」
2人は友人たちに近づく。
「おはよー」
「あ、キョウカだ!おはよー!」
「おはよ……」
友人の2人は挨拶をするが耳郎の背後にいた血界に気づき、顔を青くする。
「ら、ラインヘルツ!?」
「あわわわ……」
明らかに怖がっており、血界はやはり辞めようとするが耳郎が血界を抑える。
仕方なく、血界は引攣らせながらも自分ができる限りの笑顔を見せる。
「えーっと、おはようございます!」
「「きゃあぁぁぁあっ!!」」
友人たちは血界の不自然な笑顔を見て、恐怖心がピークに達して走って逃げてしまった。
置いてけぼりにされた2人はなんとも言えない心境だった。
「はぁ……」
「前途多難だね……」
先行きはとても不安なものだった。