僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood   作:マーベルチョコ

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File.55 Every day 4th

『クローバーの少女』

 

保須事件から2、3日経つがニュース番組では今でもそのことを取り上げている。

 

「まーた、やってるよ。保須事件」

 

オフィス備え付けのテレビを見て、本田未央がそう零す。

彼女的に暗いニュースは苦手のようだ。

 

「仕方ありませんよ。大きな事件なんですから」

 

「そうだけどさー、もっと明るいニュースが欲しいの!だって……」

 

「そうですね……」

 

島村卯月が本田未央を宥めるが横を見ると、ピリピリした空気を出している凛がおり、周りも怖がって近づこうとしない。

彼女は人伝てに血界が保須事件で怪我をしたと知らされ、血界の安否が気になって仕方なかったのだ。

 

「凛ちゃん、まるでお母さんみたいですね」

 

「こりゃー、ライライにたっぷりと説明してもらわないとね!」

 

島村卯月たちが頑張って場を盛り上げようとするが、凛は反応を示さない。

するとオフィスの扉が開き、血界が入ってきた。

 

「よっ!」

 

「血界くん/ライライ/血のお兄ちゃん/血を司る者!?」

 

突然現れた件の血界に全員が驚く。

すると凛がすっ飛んできた。

 

「血界!アンタ怪我したって聞いたけど大丈夫なの!?」

 

血界の体を確かめるようにペタペタと触る凛に血界はあっけらかんと答える。

 

「おう。肩からバッサリ斬られたけど、もう治った」

 

「バッサリ!?」

 

驚く凛を避け、緒方智絵里に近づく。

 

「この前はありがとうな。アンタのおかげで助かった」

 

礼を言われた智絵里は気づき、安心した表情になる。

 

「私の個性、ちゃんと発動したみたいでよかったです」

 

「智絵里ちゃんの個性?」

 

隣に座っていた三村かな子が聞き返す

 

「私の個性、『ラッキークローバー』はね。…私の頭のクローバーが幸運をもたらしてくれるの」

 

「そのおかげで助かった。なかったら死んでたな」

 

「死んでたって、大丈夫なの!?」

 

物騒な言葉に凛は血界に詰め寄るが血界は大丈夫だと言う。

 

「すごーい!智絵里ちゃんの個性って幸運にしてくれるの!?」

 

「いいなー!私も欲しいー!」

 

赤城みりあと城ヶ崎莉嘉は純粋に凄い、羨ましいと思い、智絵里に強請るが当の本人は困った表情になる。

 

「えっと……ごめんね。私の個性、発動する確率が物凄く低いの。よくて100本中1本かな?」

 

「「えー……」」

 

残念そうにするみりあ達に智絵里は申し訳なさそうにするが、血界が彼女たちが喜ぶ物を出す。

 

「そう残念がるなよ。その代わりって言っちゃなんだが、緒方さんのお礼に持ってきたケーキがある。みんなで食べてくれ」

 

「「ケーキだー!!」」

 

血界は持っていた袋を掲げて皆んなに見せる。

皆がどのケーキをするか選ぶ中、血界は改めて智絵里にお礼を言った。

 

「緒方さんの個性がなかったら死んでいた。本当にありがとう」

 

「そんな私なんか……お姉ちゃんと比べたら、全然……」

 

自信なさげにする智絵里を気になった血界だが肩に手を置かれ、そちらを振り返るとイイ笑顔の凛が立っていた。

 

「血界、ちょっと向こうで話そう?」

 

「い、いや、俺この後職業体験もあるし……」

 

手が置かれた肩からメリメリと嫌な音を立てながら血界は引きつった笑顔で凛を見る。

凛は事情なんか知らないと言わんばかりに血界を引きずってオフィスを出る。

 

「大丈夫、1時間で終わるから」

 

「いや!それ大丈夫じゃなっ……アッー!!」

 

血界の悲鳴が部屋の外から響き、オフィスにいた全員が血界に向かって合掌した。

 

 

 

『Dark Side』

 

極寒の山中内部に作られた刑務所。

ここは世界各地にある重犯罪者を収容する刑務所の1つである。

日本だとタルタロスがある。

名は『コキュートス』と名付けられ、厳重すぎる刑務所から出られても何百キロと続く、極寒の山中で生き絶えるために付けられた。

その中でも一際厳重に収容されており、他の犯罪者達と隔離されている者がいた。

天井から伸びる1本のワイヤーで吊り下げられた透明の正方形の部屋で本を読み続ける男がそうだ。

男は髪と髭が伸びきって目元がよく見えないが、その男からは異様な雰囲気が漂っていた。

男は使い古した本を閉じ、背伸びをすると周りから一斉にその空間に備え付けられた大型の銃が向けられる。

それを見た男は嘲笑を浮かべた。

そして、男はその男を監視するためだけに作られた監視室の方に向かって歩き出す。

と言っても、その部屋と監視室には距離が空いており、食事などを運ぶためのケーブル道は閉まってあるため、その男が監視室にたどり着くことはないが、男は監視室をジッと見つめる。

 

『何をしている!66893番!』

 

監視室から監視官が無線を通じて、男に怒鳴る。

しかし、男は気にした様子もなく、まるで友人に語りかけるように話す。

 

「いや、ここに来て約5年か4年経ったと思ってね。中々感慨深い」

 

「……あいつ、何言ってるんだ?」

 

「とうとう頭がおかしくなったか」

 

通信している監視官は同じく監視していた同僚に男が何を言っているか聞くと同僚はふざけたように答えた。

 

「ここから離れるのは少々寂しいよ」

 

男が『離れる』と言った瞬間、監視官たちは神妙な顔つきになる。

 

『66893番。今すぐ壁から離れろ』

 

監視官は静かに男に告げる。

その声には緊張が含まれていた。

額から冷や汗が流れる。

あっちからはこちらの様子がわからないようにマジックミラーのはずだが、監視官はさっきから男と視線が交わっている気がしてならない。

 

「どうした?……冷や汗なんか流して」

 

その瞬間、監視官は手元にあった赤いボタンを押し、ワイヤーと部屋を切り離した。

男が入っていた部屋は重力に従って真っ逆さまに落ちていった。

 

「おい!何してるんだよ!?勝手に殺すのは違反だぞ!!」

 

「だっ、だってアイツ……こっちの様子が……」

 

責める同僚だが、監視官の顔は恐怖に染まっていた。

 

『酷いなぁ、いきなり落とすなんて』

 

スピーカーからあり得ない声が響く。

窓に目を向けると落ちたはずの男が空中に立っていた。

 

「は、はあっ!?」

 

「ひぃっ!」

 

監視官たちは引きつった声を出しながらも、慌てて赤いボタンの隣のボタンを押す。

備え付けられていた数多の銃火器が向けられ、その銃口から火が吹く。

凄まじい轟音と共に衝撃が監視室にも響き、監視室の強化ガラスにも弾が当たりヒビが入る。

大口径の弾丸と小型ミサイルの攻撃が終わり、監視官たちはゆっくりと立ち上がって窓ガラスを覗き込む。

収容室には煙が立ち込め、中を伺うことはできない。

 

「やったか?」

 

「流石にこれじゃあ奴も」

 

監視官が言葉を続けようとしたが、突然壁が爆発し、巻き込まれ遮られた。

監視官たちは火傷を負いながら壁に叩きつけられ、その体には破片が突き刺さり痛々しい。

 

「うぅ……」

 

監視官は朦朧とする意識の中、目を開けて周りを見る。

周りは炎と煙に囲まれ、同僚は頭に破片が突き刺さって絶命していた。

自分も足が激しい火傷と破片が突き刺さって動くことができない。

目の前の燃え盛る炎の中から男がゆっくりと歩いて出てくる。

監視官は顔を恐怖に染め、逃げようとするが体は恐怖で動くことができない。

男は監視官の前に立ち、しゃがんで頬に手を添え、口を開く。

 

「さようなら」

 

笑顔でそう言った男に呆然としながら、立ち去るの黙って見送る。

扉から出て行った男を見送ると安心し、一息つく。

しかし、監視室の機械が火花を散らせる。

 

「そん……」

 

監視官は再び起こった爆発に包まれた。

 

 

男は悠然と歩きながら出口を目指す。

その彼は今から外に出られるからか笑顔で歩いているが、彼が通ってきた道には血みどろの光景が広がっていた。

収容所の監視官、警備員が男を止めようとしたのだが全員が命を失い、その血は床、天井、壁に広がっている。

しかし、男には一切の血がついていない。

男は搬入口である大きなゲートの前に着くとゲートはゆっくりと左右に開いていく。

外は天気がいいのか珍しく陽の光が見えている。

久しく浴びる陽の光に男は眩しそうにしながら、足を進める。

すると、目の前に広がるのは真っ白な雪原ではなく、武装した男たちがこちらに銃口、戦車の砲門を向ける物騒な光景だった。

 

「出所祝いにしては盛大だな」

 

見れば慄くものだが、男は薄ら笑いを浮かべるだけだ。

快晴な空に雲が現れ、陽の光を遮る。

 

『66893番!手を頭の上に乗せて、その場に跪け!!』

 

隊長らしき人物がスピーカーを使って、男に命令する。

隊長も隊員たちも兵力は圧倒的なはずなのに、男とは絶対的な差があるように感じ、恐怖心を押し殺して毅然と立ち向かう。

命令を聞いた男は薄ら笑いから笑い声に変わる。

 

「ハハハッ、いいね。まるで怯える子供が虚勢を張っているようだ」

 

「舐めるなよ!ヴィラン!!」

 

笑ったのと同時に後ろからヒーローが数人前に出てくる。

どうやら応援としてヒーローを呼んだらしい。

 

「ヒーローまで来てくれるとは豪勢だな」

 

「かかれぇっ!!」

 

 

山の天気は変わりやすいというが先までの快晴が嘘のように雪が吹き荒れる。

その中をスノーモービルで山を登る一行がいた。

 

「雪が酷いわね。前がほぼ見えないわ」

 

「おい、運転変われよ。そろそろ疲れたわ」

 

「もうそろそろ目的地だと思うのだけれど」

 

「無視かよ」

 

「………」

 

緑髪の少女とアジア系の男がスノーモービル内で話しながら目的地を目指す。

後部座席では紫髪をオールバックに固め、左目に傷を持つ男、ローグが目を瞑って座っていた。

するとローグが僅かに目を開き、呟いた。

 

「着いたぞ」

 

ローグの言葉で前に注目すると煙が立ち込めるのが見えた。

スノーモービルから降り、煙の方に向かって歩いていく。

進んでいく先には血を流す隊員たちが数多く倒れて、戦闘車両が破壊し尽くされており、激闘の様子が伺える。

その先に男がヒーローの首を絞め、持ち上げていた。

 

「賑やかな出所祝いだった。楽しかったよ」

 

「ぐ…がっ……!あっ…!?や、やめて……!」

 

「さようなら」

 

男がそう呟いたのと同時に締め上げられていたヒーローの目、鼻、口から光を放ち、塵となって消えていった。

 

「ボス」

 

緑髪の少女が声をかけると男は少女の顔を見て、嬉しそうにする。

 

「フェアリー!久々だね。少し身長が伸びたかい?」

 

「伸びてないわよ」

 

「よぉ、ボス。元気そうだな」

 

「ホッパーか、君も元気そうで何よりだよ」

 

2人、フェアリーとホッパーが再会を祝っているとローグが近づいてくる。

 

「君がローグか。彼女のことは残念だった」

 

突然名前と自分しか知り得るはずがないことを言われ、目を見開く。

咄嗟に構えを取ろうとするがそれより早く、男の手がローグの肩に置かれる。

 

「っ!」

 

「我々は同志だ。仲良くやろう」

 

余裕の笑みを浮かべる男にローグは黙って一歩下がる。

それを見た男は手を広げ、3人に高らかに宣言する。

 

「ここに『サージュ』は復活した!今再び!世界があるべき姿に戻そう!れ

 

雲が晴れ、男、サージュに光が射す。

まるでサージュの復活を祝うかのように、世界がそれを望むかのように。

 

「で、ボス。行き先は?」

 

サージュは行先を見据え、3人に伝える。

 

「日本だ。そこでオール・フォー・ワンと会おう」

 

サージュは日本を目指す。

闇が動き出す、血界が彼らと対峙するのはそう遠くない。

 

 


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