僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood 作:マーベルチョコ
時間が経ち、とうとう参観日となった。
「今日参観日だなー」
「なんだか緊張しちゃうね!」
ほとんどの者ががどこか緊張した表情をしていた。
「みんなのところは誰が来るんだ?」
切島がそう聞くと多くの人が母親か父親と答えた。
「俺のところは姉さんだ。仕事を早抜けしてきてくれるらしい」
「いい姉ちゃんだなー」
轟の母親は未だ病院で治療しており、外出できる状態ではない。
その代わりに小学校で教師をしている姉が来てくれるらしい。
「耳郎のところは母親が来るんだろう?」
血界がそう聞くと耳郎はどこか疲れた表情をしながら答えた。
「そうだよ。はぁ……お願いだからはしゃがないで欲しい」
耳郎は緊張よりも親が来て、はしゃがないかどうかが心配みたいだ。
「血界のところは誰が来るんだ?」
切島が聞くと血界は首を捻った。
「あー、おじさんはこんなイベント事には参加しないし、今回は不参加かもな」
あのクールな叔父がこのような学校行事に参加するとは思えず、そう答えると芦戸が文句を言ってきた。
「えー、つまんないー」
「つまんないって、俺に言われてもな」
血界が困った顔をするかどうしようもない。
すると葉隠と上鳴が勝手に血界の叔父について話し出す。
「血界くんのおじさんってどんな人か気になるんだよね!」
「多分筋肉モリモリの厳つい人だと思うぜ!」
葉隠と上鳴の頭の中では血管が浮き上がるほどの筋肉を持った黒光りする男が思い浮かんでいた。
「そんな人じゃねぇよ」
血界が呆れたように言った。
しかし、血界はせっかくおじさんについて感謝の文を用意したのに来れないの少し残念だと思った。
飯田がそろそろ授業が始まる時間だから全員着席するように言ったが、5分、10分と経っても保護者どころか先生も現れなかった。
「可笑しいな。もう親たちが来てもいいはずなのに」
「先生も必ず時間ぴったりに来ますのに来ていませんわ」
委員長である飯田と副委員長である八百万か困惑したような表情になると周りの皆もざわめき出す。
「職員室に行って教員から指示を貰ってくる!皆は着席しているように!」
飯田がそう行って席を立とうとした瞬間、全員のスマホに相澤からメールが入った。
『1年A組の生徒達は全員ヒーロースーツを着用して運動場γに来るように』
そのメールに全員が疑問を持ったが、あの相澤のことだからヒーロー実習をその場でやるのだろうと思った。
そして体育館γに着いた。
体育館γは崩壊した市街地での戦いを想定されたのか、彼方此方に倒壊したビル、瓦礫が落ちていた。
そして、その中央の瓦礫が避けられたところで信じられないものを目にした。
「お母さん!?」
「母さん!」
「父ちゃん!?」
「出久〜!」
「助けて!天哉!」
「すまん!お茶子!捕まってもうた!」
なんと生徒達の親が全員捕まえられて、檻の中に閉じ込められていたのだ。
しかもその檻の周りは何メートルも掘られて、その中に何かの液体が張り巡らされていた。
突然の事態に慌てる1-Aの皆だが、その中で血界はある1人を凝視していた。
(な、なんで楓姉ちゃんがここにいるんだ!!)
「チーく〜ん!助けてー!」
眼鏡をかけ、帽子を被って変装した高垣 楓がどこか楽しそうに血界に助けを求めていた。
なんでここにいるのか、なんで捕まったのかと頭の中が混乱してくる。
「ちょ、これどう言うことだよ!?」
「なんで捕まってるの!?」
全員が慌てるなか血界を含めた何人かが檻に向かって走り出した。
「とりあえず助けに行くぞ!」
「ああ!」
「チッ!世話かけやがって!」
血界、轟、爆豪が向かおうとした瞬間檻の中で座っていた保護者の中から1人立ち上がった。
それを見て3人は動きを止める。
全身を黒ローブで包み仮面を嵌めた人で、明らかに捕まっている保護者の中で異質な存在だった。
「来テモイイガ、ソウシタラ君タチ3人ノ親ヲ殺ソウ」
ボイスチェンジャーで声を変えているのか、機械的な声が響く。
その言葉に動き出そうとした3人は動きを止めた。
「逃ゲテ助ケヲ呼ビニ行ク者ガイレバ、ソノ親モ殺ス」
「相澤先生はどうした!?」
緑谷が叫ぶとその人物はボイスチェンジャーのせいもあるが、それ以上に冷徹な声で説明する。
「教師ハ邪魔ダッタ。ダカラ始末シタ」
「しっ……!?」
その言葉に全員が青ざめる。
雄英教師である相澤が倒されたとなると相当な実力者だと思われる。
今、保護者達を救えるのは自分たちだけなのだ。
しかし、自分の親が捕まっているとなりほぼ全員が動揺している。
「なんでこんなことをするんだ!!」
「僕ハ雄英二落チタ。雄英二入ッテヒーロー二ノルノガ僕ノ全テダッタノニ。優秀ナ僕ガ落チルナンテ、世ノ中間違ッテイル。世間デハ僕ハ落チコボレ、ナノニ君タチハ明ルイ未来ガ待ッテイル。ダカラ………」
「だから八つ当たりか!このクソマント!!」
敵の動機は完全に八つ当たりだ。
短気な爆豪でなくても憤りを感じた。
「面倒くせえ!!さっさとぶっ倒してやるよ!!」
「待てって爆豪!」
「うおっ!?」
飛び出そうとした爆豪の襟を掴み血界は引っ張る。
「周りにあるのは匂いからしてガソリンだ。もし引火したら不味いだろうが!」
「しねぇよにするってーの!!離せクソが!!」
暴れる爆豪を必死に血界は止める。
「お前の個性めちゃくちゃ引火しやすいだろうが!それに相手は保護者を盾に使ってる!下手に近づけば殺されるのがオチだ!」
「チッ!」
爆豪も状況を理解しているためか、暴れるのをやめた。
そして頭の回転が速い緑谷、八百万は救出するための作戦を考える。
「助けようにも敵との距離が空きすぎてる」
「それに周りに張り巡らされているのはガソリンですわね。火をつけられたら厄介ですわ」
「速く移動できて、速攻出来る人は……血界くん!」
緑谷はどうするかと敵を睨んでいた血界を呼んだ。
「どうした?」
「血界くん、高速移動が出来る技を持ってたよね?あれで敵を抑えることはできないかな?」
「……無理だ、距離がありすぎる。せめて少し気をそらしてくれれば近づいてできるかもしれないんだがな」
「気をそらす………」
緑谷は周りにいる皆を見て、敵に何もさせずに親達を救い出す作戦を閃く。
「みんな!話があるんだ!気づかれないように近づいて」
○
敵は生徒達がどうこの状況を対処するかを観察していた。
(人質はすぐ側にいて、敵は自分のことを顧みない。さぁ、一見詰みなこの状況をどうする?)
ネタバラシになってしまうが、この事件は全てやらせなのだ。
雄英の授業は教師の自由。
故に相澤はお子さんの成長を見せるために保護者達に協力してもらい、この様な茶番を始めたのだ。
「全く、あのバカ息子は……!後先考えず、突っ込もうとして!」
犯人のすぐ側で爆豪の母である光己が周りだけに聞こえるように声を出しながら、怒る。
「まぁまぁ、でも誰も動こうとしなかった中で1番最初に動こうととしたじゃありませんか。行動力があるのはヒーローとしてとても重要なことだと思いますし、お子さんも素晴らしいと思いますよ」
「そ、そうでしょうかね?」
隣にいた楓が光己を宥めるために爆豪を褒めると光己は少し照れながら答えた。
なんやかんや文句は言うけれど自分の子供を褒められて嬉しかったのだろう。
ちなみに楓の正体はバレておらず、騒ぎにもなっていない。
「おたくのお子さんはどの子ですかな?」
今度はお茶子の父が楓に話しかけてくる。
「はい、あの爆豪さんのお子さんを止めた子です」
「まぁ!冷静な判断ができているのは素晴らしいことですわ」
すると恐らく八百万の母であろう人が褒める。
「はい。よく爆豪くんを止める時に手が出ませんでした。褒めてあげたいですね」
綺麗な笑顔で一瞬見とれてしまいそうになるが、全員の頭の中では『そっち?』と突っ込んでいた。
その後、だんだんと互いの子供のことを褒めて、話し合うような空気になり始める。
(……そろそろ止めておくか)
あまり大声だとバレてしまうため、脅迫めいた演技で止めようとした時に血界達が動き出すのが見えた。
「ドウ出ル?」
敵役の人は表情を全く見せないマスクの下で笑みを浮かべた。