僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood 作:マーベルチョコ
保護者たちが次々と上げられて、漸く全員が引き上げられた。
そして生徒たちは自らの親に駆け寄る。
「お母さん!」
「響香!」
耳郎も自身の母親に駆け寄り、安否を確認する。
「怪我はしてない!?」
「大丈夫よ。貴女達が助けてくれたんだから」
普段のクールな感じからはあまり想像ができない慌てように耳郎の母は少し驚きながらも嬉しくなり、労りの言葉をかける。
その一言に耳郎も安心し、ふと母親の顔を見ると首に白い何かを貼っていたのが見えた。
「ねぇ、それ何?」
「あっ、やだ……!」
母親は慌てて隠すように手を首に当て、目を耳郎から離す。
その態度に不審に思う耳郎がふと周りを見ると保護者全員の首や額に白い湿布なようなものが貼ってあった。
「何あれ?」
耳郎はどういう状況なのか混乱し始めるが、切島が皆に声をかける。
「まだ爆豪達が下に残ってる!早く上げてやろうぜ!」
「でも、犯人もいるわ。どうしようかしら?」
蛙水がそう呟くと全員がどうするかと悩んでいると穴から絶叫めいた叫びが聞こえてきた。
『ゎぁぁあああっ!!』
それと同時に穴から影が上に打ち上げられ、地面に叩きつけられた。
「ぐおっ!?」
「っでぇ……!」
「イタタ……」
「うぐっ」
落ちてきたのは血界達で、一様に痛がっていた。
「おい、お前らどうした!?」
突然のことに全員が驚き、上鳴が驚きの声を上げると、また穴から黒い影が飛び出してくる。
それは今回の混乱を起こした張本人である犯人だった。
「アイツ、捕まえてたんじゃねぇのかよ!?」
「逃げ出したのか?」
全員が狼狽しながらも身構え、親を守るように前に立つ。
「ヨクヤッタ。困難ナ状況ノ中デヨク保護者ノ方々ヲ救出デキタ」
犯人は先程の狂気染みた話し方ではなく、生徒たちを評価する者としての言葉だった。
その言葉にほとんどの生徒が頭の中で疑問符が思い浮かぶが、血界と爆豪は違った。
「こんなことしておいて何言ってやがんだ……!」
「上から言ってんじゃねェぞ!クソが!!」
2人は直情的に犯人が許さず、攻撃しようと向かっていく。
しかし、犯人が僅かに手を動かすと血界と爆豪に赤い糸のような物が巻きつき、2人を拘束する。
「んだ、これ!?」
「これは
ジーニストの……!!」
血界は何が起こったか分からず、爆豪は職業体験先のNo.3ヒーロー『ベストジーニスト』が同じ個性を使っていたため、頭の中で思い浮かんだが、あの頭が固そうなヒーローにこんなことをしでかすはずがないと、その考えを捨てる。
すると、皆の後ろから手を叩く音が聴こえてきた。
「はい、皆さん。お疲れ様」
出てきたのは始末されたと聞いていた相澤だった。
『相澤先生!?』
「保護者の皆様もお疲れ様でした。今回の授業に協力していただき誠に有難うございました」
いつもの相澤からは想像ができない程の直角な礼と敬語に目を見開く生徒たちだが、保護者たちは「気にしないでくれ」、「子供たちの成長が見れて良かった」、「むしろ楽しかった」などと言っている。
「ちょっと待ってよ。最初から知ってたの!?」
「そうなのよ。ごめんね?」
詰め寄る耳郎に母親は申し訳なさそうにするが、耳郎は肩の力が抜けた。
「じゃ、じゃあ、あの犯人は……」
緑谷が血界と爆豪を拘束している犯人のことを聞く。
「彼は今回の授業に協力してくれた現役ヒーローだ。お前たちの講評も行ってくれる。先輩、もう大丈夫です」
相澤がそう犯人に告げると、血界と爆豪を拘束していた糸は解かれた。
仮面を外すとその素顔が現れる。
「おじさん!?」
今回の協力者として犯人役をしてくれたのは血界の保護者、血糸だった。
血界は真っ先に驚き、血界のおじだということに周りは驚く。
「例の血界のおじさんか!」
「ムキムキじゃなかったけど、イケメンだー!」
「現役ヒーローって凄くね!?」
突然のサプライズに周りは驚くが、血界は色々と衝撃が多くて馬鹿みたいに口を開いている。
「それより!今回のこの一連の出来事は学校側の仕業なのでしょうか!?」
飯田が相澤に詰め寄るが、相澤はいつもの様子で答えた。
「今回は保護者の方々にお前たちの成長を見てもらうのが目的だった。そのために今回は親御さん達の協力でこの様な演習をさせてもらった」
淡々と答える相澤に肩の力が抜けるA組の面々に相澤は喝を入れ直す。
「シャッキとしろお前ら。これからプロヒーローから講評をいただく」
相澤の言葉で生徒たちは背筋を伸ばし、血糸の方を見る。
血糸は全員を見渡し、講評を行なった。
「今回の全体の評価で言えば、不合格だ」
厳しい評価に生徒達は少し落ち込んだ表情を見せる。
「敵の二重三重の罠を考えずに強行して行おうとした救助活動。突然のアクシデントへの対策の時間。怪我人が多く出るであろう無茶な作戦。駄目な点を挙げるならキリがない」
プロヒーローの観点から見ればA組の行動はまだまだヒーローから遠いものだ。
それを改めて自覚した生徒達は更に落ち込む。
「このままではヒーローどころかサイドキックなんて夢のまた夢だ」
雄英で学び、ヴィランと対峙して自分たちは他のヒーローを志ざす者たちに比べれば一歩進んでいると思っていたが、そうではなかった。
親の前でダメ出しされて更に打ちひしがれているA組を見て、血糸一息つき話を続けた。
「…………まぁ、悪いところばかりでもなかった」
その一言に生徒たちは顔を上げる。
「まず緑谷 出久は救出のために様々な角度から作戦を考えた。これは行動を起こす時に重要なことだ」
「………っ!」
血糸の評価に緑谷はわかりやすく喜ぶ。
「次に爆豪 勝己、最も早く行動を起こした。この思い切りは評価に値する」
「ケッ……!」
爆豪は顔を背けて悪態をつくが少し笑みが溢れていた。
その後もそれぞれの行動を細かく見ていた血糸は皆を褒めていき、皆は喜んでいく。
そして最後に残ったのは血界だ。
「最後に血界」
「………」
血界はここまで皆が褒められてきているので、自分も褒められると思った。
しかも身内で、滅多に褒めない血糸から褒められるとなると少し照れた様子を見せる。
「お前は後先考えずに突撃し過ぎだ。無茶な行動は自分にも周りにも被害を与える。それにいつもお前は考えなしに動こうとする。今回は緑谷 出久が作戦を考えたがそれが無ければ大怪我は免れなかった。それと……」
「あ、あのおじさん?もうそれくらいに……」
まさかの駄目出しの連続にみるみる落ち込んでいく血界に周りは苦笑いをする。
血糸は一つ咳払いをして、話を切り替える。
「んんっ!……まだまだ至らない所はあるがめげずに頑張ってくれ」
『はいっ!』
プロヒーローからの激励にA組は元気よく返事をして、激動の授業参観は終わった。
○
教室で帰り支度をしているA組達は各々に今日の授業について感想を言い合っていた。
「今日の授業参観、いつにも増してやばかったな!」
「前はオールマイトが敵役だったけど、今回はなんか妙に迫力があったよね」
砂藤と葉隠がそんな話をしていると近くにいた瀬呂が血界に向かって話しかけてきた。
「血界のおじさんってヒーローなんだろ?なんてヒーローネームなの?」
「あー……?」
血界は皆の前で親代わりの人に説教されたことがショックだったのか机に突っ伏していた。
力なく返事をした血界は顔を上げた。
「確か……『ストリング』だったかな?」
「ストリング?聞いたことないな……」
「緑谷ー!」
葉隠は歩くヒーロー図鑑の緑谷を呼んだ。
「どうしたの?」
「ストリングってヒーロー知ってる?」
緑谷ならいつも通りマシンガントークが始まると思ったが首を傾げた。
「ストリング?聞いたことないなぁ」
「緑谷でも知らないんだ」
血界の近くにいた耳郎が珍しいと思った。
「うん、僕も気になって帰って調べようと思うんだけど情報が少なくて……血界くん、他に何か知らないかな?」
「うーん……確か活動してたのは5年前で今は活動を休止してるって言ってたかな」
その時血界は自分が記憶を無くしたのと同じ時期だな、と漠然に思った。
「なぁなぁ!これからどっかで飯食わね?クラス全員でさ!」
「親たちが食事会に行ってるから私たちも行こうよ!」
上鳴と芦戸が皆に声をかける。
「そういやクラスでどこか行くのは初めてだな。いいぜ楽しそうだしな!」
「血界くんの慰め会も兼ねて行こー!!」
「うぐっ……」
葉隠の親切な言葉に血界は胸を押さえて落ち込む。
切島を筆頭に爆豪以外の全員が手を挙げていき、こうしてクラス初の食事会が決まった。
○
親達は居酒屋に集まって親睦会を行なっていたが異様な雰囲気に包まれていた。
原因は轟の親であるエンデヴァーと血界の保護者である血糸だ。
今回の授業参観で轟の保護者として来たのは姉の冬美だった。
何故エンデヴァーがここにいるかというと、偶然にも授業参観の連絡書を見つけ、息子の成長を見ようと参加することに決めたがいざ行こうとすると気まずさからどう行けばいいかわからなかった。
学校の前まで来たのはいいがどうするべきかと悩んでいると授業参観を終えた親たちが出てきた。
その場に流れ、付いて来てこのような状況になった。
2人の殺伐とした空気、というよりエンデヴァーが一方的に血糸に苛立ちを募らせていた。
そのせいで他の親たちも気まずそうな顔をしていた。
何故、エンデヴァーが苛立っているかと言うと自分は轟の授業参観に呼ばれなかったのに血糸が呼ばれたからだ。
多忙であるエンデヴァーのことも考え、呼ばなかったと考えられるが一番は親子関係が不仲だからだろう。
息子に呼ばれなかったことと同じヒーローである血糸が呼ばれたのかご納得いかなかった。
「何故お前は呼ばれたんだ……!」
「まだ休職中でしたので手が空いていたんですよ。多忙である貴方の手を煩わせる訳にはいかないという理由で私が選ばれただけです。それに……貴方の個性じゃ御子息にすぐにバレて険悪な空気になるだけですよ」
「何だと!?」
事実を述べているだけだが喧嘩を売るような言葉にエンデヴァーの炎が爆発してしまう。
「まぁまぁ!!こんな所で喧嘩なんてやめにしませんか?」
「………」
「む……」
麗日の父が2人の間に割って入り、エンデヴァーを宥めた。
それによりエンデヴァーも怒りを抑え、自分の酒を飲み干す。
「いやー!それにしても轟さんの息子さんすごい個性ですね!」
「当然だ」
エンデヴァーは当然だと言わんばかりに胸を張って答える。
見てないくせに。
「緑川さんの甥っ子さんもすばらしい活躍でしたよ」
耳郎の母が褒めると血糸は頭を下げ、感謝する。
「ありがとうございます。しかし、まだまだです。危なっかし過ぎる。……今日最も活躍したのは緑谷さん、爆豪さん、飯田さんのご子息でしょう」
「えっ!?」
「いやいやウチのなんて……」
緑谷の母、引子は突然息子が名指しされ驚き、爆豪の母、光己が謙遜する。
しかし、周りの親たちは緑谷と爆豪を褒め、そこから子供達を褒め合ったり、自慢話になってきた。
その中で緑川は一言も話さず、酒を飲んでいると隣に座っていた楓に話しかけた。
「楓、今日『個性』を使っただろう?」
血糸の質問に楓は少し申し訳なさそうな表情になる。
「ごめんなさい……」
「お前の気持ちはわかるが気をつけるんだぞ」
「はい……」
楓は酒を空けると今度は血糸に話しかける。
「今日チーくん頑張っていましたね」
そう言われた血糸はグラスを止め、今日の血界の活躍を思い出した。
「……そうだな」
そして、グラスに入った酒を一気に飲み干した。