僕のヒーローアカデミア:Battlefront of Blood   作:マーベルチョコ

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今年最後のギリギリ投稿。

来年もボチボチやっていくのでよろしくお願いします。

良いお年を


File.66 氷の原点

ヴラドキングの必殺技が炸裂しショッピングモール内は大きく揺れ、土煙に包まれた。

その土煙の中から氷麗を抱えた血界が転がり出てきて、壁にぶつかった。

 

「イデッ!?……大丈夫か、って……氷麗?」

 

血界の質問に氷麗は答えることが出来ず、震えるだけだった。

氷麗の体に触れると氷のように冷たく、触れた血界は驚いた。

 

(氷のように冷たい!……今はとにかく距離を取るしかない!)

 

血界は氷麗を抱えたままヴラドから離れた。

ヴラドは血界達が離れたことに気づいていたがあえて追わずに見逃した。

 

 

ゲートから最も離れた店舗の影に隠れた血界は寒さで凍える氷麗にジャケットを着させて体を暖める。

できる限りのことをやった血界は氷麗の隣に座り込み、一息つく。

 

「どうするか……」

 

残り時間も少なく、このままでは不合格となってしまう。

しかし、1人は戦闘不能の状態で、ヴラドの弱点である血の量も無しにされた。

真っ正面から力で圧倒しようにも彼方が実力は上で、打てる手がなくなった。

絶望的な状況だが、血界の心は一切折れない。

 

「諦めてたまるかよ……!」

 

絶対に諦めない意思を見せる血界を見て、今まで黙っていた氷麗が口を開いた。

 

「アンタはすごいよね」

 

突然話し出した氷麗に血界は驚き、振り返ると震える氷麗が血界を見ていた。

 

「なんでって……」

 

「私はそこまでヒーローになりたいって思ったことはなかった」

 

血界が氷麗の質問の意味がわからず、聞き返すと氷麗から衝撃的な言葉が出た。

ヒーローを目指すなら誰もが憧れる雄英に推薦で入学したのにも関わらず、ヒーローになりたいと思わなかったと告げられたのだ。

余りのことに血界は頭が追いつかない。

そこから氷麗の過去の話をされた。

 

 

日本でも有数な大手企業であるスターフェイズ社は主に様々な衣服、デザインを取り扱う会社で個性が出現した際にはいち早く、個性に合わせた服を取り扱い、更に大きくなった。

その創業者であり、代表取締役でもあるスターフェイズ家の娘として生まれたのが氷麗だった。

一人娘であるためか、親たちは必要以上に甘やかしたが、その反面令嬢として恥ずかしくないように厳しくも育てた。

更に氷麗自身に才能が恵まれており、教えられたことは何でも習得した。

 

裕福すぎる家庭、溢れる才能。

それらに釣られた汚い大人たちは自身の子供を使って氷麗に近づいた。

子供ならば簡単に言い包められると思っていた大人たちだが、そうはいかなかった。

聡い氷麗は大人たちの考えなど見通し、その子供たちとは必要最低限の関わりしか持たなかった。

更に自分を持ち上げるばかりの大人と同年代の子供に嫌気もさしており、親以外の人間を完全に見下していた。

 

やがて小学校に入学し、由緒ある学校だったがそこでも同じだった。

必要以上に持ち上げてくる同級生、上級生、教師を同様に見下していた。

その時の同級生たちがヒーローに憧れを持っていたが、国から金をもらい、賞賛の声を浴びているヒーローを見て自分に集ってくる大人と変わりないと思った。

栄光のために活動する人間、それが氷麗がヒーローに抱いたヒーローの第一印象だった。

そんな印象を抱いてしまったために氷麗は周りの子供たちとは違い、ヒーローに憧れることはなく、冷めた目でヒーローの夢を語る子供たちを見ていた。

 

そんな時に親の紹介である子供と出会った。

それが血界だった。

 

血界の親と氷麗の親は旧知の仲で今回初めて自分の子供たちを顔合わせしたのだ。

人を見下していた氷麗は最低限の挨拶をするだけで終わらせようとしていたが、それに反して血界は氷麗に何回も話しかけた。

 

「なぁなぁ!つららはどのヒーローがすきなんだ!?」

 

「………」

 

ウザいくらいに話しかけてくる幼い血界に氷麗は無視をしていたが、何度無視しても関わろうとしてくる血界に折れた。

 

「特に好きなヒーローはいないわ。あんなの目立ちたがりがすることよ」

 

「むっ!そんなことないぞ!ヒーローってカッコいいんだぞ!」

 

ヒーローを否定する氷麗に血界は負けじと反論するが頭のいい氷麗に毎回言い負けていた。

それでもヒーローの素晴らしさ、カッコよさを訴えるのを血界は諦めなかった。

そんなある日、氷麗は血界の父ヴァンがヒーローだと知り、子供の前では良いところしか話していないと考えた氷麗は血界にとって言ってはいけないことを言ってしまった。

 

「アンタの父親だって同じよ。なんでお母様たちと仲が良いか知らないけど、利益目的で動く汚い大人よ」

 

「ちがう!!」

 

「っ!」

 

氷麗は自分の言い分に今までにないくらい食い気味に否定する血界に驚いた。

 

「お父さんはそんな大人じゃない!人をたすけるためにヒーローをやっているんだ!!お父さんはカッコイイ!オレの大好きなヒーローなんだ!!」

 

「………っ!何よ!!社会のことなんて何も知らないガキが上から言ってるんじゃないわよ!!」

 

 

「おまえもそうだろ!!」

 

やがて2人は言い合いから喧嘩になったが、英才教育として格闘技を習っていた氷麗に圧倒されて終わった。

しかし血界は何度負けようとも何度泣かされようとも氷麗の言葉を撤回させようとした。

何度でも挑んでくる血界に何故か苛立ちを覚えた氷麗は容赦なく倒した。

流石に見兼ねた親たちが試合形式にして、何度も血界と氷麗の喧嘩は起こった。

 

何度も戦っているうちに氷麗は何故血界がここまで自分に向かってくるのかわからなくなっていた。

しかし、苛立ちだけは毎回喧嘩するたびに募っていった。

そんなある日、とうとう氷麗は血界に負けてしまった。

 

「やった!勝った!!」

 

「………」

 

氷麗は悔しいというより呆気にとられていた。

まさか負けるとは思っていなかったのもあるがそれ以外に思うところがあるらしい。

 

「お父さんにあやまってもらうからな!」

 

勝ち誇った顔で氷麗を指差して言う血界に氷麗は不思議そうに質問する。

 

「何でそこまでやるの?そんなにボロボロになってまで」

 

「そんなの好きだからに決まってるだろ!」

 

傷だらけの顔に笑顔を浮かべて、断言する血界を見て気づいた。

何故血界に苛立ちを覚えていたのか、それは好きなことに一途になれている血界が羨ましかったのだ。

自分が信じたものを最後まで信じられるのは自分にはない感覚だ。

いや、自分から捨ててしまったのだ。

周りの人間に絶望して、夢、希望と言った綺麗事を捨ててしまった。

だから、血界の在り方が羨ましかった。

例え、無知であっても無謀であっても決して諦めない血界が羨ましかった。

冷めきった自分の心とは違い、光に満ち溢れ熱い心を持っている。

 

それから氷麗は血界の父親に謝り、不器用ながらも血界と交友を続けた。

自分の地位、能力を度外視して接してくれる血界と一緒にいるのは気が楽だった。

 

しかし、ある時血界は家族を失い、記憶を無くした。

それも自分に関する記憶全てだ。

勿論氷麗のことも忘れた。

次に会った時にあの希望に満ちた血界がいなかったらと思うと怖かった。

しかし、記憶を無くしても血界は人のために傷つきながらも自分が信じる正義を貫いていた。

だから、それを追いかけてヒーローを目指した。

 

つまり氷麗の原点(オリジン)は血界のように希望を抱いて人を助けられるヒーローになって、氷の心を溶かしたいのだ。

 

 

「だけど体育祭で負けて、職場体験でステインに襲われたと聞いてだんだんと血界が遠くなっちゃった。焦ってこの試験で巻き返そうとしたんだけど、ダメだった」

 

氷麗は自分の手を見て呟く。

 

「私の体は個性に合ってない。『氷血』を使うと体温が一気に下がって戦えなくなっちゃう……これじゃあヒーローは無理だよ」

 

自傷的な笑みを浮かべて更に言葉を続ける。

 

「それに私は血界を咄嗟に見捨てようとした」

 

氷麗はヴラドと戦っていた血界を見捨てて、ゲートを通ろうとしたことを言っていた。

 

「結局私は冷たい心を持った氷の女王ってことね」

 

「………」

 

血界は何も言わずに氷麗を見る。

 

「何よ?呆れた?」

 

「いや……お前がヒーローを目指す理由が俺だったなんてちょっと恥ずかしいって思ってさ」

 

その言葉と照れた様子に氷麗も少し笑みを浮かべた。

 

「俺もそんなに褒められたようなもんじゃないよ。この前の授業参観でおじさんに言われた。『自分わ大切にしろ』ってな。自分も大切にできないような奴はヒーローになるなって言われたけどその通りかもな。………だけどこれは俺のヒーロー像だ。自分が傷ついても人を助けたい。氷麗はまだ自分のヒーロー像が掴めてないんだろ?誰を助けたいとか何のために戦うとか」

 

血界は立ち上がり、手を差し伸べる。

 

「だからよ………今は取り敢えず俺を助けてくれよ」

 

氷麗は呆気にとられたが笑みを浮かべて手を掴んだ。

 

「しようがないわね……今はそれで我慢してあげる」

 

ここから2人の逆襲が始まる。


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