遊戯王ARC-Z   作:咲き人

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1.「Z-ARC」

『時空を司るアストログラフ・マジシャンよ!我らの願いを叶え給え!』

 

来る……『破壊』が来る。破壊そのものが現れたのだ。一つの欲望と四匹の竜の統合により、覇を征する力が産み落とされる。

目的はたった一つ。人間を破壊すること《エンターテイメント》だ……

 

『ぎゃああああ!』

『誰か、助けてー!』

『嫌だあぁぁ!』

 

悲鳴が聞こえる。絶望が聞こえ始める。そしてすぐ様それらも聞こえなくなるだろう……しかし、希望はすぐさまに湧いてきた。

 

『ズァーク!貴方は私が止める!』

 

誰の声であっただろうか…大切な声だった気はするが……いや、誰でもいい。この際、関係ないんだ…対戦相手がどこの誰であろうと……今、観客が誰一人としていない世界《ステージ》でデュエル《エンタメ》が始まろうとしていた。

 

『死合《デュエル》!!』

 

 

世界は元々一つであった。そこには遥かに優れた技術があった……そこには古くからデュエルモンスターズがあった。5000年以上も前から存在していた古の石板をモチーフにして生まれたそのゲームは、すぐに人を魅了させた。そのスピードと繁殖力と言ったら、魔法をかけられたようであったろう……そして、気が付けばそのゲームは仕事の領域にまで達していた。つまりは、その決闘者《デュエリスト》たちにとって、デュエルモンスターズとは生命線……新しいカードとは潤いの水。古いカードは良き文化として、例外はあれども途切れることは無かった。

 

古くから続くこのゲームを画期的にするために1人の科学者が立ち上がった。その名は赤馬零王。彼は質量を持つ立体幻影《ソリッド・ビジョン》を開発し、デュエルモンスターズにおけるモンスターの出現を現実のものとすることを画一したのだ。それを特異点として、世界のデュエルモンスターズ熱は元々の高温から更に上昇した。それは経済をも回し、デュエルをする人だけでなく、デュエルを見ている人達にさえも感動を鮮烈にくれたのであった。

 

この日を境に幾千ものデュエルモンスターズの大会が『ソリッド・ビジョン搭載型新デュエルフィールド!』というおあつらえ向きな広告を出しては開かれていた。

 

ある日、零王は1つの大規模なデュエル大会にゲストとして参加した。歴代の強豪が選りすぐり集められている中、一人だけ無名のデュエリストがいた。彼は一回戦目でプロのデュエリストを華麗に倒し、観衆から声援を貰うとインタビューワーからマイクを借りて一言言った。

 

『俺には、カードの…ドラゴン達の声が聞こえる!』

 

 

--舞網市郊外--

 

ここは日本のデュエルモンスターズと科学の最先端の舞網市。比較的穏和なこの街も『外』に出れば話は別だ。

 

「いたぞ!逃がすな!」

 

裏路地に現れたのは、5分以上走り続けたように汗だくなチンピラ。その先にはまだ成人していなそうな女の子が逃げていた。

 

「いい加減、しつこい……」

 

「うるせえ!てめぇには痛い目にあってもらうぜ!強制デュエルだ!」

 

チンピラが左腕に付けていたのは……デュエルディスクと呼ばれるもの。デュエルモンスターズのゲーム内で使用されるフィールドをディスク型にし、持ち運び出来るようにされたもの。勿論、このデュエルディスクにも最新型にはソリッド・ビジョンのシステムが搭載されているものもある。

そしてデュエルディスクには幾つかシステムが存在する。チンピラが言った「強制デュエル」というのは、その幾つかのシステムには入っていない。いわゆる、違法改造というものだ。女の子の左腕にも装着されてあるデュエルディスクが勝手に展開。ゲームを開始しようとしている。

 

「……くっ」

 

「へへへっ、デュエルだぁ!てめぇも知ってるとは思うがソリッド・ビジョンがアクションフィールドを展開しているから逃走は不可能さぁ!俺のターン!」

 

デュエルを強行するチンピラ相手に戸惑う女の子であったが、初手であるカード5枚をデッキの上から抜き取ると目付きを変えた。

 

「俺はデーモン・ソルジャーを召喚!」

 

その名の通りの悪魔の兵士。ソリッド・ビジョンシステムにより、よりリアルで末恐ろしい造形をしている。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「…私のターン!」

 

 

すぐさま、決着はついた。少女の前にはチンピラが倒れている。デュエルモンスターズではライフポイントが0になったプレイヤーが負けるが、今まさにチンピラのライフポイントは尽きた。ソリッド・ビジョンにより、プレイされたモンスターがチンピラを吹き飛ばし、地面に叩きつけた。

 

「よし、今のうちに……」

 

「おうおう待ちな!嬢ちゃん!」

 

いつの間にか少女は他のチンピラたちに取り囲まれていた。そう、最初に女の子を追いかけていたチンピラ……仮にチンピラAとすると、そいつはこの仲間たちを集めるために強制デュエルをしたのだ。いくら逃げ足速い少女も囲まれたら意味がない。

 

「やっと追い詰めたぜ…!」

 

「くっ…!」

 

 

「おいおい…楽しくないねぇ。数の暴力なんて綺麗じゃないな」

 

少女を取り囲むことに集中していて、後ろへの警戒がおろそかになっていたチンピラたちを踏み台にして、少女の前に舞い降りた1人の男。デュエルディスクを腕に付けた、銀色に緑の線が引かれた髪にバイクのレーサーのような恰好はどこをとっても目立つだろう。

 

「だ、誰だてめぇ!?」

 

「ふっ……こんな風に華麗に現れたんだ。名乗らないのが奇術師のエンタメってね!ちょっと逃げるよお嬢さん!」

 

私は、急に現れた助っ人に恐怖さえ感じた。全く知らない人。でもすごく目立った恰好の人だ…どこかで会っただろうか?どこで見ただろうか?

……すぐには思い出せないし、分からない。けれども彼が私の手をとって、翔んだ時…私は輝きを見た。

 

どうやったのかは知らない。どうなっているのかは分からない……けれども彼は笑っていた。私を取り囲んでいたチンピラたちも口をあんぐりと開けて唖然としていた。どうしてこうなっているのかは分からないが……私は『赤い竜』に乗っていた。

 

舞網市内に飛び降りた竜は、そっと静かに消えていった。私も今なお、さっきのチンピラたちのように口を開けっぱにしてしまっているのだろう。

男は私をしっかり見て、そしてまた笑った。

 

「君、災難だったね」

 

「あ…いえ。あ、あの……助けてくれて…」

 

「あー……『今は』感謝の言葉はよしてくれ。そうだなぁ…取り敢えず俺から紹介するよ。俺は『ズァーク』!今日この舞網市に引っ越してきたんだ」

 

引っ越してきた……そういう割にはズァークは手荷物を何一つとして持っていない……そう、腕に付けているデュエルディスク以外は何も、だ。

 

「……私は『早乙女 遊未《ユミ》』。あの、ズァーク?あなたは何も持ってないようだけど…」

 

「それは大丈夫。ちゃんと引越し先の部屋は前もって済ましているし、お金は全部入金して、飛行機代ぐらいしか残してないからね。服とかもこっちで買った方が心機一転するしさ」

 

「そ、そう……ねえ、さっきのドラゴンは…」

 

また言いかけたところでズァークが走り出して話が途切れる。まだ聞きたいことが沢山あるのに、とさっきまで追われていた遊未は追う側に回って走った。

 

「おお……ここが舞網市!」

 

ズァークの目の前に広がった大通りには巨大なスクリーンが設置されてあった。そこに映し出されていたのはデュエルモンスターズの公式大会の一部分。激しい攻防とモンスターたちがリアルに動き回っている。

 

「ちょ、ちょっと……速すぎ」

 

「あー、それはすまない。でも見てくれよ!こんなどデカいフィールドでデュエルしてるんだ!ワクワクするなぁ…!」

 

「……(デュエルを楽しむタイプの人か)」

 

遊未はズァークのキラキラ輝かせている眼を見て少しだけ俯いた。

 

「相性悪いなぁ…」

 

「え?なんか言ったか?」

 

モニターに夢中だったズァークもわざとらしく呟かれた声にふと振り向いた。しかし、内容までは聞き取れず、首を横に振られる。

 

「いいえ。そうだ、ズァーク。あのチンピラはここにも来るかもだからあなたの部屋に避難させてよ」

 

「え……まぁ、いいけど」

 

マンションのワンルームに到着したズァークは遊未を部屋に入れる。年頃の少女を部屋に入れるという行為にズァークは抵抗があったが、そこら辺はしっかりしていそうな遊未のことだと、目をつむった。

 

「ふーん……意外と広いし、いいとこね」

 

「まあな」

 

まるで品定めするかのように部屋の隅々をチェックする遊未に業者かと思いながらズァークはデュエルディスクを外して机に置く。

 

「あら?なんかここに未開封のダンボールがあるけど……」

「ああ、それはカードだよ。持ってくよりは郵送の方が楽だからな」

 

「……そぉ」

 

さて、とズァークは一つ咳き込んで、話題を変える。遊未はズァークがやったであろう不可思議なことの説明を求めてここまで来たが、ズァークもズァークで遊未の『あること』に疑問を抱いてここまで連れてきていた。

 

「なぁ、遊未…だっけ?お前なんであんな数のチンピラに追われてたんだ?」

 

「……っ」

 

無意識に遊未は両手を小さく握り合わせ、体を小さく丸める。まるで恐怖しているかのようだ。

 

「そうだな……当ててやろうか、マジシャンっぽく。お前、アイツらから『何か』盗んだろ?でも、それは金じゃない……だって、俺と同じで手ぶらだもんな」

 

バレてる……遊未はズァークを侮ってはいなかったが、気付かれてるとも思っていなかったため驚きは隠せなかった。

 

「それに手や耳に高級そうな指輪やイヤリングをしてる訳でもない。なら、答えは大体一つに絞られる……カード、だろ?」

 

「……そうよ」

 

シラを切ったところで彼の確信した眼から逃れることは出来ないと遊未は素直にデュエルディスクから1枚のカードを取り出した。

 

「悪党から、とは言え…盗むのは犯罪だろう」

 

「元々このカードは、あのチンピラたちが盗みを働いて手に入れてたのよ。だから更に盗んでやったの」

 

理にはかなっていない。しかし、彼女はカードを大切にし、カードに対して横暴な態度をとる輩には容赦しないタイプだと、ズァークにはすぐに分かった。

 

「……まぁ、それを大切にするなら俺もとやかくは言わないさ。でも、元々盗難品なら持ち主がいるだろ」

 

「いるわよ。私のお爺さんだから」

 

「……取り返したって訳か。なら、謝るよ」

 

事情を知らなかったとは言え、彼女は祖父の物を取り返すために盗みを働いていたことに対して冷たく突き放せなかったズァークは素直に謝った。犯罪かもしれないが、法で裁けないなら人が裁くしかないものがあるというのはズァークも知っていた。

 

「いいのよ。でも、アイツらはただのチンピラじゃなくて、この舞網市に蔓延るいくつものデュエルギャングの一つ。今日の件で私だけじゃなく、あなたも狙われたかも」

 

「ギャング?そんなのまでいるのかここは……楽しそうだな」

 

「は?」

 

ズァークの悠長な言葉に流石の遊未も声を上げて驚く。それは、無鉄砲さゆえのものなのか、それともそれ以上の自信からなのか……。彼女にはてんで理解できなかった。

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「ああ!俺もお前みたいに大切なものを持ってるからな……そうだ。喉乾いたろ?飲み物買いに行くよ」

 

そう言って、すぐさま出ていったズァークに遊未は不安しか感じていなかった。しかし、その手に持っている1枚のカードを見ると何処と無く彼を信じようとする心が満たされていっている気がした。

 

「もしかしたらこのカード《あなた》が……彼を引き寄せたの?……『アストログラフ・マジシャン』」

 

 




はじまりの世界を生きるズァーク。何故彼は『悪魔』や『覇王』と呼ばれるようになってしまったのか…
そして覇王龍を産み落としたカード『アストログラフ・マジシャン』の正体とは…

次回『エンタメデュエリスト、ズァーク!』
「お楽しみは、これからだ!」
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