遊戯王ARC-Z   作:咲き人

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2.「エンタメデュエリスト、ズァーク」

『レディィィス&ジェントルメェェン!!』

 

 きれいな爆発音とともにその言葉が会場内の盛り上がり様を更に高めた。ここは、デュエルモンスターズの大会専用の会場で、ズァークと遊未はここにいた。会場中に所狭しとぎっしり詰まった観客達を横目にズァークは受け付けに予め出していたエントリーシートの確認を受けて、出場選手用のネックストラップを貰った。

 

「こんな大舞台でデュエルするのは初めてだ。ドキドキするな!」

 

「私、参加しないけどね」

 

 実を言うと、遊未は呆れていた。ズァークのデュエルモンスターズに対する情熱は伝わっていたが、まさか引っ越した初日にこんな巨大な大会に出るとは思っても見なかったからである。

 

そうしている間にすぐさま一回戦が始まる時間は徐々に迫ってきている。控え室でズァークはデッキを見つめてニヤリと笑った。舞網市はまさにワールド・オブ・デュエルモンスターズ。その中で彼の仲間たちが彼と共に地を蹴り、宙を舞うのだ。それは笑いが止まらなくても当然だろう。

 

「ようやくだ……皆を輝かせてやる!」

 

 

『さぁ、皆様お待たせ致しました!第一回戦!Aゲートからは今大会で2度も優勝をしているザ・チャンピオン!瞬く間に相手を倒すその姿はまさにガンマン!ガナード選手だー!』

 

ウェスタンな恰好をしたデュエリスト、ガナードの登場に観客達は爆熱を噴き出す。それを苦しそうに耳を塞ぎながら遊未はズァークの登場をじっと待つ。

 

「(さぁ、見せてもらうわよ。アストログラフ・マジシャンを魅せるほどのデュエリストなのかどうか……)」

 

『そして、経歴一切不明!遠い街から現れた流星!ズァーク選手!』 

 

ズァークは紹介されて登場、ということ自体にワクワクを感じていた。彼はこんな大舞台を望み、そして今立っているのだ。対戦相手のガナードはニコニコと親しみやすそうな笑顔で彼に近づき、手を差し出した。

 

「よろしく。ズァーク君」

 

「あー、よろしく。でも、握手はデュエルで勝敗がついてからにしようぜ」

 

「握手?違うね……。これは宣戦布告さ。俺は勝ちに来た…敬意やらなんやらの握手は勝敗がついてからだ」 

 

ふっと笑ったズァークはガナードの野心的な目を見て、背を向けた。そしてデュエルディスクを起動させると彼もまた目の色を変えた。

 

『おおっーと!これはズァーク選手が先にディスクを起動させたー!これはチャンピオンに対する挑戦!チャレンジャーの目だ!!』

 

「「デュエル!」」

 

 

ゲームの先行後攻はディスクが自動的に選出する。自動的にという言葉からして、幾らでも悪用することが出来るように聞こえるが、公式であるこの大会ではそう言った不正を防ぐために出場選手のデュエルディスクは一つ一つ厳重な審査がかけられている。

 

『先行はチャレンジャー、ズァーク選手!さぁ、どんなデュエルを見せてくれるのかー!?』

 

「俺のターン!俺はEM《エンタ・メイト》ウィップ・バイパーを召喚!」

 

EM ウィップ・バイパー攻1700/守900

 

ズァークの手からディスクへと置かれたカードはポンというアニメーション特有のSEと共に紫色の蛇に変わる。小さな帽子を被っており、ズァークの右腕に巻きついている。

 

『え、エンタメイト!?こんなコメディ感溢れる可愛らしいモンスターで戦おうというのかー!』

 

「見た目の可愛さはご愛嬌!俺のデュエルは、皆を楽しませる…エンタメデュエルだ!」

 

観客席側に座っている遊未はじっとズァークを見た。エンタメデュエル。知っている単語と単語が合わさってはいるが、知らないものだ。どういうことなのだろうか……

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

「エンタメ?……これがか?つまらんつまらん!俺のターンだ!」

 

つまらない、とそうはっきり言われたのにズァークの笑みは消えない。それが余計に刺激になったのか、ガナードはデッキからカードを引いて、1枚のカードを見せびらかした。

 

「派手なことをしねぇで何がエンタメだ!なら、俺の方がもっと刺激的さ!俺はガトリング・オーガを召喚!」

 

ガトリング・オーガ 攻800/守800

 

腹にその名の通りのガトリングを装着した鬼がフィールドに降り立つ。

 

『ででで出たー!ガナード選手のワンターンキルデッキのエースモンスター!これで幾人ものデュエリストを倒してきました!!』

 

「俺はカードを5枚伏せて、ガトリング・オーガのモンスター効果を発動!セットしたカードを墓地に送る事に800ポイントのダメージを与える!」

 

つまり、伏せカード5枚全部を墓地に送ることで4000のダメージ。初期のライフポイント4000をぴったし削りきる威力だ。

 

「いたっ!」

 

ズァークLP4000→3200

 

「ガトリング・オーガの効果に制限はない!残りの4枚の伏せカードを墓地に送ってゲームエンドだ!」

 

「ふっ、あんたのデュエルはエンタメには程遠いな。カウンタートラップ発動!『ダメージ・ポラリライザー』!これは効果ダメージを1回無効にして、お互いに1枚、カードをドローする!」

 

ガトリング・オーガの機銃がズァークに当たる前に腕に巻きついていたウィップ・バイパーが一つ残らず食べてしまう。

 

ズァークLP3200→800

 

『なんとズァーク選手!ガナード選手のワンターンキルを耐えたー!いや、ダメージ・ポラリライザーの効果でガナード選手が魔法か罠カードをドローしたらそこで終わりだー!』

 

「その通りだ!やらかしたようだな、ドロー!(ロングバレル・オーガだと!?)……ふ、命拾いしたようだな。俺はこれでターンエン…」

 

「この瞬間から!俺の【エンタメフェイズ】がスタートするぜ!トラップカード『ハッピー・フルーツ』!」

 

ウィップ・バイパーの時と同じように小さな煙と共にいくつもの果実が落ちてくる。観客達もどよめきが起こるが、むしろそれはズァークの思った通りの展開。

 

 

 

「これは次のターン終了時までお互いのモンスターの攻撃力はフィールドのカードの数×1000ポイントアップするカードさ!」

 

「なんだと?だが、いくら攻撃力を上げようとガトリング・オーガとウィップバイパーの攻撃力の差は埋まらない」

 

EM ウィップ・バイパー 攻1700→4700

 

ガトリング・オーガ 攻800→3800

 

落ちてきたリンゴのような果実をウィップ・バイパーとガトリング・オーガは同時に食べている。元々、小さな体であるウィップ・バイパーはガトリングの玉も食べているのでげっぷりと太っている。

 

クスクス……誰かが笑っている。ウィップ・バイパーの滑稽な姿を笑っているのだ。ズァークはニヤリと笑った……。これだこれを待っていたんだ。

 

「お楽しみはこれからだ!俺のターン、ドロー!やって参りました皆さん!さっきは見事、相手のワンターンキルを凌いだ私ですが、ライフポイント的にピンチは変わりません。しかし、ここからこの……太っちゃったウィップ・バイパーが私を逆転に導いてくれます!そう、宣言するのは一撃必殺《ワンショットキル》!見事成功したならどうぞご喝采を!」 

 

遊未はデッキに入れていたアストログラフ・マジシャンのことを思い出す。アストログラフには祖父の代からの特別な想いがある。もし、ズァークと遊未を引き寄せたのがアストログラフだとしたら……

 

私は彼のエンタメデュエルに惹かれているの?

 

 

「ワンショットだとぉ?ガトリング・オーガは攻撃力3800!ウィップ・バイパーの方が攻撃力は900ポイント上だが、俺のライフを0にするには届かなさすぎるんじゃないのかぁ?」

 

「それはごもっとも!でも、一本取られたとは言わないぜ?俺は大事な大事なキーカード『スマイル・ワールド』を発動!」

 

ポップな世界が広がる。ただの子供だましのようなチンケな絵柄だが、それでもデュエルの世界に無かったものが広がっていく。

 

「スマイル・ワールドはフィールドのモンスターの数×100ポイント!全モンスターの攻撃力をアップさせる!」

 

EM ウィップ・バイパー 攻4700→4900

 

ガトリング・オーガ 攻3800→4000

 

「ま、また俺のモンスターごとパワーアップしただと!?」

ズァークの意図が分からないガナードではあったが、主人を他所にガトリング・オーガは笑っているのだ。

 

「そう、皆が笑顔になれる!皆、笑顔になれる自由がある!それはデュエルモンスターズでも何処でも変わらないことさ!そして、EMはみんなの笑顔で強くなる!ウィップ・バイパーの効果発動!ガトリング・オーガの攻撃力と守備力を入れ替える!」

 

ガトリング・オーガ 攻4000→800

 

『な、ななななんということだー!ウィップ・バイパーの効果でガトリング・オーガとの攻撃力の差は……。よ、4100ポイントォォ!これは、これはスマイル・ワールドで攻撃力を上げていなければ足りなかった計算になります!』

 

「バトル!ウィップ・バイパーでガトリング・オーガを攻撃力!スネークストンプ」

 

トランポリンのように体を高く飛び上がらせ、ガトリング・オーガの頭上で急降下する。

 

「ば、馬鹿なァァ!」

 

ガナードLP4000→0

 

『け、決着ぅぅぅ!!なんとなんと!まさかのダークホースの出現!ワンターンキルモンスター、ガトリング・オーガを前にして、まさかのワンショットキル!これほどまでにどんでん返しな一回戦目が、あっただろうかぁぁぁ!』

 

とてつもない声援の中、ズァークは控え室に戻った。そこには何故か遊未の姿が戸惑いを隠しきれないが、エンタメデュエルをした熱が下がらないのか、ズァークはディスクも外さず彼女と向き合った。

 

「……いいデュエルだったわ」

 

「サンキュ!あー、でも、いいデュエルだと思ってくれたのなら笑って欲しいなぁ」

 

「別に……。ワンショットキルが凄いと思っただけで、あれのどこがエンタメデュエルなのかはちっとも伝わらなかったわ」

 

手厳しいなぁ、とズァークはぽつりと呟く。目の前で自分の《エンタメ》デュエルを否定されるのは癪に障る。しかし、それで勘当するほどズァークも子供ではない。

 

「じゃ、次はちゃんと遊未にも伝わるように頑張るさ」

 

「そもそもエンタメデュエルって何?」

がっくし……とズァークは倒れかける。まさか舞網市にはエンタメデュエルそのものの概念が無いのか…これは困ったなぁ、とため息をつく。

 

「そ、そこから来るか……まぁ、簡単に言えばさ。ショーだよ。デュエルモンスターズって白熱する戦いで人々を盛り上げる……。エンタメ、つまりエンターテインメントなショーもそれと同じで、ハラハラドキドキしちゃうマジックの数々。それら二つが混じりあったのがEM《エンタ・メイト》さ!まぁ、他にも幾つかデッキは持ってるけどね」

 

ズァークが部屋に置いていたダンボール。そういえばアレの中身は確認せずじまいだったが、カードが入っていると言っていた。そこに、彼が言う他のデッキがあるのだろうか…

 

「この大会が終わったら他のデッキ、見せて」

 

「……?いいけど……」

 

「(エンタメデュエル。凄かったけれど、特別なものがあったようには思えないし、もしかしたらアストログラフが引き会わせたのは他のデッキかも……)」

 




次回予告
お互いにたった一体のモンスターがフィールドに出ただけで決着がついた第一回戦。しかし、すぐさま二回戦目の刺客が現れる。


次回『闘い融け合う獣!』

「お楽しみはこれからだ!」
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