一回戦のデュエルだけでズァークはかなり注目の的となった。彼の過去を探ろうとする者が少なからず現れるぐらいには一気に有名な人になったのである。
「よしよし、皆がエンタメデュエルを楽しんでくれたみたいだなぁ」
こういうことに、ズァークの自信に繋がっていた。彼は人気者になること自体に喜びを感じているのだ。
しかし、ズァークの人気の爆上がり様にうんざりしている人物が一人だけ存在していた。そう、遊未である。ズァークと話をしていただけで関係者と思われたようで、今朝はギャングから、今はマスコミから逃げている状態である。
「はぁ…はぁ……ホントに嫌な日」
『おぉーっと、ここで決着ぅぅー!』
別のデュエルが終わったらしい。恐らくは二回戦でズァークとデュエルする相手だろう。
「……まぁ、興味無いし。(私は『アストログラフ・マジシャン』が導いた彼の力さえ知れれば…)」
アストログラフ・マジシャン。祖父はこのカードには特別な力があると言い続けていた。何かの伝承?でも、このカードは一度、どこで情報を手に入れたのかギャングに盗まれてしまった……
「確か、デュエルモンスターズのカードの一部は、伝説とか伝承をモチーフにしていて、その特別な力をカードが宿す……とか、なのよね」
遊未は光り輝くアストログラフ・マジシャンのカードをまじまじと見つめながら一人そのことを呟く。
「……(どう思う?『オッドアイズ』…)」
『グルルル…』
偶然、マスコミから隠れた遊未を見つけたズァークが彼女の独り言を耳にしていた。彼は誰かに話しかけているが、彼の周りには誰もいない。ただ、龍の唸り声だけが聞こえる。
『さぁー!皆様、あっという間に二回戦の始まりだぁぁー!対戦カードはエンタメデュエリスト、ズァーク!そしてそしてぇ!究極の野生児
「野生児なだけあって凄い眼光だな。君も笑顔になってくれると嬉しいんだが」
「喜んでる暇、ない。勝つ」
「多いねー、君みたいな人」
ズァークは一回戦の相手の時から楽しもうとするデュエリストが少ないことが気になってしょうがなかった。しかし、相手も真面目にやっている分、強く言えることは一つもない。WBが戦闘体勢に入ったと言わんばかりにズァークから距離を取り、デュエルディスクを展開する。
「「デュエル!」」
5枚のカードを取り出し、ズァークは顔を顰めた。
「あちゃー…(皆、さっきの戦いでウィップ・バイパーだけしか召喚出来なかったけどさ。ここまで自己主張しなくてもぉ~)」
しかし、幸か不幸か。先行はWBである。後攻1ターン目にはドローがあるので、それに光明を見出そうと対戦相手の方を見た。
「俺のターン。
剣闘獣ラクエル 攻1800
「剣闘獣。戦う獣か…らしいカードだ」
「…フィールド魔法、剣闘獣の檻―コロッセウム発動。装備魔法、剣闘獣の闘器―マニカ。ラクエルに装備。ターンエンド」
「む…」
『WB選手の使うモンスターは剣闘獣!その名の通り、闘いを主としたスペシャリスト達が次々と現れるデッキ!果たしてズァーク選手、この戦いでどんなエンタメを見せてくれるのかぁぁ!』
あはは…とズァークは苦笑いが出た。こちらを盛り上げるためとはいえ、そんな急に言われてもなぁ……それにこっちの手札はあのライオンちゃんをあっと言わせるような子達がいないんだけど……と内心は溜め息ばかりであった。
「うじうじしててもしょうがないか。俺のターン、ドロー!……あ!ご、ごめんね皆!魔法カード
手札にいたガンバッター、カード・ガードナー、カレイドスコーピオン、オカヤヤドカリ、キングベアーに謝りながらもデッキからカードを6枚ドローした。手札総入れ替え。見ている観客全員が「これがエンタメか」と思っていたが、これはただの手札事故である。
「よし、俺はEMディスカバー・ヒッポを召喚!」
EMディスカバー・ヒッポ 攻800
「そしてEMモンスターがフィールドに登場したので、釣られて出てこい!EMヘルプリンセス!」
EMヘルプリンセス 守1200
「そしてヒッポの効果だ!このカードが通常召喚に成功したターン、レベル7以上のモンスターの召喚権を増やすことが出来る!永続魔法、冥界の宝札を発動して、ヒッポとヘルプリンセスをリリース!」
『これは、上級モンスターの登場かぁぁぁ!?』
「雄々しく輝く二色の眼!行くぜ相棒!オッドアイズ・ドラゴン!」
『ガァァァ!』
オッドアイズ・ドラゴン 攻2500
「冥界の宝札の効果により、2体以上のモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した場合、デッキからカードを2枚ドローして、バトルだ!オッドアイズでラクエルを攻撃!『直撃のストライクバースト』!」
「…!」
WB LP4000→3300
オッドアイズ・ドラゴンの攻撃がヒットしたことを確認したズァークは高らかにオッドアイズ・ドラゴンの効果を発動しようとした。
「戦闘でモンスターを破壊したオッドアイズの効果発ど……あれ?」
しかし、ラクエルは攻撃に鬣を震わすだけでビクともしていない。
「装備魔法の効果、装備モンスター、ラクエルは戦闘で破壊されない」
「まじかーい。しょうがない、俺はメインフェイズ2に入って…」
「バトル終了の時、ラクエルの効果発動。戦闘を行った場合、デッキに戻り、別の剣闘獣を特殊召喚」
剣闘獣サジタリィ 攻1400
「げ!」
「フィールド魔法、コロッセウムはデッキからモンスターが特殊召喚される度にカウンターを乗せる」
剣闘獣の檻―コロッセウム カウンター1
剣闘獣サジタリィ 攻1400→1500
「そしてカウンターの数だけパワーアップか」
「装備魔法、剣闘獣の闘器―マニカの効果、装備モンスターがデッキに戻った、このカードを手札に戻す。最後、サジタリィの効果発動。剣闘獣モンスターの効果で特殊召喚した、手札の剣闘獣ベストロウリィを捨て、2枚ドロー」
「……カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン」
少々ズァークの方が劣勢である様子はスクリーンを見れば分かることだった。
一人、ビルの屋上まで逃げた遊未は彼のピンチに溜め息をつく。思い返すほどでもないが、一回戦目も危なかった。
「スレイブタイガーを特殊召喚」
スレイブタイガー 攻400
「どうやら剣闘獣がフィールドにいると特殊召喚できるモンスターみたいだねー。こりゃ、大変」
「何、笑ってる?」
ここまで淡々とプレイを続けてきたWBが急に手を止めた。どうやらズァークが自分に置かれている状況に苦笑いしたのが気になったようだ。ズァークは笑みを崩さない。
「笑ってるのに意味無いっていうのも気味悪いし、多分俺が笑ってんのにはちゃんと意味があると思うよ。でも、説明は出来ないや。笑いたいから笑ってるのかもね」
「おかしい、デュエル…真剣勝負!笑う暇、ない!!」
WBはデュエルディスクに置かれたスレイブタイガーのカードを墓地に送った。その瞬間、フィールドのサジタリィが姿を消す。
「何!?これは…」
「剣闘獣ダリウス、特殊召喚!」
剣闘獣の檻―コロッセウム カウンター2
剣闘獣ダリウス 攻1700→1900
「……あー、つまり、なんだ?スレイブタイガーをリリースすることで剣闘獣の共通効果であるデッキに戻して、別のヤツを呼んでくるのをメインフェイズ中にやったってことか?」
「ダリウス効果発動!墓地の剣闘獣、効果無効で、特殊召喚!」
剣闘獣ベストロウリィ 守800→1000
「更にこの二体を融合!」
「え!?ちょ、ちょっと待てよ!融合召喚には融合カードが…」
「戦いに、そんなの不要!剣闘獣はデッキに戻る、これで融合出来る!」
ベストロウリィとダリウスがWBのデッキに帰っていく。そして異空間から、ベストロウリィに似た強力な鎧を付けた剣闘獣が降りてくる。
ズァークはただ、頬から汗を垂らした