月日の流れとは早いもので、僕が魔神国に来て早1ヶ月が経った。
魔神国での生活は慣れたもので、魔王軍の幹部達とも軍人達とも仲良くなったし、この国にも結構馴染んできた。
毎日街を歩いていたため、1ヶ月の間に街のすべての魔人達に顔を知られることとなり、今ではローブ無しで歩いている。
しかも、荒くれ者の対処をしていたため、普通の魔人達から『
中でも一番相手にしたのが、椅子代わりにしてしまった魔人で、この1ヶ月間毎日懲りずに復讐をしに来る。
5回目くらいに、聞いてもいないのに名前を名乗られた。ガスロッドと言うそうだ。
今現在、そのガスロッドさんが目の前に居るんだけど……。
「あの、そろそろやめてもらえませんか? もう1ヶ月経つんですよ? さすがに根に持ちすぎじゃないですか?」
「あれはもうどうでもいいんだよ! 今の目標は、どうやったらお前を倒せるかだ! お前を倒すまで地獄の果てまで追い回してでも負かしてやるから、覚悟しろ!」
いつの間にか、主旨が変わってた……。
そんな意気込みをするガスロッドさんの今日の戦法は、『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』みたいで、荒くれ者の魔人全員で僕を囲んで一斉に魔法を撃ち込んできた。
【
なので、【
魔力量が多いため、魔人族何十人もの魔法攻撃を喰らい続けても、ヒビ一つ入らずに防ぎきった。
「化けもんかよお前!? この人数の魔法を喰らえば、普通、防ぎきれねぇだろ!?」
「防げましたけど?」
「チッ、違う手を考えるか……。じゃあな、覚えてろ!」
最後のセリフは相変わらず同じなんだよな……。
「よく飽きずに僕に挑めるよね」
「私からしたら、それに律儀に付き合ってあげる響さんも響さんだと思います」
「そうだぞ、ヒビキ。俺も、あんなの相手にしなくていいと思うし」
二人はそう言うけど、城の門を出てすぐの場所というか門の前で完全に待ち伏せられてるんだよ?
倒さないと先へ進めないダンジョンみたいなもんなんだよ?
相手は毎回途中で逃げるを使ってくるけど……。
「よぉヒビキ、お帰り。毎日毎日大変だな」
「ランズノッドさん、今日もやるんですか?」
今日もというのは、ランズノッドさんの部下達と組み手のようなものをすることのことだ。
と言っても、僕が一方的に次々と襲い掛かってくる部下達を合気道の技で地面に転がし続けるだけのものだから、体力強化目的なんだけど……。
「いや、今日はその為に出迎えたんじゃなくて、朗報を伝えに来てやったんだよ」
「なんですか?」
「勇者一行があと2日でこの国に来るんだとよ」
「あ、そうなんですね。楽しみです」
「……なんか、反応薄くねぇか?」
「そうですか? たとえ会ったからといって王国に帰る気は無いですし、王国で肩身の狭い思いをするよりこの国に居る方が楽しいですからね」
僕がそう断言すると、ランズノッドさんは「ハッ、相変わらず生意気なことを言いやがる」と言いつつ、嬉しそうに僕の髪をわしゃわしゃしてから去っていった。
そっか、神奈達が来るのか……。どうやって驚かそうかな。
そんなことを思いながら自分の部屋へ戻る途中、ちょうど会議室から出てきたマオさんに会った。
「あ、ヒビキくん、お帰り。ランズノッドから勇者のこと聞いた?」
「聞いたよ」
僕が答えると、マオさんはしんみりした顔で訊ねてきた。
「ねぇ、ヒビキくん」
「なに?」
「勇者に会ったら帰るの?」
「何を今さら聞いてるの?」
「やっぱり、帰るんだ……」
「いやいや、帰らないよ?」
「えっ?」
「えっ? 帰ってほしいの?」
僕が聞き返すと、マオさんはブンブンと首を横に振って否定した。
「そんなわけないよ! ヒビキくんにはずっとここに居てほしいよ! ……でも、本当に帰らなくていいの?」
「べつに王国は僕の帰る場所じゃないし、そもそも、この世界に帰る場所なんてないわけだけど、今はここが帰る場所だと思ってるから」
僕がそう言った途端、マオさんが目からからぶわっと涙を溢れ出させながら僕に抱きついてきた。
「ヒビキぐぅん……よがっだぁ……帰るっで言われだらどうじようがど……ぐすん」
「この1ヶ月間思ってたけど、マオさんって僕と接する時だけ魔王らしくないよね」
「ヒビキくんに嫌われたくないからだし、こっちが素だし。みんなの前では威厳を保つために偉そうにしてるけど、本当は偉そうにするの苦手なんだよ? みんなの前で話す時、いつも内心では普通に喋りたいって思ってるし」
暴露されたけど、僕にはどうすることもできないかな。
それはマオさんの気持ち次第だし、それに、べつに僕に魔王らしく接しても嫌いになったりはしないんだけど……。
小心者というか心配性というか……。そんなに僕は、他人をすぐ嫌うようなタイプの人間のように見えるんだろうか。
生まれてこのかた、嫌ったことがあるのは精々外国人ぐらいしかいない。
もちろん、今は嫌いではない。恐怖症のせいで話すことはできないけど。
「ところで、マオさん、会議室で何をしてたの?」
「あ、えっと、その……」
僕が質問すると、マオさんはサッと僕から離れると、視線を逸らして言いづらそうにした。
「ん? ……あ、もしかして、勇者達の対処について?」
当たっていたらしく、マオさんが黙ってコクンと頷いた。
「どうするつもりなの? できれば死なせない方向でやってほしいけど」
「そうするつもりなんだけどね……。ザルクールがさ、『たとえヒビキ殿の知り合いでも、勇者は勇者です。倒さねば国民に示しがつきません』なんて言い始めたんだよ? 他の幹部達は、ヒビキくんの知り合いなんだから倒す必要はないって言ってくれてるんだけどね……」
はぁ、とため息をつくマオさん。
まぁ、ザルクールさんの性格からすればそう言うだろうね。
ザルクールさん、超が付くほどの真面目だし。
そんなことを思っていると、突然ルウェルがこう言ってきた。
「勇者がヒビキの知り合いなら、ヒビキに任せればいいんじゃねぇの?」
その発言を聞いた僕とマオさんが、ルウェルの方へバッと向く。
東条さんはさっきから黙って会話を聞いているだけだ。
僕とマオさんに同時に見られ、少したじろぎながらもこう言った。
「ひ、ヒビキが説得すれば、戦わずに済むじゃないかなって……」
「それだ! よく思いついたね、ルウェル、名案だよ! というわけで、ヒビキくん。説得よろしくね」
「わかった。たぶん、すぐ説得できると思う」
そういうわけで、僕が神奈達を説得することになった。
◆◇◆◇◆
――2日後
ようやく神奈達に会えるのかと感慨に耽っていると、軍人が勇者が国の門の辺りまで来たことを伝えに来た。
さてと、どうやって驚かしつつ説得しようかな。
なんてことを考えながら、久々にローブを着て門を思い浮かべながら【
転移すると、門番が僕に気づいて近寄ってきてこう言った。
「あそこに見えるのが勇者の一団です」
そう言って門番が指差した方向を見ると、確かに集団がこちらに向かってきていた。
門番に「どうも」と笑顔で言ってからフードを被り、向かってくる一団に向かって歩き出した。
一団に近づいていくと、あることに気づいた。
居るのは神奈だけだ。どれだけ見ても、一団の中に来輝くんと白石さんが居るのは確認できなかった。
もっと近づくと、向こうがこちらに気づいて立ち止まって僕の様子を窺い始めた。
そして、僕が神奈達の前で立ち止まると、神奈の横から結構なイケメンのライオンの
「貴様、何者だ!」
そっちこそ誰なの? ちゃっかり神奈を庇うように立ってるのが気に食わない。
無視して歩き出し、獣人のイケメンの前まで行くとムカついたので押し退けて神奈の前まで行った。
「なっ、貴様ぁ! この私を、獣帝国マリッタの皇子たるボルトールと知っての行為か!」
知らないよ。まず、皇子の貴方がなぜこんなところまで来てるんだっていう話だよね。
そのまま無視して神奈に近づいていくと、ボルトールと名乗った皇子が「私のカンナに近づくな!」と言って僕に向かって【
氷でできた大きな針が数本現れて僕に向かって飛んできた。
それを僕は慌てず【
「なっ、なんだその魔法は!」
そんな言葉も無視して神奈に近づいていて数センチの板が入るかどうかぐらいまで近づくと、神奈は怯えた様子で少し後退りながら僕を見てきた。
さすがに傷付くので、フードを少し上げて神奈だけに見せると、神奈は少しの間驚いたのか瞬きを数回した後、急に涙を浮かべて僕に抱きついてきた。
「カンナ、何をしてるんだ。そんな得体の知れない奴から今すぐ離れろ!」
「嫌です。この人から離れるなんて二度としたくないです」
「何を言っている。魔神国からやって来た奴だぞ? 敵に決まってる!」
はぁ、この皇子、馬鹿じゃなかろうか。
「神奈、いいよ。僕が話をつけるから」
そう言って神奈を離れさせてから、皇子と対峙する。
「貴様、カンナの名を呼んでいいのは私だけだ!」
「それは、誰が承認したんですか? 僕は認めませんよ。神奈の兄として」
「は? 何を言っている? 貴様がカンナの兄だと?」
「でなければ神奈がこうして抱きつくわけないでしょう? 馬鹿なんですか? だいたい、貴方は神奈のなんなんですか?」
僕が矢継ぎ早にそう言うと、馬鹿と言われたことで怒りが爆発したのか皇子が怒鳴り始めた。
「馬鹿だと!? 貴様、皇子であるこの私に向かって馬鹿だと!? 私は皇子だ貴様よりも偉いのだぞ! カンナは私の伴侶にするのだ! 誰にも文句は言わせん!」
「神奈はこの獣人のこと、どう思ってるの?」
「勝手に付いてきた邪魔者だと思ってるよ。私には、生涯ずっと傍に響兄が居れば満足だから」
うん、それはおかしいと思うな。顔を赤くしながら笑顔でそう言われても、おかしいことに変わりない。
ちゃんとした相手を見つけてほしいところだけど、1ヶ月ほど会ってなかったから思考回路がオーバーヒートしてるのかも。
「神奈はこう言ってますけど?」
「だからなんだ! 必ず伴侶して見せるぞ! だいたい貴様、顔も出さずに無礼ではないか!」
「あ、そうですね」
そう言ってフードを取って顔を見せると、皇子は僕の顔を見て目を見開いて驚いた。
それはそうだろう。神奈にそっくりな顔なのだから。
「そ、その顔……カンナと瓜二つではないか!」
「双子ですから。これでわかったでしょう? 僕が神奈の兄であると」
やっと信じたのか、口をパクパクさせながら僕を見てくる皇子を置いておいて、神奈の方に向き直る。
「神奈、久しぶりだね。元気そうでよかった」
「それはこっちのセリフだよ……! 心配したんだよ?」
「うん、ごめんね。……ところで、来輝くんと白石さんは?」
「そ、それがね。訓練が滞ってて、間に合わなくて……。でも、後から来るから大丈夫だよ」
「そうなんだ。ということは、神奈は大分無茶したってことだよね」
「そ、それは、その……」
僕の指摘に俯いて口ごもる神奈。
僕は、そんな神奈の頭をぽんぽんと優しく叩いてこう言った。
「僕の為っていうのはわかってるから、咎めはしないよ。よく頑張ったね」
「うぅ、響兄ぃぃぃぃ!」
微笑みながら僕がそう言うと、神奈は泣き叫びながら再び抱きついてきた。
そんな神奈の背中をさすっていると、東条さんが現れた。
「急に現れるね……」
「申し訳ありません。魔王様に様子を見てこいと言われたので」
「見ての通り、しばらく待たないと説得は無理かな」
「そのようですね」
「ちょっと待った。響兄、この美人な日本人は誰なの?」
「先代勇者だった東条 春さんだよ。こう見えて100歳超えてるんだよ」
「響さん、それは些か傷つきます」
「あ、ごめんね。でも、伝えとかないと後々大変だから」
そう言って謝ると、東条さんは「仕方ないですね」と言って許してくれた。
それから、神奈に向くと挨拶を始めた。
「神奈さん、初めまして。東条 春と申します。響さんに似て、とても素敵な方ですね。この1ヶ月間、響さんにはよくしてもらいました。神奈さんにとって自慢のお兄さんでしょう。私もそう思います」
東条さんがそう言い終えると、神奈が僕にこう訊いてきた。
「響兄、香純ちゃんというものがありながら、もう一人作っちゃったの?」
「えっ?」
その言葉があまりにも衝撃的で、しばらくの間、僕の思考は停止することとなった。