神奈に衝撃的なことを言われて思考停止を起こしていた僕は、我に返るとこう言った。
「いやいや、えっ、東条さんが僕のことを?」
「だから、そう言ってるの!」
まさか、そんなことは……あっ……!
「ほら、思い当たる節があるんでしょ!」
「確かにあるけど、本人が本当にそう思ってるかはわからないよ?」
「って言ってるけど、春さん。響兄のこと好きなの、好きじゃないの?」
「好きです。この1ヶ月間、それなりにアプローチしたのですが、響さんは気づいてくれなかったですね」
うわぁ、それは申し訳ない。でも、東条さんって表情が
「響兄、どうするの?」
「どうするって、何を?」
「香純ちゃんと春さん、どっちを選ぶの?」
「どっちを選ぶんですか?」
周りの目なんてお構い無し。二人して僕に詰め寄ってくる。
「さあ! 選んでよ!」
「どっちですか?」
そんなこと言われても、どっちも美人だから究極の選択なんだけど……。
というか、そもそも僕はどっちも結婚したい程好きなわけではないから、今決めろと言われても無理がある。
想いを寄せてくれるのは嬉しいんだけどね。
「そうですか……いや、そうですね。それなら好きになってもらえるように頑張るまでです」
「まぁ、響兄はそう思うよね。それに、これは当人同士の問題だから、香純ちゃんが来てからゆっくり話そうか」
なんと、東条さんはともかく、神奈に思考を読まれてしまった。
まぁ、なぜだか知らないけど、神奈が僕の思考を読むことはよくあることだから、今更なんだけど。
「そ、そうだ、神奈。聞いてほしいことがあったんだ」
「何?」
「魔王とは戦わずにこのまま引き返してくれないかな」
「えっ? ど、どういうこと!? 魔王だよ? 世界征服しようとしてる魔王だよ? その魔王と戦わずに引き返すの?」
「それはわかるけど、戦うとなると、勇者とはいえ、負けるか最悪死ぬよ? 先代の勇者である東条さんだって、他の二人の勇者が死んで勝てなくて服従を誓っちゃうくらいなんだから」
僕の言葉を一応信じたのか、神奈がこう訪ねてきた。
「引き返すとして、響兄はどうするの?」
「残るよ。王国に戻っても部屋に引き籠ることになるだけだし」
「ここに居る方が危険だよ! そりゃ恐怖症があって外に出られないのは確かだけど、安全に暮らせるんだよ? 王国に戻ろうよ!」
必死にそう言ってくる神奈。気持ちはわからなくもない。けど、
「こっちで暮らす方が、部屋に閉じ籠ってるよりはマシなんだよ。窮屈な思いをしなくていいし」
「うっ、そう言われると、言い返せない……。でも、響兄、自分の身を守れるの?」
「守れるよ。神奈が知らなかっただけで、合気道習ってたし」
「えっ? 初耳だよ? どういうこと?」
「誘拐事件の後、日本に帰ってから習い始めたんだよ。神奈に内緒で」
「でもでも、だとしても、魔法は? 魔法で攻撃されたらどうするの?」
「さっきみたいに魔法で防ぐよ」
「確かにさっき魔法を防いでたけど、無属性って回復系の魔法しか使えないんじゃないの?」
あ、やっぱり知らないよね。魔人族は知ってるんだけど。
「実は色々な魔法が使えるんだよ。たとえば、さっき皇子が使ってた【
そう言って誰も居ない方向に掌を向けて、【
「ね?」
「じ、じゃあ、さっきの馬鹿皇子の魔法を防いだ魔法は?」
「あれは、【
「そうなのっ!? 防御魔法って、勇者の杖を持った勇者じゃないと使えないんじゃないの!?」
なるほど。勇者が勇者の杖を持つとそういう効果があるのか。
「無属性だと使えるんだよ。それに、これでわかったよね? この国に居ても大丈夫だって」
「わかるけど、また離れ離れになるのはやだよ!」
そう言って再び抱きついてくる神奈。
「やっぱり王国に戻ろうよ。ね? 戻ろう?」
「戻らない」
「なんで!? 魔王だよ? 世界征服しようとしてる魔王だよ? そんな危ない人と一緒に居るのは危ないよ!」
「言ってなかったけど、魔王とは友達だから」
「……えっ? 今、なんて?」
「だから、魔王と友達」
「嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ。魔王なのに魔王らしくない面ばかり見せてくるけど、友達だよ」
「そ、それは言わないでよ!」
噂をすればなんとやら。いつの間にかマオさんが斜め後ろに立っていた。
「うわ、出たっ! 魔王だ!」
「幽霊が出たときみたいな反応しないでよ!」
あ、こっちにも幽霊の概念あったの?
そんなことを思っていると、神奈がマオさんを見てこう言った。
「えっ、この人が魔王? 全然風格ないよ? それに、女の子だなんて聞いてないよ?」
「えっ!? ボクが女の子だってわかるの!? さすがヒビキくんの妹だね! ヒビキくんも一発でボクが女の子ってわかったもんね!」
女の子だと言われてとても嬉しそうなマオさん。
「えっと、貴女は本当に、響兄の友達なの?」
「そうだよ! 初めまして、ボクは魔王のマオウ=チャウ=ウェルノットだよ」
「なんだ、魔王じゃないんだ」
「いや、魔王だよ!?」
お決まりの如く、魔王じゃないと勘違いされるマオさん。
「マオって名乗った方がいいって言ったのに……」
「あっ、そうだった! 名乗る機会がなかったから、すっかり忘れてた」
まぁ、そうだろうね。この1ヶ月間、僕には色々な出来事があったけど、マオさんには名乗らなきゃいけないような出来事は全く無かったからね。
「というか、勇者の前なのに魔王らしくしなくていいの?」
「ヒビキくんの妹だからいいんだよ!」
いいのかな……。まぁ、本人がいいんならいいんだけども。
マオさんとやり取りしていると、東条さんが「響さん、魔王様、集団がこちらに向かってきています」と言ってきた。
このタイミングで来るということは、十中八九勇者の一団だろう。あの二人の。
出発した日にちが違うのに、なんで今日の神奈が来てからそう時間が経ってない頃に来れるんだろう。
そんな疑問を抱いてからしばらくすると、何十人という集団がこちらに向かってくるのが見え始めた。
先頭の見覚えのある二人がこちらに気づいたのか、ダッシュで向かってきた。
しかも、来輝くんは神奈の近くで止まったけど、白石さんは僕目掛けてまっしぐらで最終的に飛び付いてきた。
僕は、その飛び付かれた勢いで仰向けに倒れてしまった。
「あ、ごめんね、響くん! 大丈夫!?」
「うん、まぁ、なんとか……」
とか言いつつ、実は結構痛い……。地味に頭打ったし。
「貴女が香純さんですか?」
「そういう貴女は誰なの?」
白石さん、問答してないで退いてくれないかな……。
「私は、東条 春と言います。貴女の恋敵です」
えっ? 堂々と言っちゃうの?
「へぇ。まぁ、響くん優しいからね。好きになるのも無理はないと思うよ。うん」
あ、これは笑ってるけど内心ではボロクソ言ってるパターンだ。
そんな笑い方と言い方だった。
だって、その証拠に胸ぐら掴まれてるし。
「ねぇ、響くん。これ、どういうことかな? 私というものがありながら!」
「落ち着いてよ。どっちとも告白してないんだから」
「してなくても、恋敵ができてるなんて思わないでしょ!? ちゃんと言い含めたのに!」
「僕はべつに彼女を作りたくて接してるわけじゃないんだよ? 知らないうちに想いを寄せられてただけで……」
あ、今の言い方は不味い……。と思っても時すでに遅し。白石さんに胸ぐらを掴まれたまま、前後に揺らされながらこう言われた。
「なにそれ! どれだけ私が想ってるのかも、どれだけ心配したかも知らないで……!」
そう訴えかけてくる白石さんから涙が垂れてきた。
それを見て居た堪れない気持ちになっていると、段々と白石さんの顔が近づいてきて何をするのかと思っていると、自分の唇に白石さんの唇が当たった。
しかも、舌を僕の口の中へ入れてきた。
そして、ぎこちなく僕の舌に自分の舌を絡めてくる白石さん。
今されてることがキスだと気づいた僕が目を見開いて驚く。
そんな僕を見て満足したのか、白石さんがサッと顔を離した。
その後、僕がハッとして東条さんを見る。
そこには、目から明らかに光が消えた東条さんが僕が倒れた左横に立って僕のことを見下ろしていた。
そんな東条さんに対し、白石さんはなぜかドヤ顔をしながらこう訊いた。
「どお? 貴女は、こんなことができる? 響くんのことが好きならできるよね?」
「できます」
そう自信を持って言った東条さんが、膝を地面に付け段々と僕に顔を近づけてくる。
そして、互いの唇が合わさりまたも舌が口の中へ入ってきた。
そして、僕の舌に自分の舌を絡ませてくる東条さん。
心なしか東条さんの方が上手い気がする……って、違う、そうじゃない。
なんで違う女の人から連続でキスされるような状況になってるんだろうっていう話。
「どうですか」
東条さんが心なしかドヤ顔をしている?
いや、気のせいか……。
東条さんが僕にキスするのを間近で見た白石さんは、やるなといった顔を東条さんに向けながらこう言った。
「ふぅん。だったら、響くんのことをどれだけ知っているかで勝負といこうよ」
「いいでしょう。のぞむところです」
なぜか勝負が始まり、二人が僕のことについて話し出したため、白石さんが立ち上がった瞬間にこっそりと抜け出した。
「ふぅ。やっと抜け出せた……」
キスを二回もされたせいで、息苦しかったので少し息が上がりながらそう言った。
すると、神奈と来輝くんにこう言われた。
「響、頑張れよ。俺はもう経験済みだからな」
「えっ?」
「二人とも想いを寄せてくれてるんだから、ちゃんと答えてあげなきゃダメだよ?」
「わかった。わかったけど、来輝くんの最後の言葉が気になるんだけど」
そう。“俺はもう経験済み”その部分が気になって気になって仕方ない。
「言った通りだよ。今、俺にはシェルリアと、旅の途中で知り合った、ルミ,ユーリア,シリーの四人の嫁が居るからな。そんでもって、その全員とはキス済みだ」
うわぁ、ハーレムだ。たぶん全員ロリっ子なんだろうなぁ……。
この1ヶ月の間によくそんなに侍らせられるようになったね。まぁ、これがイケメンの実力なんだろうけど。
そんなことを思っていると、白石さんと来輝くんに付いてきた従者達が追いついた。
明らかに、どっちがどっちの従者か分かる従者だった。
獣人の女の子一人にドワーフの女の子一人にエルフの女の子が一人で、先頭にシェルリア王女が居るのが来輝くんの従者。
なぜか獣人の美青年ばかりなのが、白石さんの従者。
なにこれ、従者っていうより追っかけとかそういう類いの人達なんじゃないの?
この人達、戦闘できるの?
今更だけど、神奈の従者が一番まともだ。
皇子は除くとして、大きな盾を装備した屈強で髭を生やした男性ドワーフに、弓を装備した8頭身あるんじゃなかろうかというくらいのモデル体型な美人エルフに、皇子の付き人兼護衛役の騎士団長をやっていそうな屈強な男性獣人が居る。
これが本物の勇者のパーティだと断言しても過言ではないくらいちゃんとした従者だ。
こうなると、僕にその気はまだ無いけど、白石さんにはさっきの言葉をそっくりそのまま返してやりたい。「僕に思いを寄せていながら、こんなに美青年を侍らせて来るなんて」と。
まぁ、本当には言わないけどね。状況を悪化させそうだし。
「どうした? 考え込んで」
「いや、来輝くんって生粋のロリコンだなって思ったんだよ」
「そうだぞ。俺の嫁達は全員ロリっ子だ」
なんでもないことのように、偉そうに言う来輝くん。
いやそれ、威張れるようなことじゃないから。